ひびきジャーナル 第11号

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
特定非営利活動法人 純正律音楽研究会 会報
『ひびきジャーナル』メール版【第11号】
2004年11月16日発行
編集/発行:特定非営利活動法人 純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2-1F
      Tel.03-3407-3726 Fax.03-3797-5640
      E mail info@pure-music.ne.jp
※(C)純正律音楽研究会  禁無断転載
 転載等、二次的にご使用になる場合は、
必ず事前に純正律音楽研究会事務局まで御一報ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞*******ご案内*******
純正律による響きの体感ワークショップ
11月23日(祝)14時開場 14時30分開始
TAスタジオ(東京都豊島区目白)にて
参加者大募集!見学大歓迎!
お問い合せ・お申し込み
純正律音楽研究会 電話 03-3407-3726まで
詳しくは下記ホームページをご参照ください。
http://www.pure-music.ne.jp/event/index.html
*****************

<<今号の内容>>
■1■対談 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第11回
有限会社高田ハープサロン 代表取締役 高田明洋さん

■2■天国的純正律音楽入門 第11回    
平均律ピアノを見直した体験
NPO純正律音楽研究会代表
作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹

■3■風鈴が純正律に響く
小泉製作所 代表取締役 小泉俊博さん

■4■純正律的邦楽の手引き
美しい「さわり」の音
現代邦楽研究所代表 純正律音楽研究会理事 西潟昭子

■5■ムッシュ黒木の純正律講座 第11時限目
ミーメーシス
純正律音楽研究会事務局長 黒木朋興

■6■外科医のうたた寝☆その10 
家を建てる
純正律音楽研究会理事 医学博士・作曲家 福田六花

■7■CDレビュー・純正茶寮
『 L’Extraordinaire Tour de France d’Adlard Rousseau, dit Nivernais la Clef des Coeurs, Compagnon Charpentier du Devoir』8208231
純正律音楽研究会事務局長 黒木朋興

■8■メディアを賑わす純正律

■9■純正律イベントレポート

■10■純正律の音程を学ぶ 響きの体感ワークショップ

■11■純正律かわらばん


■ 1■対談 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第11回
有限会社高田ハープサロン 代表取締役 高田明洋さん


「ハープの調律についてもっと良
い響きがないものか考えており、
お伺いしたいことがあります。」
ある日高田さんからそんなメール
が届きました。ご近所のご縁もあ
り、早速訪ねて来て下さった高田
さん。こんどはこちらからハープ
に関する高田さんの試みについて
お話を伺いに訪ねました。ハープ
やヴァイオリンのならぶ美しいオ
フィスでお話を伺いました。

<ハープの歴史を紐解けば>
玉木: こんにちは。お邪魔します。いやあ、すごく広くて上品で
うちとは大違いだわ。
高田: いやいやそんな。
玉木: おや、ヴァイオリンも扱っていらっしゃる?
高田: 全くの初心者用のものですから。
(ここで二人、初心者用のヴァイオリンについての蘊蓄を語って)
玉木: ハープってギリシャ時代に痕跡がありますよね。
高田: いやいやもっと前のバビロニア時代からあります。
玉木: 前にお話し伺ったとき、今のハープはグリッサンド(注1)
が命というようなことをおっしゃってましたよね。
高田: そうです。ペダルがダブルアクションになって、異名同音
(注2)によるグリッサンドの効果が生まれたんです。
(ボロローンと実演。)
玉木: ペダルがダブルアクションになって、ハープは生まれ変わ
った。その革命的な発見はいつ頃なんですか。
高田: エラールというフランスのピアノメーカーでもあった人が、
19世紀の初め頃(1811年)ダブルアクションを考案しました。
玉木: それまではどうだったんですか?
高田: シングルで半音は変えられたんですが、それでは転調が限
られて(♯4♭3)単純なことしかできなかったんです(ミーントー
ン=中全音律の範囲内ということ)。
玉木: モーツァルトとか、シュポーアとか、あの人たちはそのシ
ングルハープで作曲したの?
高田: そうです。モーツァルトは
ハープが嫌いだったようですが。
玉木: ハープとフルートの協奏曲は有名ですが、でもモーツァル
トはハープもフルートもチェロも、とにかく音程の悪い楽器は好き
じゃなかった。
高田: ハープがあのままだったらダメになっちゃったかも知れま
せんね。
玉木: 近代オーケストラになっても、もともと平均律だった楽器
たとえばピアノ、ギター、マンドリン、ハープ、これらの楽器はオ
ーケストラでは特殊楽器なんです。
高田: なるほど。
玉木: 近代ハープがオーケストラに登場したのは?
高田: ベルリオーズの「幻想交響曲」ですね。
玉木: うーん、あの舞踏会のシーンはいいですね。
高田: あれは弾きにくいんですよ。アルペジョばかりで(注3)。
玉木: アルペジョばかりでグリッサンドがない?でもあの当時、
ハープを二台使っても、実際にはよく聞えたんでしょうか。
高田: 疑問はありますね。ベルリオーズは大編成のオケが好きで
したから。
玉木: 400人くらいのオケで、サブの指揮者を三〜四人つけて指
揮をしたベルリオーズの話なんてありますね。でも交響曲の場合、
なかなかハープは登場しませんね。
高田: ブラームスにもないし。
玉木: ブルックナーにも。
高田: チャイコフスキーにもないんですよ。
玉木: バレエではすごく活躍するのにね。で、マーラーはすごく
ハープを使う。
高田: R・シュトラウスのハープがとても難しくて、あの人はハ
ープは小指をつかわないということを忘れてるんじゃないかという
ほど弾きにくい。
玉木: ハープの弦って47本ですよね。
高田: よくご存知で。
玉木: いやなに、赤穂浪士と同じだから覚えやすいんですよ(笑)。
で、47本ってのは、昔からなんですか?
高田: いやいや、二十世紀近くになってからですね。
玉木: じゃ、シュポアやパリシュ=アルバースなんて、作曲はも
っと音域が狭いんですね。
高田: 正確には覚えてませんが、サルセド以降は47本だと思い
ます。
玉木: 弦の材質は?
高田: 昔は全部ガットだったんですが、今は高音はナイロン、中
音域がガット、低音は金属となっています。
玉木: お金の話で恐縮ですが、弦全部でいくらくらいなんですか。
高田: 十万円くらいでしょう。
玉木: え〜っ!でもヴァイオリンだって、4本で6000円とする
と・・・。私の学生時代、ヴァイオリンは大体100万円前後だったの
に、ハープは500万円。とてもお金持ちのお嬢さんしか習えなかっ
た。でも今でもハープは同じくらいですね。
高田: 大体、450万円か500万円です。
玉木: 物価の優等生。値崩れしませんね。
高田: 全部手作りなんですけどね。
玉木: それじゃ作る方も売る方もあまり儲からない。
高田: その通りです(笑)。

<ハープの可能性を探る>
玉木: (辺りを見回して)あっこれ、アイリッシュハープですか?
高田: そうです。少し小型で弦も少ない。
玉木: ペダルがありませんね。
高田: 弦をとめる所のフックを手前に引くと、半音上がるんです。
玉木: 原理はシングルアクションと同じですね。
高田: ええ、最近インターネットをやるようになってわかったん
ですけど、アイリッシュハープのファンが全国にとても多いんです
ね。
玉木: インディアンハープというか、南米のハープはどうなんでしょう。
高田: アルパですか。あれはかなり違う楽器なのでうちでは扱っ
ていません。
玉木: アイリッシュハープが一台あると、いろんな実験ができる
し、ぜひほしいなあ。一台いくらですか。
高田: 三〇万円近くでしょうね。
玉木: うっ(絶句)。置くとこもないしなあ・・・。ところでハープ
と純正律の関係ですが、高田さんはハープを純正律に近づけるのに
どうするか、という研究をなさっていますよね。
高田: いや、ハープやピアノという固定弦の場合、純正律は不可
能ですね。
玉木: もちろん不可能だけど、それに近づけるために、ヴェルク
マイスターやキルンベルガー等の工夫された調律があった。
高田: 私は55等分律を研究しているんですが(数値表を手にし
ながら)、ヴァロッティの調律にも興味があります。
玉木: ダブルアクションハープだと、7音×3としてオクターヴ
で21音作れますね。
高田: 原理的にはそうです。
玉木: じゃ、微分音(注4)も可能なんだ。
高田: 現代音楽の作曲家はいろんなことを考えてますよ。
玉木: これはおもしろい。いろんな可能性がある。古典調律をつ
きつめていくと、異名異音になりますよね。
高田: そうなんです。純正律的にいえばC♯とD♭は実は同じじ
ゃないんですよね。
玉木: 厳密に言いますと、純正律的にはC♯の方がD♭より低い。
Cis(C♯)というのはCに近いという意味だし、Des(D♭)
はDに近いという意味だし。
高田: その異名異音にこだわりたいんです。でもハープはグリッ
サンドが命ですからね。微分音にすると、グリッサンドが悲惨な音
になる。そこの兼ね合いが問題で。
玉木: 耳で許せる範囲ならどうでしょう。
高田: ええ、今それを研究中です。
玉木: すごいなあ、ぜひ僕も研究したい。ああアイリッシュハー
プほしいなあ。
二人 (笑)

高田さんが試みる調律のハープ
を年内には聴かせていただける
ことに。玉木もハープにあわせ
た作曲をする意気込み。さて、
どんな美しい響きになるでしょ
うか。今後の展開が楽しみです!

注1) グリッサンド。ハープの場合、すべての弦をかき回した時、
濁らない音にできるのが、ダブルアクションの特長。
注2) ダブルアクションハープの場合「ミ」の音を「♯」にする
と、「ファ」となる。そして元の「ファ」とは同音となる。次に「シ」
の音を「♯」にすると「ド」となる。ハ長調(C-dur)のトニ
ック(主和音)のコードは、このペダリングで下から「ド」「レ」「ミ」
「ソ」「ラ」として、グリッサンドで全弦をかき回すととても効果
的で美しいサウンドが得られる。 
注3) アルペジョ。分散和音。グリッサンドと似通っているよう
にも聞こえるが、アルペジョはひとつずつの音をちゃんと弾かなけ
ればならないのにくらべ、グリッサンドはかきまぜるだけでよいと
いう違いがある。
注4) 微分音。オクターヴは通常12の半音で構成されているが、
もっと細かい音を使うこと。4分音や6分音がある。


■2■天国的純正律音楽入門 第11回
平均律ピアノを見直した体験
純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹


 私は無雑作に演奏される平均律ピアノが大嫌いである。これはい
ろんな所で書いたり話したりしているので、玉木はピアノのテキだ
と思っている人も多そうだ。しかし私が平均律の濁りを目立たせな
い作曲法で書いた「天の川」は大変好評で、「光の国へ」シリーズ
の二枚目にも入っている。要は使い方次第なのだが、つい最近NH
KBSで聴いたショーソンの「ポエム」は大変悲惨だった。ピアノ
の「ドミソ」は濁っている、狂っている、とさんざん書いているが、
「ドミソ」だけなら、それほどの衝撃はない。どうにもならないの
が「ドソミ」と開いた形の「ド」と「ミ」の長十度である。ショー
ソンのピアノ伴奏はこの点で悲惨極まりない演奏だった。こういう
平均律ピアノの欠点が全く目立たず、ピアノというのはとてもすば
らしい楽器だという一種のカルチャーショックを最近体験した。そ
れは10月9日から11日まで山梨の牧丘町民文化ホールの録音で体
験したのだ。この録音はアルキ(私の会社)レーベルのインディー
ズ盤で、中身は水野さん親娘の2台ヴァイオリンとピアノによる「く
るみ割り人形」で、私の編曲によるものである。2台ヴァイオリン
の編曲シリーズは音楽之友社ですでに五種類出ており、いずれもこ
の出版不況の中では珍しく大健闘しているとのことで、もうすぐあ
と二種類出る予定だが、「くるみ割り人形」は今年の二月頃出版さ
れたものである。私は最初の頃から純正律を意識して、なるべく沢
山2台ヴァイオリンだけの編曲を多くしたが、「初級者用」の一冊
を除き、ピアノ伴奏のものも多く、なんとなく純正律と違う世界も
同居していたが、「くるみ割り人形」はオーケストラを縮小するた
め、全面的にピアノに頼らざるを得ず、平均律に屈した形になり、
やや居心地が悪かったが、楽譜の売れ行きも良く、CD化の要望の
声も多いということで、思い切って録音に踏み込んだのだった。で
もピアノやホールの響きはとても気になっていたのだが、録音では
長くコンビを組んでいるエンジニアの岡田さんから、山梨の牧丘町
のホールはベーゼンドルファー(ピアノメーカー名)が置いてあっ
て、ホールもすばらしいから、とすすめられ、私自身はベーゼンド
ルファーに詳しくなかったけれど、非常に響きのいいピアノである
という評判は知っていたので、どんなピアノかという興味もあって、
そこで録音することにした。岡田さんの助言もあり、なかなか扱い
にくいベーゼンには専門の調律師がいた方がいいとのことで戎居さ
んという方に三日間お願いしたが、それが結果的には大成功で、私
自身の人生六一年の中でピアノに対して激しいカルチャーショック
を体験したのである。

 音を出してまず驚いたのが、ピアノがすごくよく鳴ることだった。
ピアニストの田中麻紀さんもとても気分良く弾けているからそうな
のだが、その鳴り方はスタンウェイやヤマハのように直線的にコツ
ーンとは来ない。音自体がとてもソフトで「ドミソ」が気にならな
い。いろいろとマイク調整をしたり、バランスを取っている内に、
三人ともすばらしいアンサンブルになっていく。「くるみ割り」の
私の編曲は「序曲」の頭が2ヴァイオリンだけ。また「行進曲」の
トランペットも二人だけ、「アラビアの踊り」はノンビブラートで
純正律風に、「花のワルツ」の頭はとくにハモるように気を配って
編曲しているが、そのことごとくが大成功で、すばらしく純正律と
して響いている。そして何といってもピアノが純正律にきこえてし
まうのだから摩訶不思議。このサウンドこそが狙っていた以上のも
のであり、このCDはぜひ純正律シリーズの中へ入れた方がいいと
感じた次第である。「くるみ割り」以外には2ヴァイオリンだけの
「ロンドンデリー」や、とても美しいメロディなのに誰も知らない
グリーグの「山の乙女」や、おもしろい曲も多いので、ぜひお薦め
のCDである。完成は十一月下旬の予定。ベーゼンドルファー調律
の秘密も書きたかったが次のチャンスにしたい。

• 新譜「ゆめ・・・くるみ割り人形ほか」定価2100円(税込)

 11月下旬発売予定です。お楽しみに!


■3■風鈴が純正律に響く 
小泉製作所 代表取締役 小泉俊博さん


夏の風物詩、美しい音色で涼し
さを誘う風鈴、その風鈴を純正
律に調律したら・・・より一層透
明ですきとおった響きで私達を
癒してくれるでしょう。そんな
純正律の風鈴の製作に取り組む
小泉さんにお話を伺いました。

Q 風鈴を純正律に調律するに至ったきっかけは?
小泉 もともと鋳物業をなりわいとしていまして。銅合金のもつや
わらかな響きを生かした商品ができないかと、まずは普通に平均律
音階の風鈴を作りました。これはこれで、単体として良い音色で癒
されるのですが、複数の風鈴として利用した場合、長時間聴いてい
るとなんとなく落ち着かない。純正律音階の音楽が癒し効果が高い
との話を聞いて、試しに純正律音階の和音で構成した風鈴を試作し
てみました。

Q 純正律の風鈴を作るにあたって苦労されたことは?
小泉 数年前から中央大学との共同研究で、スペインのガウディー
が考えていた教会用(サクラダ・ファミリア)の鐘に関する研究を
しておりまして、振動工学の観点からのノウハウがある程度蓄積さ
れていましたので、割合スムーズに純正律の風鈴を作ることができ
ました。

Q 純正律の風鈴が出来上がってみて、いかがでしたか。
小泉 すばらしい音色と長い時間聴いていても疲れず飽きの来ない
風鈴ができました。本当に自分自身、製作した本人が驚かされまし
た。

Q 純正律の風鈴づくり、小泉さんの取り組みの今後の展望は?
小泉 純正律での和音風鈴は来年夏の販売を予定しています。ビー
ルやアイスクリームが冬でも食されるように、癒しのために風鈴が
季節を問わず利用されるような、純正律の持つすばらしい癒し効果
のある世界一の風鈴を作りたいですね。今後関係者の協力を得られ
れば、脳内の動きと音との関係の研究や検証を行なって、しっかり
した良いもので生活に潤いや快適さを提供していくつもりです。純
正律に関する知識はまだまだ一般的に普及しているとは思えません
ので、機会があれば、私なりに純正律のすばらしさをより多くの人
に伝えていきたいと思っています。

<<小泉製作所>>
明治二十二年創業。銅合金鋳造業。仏具、美術工芸品など伝統的工
芸品から、精密バルブなどの精密機械部品まで、鋳物に関して幅広
く取り扱う。

• 商品、販売、流通などに関するいろいろなご要望やアドバイス
• などお待ちしております。

<<宛先>>
〒939-1118
富山県高岡市戸出栄町57-5(高岡銅器団地内)
株式会社小泉製作所
電話 0766-63-6590


■4■純正律的邦楽の手引き 
美しい「さわり」の音
現代邦楽研究所代表 純正律音楽研究会理事 西潟昭子


<「さわり」とは何か>
 三味線の音の命は「さわり」です。本番の演奏時に一番気に入っ
た音が出せるように、私は準備の段階で、「さわり」の音の付き具
合に全神経を集中してあたります。それはまるで、登山家が登山を
する前に、命綱の準備を怠りなくするのと同じくらいの気持ちです。
そんな大げさな、と思われるかもしれませんが、私にとっては命が
けの作業になります。「さわり」のついていない音色状態で弾かな
ければならない時ほど、暗く悲しいことはありません。まるで色あ
せて生気のない、しおれた花のようで情けないのです。
 この特殊な音響装置は江戸時代の末期には完成されていたようで
す。やはり音の良し悪しは先人たちも苦労したに違いありません。
琵琶法師たちがバチを工夫しただけではなく、三味線弾きはその音
色と余韻の延びにも苦慮した結果、琵琶にも備わっていた「さわり」
の機能を研究して三味線にも取り入れたのだということです。なぜ
それほどまでに「さわり」にこだわるかというと、三味線を弾くと
いう行為は、ほとんどが皮を叩く行為です。絃を弾きつつ、強く皮
を叩く。そうするとビヨ〜ンという「さわり」の機能が働いて、余
韻が延びて、かくも美しく気高い音があたり一面に鳴り響き渡るか
らなのです。その響きある音の中で弾いているときほど幸せなこと
はありません。
 よく「さわり」について「あの日本独特な雑音の混じった噪音的
音色が・・」などの記述がありますが、私は全くもって違っている
と思っております。「さわり」の音は雑音なんかではありません。
噪音でもありません。真に美しい余韻を効かせてくれるのが「さわ
り」なのです。それは響きの良い、音楽的な余韻のある音色です。
だからこそ、私はその音を奏でるために命がけになるのです。
<巧妙な音響装置で豊かな音色に>
 「さわり」は非常に巧妙な倍音発生装置です。まず一の絃に「さ
わり」の音を充分つけます。その基音となる最低音の「さわり」が
効いていると、他の開放絃が鳴り響き、三味線の音が倍音の宝庫と
なるのです。本調子の場合、まずオクターヴ上の三の絃がビョ〜ン
します。そして二の絃は第二倍音が鳴ります。以下、二の絃、三の
絃と音程のツボがうまくハマると見事に三味線は喜んでビョーンし
ます。本調子、二上り、三下り、それぞれ倍音のツボが違うため、
多彩な音色が出ます。華麗な三味線の音色は、このように特殊な音
響装置「さわり」によって発生し、豊穣な音楽の世界を創り上げる
のです。
 2002年秋、玉木宏樹氏によって作曲された三味線二重奏曲「ジ
ャワリ」は、この「さわり」の特徴を全面に押し出した作品として
大いに注目されました。三味線弾きが一度は、弾いてみたい、と思
う作品になりました。この「さわり」的な音響装置のことをインド
では「ジャワリ」と言うのだそうです。曲名の由来です。

☆インフォメーション
西潟昭子氏および現代邦楽研究所に関連するイベントなどについて
紹介します。
<コンサート・演奏会>
・11月8日 西潟昭子三絃リサイタル二〇〇四 銀座王子ホール
• 11月27日 現代邦楽研究所一〇周年記念事業
「東京・邦楽コンクール」本選演奏会
洗足学園音楽大学・前田ホール
• 12月15日「第四回箏曲組歌演奏会
〜流派をこえて組歌の魅力を探る〜」紀尾井小ホール
• 2005年4月に「菜の花コンサート」、
 2005年10月に三味線コンチェルトも予定!
<講演会>
• 12月23日 現代邦楽研究所十周年記念公開講座
シンポジウム「演奏家への道」
• 2005年1月10日 現代邦楽研究所10周年記念公開講座
古典作品研究 講演と実習「御祝儀ものについて」 
<お問い合せ>
現代邦楽研究所 電話 03-3565-4197

【『ひびきジャーナル第11号』メール版(2)に続く】


【『ひびきジャーナル第11号』メール版(1)から続く】
■5■ムッシュ黒木の純正律講座 第11時限目
ミーメーシス
純正律音楽研究会事務局長 黒木朋興


器楽曲、つまり現在インストと言われる曲を聴いて感動したとする
と、あなたが感動したのは、その音響効果なのでしょうか、それと
もその音の背後にひそむ理念あるいは作曲者なり演奏者の主張なの
でしょうか。後者だとすれば、あなたはミーメーシスの原理の圏内
にいるということが言えるでしょう。前者だとすればあなたは絶対
音楽の時代以降に生きている、ということが言えます。もちろんど
ちらが良いとか悪いとかいう議論ではありませんし、実際のところ
多くの場合この二つの立場は入り交じっています。ただ、重要なの
は「絶対音楽」というのが我々の生活の中に極々自然に当たり前の
ものとして定着してしまっているということです。それもハンスリ
ックの名前を知らなかったり、「絶対音楽」に反対の立場を表明し
ていたりしても、多くの人がこの理念を無自覚のうちに受け入れて
しまっている、と言えましょう。例えば「歌というのは音楽表現の
一ジャンルに過ぎない。」という立場、あるいはインストものを歌
ものと同列に扱うという立場が市民権を得たのは明らかに「絶対音
楽」のおかげなのです。西洋の長い音楽の歴史を見た場合、歌はイ
ンストよりも上だと見なされてきました。その根拠なっていたのが
ミーメーシス(模倣)の原理なのです。つまり音楽は歌詞が持つ表
象能力によってこそ、「真理」と繋がっていると信じられていたと
いうわけです。例えばルソーの『音楽事典』から引用してみましょ
う。

 劇や芝居の<音楽>は<詩>や<絵画>と同じように模倣をめざして
なされるものだ。そしてすべての芸術はこの共通原理を介してつな
がっているのだが、これはル・バトゥー氏が指摘したとおりである。
(仏版全集 860頁) 

 模倣は、技術的な意味において、まさに歌自体を用いることなの
だ (仏版全集 861頁)

 つまり音楽が歌詞とそれが伝える意味を支えるためのものではな
く、その音響自体を楽しむものとなれたのは「絶対音楽」の理念の
功績であり、その背景として「ミーメーシスの原理の崩壊」という
芸術史上最も重要な革命の一つがあったのです。
 ところが「絶対音楽」の評価というのはあまり芳しいものとは言
えません。それどころかハンスリックはドイツを中心とする西洋近
代音楽のヘゲモニーを代表する人物としてやり玉にあげられてしま
うこともあります。彼が信奉したベートーヴェンや支持したブラー
ムスに音楽への好き嫌いは別として、もちろん否定的な評価を含め
て、彼の功績の部分も見てやる必要があるように思われます。
 ですが私の専門とするフランスという国では、ハンスリックの研
究がほとんど進んでいません。対して、彼の論敵であったヴァーグ
ナーの詩人達への影響というのは文学上の重要なテーマの一つとな
っています。事典などを引いても、「絶対音楽」は、意図的にであ
れ無意識のうちであれ、明らかに無視される傾向が見受けられます。
 ただ、19世紀末において絵画や詩の世界で起こった印象主義あ
るいは象徴主義も「ミーメーシスの原理」の崩壊を目指していた、
ということに注意したいと思います。つまり以前は、イエスが描か
れている場合、重要なのはその絵の背後にある神性だったのに対し、
この時代以降、線の形の面白さや色彩の組み合わせの美しさを楽し
むことが追求されていくのです。芸術が神の世界にたどり着くため
の道具であることから解放された瞬間だとも言えましょう。もちろ
んフランスから信仰の世界が全くなくなったわけでありません。た
だ、このようにしてフランスの前衛は起動したのです。
 同じような発想の「絶対音楽」の理念は、実のところ、それを溯
る十八世紀後半から19世紀中頃にかけて出現した考え方です。と
ころが、「絶対音楽」と象徴主義との関係については殆ど研究が進
んでいません。フランス人からすれば「前衛」を産み出したのは我々
でありドイツからの影響では断じてない、というナショナリズムが
あるのかも知れません。しかしドイツ人でもフランス人でもない私
たちは、それを冷静に分析しなければならないでしょう。「絶対音
楽」を全面的に肯定するつもりは毛頭ありませんが、その功績の部
分はきちんと評価しなければならない、ということです。その理念
は私たちの生活にあまりにも自然に溶け込んでしまっているのです
から。
 個人的には、無意識のうちに受けた影響というのが一番重要だ、
と思うのです。


■6■連続エッセイ 外科医のうたた寝 第10話  
家を建てる
純正律音楽研究会発起人 理事 福田六花(医学博士、作曲家)


 早いもので河口湖に移住してから二年半が経過しました。以前か
ら湖が見えるところに住みたいと思っていたのですが、河口湖畔に
はマンション、借家などはほとんどありません。友人のアウトドア
作家は十年前に河口湖のすぐそばに家を建て、湖畔の生活を満喫し
ています。彼の家に遊びに行くと、ダイニングテーブルやテラスか
らなんともきれいな湖が眺められます。理想の空間を手に入れるた
めには、新しく家を建てるしかないと思い、去年の春から土地探し
を始めました。
 不動産屋さんに案内してもらったり、土地を売ってくれそうなヒ
トを紹介してもらったりして、河口湖の西岸、(通称)奥河口湖を
中心に30ヶ所以上の土地を見てまわりました。そうして足和田山
と云う標高1300メートルあまりの山の麓にある段々畑のうちの一
枚を、昨年末に購入することが出来ました。周囲には家は数軒しか
なく、水道も街灯もコンビニも自動販売機さえもない静かなところ
です。もともとは畑だったのですが、十年以上ほったらかしてあっ
て草ぼうぼう、あちこちにイノシシ穴(イノシシが山からおりてき
て掘ったと思われる穴)がボコボコと開いている大自然そのものな
場所です。冬はすごく寒そうなのですが、眼下には雄大な河口湖の
景色が拡がります。(住むには井戸を掘る必要があります。)
 夏の終わりに三部屋からなる小さな家の工事は始まりました。建
築のコンセプトはやれることは自分でやろう。予算は掛けずに手間
を掛けるのです。予算が少ないことが最大の理由ですが、せっかく
自分の家を建てるのなら、可能な限り自分で手を掛けて愛着のある
建物にしたいと思いました。幸いにも素晴らしい設計士と工務店に
巡り会うことが出来たので、この計画は実現出来そうです。極力、
無駄な造作を省いて、シンプルで眺めの良い純正律な家を建てる予
定です。
 基礎と大まかな大工工事や水回りなどは大工さんにお願いして、
ペンキ塗り、壁塗り、床塗り、デッキ作りなどは自分で行う予定で
す。工事の進行に合わせてどんどんと自分でやる作業が待ったなし
で始まります。11月末には工務店の工事が終わる予定ですが、さ
て年内に引っ越せるでしょうか?

*壁塗り、ペンキ塗りなどの作業を手伝ってくれる方、大歓迎です。
晩秋の河口湖で一緒に汗をかきませんか? 焚き火とBBQを用意
してお待ちしております。

☆福田六花 ライブ情報
THE SENSTIONS
福田六花(Vocal&Guitar) 栗栖幸吉(Sax) 
長尾聖生(Piano) 和田裕二(Bass) 中松ヨシユキ(Drums)
12月5日(日)下北沢LOFT PM 6:30 open PM 7:00 start
¥2000(ドリンク付き)
世田谷区代沢5-31-8 エクセレント下北沢B1 phone 03-3412-6990
下北沢駅南口 徒歩7分
地図は下記ホームページを参照
http://www.shimokitazawa-loft.com/live/page006.html


■7■CDレビュー 純正茶寮
Malicorne
『 L’Extraordinaire Tour de France d’Adlard Rousseau, dit Nivernais la
Clef des Coeurs, Compagnon Charpentier du Devoir』8208231
純正律音楽研究会事務局長 黒木朋興


 以前この欄で紹介したことのあるマリコルヌというフランスの民
謡を扱っているバンドの五枚目を紹介します。個人的には彼等の最
高傑作だと思っています。何故かこの作品はとっくのとうに紹介し
たように思っていたのですけれど、実は紹介していなかったので今
回改めて紹介することにしました。
 リーダーのガブリエル・ヤクは以前、ブルターニュに伝わるケル
ト音楽を世界に広めたことで有名なアラン・スティヴァルのバンド
でギターを弾いていました。ところがある日、ブルターニュ以外の
フランスの民族音楽もやりたい、というので結成したのがこのバン
ドだという話です。
 この作品は、かなり手の凝ったコンセプトアルバムだと言えまし
ょう。中世の頃からのフリーメーソンの伝統で、職人が旅に出、各
地を転々とする中でいろいろな師匠のもとで修行を積んでいく、と
いう習わしがあるそうです。このアルバムは、アデラール・ルソー
という大工を主人公として、彼がフランスを一周した時につけた日
記をもとに、そのところどころにメロディーをつけ歌にした、とい
うものです。このアルバムには小冊子が付いていて、歌詞のみなら
ず、アデラール・ルソーの書いた日記が全文掲載されています。こ
のテクストはヤクの創作のようですが、この人物は実在したようで
す。ジャケットの中で使われている写真と同じものをエクスという
南仏の街にある美術館で見かけましたし、そこには彼が作った作品
(鞍の模型)も展示してありました。
 このアルバムが最高傑作だと僕が思うのは、上記のようにコンセ
プトがしっかりして手が込んでいるということと同時に、ダルシマ
ーなどのアコースティックな古楽器とエレキギターやドラムなどの
楽器のバランスが絶妙だからです。これ以前だとアコースティック
の比重が多く、これ以降は一気にロック化していきます。
 木管・金管楽器や弦楽器の演奏もさることながら、やはり圧巻な
のはアカペラでバチッとはもる合唱パートです。特に一曲目は傑作
中の傑作です。正確に言うと完全なアカペラではなく、効果音とし
て「ザッザッ」という行進の効果音が入っていて、そのリズムに合
わせて歌声が響くわけです。
 この作品に出会った高校二年生の時、僕はバンド活動と平行して
わずかばかりに男声合唱のクラブにも出入りしておりました。グリ
ーといえば、とにかくベルカント唱法をやらされるわけですし、き
ちんと発声ができなくてはハモれないとまで言われるのです。とこ
ろが、この作品を聞いて驚いたのは、彼等は肩に力の入っていない
もっと自然な発声をしているのです。それでいて、非常に綺麗には
もっている。一体、合唱部でやっている発声というのは何なのだ!
と思った記憶があります。
 なお、七曲目でエレキのギターソロを披露しているドン・アール・
ブラズもブルターニュ出身でケルト音楽の伝道者としてフランスで
は非常に有名な人です。
☆全11曲収録 1996  Boucherie Productions


■8■メディアを賑わす純正律
純正律音楽が新聞・雑誌などに取り上げられ、大きな反響を呼んで
います。掲載情報やメディアの方からのご意見などをご紹介します。


・「壮快」マキノ出版 2004年9月号(7月16日発行)
 健康雑誌の「壮快」で2月号につづき9月号にて巻頭特集で大き
く取り上げられました。
「壮快」編集部の鈴木雪子さんから今回の特集の趣旨やその反響な
どについてお話をいただきました。
* * *
<二度目の特集に至るまで>
 「壮快」で初めて「純正律」の特集を組んだのは、今年の二月号
でした。誌面で純正律の詳細を紹介すると同時に、純正律CDの応
募者全員プレゼントを行ったところ、予想以上の大反響が…。応募
締め切り後も「純正律のCDを入手するにはどうしたらいいのか」
との質問が相次ぎました。そんな大好評にお応えして、『壮快』九
月号では再度、純正律の特集を行いました。
<充実の内容にまたもや大反響!>
 今回は巻頭の第一特集、しかも玉木先生にご協力をいただいて制
作したCD付録つきです。純正律の特徴や二月号の反響、医師の福
田六花先生によるご解説を詳しく掲載したほか、「突発性難聴が解
消し耳鳴りも軽快した(沖縄県・六七歳・警備員)」「耳鳴りと飛蚊
症が消え腰痛と座骨神経痛も治まった(大阪府・四八歳・歯科医)」
「耳鳴りと不眠症が完治した(福島県・六六歳・無職)」「不眠症が
解消して高血圧も正常化した(新潟県・五七歳・ピアノ講師)」と
いった「純正律体験者」の方々の声をドーンとご紹介しました。担
当編集者が言うのもナンですが、これだけの内容で580円とは、な
んてお得な一冊!
 読者の方々からも、CD付録を絶賛する内容のお葉書をはじめ、
二月号に比べてさらに大きな反響が寄せられています。
「三月から睡眠薬を飲んでやっと眠っていた状態だったのが、純正
律を聞いたとたん、わずか20分ほどですが自然に眠れました。驚
いております」(千葉県・男性)「今年一月以来生理が止まり、更年
期だと思ってあきらめていました。朝と夜、純正律を聞いてリラッ
クスしていたら、七ヵ月ぶりに生理が来ました。七ヶ月ぶりの生理!
奇跡です」(山梨県・女性)「純正律のCDを聞いたところ、耳鳴り・
不眠が徐々に改善されてきたと感じます。正直、驚きを隠せません」
(静岡県・男性)などなど。これは、編集部に寄せられた声のごく
一部です。
<純正律の可能性を探る>
 現段階ではまだ、純正律が健康面に及ぼす影響の一端が、やっと
明らかになってきたに過ぎません。「壮快」では今後も、「健康」と
いう切り口で純正律のさらなる可能性を探っていきたいと考えてい
ます。
 純正律音楽研究会の会員のみなさまの中でも、何かしらの効果を
実感された方がいらっしゃいましたら、ぜひ「壮快」編集部(〒
113-8561東京都文京区湯島2-31-8)までご一報をいただけますと
幸いです。
* * *
☆事務局にも「壮快」読者の方からお問い合せが殺到。純正律音楽
のリラックス効果を多くの方に実感していただけました。
・「読売新聞」2004年5月7日夕刊
「金曜コラム 古典音律 純正の響き」にて純正律音楽について紹
介されました。取材してくださった読売新聞文化部の副島秀雄さん
とは近々会報にて対談予定です。お楽しみに!
・「マクロビオティック」日本CI協会発行月刊誌
2004年11月号(10月25日発行)
食による健康と治病に関する歴史ある雑誌で、純正律音楽について
紹介されています。


■9■純正律イベントレポート
純正律音楽研究会関連のイベントについて紹介します。


現代邦楽研究所10周年記念公開講座
・「日本音楽の楽しみ」
〜ギリシャ旋法と雲井調子〜
7月25日(日) TAスタジオ(東京都豊島区)にて
主催 現代邦楽研究所
 講師に日本音楽を独自の視点から研究している茂手木潔子氏(音
楽学・上越教育大学教授)、ゲストに古代ギリシャの要素を中央ヨ
ーロッパの新しい思想やコンセプトと統合させた作品を生み出して
いるギリシャ人でドイツ在住の作曲家・ピアニストのミナス・ボル
ボウダキス氏、純正律音楽研究会代表玉木宏樹を迎えて開催されま
した。箏の雲井調子と古代ギリシャの旋法の共通点に注目するとと
もに、平均律、純正律など、音律の観点から日本音楽の特質や現在
抱える問題について考えました。講師、ゲストの講演と、当会理事
の西潟昭子氏らによる「雲井六段」、「デルフォイの風」(玉木宏樹
作曲)の演奏がありました。

・青少年のための楽しい三味線コンサート
10月3日(日) 国立オリンピック記念青少年総合センター(東
京都渋谷区)小ホールにて
主催 現代三味線協会 
 一般参加者を交えての合奏,世界中の様々な楽器を紹介しながら
三味線のルーツを探っていく講演,若手演奏家による本格的なコン
サートの三部構成で,楽しく三味線音楽に触れることができました。
第一部の玉木宏樹作曲「蒼の舞い」は,筝,十七絃,三味線のアン
サンブルでブルースを演奏するという面白い試みです。ビートの効
いたリズムと,楽器が織りなすハーモニーが絶妙で,新鮮な印象を
受けました。各演奏者のアドリブがまた秀逸で,観客から手拍子が
湧き起こる程の盛り上がりを見せました。コンサート全体を通して
演奏された10曲は,邦楽器の持つ魅力を活かしつつ,それぞれの
作品ごとに様々な思いが込められていて,現代邦楽の新しい可能性
を垣間見た思いです。
(報告 監事 田向正一)

・純正律音楽研究会会員親睦会
9月4日(日)事務局にて
主催 純正律音楽研究会 
新しく純正律音楽研究会会員になってくださった方々を中心に事務
局に集まっていただきました。玉木の演奏でバッハの無伴奏ソナタ
で始まり、ハーモニートレーナーでの純正律と平均律の違いの実演。
そして現在の世界での純正律の状況を説明するために、エンヤ、リ
ベラ、ホーメイなどのCDを十枚以上紹介。最後は「枯葉」の演奏
でしめくくり。

・ 「マクロビオティック医学シンポジウム」
10月24日(日)江戸東京博物館ホール(東京都墨田区)にて
主催 マクロビオティック医学研究会
医学博士による講演に挟まれた玉木の講演と生演奏。純正律音楽と
は何か、そのリラックス効果、老人健康保健施設での活用例などに
ついて、ユーモアたっぷりにお話して会場も和やかな空気に。ここ
でもハーモニートレーナーで平均律と純正律のちがいを実演、客席
におりていき受講者に実際に鍵盤にふれていただく一幕も。純正律
の生演奏は「歓喜の翼」「ケルト幻影」「悠久のケルト」「荒野の果
てに」「枯葉」の5曲を披露。自然食品店や健康に関心の高い方な
ど、多くの方々に純正律音楽を生で知っていただくことができまし
た。

☆演奏会、講演会、交流会などイベント情報は随時お知らせして参
ります。全国各地でのイベントの開催も実施していきたいと思って
おります。皆様のご参加心よりお待ちしております。


■10■純正律の音程を学ぶ「響きの体感 ワークショップ」


<ワークショップ参加者大募集>
 純正律音楽の普及、理解促進を目指し、特に演奏者の方を対象に
「純正できれいな音程でハモるように」ということを考えるワーク
ショップを企画、開催しております。現在、参加者大募集です。ヴ
ァイオリン、フルート、オーボエなどの楽器を演奏される方はもち
ろん、見学だけでも大歓迎です。このワークショップで、純正律を
生で体感してみませんか。純正律への理解と会員間の交流をより深
めるためにも、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
【ワークショップ開催概要】
11月23日(祝)
一四時開場 一四時三〇分開始
TAスタジオ(東京都豊島区)
参加費 3000円 正会員価格 1500円 ネット会員価格 2000円
お申し込み・お問い合せ
純正律音楽研究会事務局
電話 03-3407-3726 FAX 03-3797-5640
email info@pure-music.ne.jp

☆9月25日(土)TAスタジオ(豊島区目白)にて開催されましたワ
ークショップをレポートします。
<模範演奏と実演で純正律を体感>
 まずは講師の玉木宏樹とゲストのヴァイオリニスト水野佐知香氏
とのヴァイオリンデュオでスタート。「証誠寺の狸囃子」「フォスタ
ーメドレー」など、純正律で美しく豊かな響きが醸し出される模範
演奏を聴いていただきました。その後に「キラキラ星」「家路」「聖
夜」などで受講者とともに実演練習。
 さらに、普通はピタゴラス音律のお筝を美しくハモる純正律に調
絃しました。調絃の過程で音の違いがはっきりわかります。現代邦
楽研究所の吉原佐知子氏による純正律のお筝と玉木宏樹のヴァイオ
リンのデュオで玉木作曲の新曲を披露。純正律でより一層美しく響
き合う演奏をお楽しみいただきました。玉木宏樹よりヴァイオリン
の「革命的音階練習法」の解説、質疑応答を経て、最後に再び水野
佐知香氏と玉木宏樹のデュオ「ロンドンデリーの歌」で締めくくり。
純正律の美しく透明なハーモニーにあふれた二時間でした。


■11■純正律かわらばん
純正律音楽研究会および代表玉木に関するニュースです。


◇玉木宏樹はレッスンの友社「ストリング」にて「音階と音程」に
ついて好評連載中。連載で紹介した革命的音階練習方法についての
書籍を2005年春出版予定。
◇音楽之友社より玉木編曲のデュオヴァイオリンの楽譜が続々と出
版され好評発売中。「デュオで楽しむヴァイオリン 日本のメロデ
ィ」が11月下旬発刊予定。さらに来春「外国のメロディ」も予定。
• 水野佐知香&荒井章乃母娘によるデュオヴァイオリン「ゆめ・・・
くるみ割り人形ほか」11月下旬発売予定。「聖夜」のジャケットも
11月下旬リニューアル、クリスマスプレゼントにもどうぞ!
◇社団法人全国老人保健施設協会主催第十五回全国介護老人保健施
設香川大会(11月10日〜12日)において介護老人保健施設はまなす(施設長 福田六花氏)が、純正律音楽を日常生活に取り入れる
ことで痴呆老人が落ち着き、不穏、徘徊が著明に減ったこと、純正
律音楽は二一世紀高齢化社会における素晴らしい福音となり得るこ
とについて発表します。
• 映画「阿修羅城の瞳」(2005年春ロードショー予定、市川染五
郎・宮沢りえ主演)の予告編で純正律音楽「歓喜の翼」が使われて
います。
◇純正律音楽のCDの取扱店など
・事務局にて通信販売
・純正律音楽研究会ホームページ
 (ドリームカタログ)
http://www.pure-music.ne.jp/
・ナチュラルハウス青山店
・ナチュラルハウス吉祥寺店
・ 楽天 OK MUSICなど
http://www.rakuten.co.jp/okmusic/445969/449759/
☆ 販売店を募集中です。詳細はお問い合せください。

● 編集後記
今年の春以来の発行となりました。発行がたいへん遅れましたこと、
深くお詫び申し上げます。今回より新しく事務局に入りました神田
が編集を担当することになりました。今後ともどうぞよろしくお願
いします。
●お便りをお待ちしています!
会報のご感想、ご意見、お問い合せ、純正律にまつわること、なん
でもお寄せください。
〒106-0031東京都港区西麻布2-9-2
純正律音楽研究会
電話:03-3407-3726 fax:03-3797-5640
e-mail:info@pure-music.ne.jp

ひびきジャーナル 第10号

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
特定非営利活動法人 純正律音楽研究会 会報
『ひびきジャーナル』  【第10号】
2004年3月18日発行

編集/発行:特定非営利活動法人 純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2-1F
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
※(C)純正律音楽研究会  禁無断転載
 転載等、二次的にご使用になる場合は、必ず事前に純正律音楽研究会
 事務局まで御一報ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

<<今号の内容>>
■1■NPOになってのごあいさつ

■2■玉木宏樹の“この人と響きあう” 第10回
   「からくり時計」誕生秘話を語ろう!
          リズム時計工業株式会社綜合企画室参事 小俣藤郎さん

■3■ムッシュ黒木の純正律講座 第10時限目
   続々・「本質」を求めて……               黒木朋興

■4■《小特集 純正律の未知の可能性を求めて》
   ・老人と純正律     ―――――――医学博士、作曲家 福田六花
   ・純正律ミネラル・ミュージックの意外な効用
               ――――純正律音楽研究会正会員 長岡衛治
   ・ヘルスケア分野にも純正律ブームが到来!?
               ――――――――『壮快』編集部 鈴木雪子
   ・まとめ        ――――純正律音楽研究会事務局 田村圭子

■5■天国的純正律音楽入門 第10回    
   純正律は理想的なヒーリングとなるか
     NPO純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹

■6■外科医のうたた寝☆その9 富士山を眺める日々
         福田六花(NPO純正律音楽研究会理事:医学博士、作曲家) 

■7■CD REVIEW [[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]           玉木宏樹
   The Hilliard Ensemble『JOSQUIN : MISSA HERCULES DUX
FERRARUAE』(Virgin/7243.5.62346.2.8)ほか

■8■西潟昭子が弾きうたう玉木宏樹邦楽器作品の数々
   『いちめんの菜の花』CDリリース&発売記念コンサート開催のお知らせ

■9■純正律かわらばん
   →玉木純正律の入門編CD『純正律への誘い』リリース、ほか

■10■西麻布通信

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■1■ NPOになってのごあいさつ

 巻頭のごあいさつに代え、まずおわびの言葉を書かね
ばなりません。去年の10月25日、東京會舘にてNP
O化記念パーティをやって、いろんな方から多くの賛助
金を御寄付頂き、その御礼や、これからの抱負とか報告
を、早く会報を出して御理解を頂こうと思いつつ、諸般
の事情はあったとしても、ここまで会報の発行が遅くな
ったことを、おわび致します。
 この間、何もしなかったわけではなく、NPO化記念
パーティの少し前に、健康雑誌『壮快』から、健康と純
正律の特集をしたいという企画を持ち寄られ、当会とし
ては、プレゼント用CDに対する音源提供とか、これま
での純正律ファン(?)の方々の御意見の反映とかで協
力し、12月に発売された『壮快』の記事はかなりのイ
ンパクトを各方面に与えたようです。この会報では、そ
の『壮快』の編集者の方による読者の反応等も書いて頂
いております。
 その後、ドクター六花からの、アルツハイマー患者に
対する純正律CDの反応とかの面白い話もあり、そのあ
たりのこともドクターに書いて頂きました。
 さて、NPO化にあたり、我々は、社会的貢献を第一
に考えて企画・立案を行なっていきます。その第一はア
ルツハイマー対策でもあり、それと並んで、全国の理学
療法室へ純正律CDを提供し、診療室内の音響空間の改
善をめざす運動です。これは既にドクター六花によって
実証済みなんですが、彼を通じて全国展開する為に、こ
のたび新たに、今までの純正律CDの中から、コンピレ
ーションCD『純正律への誘い』を制作しました。この
制作費は、賛助金と正会員の年会費から充当させて頂き
ました。遅ればせながら、御報告かたがた御礼申し上げ
ます。
 今後の活動ですが、ホームページをはじめ、各種メデ
ィアを通じ、次のようなメッセージでキャンペーンして
いきます。
* * * * *
1)純正律とは何か
 (初級、上級、MIDI対応)
2)純正律関係のCDや本の紹介
3)純正律とヒーリング(音楽療法的)の関係について
4)ミニコン、音程のワークショップ
5)合唱やブラスの人達との交流
6)純正律楽器の開発
7)騒音公害追放キャンペーン
8)上記に基づいたCD等の創作活動、その他
* * * * *
 今後とも当会への御意見、御指導等、よろしくお願い
致します。
 なお、当会のホームページを近々大幅に更新します。
手伝って頂ける方がいらっしゃったら御一報ください。

                  2004年3月吉日

         特定非営利活動法人 純正律音楽研究会
                   代表 玉木宏樹
              理事 小俣藤郎、西潟昭子
                 馬場英志、福田六花
              顧問 太田武志、黒木朋興

#

■2■ 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第10回――
    「からくり時計」誕生秘話を語ろう!
        リズム時計工業株式会社 綜合企画室参事 小俣藤郎さん

#

ミネラルサウンドクロックの開発者であり当
研究会が発足する以前からお付き合いのある
工業デザイナー小俣藤郎さんの登場です。玉
木氏とのコラボレーションによって時計を通
じた純正律の普及に邁進されてきた小俣さん
は当NPOの理事でもあります。以下の対談
は昨秋、純正律音楽研究会のNPO化認可直
後、10月25日の東京會舘でのお披露目パ
ーティを目前に控えアルキ(玉木事務所)に
て行なわれたものです。
―― ―― ―― ―― ――
小俣:しばらくです。
玉木:こちらこそ。いよいよNPOが発足するし、パーティなんか
もよろしく。
小俣:はい。で、今日はミネラルサウンドクロック【註1】の新し
い展開とか、使う楽器の打ち合わせとかで参りました。
玉木:その打ち合わせは後ほどきくとして、今日は丁度いいチャン
スだから、新生NPO化の会報の対談としてのお話とか。
小俣:何をしゃべりますか。

◆理解者求めて東奔西走の日々◆
玉木:皆さんは、リズム時計と純正律の結び付きとか、私と小俣さ
んとの付き合いとか、あまり御存知ない人が多いと思うので、その
辺の話から。小俣さんと付き合いだしてどの位になるかなあ。
小俣:かれこれ6~7年前くらいですかね、最初は。
玉木:そうそう、この狭くて汚い事務所に、物凄い人達が来て、大
変だった。
小俣:「ドンタタ君」。
玉木:そう。あの小さな人形がケナゲにドラムを叩く、CD+MI
DI【註2】のデモンストレーションでしたね。ビクターの飛河さ
んから預かってね。
小俣:飛河さんからこの間連絡があって、ビクターから独立したよ
うです。
玉木:そう……。あの時は本当に大変だった。時間を区切って、60
人くらいに見てもらって、この事務所はグチョグチョ。でも、あの
時、一番最初に時間前に来て、ずっとデモを見ていたのが、小俣さ
んと上司の永井さん。
小俣:そうでしたね。
玉木:あれからいろんな会社やプランナーからも話が来たんだけど、
小俣さんたちの情熱と、私がやりたかったことが合致して、話はト
ントン拍子に行くかと思ったんだけど。
小俣:時間がかかりましたね。一時はあきらめかけた時もあったけ
ど。からくり時計の人形が実機打ち(調律された棒鈴を実際に人形
が打つ)をやる夢にうってつけだったんだけど、まあ、方法論とし
ては、CD+MIDIだけじゃなくでもよかった所もあるんですが、
特に音楽面で、玉木さんの、「どうせオルゴールの実機打ちのよう
にするんだったら、調律は絶対に純正律にしてほしい」という話が
頭に残りましてね。純正律って一体何のこっちゃと。
玉木:まだ私もCBSソニーから日本で初めての純正律CDを出し
たばかりで、話の分ってくれる人を探すのに必死だった。
小俣:CDをお借りして、最後の方に、純正律と平均律の比較の所
があって、何度も聴いて、違いは分ってもそれがどんなにいいのか
どうか分らない。で、ウチへCD持って帰って、ウチの坊主に聴か
せてみたら、上の子は「違いは分るけど」というだけで反応が鈍い。
それで下の坊主(当時小学校1年生)に聴かせたら、一発で「純正
律のほうがいい」と。どうしてだときくと、「だって、平均律は音
が乱暴だけど、純正律はやさしいもん」ってね。これは間違いない
と思いましたね。
玉木:絶対に、小さい子の方が反応すると思う。大人になればなる
ほど、「違いは分るけど、それがどうした?」だから。私の周りも
みんなそうです。で、赤ちゃん研究のピジョンの石川さんなんて、
絶対に赤ん坊に聴かせたいと言ってくれてるし。
小俣:それで、純正律のことを〈ミネラルサウンド・シリーズ〉と
名付けて、「からくり時計」が始まった。

◆国際級のネーミングセンス◆
玉木:その話で面白いことがあったね。我々は純正律のことを〈ミ
ネラル・ミュージック〉と名付けて商標登録しようとして、リズム
時計のアメリカ支社にきいたら、「英語として適当ではない」と言
われて躊躇した。そしたら、その後かな、実はカナダで商標登録さ
れていると知ってガックリ。アメリカ支社の誰かが、抜け駆けでや
ったんじゃないの。
小俣:さあ……(苦笑)。
玉木:まあ、いろいろあったけど、〈ミネラルサウンド〉のデモと
しては、CD+MIDIを生かすためにも、CD音源をゴージャス
にする為に、イギリスへ行き、ロンドン・フィル・メンバーでカラ
オケを録音してきた。
小俣:小川さん(当時の純正律音楽研究会のプロデューサー)が頑
張ったもんねえ。
玉木:そして、そのCDに完全にシンクロして、人形がメロディを
実機演奏するという、なんとも贅沢な。
小俣:その調律が純正律で。
玉木:厳密にはそうじゃなくて、一番それに近いミーントーン(中
全音律)という調律。
小俣:細かい振動数の表を持たされてね。棒鈴の調律の歩留まりが
大変だった。
玉木:1号機が完成する前後だったよね。僕の『音の後進国日本』
という本が、ちょっとした話題になって、ひとつはJR中央線の自
殺問題、もうひとつが純正律で、これは読売が大きく採り上げてく
れた。それに触発されたNHKが「おはよう日本列島」っていうん
だっけ、朝の5分間だけ、リズム時計のショウルームから全国放送
してくれたりして。
小俣:すごく大変なことだったのに、社内はあまり話題にしないの
ね。「リズム」という音楽用語が会社名になっているのに、音楽に
関心があるんだかないんだか。
玉木:小俣さんのしゃべり、結構、格好良かったよ。それから、音
楽スタートのリモコン持っていた青年があがちゃって。
小俣:そうそう彼、もう辞めちゃったけど。
玉木:あれが原因かな(大笑い)。あの番組見た人からの反応はど
うでした。

◆ツウなお客様にタジタジ◆
小俣:いやあ、高知だったかな、すごいおばさんから、「テレビ見
て、すぐに買いたい」というビックリするような話がきたりとか。
あのあと、ショウルームにも何人かお客さんが来て、ある女の人が、
「この棒鈴の調律、純正律じゃないでしょ」って言われて、「はあ、
ミーントーンですが」と言うと納得して帰っていった。
玉木:世の中には恐ろしい人もいるもんだ。でも、あの時のNHK
というインパクトがなかったら、〈ミネラルサウンド〉はなくなっ
ていたかもしれない。で、定価は高い(150万円、ホールタイプ
は180万円)けど、何台くらい売れたの?
小俣:120台くらい。
玉木:それはすごい。儲かったんじゃないの。
小俣:いやあ、開発の期間とコスト考えると全然ですよ。
玉木:で、純正律としての評判はどうだったの?
小俣:顧客には耳の良い人がたくさんいて、まず聴いてもらうと納
得する人は多い。「ほんと、いい音ですね」と。「実音演奏ですか
ら、ミーントーンですから」と話をすると、たいてい分ってくれる。
ただ、顧客に対し、私のレベルも低いし、中間を取り持つ営業にそ
んな文化的なことは期待出来ない。
玉木:そうそう、それで思い出したけど、さる宗教団体から特注の
仕事があって、僕も何曲かそれ用に編曲したことがありましたね。
あの時、営業の人から……
小俣:「先方は芸大を受けようと思ったくらい音楽に強いので、何
も説明しないように」ってね。
玉木:小俣さんだって、メカの説明はしたいだろうし、僕は先方が
分ってるとしても、純正律の話くらいしたい。
小俣:しかし会ってみると、その人は純正律のことを詳しく知りた
くて、ニコニコしながらいろんな質問をしてくれましたね。
玉木:どうも、トランペットをやっていて、かなりいい所まで行っ
たということじゃなかったかな。ああいう風に、すごくまともに突
っ込んでくれる人は有り難いね。で、今までの問題点とか、これか
らとか……これからって、あるんでしょうね。
小俣:もちろんですよ。今までのは、音の高さを安定的な売りにす
るには、メカの不良が多くて、その点、今は不良も出尽くしたし、
発音体の工夫とか、バックオケの聞かせ方とか、工夫をこらしてい
ますので、いいものができます。
玉木:じゃ、そろそろ打ち合わせしますか。

***************
 ということで、この後の細かい打ち合わせ
内容は省略します。今年のなるべく早い時期
に、新商品のラインナップが揃うことを目標
に、作業を続けています。 

***************
【註1】からくり人形が実機打ちをする実機の調律を含め、「純正
律音楽時計=ミネラルサウンドクロック」とリズム時計工業が命名
した。
【註2】ビクター開発の技術で、通常のCD音源にサブコードとし
てMIDI情報をシンクさせて同居させる。そのことにより、オケ
の演奏に合わせ、MIDI情報が外部に信号を出し、ドラム、照明、
噴水等の同時演奏が出来るシステム。そのデモとして、ドラム人形
「ドンタタ君」が登場した。ミネラルサウンド・シリーズのからく
り時計はMIDIによって、実機打ちをシンクロ化させている。

===============
《インフォメーション》
「ミネラルサウンドクロック」の製造・発売元はリズム時計工業株
式会社になります。

☆リズム時計工業のホームページ
http://www.rhythm.co.jp/
――「ミネラルサウンドクロック」の響きも試聴できます。
☆ミネラルサウンドクロックお問い合わせ先
リズム時計工業株式会社
本社ショールーム
〒330-9551
埼玉県さいたま市大宮区北袋町1-299-12
Tel. 048-643-7241
総合企画室/中山
――「ミネラルサウンドクロック」の「掛けタイプ」をご覧いただ
けます。
☆東京店ショールーム
〒110-0005
東京都台東区上野6-16-22
上野TGビル5F
Tel. 03-5807-7811
――「ミネラルサウンドクロック」の「ホールクロックタイプ」を
ご覧いただけます。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■3■ ムッシュ黒木の純正律講座 第9時限目
続々・「本質」を求めて……             黒木朋興
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「本質」と「実存」の話を続けます。

◆ミーメーシスからモダンへ◆
「本質」の探求とは「あの世」と「この世」を「=」で繋いでいく
ことなのに対し、「実存」のほうは「いまここにある」物事だけに
焦点をあて、この「ある」ということがどういうことかを分析して
いくことだ、ということは前回見たとおりです。
「『実存』は『本質』に先行する」。言わずと知れたサルトルの有
名な台詞です。実存主義が流行った時代には、様々な解釈が試みら
れ、それぞれがそれぞれの思いをこのフレーズに投影していったよ
うではありますが(それが必ずしも悪いことではないと思います)、
今まで述べてきた「本質」と「実存」の話にこの台詞をおいてみれ
ば、サルトルの真意が何とはなしに見えてくるでしょう。つまり、
「神」を中心に据えた思想体系への彼特有の反抗の念がこの台詞に
は込められている、ということです。
「神」の国にある筈の理路整然とした美しい「真理」、あるいは、
「あの世」を持ち出すのがいかがわしいというのなら今ここ目の前
にはないけれどどこかには必ずあるだろう完璧な「美」、これらを
模倣しようというのがミーメーシスの原理であるということは前々
回見た通りです。モダン以前における芸術の役割とはまさにこの
「理想」をこの世の人々に提示することであった、ということも良
いでしょう。そして、この「理想」と「現実」の従属関係を断ち切
り、ひたすら今ここ目の前にある物質に焦点を当て、そのある姿を
分析していくのが実存主義ということになります。また、理想の美
を目指すのではなく、自らの感性を便りにこれらの物質を組み合わ
せ作品を創っていこうというのが19世紀末フランス象徴主義以降
のモダン芸術のあり方でもあるわけです。
 ただし気を付けておきたいのは、このようなミーメーシスの原理
を超克しようとする発想は、実のところ、18世紀末から19世紀
初頭にかけて初期ドイツロマン主義者達の間で夢見られたというこ
とです(もちろんこの発想の源流はフランス18世紀ルソーや17
世紀のボワローまで溯ることも可能でしょうが)。彼等は当時盛ん
に作曲された交響曲の響きにその夢を投影します。あるいは彼等の
理論は純粋器楽作品の開花という実際の現象に支えられている、と
も言えるでしょう。当然、ここで俎上に上がっているのは、「絶対
音楽の理念」のことです。「絶対音楽」とか「純音楽」とかいうと、
人それぞれにいろいろと思うところもあるでしょうし、実際いろん
な解釈が可能だとは思いますが、最も重要なのは、この理念が芸術
をミーメーシスの原理から切り離し解放しようとした、ということ
です。こう書くと何やら難しそうですが、何のことはない、音を
「神」、宇宙、真理や感情など他の概念の比喩・暗喩として捉える
のではなく、音を音として、モノをモノとして扱う、ということで
す。僕らのようにキリスト教徒でないものから見れば当たり前に思
えることですが、長い間西洋キリスト教の世界では、芸術の役割と
は真理の模倣(ミーメーシス)であり、このことが彼等の文化の強
力な特徴をなしてきたということを再度確認しておきましょう。

◆絶対音楽とは◆
 ここで「絶対音楽」の唱道者として名高いハンスリックの一節を
引用してみたいと思います。
「一枚の歴史画においてあらゆる赤が喜びを意味したり、あらゆる
白が潔白を意味するとは限らぬと同様。一つの交響曲においてすべ
ての変イ長調が熱中的気分を、すべてのロ短調が厭人的な気分をよ
び起こすというわけではない。あらゆる三和音が満足をあらゆる減
七和音が絶望をよび起こすというわけではない」(『音楽美論』、
渡辺護訳、pp.42-3.)
 例えば「メジャーキーは〈楽しい感じ〉、マイナーキーは〈悲し
い感じ〉がするという意見があるが、どうかと思う。メジャーキー
はメジャーキーを、マイナーキーはマイナーキーを表現しているだ
けなんだ」と言う人がいますが、つまり、このような見解はまさに
「絶対音楽」の延長線上にあるものだと言えるのです。もちろんこ
こでは、この見解が当たっているか、間違っているかということを
問題にしているわけではないということを言い添えておきます。

#

■4■《小特集 純正律の未知の可能性を求めて》

#

ちかごろ純正律が、玉木氏をはじめ当研究会
でも予想していなかった意外な方面から脚光
を浴びたり役立ったりしているというお話が
増えてきているようです。そこで、今号では
小特集として、純正律の新たな可能性を示唆
する最近の事例をいくつか御紹介させて頂こ
うと思います。

◇◇老人と純正律◇◇  
        ―――――――医学博士、作曲家 福田六花

 10年ほど前に、純正律で演奏された音楽を聴いている最中の脳
波を測定するという実験を行った。純正律を聴くとα波を中心とし
た安らぎの脳波を多く認めると云う結果が得られたので、それ以降
病院内の様々な場所で純正律を流すことを試みてきた。待合室、理
学療法室、内視鏡検査室などで患者さんの緊張を和らげる効果が認
められてきた。
 私は元来外科医であったが思うところがあり、二年前より老人保
健施設で老人介護の仕事に従事している。老人保健施設とは自分の
家で生活することが難しくなってきた高齢者の方に、一定期間入所
していただいてリハビリを重点的に行い、再び自宅で生活してもら
うことを目標とした施設である。入所されている方には概ね2通り
のタイプがある。ひとつは脳梗塞、パーキンソン病などの病気で肢
体不自由となり、寝たきりであったり、車椅子での生活を強いられ
るようになってしまった方々。もうひとつは身体能力はある程度維
持されているが痴呆が進行して、社会生活が営めなくなってしまっ
た方々である。私の施設の2階は痴呆専門棟であり、40名の重度
痴呆の方が入所されている。なるべく自由に家庭的な雰囲気で過ご
してもらうために四季折々の行事や様々なレクリエーションを行い、
少々ならお酒も飲んでもらっている。

○それでも徘徊の悩みは尽きず
 痴呆の介護で非常に問題になってくることのひとつに徘徊がある。
何かを探してあちこち歩き回るのであるが、自宅にいると外に出て
道に迷ってしまったり、交通事故に遭遇したりと危険極まりないこ
とも多い。家族はお爺ちゃんやお婆ちゃんが外に出ないようにいつ
も見張っていなければならず、夜もおちおち眠ってはいられない。
思い余って病院に相談すれば、睡眠薬など処方されて強制的に寝か
し付けられてしまったりする始末である。そんなことが続けば痴呆
は更に進行し、ストレスも貯まる一方である。
 老人保健施設では鍵の掛かった限られた範囲ではあるが、極力自
由に歩き回ってもらっている。建物も徘徊しやすいように回廊形式
で、その真ん中に職員ステーションがあり徘徊している老人を常時
見守れるようになっている。自由に歩き回ってもらうと、ある程度
落ち着いたりもするのだがそれでも徘徊はなくならない。恐いのは
夜である。限られた人数の夜勤職員で頑張って見守ってはいるのだ
が、徘徊につきものの転倒は時に重篤な合併症を引き起こすことが
ある。全員が夜九時になればぐっすり休んでくれればどれだけ助か
るか……。

○純正律で徘徊が減った!
 昨年11月、玉木さんがヴァイオリンを持って老人保健施設にや
ってきてくれた。入所者全員の前で約1時間のヴァイオリンコンサ
ートを行って頂いたのだが、びっくりしたことに普段落ち着きのな
い痴呆の方の多くが、最後まで椅子に座ってじっと聴き入っていた。
その姿に感銘を受けた職員の若者達が、翌日からさっそく痴呆専門
棟で純正律のCDをかけ始めた。お茶の時間と夕食のあとにフロア
全体で流している。純正律が流れる中で穏やかな表情の痴呆老人達。
なんと落ち着いたいい風景である。それ以前は演歌、民謡、そして
カラオケが鳴り響いていることが多かったのだが……。
 純正律を流すようになって驚いた!! 夜の徘徊が大幅に減り、み
なさんしっかり休んでくれるようになった。いつも機嫌の悪いお婆
さん、怒ってばかりのお爺さん達も少し穏やかになったようである。
そして働いている我々も癒されている。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

◇◇純正律ミネラル・ミュージックの意外な効用◇◇
          ――純正律音楽研究会正会員 長岡衛治

 まだまだ一般には知名度の低い純正律音楽を、健康情報誌をとお
して、これまでこの種の音楽とは直接つながりのなかった層にまで
浸透させるのは、とても賢明な方法と言えそうです。
 バレエ教室を主宰している私の妻は、昨年暮れ『壮快』2月号発
売の新聞広告「本当のドミソ・純正律……」を見たことから、たま
たま私が持っていたCD『光の国へ』を初めてじっくり聴く機会を
得ました。そしてそれを彼女のバレエ教室のひとつ、成人を対象と
した「バレエ美容体操」教室で、柔軟体操をするときのBGMとし
て使ってみたのです。この教室はバレエの基礎にそって楽しく体を
動かしながら、美しく健康的な心と体を維持していこうという大人
のバレエ教室で、生徒は主に50代60代のお姉さま方です。
 ここでBGMとして使ったのは『光の国へ』(part1)だったので
すが、その注目すべき結果をメンバーの感想もまじえながら以下に
列挙してみましょう。
* * * * *
 ☆Aさん66歳は、腰を曲げても膝に頭がつかなかっ
  たが、この音楽を聞きながらやっているうちに自然
  に頭がつくようになった。また今まで脚が曲がりに
  くくて椅子に座るしかなかったが、あぐらもかける
  ようになった。
 →この指導をしている妻も1年前バイクの事故で骨折
  し、思うように脚が上がらなかったがこの音楽を聞
  きながらやっている内に脚がバーまで上げられるよ
  うになり、正座もできるようになった。

 ☆Bさんはミネラルミュージックを聞いた感想を、
  「懐かしいような感じで、心地よく長時間聞いてい
  ても疲れたり厭になったりしない。自然に体の中に
  音が沁みこんでくる。」と言っている。

 ☆94歳になるBさんの母親は音楽を聞きながら好き
  な編物をよくする。普段は編み目を飛ばしたり不ぞ
  ろいになるのはしょっちゅうだったが、その後この
  CDを聞きながら編んだものは目がきちんと揃って
  きれいに編めている。それに今までの音楽ではわり
  と簡単に飽きてしまったり、うるさいと言って止め
  たり変えたりすることも多かったが、ミネラルミュ
  ージックはずっと鳴らしていても厭にならないらしい。
* * * * *
 以上がこのバレエ教室での反応です。ミネラルミュージックは何
故か体の中まで音が沁みこんできて、意外な作用をするもののよう
です。
 私は最近、あるソプラノのオペラ歌手が「蝶々夫人」の中で歌っ
ているアリアの音声を波形分析してみて、ビブラートの幅が長3度
を超えているのには驚きました。倍音にも当然同じ幅のビブラート
がかかっているわけで、オーケストラが加われば立派な不純正律音
楽! こんな音楽を聴いてぐったり疲れた後もミネラルミュージッ
クは私達にやすらぎを与えてくれる素晴らしい音楽なのです。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

◇◇ヘルスケア分野にも純正律ブームが到来!?◇◇
              ――『壮快』編集部 鈴木雪子

――昨年暮に発売された健康雑誌『壮快』で
純正律特集が組まれたところ大反響。当研究
会事務局にも読者からのお問い合せや純正律
CDの御注文が数多く寄せられ、健康に悩み
を持つ方が純正律に寄せる関心の高さが伺わ
れまた。その『壮快』編集部・鈴木さんから
のレポートです。

 弊誌『壮快』2004年2月号で「純正律」特集を行うことにな
ったのは、インターネットで玉木先生のホームページを拝見したの
がきっかけです。純正律音楽を聴いて体調が改善した人が多数いる
という内容に興味をそそられ、また実際に純正律と平均律のドミソ
を聴き比べてその違いに驚き、玉木先生にご連絡させていただきま
した。
 特集中では、純正律そのものの説明のほか、純正律音楽を聴いて
 ・高かった血圧が正常化し耳鳴りが消えた
 ・耳鳴りが気にならなくなり不眠症が解消した
 ・パニック発作が治まり不眠症が解消した
 ・痛みと心痛が和らいで熟睡できた
という4人の方の体験記を詳しく紹介。また、医学博士の福田六花
先生が行われた実験(純正律音楽と平均律音楽を聴いたときの脳波
の変化を測定し、純正律音楽により高いリラックス効果を確認)を、
福田先生ご本人にわかりやすくご解説いただきました。さらに、純
正律CDの応募者全員プレゼントを実施したのですが、その結果……。
編集部の予想をはるかに上回るご応募が殺到し、CDの発送が大幅
に遅れる事態となってしまいました。読者の方々にご迷惑をおかけ
したことを深く反省するとともに、純正律に対する関心の高さ、ま
た期待の大きさを痛感した次第です。
 現在、全員プレゼントの純正律CDを聴いた読者の方々より、編
集部にさまざまな感想が寄せられている最中です。具体的には「ど
うしたわけか、涙が出てきました。とにかく気持ちが楽になります」
(大阪市・女性)「毎日3回も4回も聴いております」(福岡市・
男性)「バイオリンの音が胡弓のようで驚きました」(女性)等々。
 また、「純正律音楽のCDは市販されているのか」というお問い
合わせや、「既存の楽器を調律して、正確に純正律を出すことは可
能ですか?」といった具体的な質問も届いています。
 純正律音楽が「効く」メカニズムはまだ解明されていませんが、
実際にたくさんの方の症状が解消、または軽減していることは紛れ
もない事実です。今後も、健康雑誌ならではの立場から、純正律の
効果・効能に迫っていきたいと考えています。玉木先生、今後とも
どうぞよろしくお願いいたします。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

◇◇研究会からひとこと……◇◇

 純正律によって痴呆の方の徘徊が落ち着いたというドクター六花
氏のリポートは、介護に悩む方々にとっても福音となりそうですね。
ドクター六花氏は近々、この痴呆症と純正律音楽に関する研究成果
を学会で発表されるとのことです。
 また、『壮快』の記事を見て当研究会で直接CDをお求めくださ
った方々からは、「耳鳴りや不眠が解消した、何軒もの病院を回っ
ても治らなかった膝痛が消えた」といったお声が、今でも当研究会
にも寄せられています。
 私事ですが以前、神経生理学等をベースに開発された身体の柔軟
性や運動能力の向上を目指すワークショップを体験した事がありま
す。そのメソッドでは、プラクティショナーの言葉によって身体動
作を導き、身体各部の存在を意識させ神経系統の活性化を促し、全
身を緩ませます。すると、それまでうまくつながっていなかった神
経の回路が通じるのか(?)、受講前には動かせなかった箇所が動
いたり可動域が増えたりするようになるというものです(とても乱
暴で不正確な説明かとは思いますが)。実際に、発声についてのコ
ースを受講したところ、受講直後に自分の声が全く違って響くよう
になり、驚きました。長岡さんのリポートを拝見して、まず、この
体験を思い出した次第です。
 耳から入ってくる言葉の刺激で中枢神経の隠されたパワーを引き
出すことが可能であるなら、聴く人の身体にスーッと無理なく浸透
していく純正律の響きも、さらに興味深い何らかの作用を見せるの
ではないかと。もちろん、言葉と音楽とを同じにとらえることはで
きませんが、純正律にはさらに人間の中枢神経の秘められた力を引
きだすパワーがあるような気がしてなりません。その未知の可能性
を、是非とも専門の方々に解明していただけたらと願っています。
             〈純正律音楽研究会事務局:田村圭子〉

【『ひびきジャーナル第10号』ネット版(2)に続く】

【『ひびきジャーナル第10号』ネット版(1)から続く】

************************************
■5■ 天国的純正律音楽入門 第10回
    純正律は理想的なヒーリングとなるか
    NPO純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************

 いま、健康雑誌『壮快』で純正律が紹介されて以来、一部で話題
になっているようだ。しかし、はじめにお断りしておくけど、私は
ヒーリングとして純正律を始めたのではない。行き詰まって混迷し
ている現代音楽に対するアンチテーゼなんていう、偉そうな気負い
はあったとしても。
 しかし、1994年、CBSソニーから日本で初めて「純正律」
を意識したCDを出す時、その透明な響きを新しい方法と位置づけ
ることになり、その名も『純正律による理想的ストレス解消』なん
ていう、摩訶不思議なタイトルのCDが出た。私自身、平均律の濁
った「ドミソ」よりは、透明で美しい純正律の「ドミソ」の方が耳
に優しいはずだという自信はあったので、どちらかといえば消極的
に、ヒーリングかも知れない、とは思っていた。その時、音と身体
の根源的問題でもあるので、CD監修に参加してもらった医師のひ
とりが、今や「シンガーソング・ドクター」としても認知されつつ
ある当研究会理事のドクター六花氏である。

◎眠くなるのはいい反応◎
 ソニーのCDは当初、よく寝られるとの反応が多く、私は非常に
落胆した。不眠症用の子守唄のCDを作ったつもりは一切なくて、
2~3曲で寝てしまうという反応には、「最後まで聴かんかい!」
と腹を立てたりした。「それはいい反応だ」とドクターから言われ
ても、私は半信半疑だった。そのうちドクターから、「茨城県や長
野県の病院附属の理学療法室で純正律CDがめざましい効果をあげ
ていて、早く2枚目が欲しいと言われている」と言われつつも、実
際に生楽器で純正律演奏することの難しさを実感していた為、シン
セで純正律演奏ができる工夫にメドがついて、やっとインディーズ
でCD化したのが『光の国へ』シリーズ。永六輔さんのラジオでの
紹介で火がつき、今まで約10タイトル前後のCDを作ってきた。
 そうしたCDを聴いた人の反応は凄まじく、「頭痛が治った」
「不眠症が軽減した」「ペットがおとなしくなった」等々、ホント
かいな? と半信半疑の中で、一番すごい反応が、舌ガンで苦しん
でおられた作詞家の増永直子さんの「痛みが消えた」という喜びの
声だった。それを機に、CDを聴いてくれた人へのアンケート葉書
を出したところ、驚くような反応をたくさん頂いた。
 昨年、当研究会のNPO化記念パーティをやる直前に、『壮快』
が、「ぜひ、純正律音楽と健康についての特集をやりたい」とのこ
とで打ちあわせを重ね、過去のアンケート葉書が非常に役に立ち、
2月号の誌面では「純正律で耳鳴りが解消した」とか「痛みがとれ
た」等々という、使用前・使用後のような体験談を寄せて頂いたの
は、すべてアンケートに回答してくれた人たちだった。
『壮快』読者からのCD注文も多く、既にCDを聴いた人からのリ
ピート注文や、友人にプレゼントしたいという注文もチラホラ。こ
ういう反応の中でも最も新鮮だったのは、当会の正会員でもある長
岡さんの奥さんがやられているバレエ教室での反応だった。これに
ついては長岡さんから一文を頂いているので、ぜひお読み頂きたい。

◎またしても新たな可能性が◎
 こういう流れの中で、2月にドクター六花氏が施設長をしている
河口湖の老健ホームで、永六輔さんのボランティアに同行し、夜の
会食の席上、またまた驚くべき話をきいた。その施設にはアルツハ
イマー患者用のフロアがあり、そこでずっと純正律のCDをかけた
所、すごい効果がある、曰く、徘徊の数がめっきり減り、おとなし
く休む人もいるとのことで、ドクターはこのことを近く学会で報告
するとのこと。
 日本での音楽療法の主流が、高血圧の人にはバッハの「ブランデ
ンブルグの第5」なんていう、とても我慢できない選曲中心なので、
そういう風潮に一矢報いるにはいいかな、と思っている。

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
■6■ 外科医のうたた寝☆その9   富士山を眺める日々
       福田六花(NPO純正律音楽研究会理事:医学博士、作曲家)

 河口湖にやってきてもうすぐ2年になろうとしている。以前から
湖畔の生活に憧れてはいたが、富士山に対してはなんの感情も持っ
てはいなかった。けれども河口湖にいると富士山から逃れることは
決して出来ない。どこに居ても視界の一角に巨大な富士山が入って
くる。ようするに富士山の麓でウロウロしている毎日である。
 住んでいる部屋からは真っ正面に富士山が見え、風呂場の窓にも
富士山が鎮座している。仕事場である老人保健施設の建物も富士山
を眺める構造になっている。
 否が応でも毎日眺めていると不思議なことにだんだんと親しみが
湧いてきた。金曜日に東京で仕事があるので週末は東京で過ごすこ
とがあるが、その帰り中央高速をクルマで走りながら富士山が見え
てくるとほっとした気持ちになる。

★至高の富士とは!?★
 富士山はどこから眺めると一番きれいか? 富士山マニアの間で
は様々な意見や議論がある。またたくさんのビューポイントが存在
しているが、以前はそんなことは全く気にしていなかった……。そ
んなある日のことである。僕の所属している医療法人は御殿場に本
拠地の病院があるために、時々御殿場に行くことがあるのだが、そ
こから見上げる静岡県側の富士山は、普段眺めている山梨県側の富
士山とまるで違った表情をしていることに気付いてびっくりした。
同じ富士山のはずなのに……。それからようやく富士山の眺めが気
になるようになってきた。山中湖で観た富士山に沈む夕陽、本栖湖
で観た富士山と夜明け(5000円札の絵になっているポイント)、
十二ヶ岳と云う山からは富士五湖と青木ヶ原の樹海を従えた堂々と
した姿、どれもが感動的に立派である。冬になると満月の夜、闇に
浮び上がる雪を被った真っ白い富士山は、神秘的ですらある。
 どれが一番だろうか……。僕にとっては自分の部屋と仕事場から
みる富士山が一番である。ようするに普段見慣れた富士山が一番し
っくりくる。

★富士山の表はどちら?★
 山梨県民と静岡県民は仲が悪いと云われている。両方の県で仕事
をしていると確かにそうだと思うことが時々ある。山梨は静岡を悪
く云い、静岡は山梨を悪く云う場面は時々見かける。この不仲は戦
国時代から続いているようだ。むかし駿河の国の今川義元は甲斐の
国の武田信玄に「武田殿、甲斐の国から眺める裏冨士の風情は如何
……」と言って馬鹿にしたそうである。富士山をめぐってどっちが
表でどっちが裏か、この論争は400年以上前から続いているよう
で面白い。
* * * * * * * * * *
 現在は積極的に富士山に関わるようにしている。日課のジョギン
グで富士山に走りに行ったり、マウンテンバイクで樹海を走ったり、
夏の終わりには2シーズン続けて登頂した。希望される方は御案内
しますよ。

zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW
■7■  純正茶寮                  玉木宏樹
The Hilliard Ensemble
    『JOSQUIN : MISSA HERCULES DUX FERRARUAE』
    (Virgin/7243.5.62346.2.8)           ほか

今回は、古楽と現代音楽という純正律の多様
性を感じさせるセレクトでお届けしましょう。
玉木氏の担当で御紹介していきます。
***************
 純正律音楽というジャンルの中では、年代的にも内容的にも、あ
まりにもかけ離れたふたりの作曲家のCDを紹介しよう。
1人目は、ジョスカン・デ・プレである。ジョスカン(c1450
~1521)は、15~16世紀に於ける伝説的な作曲家。フラン
ドル派の巨匠といわれており、当時の音楽界にはあまりにも大きな
影響を与えた人ということになっているが、名声ぶりだけがひとり
歩きしている感もあり、ジョスカンは実は3人いた、とかいまだに
分らないことが多い。ただし、純正律のハモり感が、イギリスから
伝わってきて、それを物の見事に消化した作風はあまりにも有名で、
特に、ア・カペラ(無伴奏合唱)曲は定評がある。このジョスカン
のア・カペラ合唱曲を見事に再現したCDが出た。イギリスの有名
な男声コーラス、ヒリヤード・アンサンブルによる
『MISSA HERACULES DUX FERRARIAE』
だ。私はこのCD、眠る前にかけてよく聴くが、まだ最後まで到達
したことは一度もない。必ず途中で熟睡し、目が覚めるとCDは終
っている。
         * * * * *
 もう1人は、現代のバリバリの鬼才、ジョン・ケージ(1912
~1992)である。いまさらジョン・ケージの奇行振りを説明す
るまでもあるまい。私は学生時代、J・ケージのコンサートへ行っ
て大騒ぎをしたこともあり、彼のハプニング性は、イベントとして
は面白いとしても「音楽」とは違うと思っていた。また、私の若い
頃は、いわゆる現代音楽と称して、頭の悪い作曲家まがいが、ピア
ノの中に鉛筆や消しゴム、洗濯バサミ等という異物を挿入して、訳
のわからん雑音をまき散らす、プリペアド・ピアノ奏法というもの
が流行っており、私は心底バカにしきっていたので、現代音楽展と
いうチラシの中に、プリペアド・ピアノなどという文言があろうも
のなら即、ハナカミ扱いだった。そういう偏見(?)はつい最近ま
で続き、NAXOSレーベルが、強力廉価版の中にJ・ケージを入れて
いなかったら、私は死ぬまでJ・ケージの良さを知らなかったこと
だろう。
『プリペアド・ピアノのためのソナタとインタリュード』は、なん
と、1946年前後の作曲だが、書かれた年代はともかく、その醸
し出すサウンドの何と神秘的なことか! ピアノの中の異物はしか
し、計算し尽くされたかのような倍音を発し、1台のピアノに対す
る何人かの楽器奏者が共演しているかのような世界を生み出してい
る。私は、自分の迂闊を大いに恥じたい。J・ケージはやはり、た
だならぬ人だ。
 当CDレヴューで交互に情報を書いてくれている黒木氏によると、
J・ケージは、師のシェーンベルクから、「作曲の才能よりも発明
の才能がすばらしい」と、誉めたのかけなしたのか分らないことを
言われたらしいが、さもありなんと思える。ただし、このプリペア
ド・ピアノの特長を活かした作曲は大変難しい。ケージの発明の才、
恐るべし。
 この倍音豊富な音の世界は、純正律的にも大いに共感できるもの
がある。NAXOSは安いし、ぜひ1回お聴き願いたい。

INFORMATION

●『MISSA HERACULES DUX FERRARIAE』
 (Virgin / 7243 5 62346 2 8)
The Hilliard Ensemble

●『プリペアド・ピアノのためのソナタとインタリュード』
 (NAXOS / 8.554345)
Boris Berman

#

■8■~~西潟昭子が弾きうたう玉木宏樹邦楽器作品の数々~~
   『いちめんの菜の花』
CDリリース&発売記念コンサート開催のお知らせ

 お待たせしました! このほど、邦楽界のトップランナー・三弦
奏者の西潟昭子さんのソロCD『いちめんの菜の花――玉木宏樹邦
楽器傑作集』が、満を持してリリースされました。サブタイトルに
もあるように、収録曲のすべてが玉木氏の作曲・編曲による意欲作
です。
 内容は、従来の創作邦楽とは一線を画したものとなっています。
純正律やピタゴラス音律を意識しながらも、ひろく、どなたにも親
しんでいただける曲創りがなされていますので、「日頃、邦楽には
縁がなくて……」とおっしゃるみなさまにも、是非一度、聴いてみ
ていただきたい一枚です。
 特筆すべきは、三絃のサワリをはじめ、邦楽器が本来持っていた
はずの倍音を含んだ豊かな音色が玉木純正律マジックによって甦り、
いきいきと輝いてる点。邦楽器たちが取り戻した真実の響きと息吹
の素晴らしい世界をぜひ、お聴きください。
* * * * *
 つきましては、来る4月8日(木)abc会館ホールにて、この
CDの発売を記念した《「いちめんの菜の花」コンサート》を開催
いたします。西潟昭子氏はもちろん、CD収録に参加した豪華演奏
陣の出演による華やかなステージをお届けいたします。CDの鮮や
かな感動を、さらにライヴで体感してください。入場料4000円
のところを、純正律音楽研究会会員の皆様、および会員が同伴また
は御紹介下さった方々は割引価格3000円となりますので、お誘

い合わせでお越しください!

西潟昭子『いちめんの菜の花』
(ARCH-10320/定価3000円(税込〉)
「いちめんの菜の花」他全8曲収録。

演奏――西潟昭子(三味線)、玉木宏樹(ヴァイオリン)
    福永千恵子(箏)、石垣清美(箏、十七絃、三味線)

    三橋貴風(尺八)、山本普乃(三味線)、野澤徹也(三味線)

――玉木宏樹邦楽器作品展
  「いちめんの菜の花コンサート」――

日時:2004年4月8日(木)19:00開演/18:30開場
会場:abc会館ホール
   都営三田線「芝公園」下車
   (東京都港区芝公園2-6-3/Tel. 03-3436-0430)
料金:全席自由/要御予約
   一般:4000円
   正会員・ネット会員:3000円
   *会員が御同伴・御紹介される方々も3000円となります。
主催:特定非営利活動法人 純正律音楽研究会

◇お申し込み方法◇
 御予約は純正律音楽研究会にて承ります。お電話にて御予約の際、
スタッフ不在の場合は留守番電話にて承りますので、
 ・会員様のお名前
 ・会員であること
 ・御希望のチケット枚数
を、メッセージとしてお残しください。
追って事務局より御連絡申し上げます。

◇CD、チケットのお申し込み先◇
 特定非営利活動法人 純正律音楽研究会事務局
 (Tel. 03-3407-3726/日祝休)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■9■ →→→純正律かわらばん

●玉木純正律の世界への入門編CD登場
 玉木宏樹『純正律への誘い』発売中!
 �健康雑誌『壮快』への掲載をきっかけに、最近の事務局には、
「初めて聴いてみるのに、種類がありすぎて、どのCDを選んだら
よいかわからない」といったお問い合せが多く寄せられています。
そこでお薦めなのがこのCD。『光の国へ』をはじめとする玉木純
正律CD各種から8曲を選び、純正律と平均律の聞き分け用和音も
収録。税込1200円とお手頃価格です。

●根強い人気の名盤が装いも新たに。
 『光の国へremake Vol.1~2』同時発売!
 �玉木純正律のインディーズ第一弾として、発売以来御好評を頂
いてきた『光の国へ』の3枚組シリーズですが、このほどリメイク
され、2枚シリーズとなって装いも新たに生まれ変わりました。
「Vol.1 歓喜の翼」は全13曲収録、「Vol.2 旅の予感」は全12曲
収録で、定価はいずれも税込2100円。今でも通販の御注文が最
も多い、人気のシリーズですから、プレゼントにもおススメです。

→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

■10■  @@@@@西麻布通信@@@@@

◆3年半に及ぶフランス生活を終え、この度、帰って参
りました。久し振りの日本はTVの中の女の子と銀行の
名前がすっかりわからなくなっており、前者は元々詳し
くないのだけれど、後者は大変困るなぁと思っている今
日この頃です。以後よろしくお願いいたします。
                    〈黒木朋興〉
◆この度アルキ退社に伴い事務局も「卒業」させて頂く
事となりました。お陰様で、純正律の素人なりに色々勉
強させて頂く事ができました。今後の事務局は、黒木さ
んと頼もしい後任の方とで、よりパワフルに展開してい
く予定ですので御期待下さい! 関係者の皆様、5年近
く本当に有り難うございました。     〈田村圭子〉

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2-1F
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
とりあえずいちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
    URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 不許複製(c)純正律音楽研究会

ひびきジャーナル 第9号

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会会報
『ひびきジャーナル』  【第9号】
2003年6月12日発行

編集/発行:ピュア・ミュージックサロン/純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
※(C)純正律音楽研究会  禁無断転載
 転載等、二次的にご使用になる場合は、必ず事前に純正律音楽研究会
 事務局まで御一報ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

<<今号の内容>>
■1■玉木宏樹の“この人と響きあう” 第9回
   「赤ん坊は生き残る」為の総てを備えて生まれてくる
                ピジョン株式会社常総研究所 石川光さん
■2■ムッシュ黒木の純正律講座 第9時限目
   続・「本質」を求めて……                黒木朋興
■3■天国的純正律音楽入門 第9回    
   現代音楽は1976年に既に死んでいた[その2]
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
■4■CLUB-PURE  今回のメンバーズ――正会員・八木澤享一さん
■5■外科医のうたた寝☆その8 河口湖畔の生活
          福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家) 
■6■CD REVIEW [[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]           黒木朋興
   BEGOБ OLAVIDE『SALTERIO』(M025A)ほか
■7■PMS Event Report
   純正律ワークショップ&ミニコンサート・シリーズ
   盛況のうちに終了!         
■8■純正律かわらばん
   →7/5三味線フェスティバル@東京芸術劇場 ほか
■9■西麻布通信

レアな純正律情報満載のピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究
会の公式ホームページ、仮営業中!〈http://www.pure-music.ne.jp〉
  →玉木宏樹リアルタイムスケジュール、掲示板、のほか
   会報バックナンバー等、アーカイヴもあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#

■1■ 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第9回――
    「赤ん坊は生き残る」為の総てを備えて生まれてくる
               ピジョン株式会社常総研究所 石川光さん

#

→今回は赤ちゃんの強力な味方、石川光さんがゲストです。石川さんは育児用
品のトップブランド、ピジョン(株)の常総研究所で赤ちゃん達と生活を共に
しながら、赤ちゃんにとってのより良い環境創出をテーマに研究を続けておら
れます。とあるサロンコンサートを通じて玉木氏と知り合い、純正律に関心を
持つようになったとのこと。西潟昭子さん、純正律からくり時計のリズム時計
工業の小俣さんも同席し、赤ちゃんの知られざる素晴らしい才能について伺い
ました。
          ―― ―― ―― ―― ――
玉木:今日は色々と赤ちゃんのお話を伺いたいんですけれど、まずピジョンと
いう会社について教えて頂けますか。
石川:創業45年ぐらいで最初は哺乳器から始まったんです。当時の哺乳瓶は
人工乳首を瓶に直接付けるのが普通でしたが、創業者が人工乳首と瓶との間に
キャップを付けて洗浄しやすくスマートにして以来ずっと哺乳器の事にはこだ
わってる。そしてより赤ん坊の事を理解しケアしていくには哺乳器だけやって
たのではいけないということで、徐々に育児の全般をやり始め、今は保育園に
もかなり力を入れている。つまり育児全般をやってる会社ですね。そして育児
の反対側にお年寄りがいるわけなのでお年寄りの仕事もやろう、それからマタ
ニティもと。赤ん坊とお年寄り、妊産婦という、どちらかというと社会的に弱
い立場の人に対してだけお仕事している非常に特殊な会社です。普通なら一番
お金持ってる20代の若者には見向きもしない。(笑)。
玉木:なるほど。ところで石川さんと知りあって、最初は純正律が何のことか
分からず、腰もひけてらした感じだったのが、私のCDやお話を聞いて下さる
うちに、次第に「純正律っていいんじゃないか」と思うようになってくださっ
たみたいですね。
石川:実は私、ごく最近まで平均律しか知らなかったんですね。「音階という
ものは人間の本質や基本に沿ったものであるはず」という前提が私の中にあっ
たものですから。
玉木:平均律が天から与えられたものだと。
石川:そう思ってあまり疑問も持たなかったんですが、よくよく考えてみると
人がつくったものは人間の本質から外れていくことが多い(笑)。それは、ど
うしても効率を重んじるからなんだけど、多分音楽にもそれをしちゃったんだ
なと、玉木先生の本を読んで思ったんです。頭の中でそう確信を持って純正律
の音を聴いてみると、これはもう間違いない、赤ん坊とフィーリングが合う、
コミュニケーションできる響きだと確信しました。
玉木:そうですか! 音といえば、赤ちゃんの可聴域が何ヶ月でどのぐらいあ
るというような数字は分りますか?
石川:赤ん坊の耳が聞こえるのは受精から計算して7ヶ月頃からです。聞こえ
てるのはほとんどお母さんの血流、動脈の音ですよね。ザーって流れる音とド
クッドクッていう音と。それがすごい大きな音で神経に伝わって。で、お母さ
んの声も当然のことながら内側から伝わって入ってきてます。
玉木:お母さんの声もですか。
石川:ええ。おなかの外側からいろんな音が入ってきてます。それらは高音が
カットされてるものですが、自分で発する音はこれは完全に純正律だと思いま
す。倍音てありますよね、おそらくどこかに文献があると思うんですけど、人
間ておそらく純正律の倍音しか出せないと思うんですね。
玉木:ホーメイという一人二重唱があって、普通は聞こえてないけど出ている
はずの倍音を極端により分けて出す発声法ですが、あの倍音は全部純正律です
よね。声がピアノの平均律の音の高さなんてありえないんです。
石川:前にお母さんの声がどういう高さの音で出ているか調べたことがあって、
今では私、それが純正律だと思うんですよ、調べた当時は私分らなかったんで
すが。お母さんが「あー、あー」って言うと倍音が出てますよね。それはとて
も平均律とは考えられない。なのになぜ平均律が一般的なのかというと、それ
は学校で教えるからじゃないかと。人間の本質的には平均律じゃないんだけど、
保育園や小学校に行ってるうちに「あんたの耳はおかしいよ」とか言われたら
誰だって揃えますよね。日本は画一的ですから、恐らく全員が揃えたんでしょ
う。揃えることに反抗した人だけが今、いい唄唄ったりいい音を出してるんじ
ゃないかなって思うんです。
玉木:まさにそうですね。さらに今、赤ちゃんに対する音環境がずいぶんひど
い事になってるんじゃないですか。
石川:私もずっと気にしていました。ほんの百年前には自然の音しかなかった
のに、ここへ来て、車や電車の音、飛行機の爆音、工事中の音、冷蔵庫や電子
レンジ、テレビの音、とにかく人工の音ばっかりなんですよね。

◆生き残るためのコンセプト◆
石川:赤ん坊って一体何なのかっていうのがすごく重要な事なんです。「生き
残る事」を生まれる以前から持って生まれてくる生き物、それが赤ちゃんだと
私は思うんですね。私自身は今、もう生き残るコンセプトを持ってないですよ。
私は赤ん坊と3年間ずっと一緒にいて【注】知ったんだけど、赤ちゃんたちは
一人残らず生き残ることにものすごい執着があります。だからそういうことに
ついてオトナの側が教わった方がいいんです。それは生まれた時から持ってて、
おそらく一番最初に自殺者が出てくる中学校何年かぐらいの歳で消えちゃうん
だと思うんですね。彼らの執着、熱意あるいは学習に対する意欲については
「勉強しなさい」なんて言う必要ないんです。黙っていても生き残るために一
生懸命いろんなことをやります。今、私がものすごく心配してるのは、その
「持って生まれたもの」が失われる時期が次第に早まってるんじゃないかとい
うことなんです。数え上げたらきりないんですが、音環境だけでなくニオイに
ついても、今はいっぱいニオイがあるからすごく赤ん坊を混乱させてる。それ
がここ数十年の間に起こってるんです。赤ん坊は生まれたらまず一番にニオイ、
二番に聴く事で危険を察知するわけです。安全なニオイとはお母さんの匂いで、
お母さんが遠くてオオカミのような匂いが近くにあると怯える。そういうふう
に危険を察知して生き残る手段を得ようとしているわけです。たくさんある赤
ん坊の能力の中で代表的な2つを挙げたんですけど他にもいっぱいあって、そ
れが今、本当にやばいんです。おそらく数百万年かけて築いてきたコンセプト
をここ数十年間でひどく痛めつけている。今は生まれた途端にすごい音やニオ
イがして出産するところは煌々と明るい。昔は出産だって暗い所でしたと思う
んですよ。
玉木:明るければオオカミに襲われちゃうわけだから、そんなところで生むわ
けがないよね。
石川:赤ん坊の立場になって真剣に考えていくと、音環境ひとつをとってみて
もすごくまずい状況になってるから、これを少しでも良くしたいと私は思うわ
けです。私は赤ん坊の味方だから。これは音だけでなく歩く事も手の発達も全
部含めての事なんですが。
西潟:改めてお話きくとすごく面白い。実は当然の事なんでしょうけど。だか
らこそ音楽は正しくあらねばならないと思いますね。
小俣:ここ数十年で捻じ曲げちゃってる部分てたくさんありますね。
西潟:それがどういうふうにこども達の心の中に作用しているのかがとても恐
いですよね。
石川:オトナがオトナだけの考えで便利になるようにしちゃってる。昔だった
ら縁側があって赤ん坊は勝手に外へ行って草をいじってたけど、今は草や泥を
いじることもない。あれもこどもの手が発達するのに欠かせない事だと私は思
うんですよ。いろんなものをつまんだり握ったり捩じったりね。
西潟:そういう力が使えなくなるっていう事ですね。
石川:そう。やがてこどもは箸を使えなくなりますよ。20年後の幼稚園では
――私はすごい年寄になるけど――フォークやスプーンでご飯茶碗から食べる
図になって「あんた箸使えるの、凄いね」っていう事になりますよ、今のまま
で行くならね。
西潟:今、すでに使えてないです。
石川:生まれた時から柔らかいものが近所にないからですよ。昔は柳の枝とか
竹とかを握る事でこどもの手がすごく発達してけど、今は触る物がみんな硬い
でしょ。テーブルも昔は杉だったけど。
西潟:今はプラスチックだし。
石川:私、純正律に気が付いた時に、音についてはこれを今あるものと置き換
えることによって、赤ん坊にとって百分の一でもマシな環境にできるかなって
考えたんです。本当は冷蔵庫の音とかについても「あんな音出すなよ」と家電
メーカーに言わなきゃいけないんでしょうけど。
玉木:今の環境は平均律どころか機械の発する音だからね。
石川:赤ん坊の立場になってみると、冷蔵庫がブーンと鳴るのだっていてもた
ってもいられないと思いますよ。私はオトナだから耐えてるけど。
玉木:耐えるうちに無神経になっちゃったってことですね。
石川:それだけもう感覚が鈍ってる。赤ん坊は文句言わないからみんな平気で
無視するけど、もしも赤ん坊が揃って何か協力して声を上げちゃったら、もう
全部拒否したいものばっかりですよ。
小俣:そういう冷蔵庫のうなりみたいなものも危険な存在だと思ってるかもし
れないですね。

◆赤ん坊にこそ人間の原点が◆
石川:そういうことを研究する人もいないぐらいに、誰も赤ん坊のことを考え
ない。そこが私は気に入らないんです。なんで赤ん坊、つまり人間の原点から
ものを考えないのかと。
玉木:哲学も何も赤ん坊から学ばなけりゃいけないですよね。
石川:私は赤ん坊にすべてがあると思ってるんですよ。赤ん坊が先生で、赤ん
坊と一緒にいると気付く事がものすごいいっぱいあるんです。でもほとんどの
人は「赤ん坊はオトナのちっちゃいもので何もできないから駄目だ」とか言う。
逆に考えればいいのに。例えば今は、こどもに教わるためにこどもを生むって
いう感覚に絶対ならないっていう事が大問題なんです。
玉木:そうなんですよ!
石川:実は赤ん坊とは一緒にいたほうが、自分にとってもプラスになる。赤ん
坊には人間の全てがあるけど、オトナは赤ん坊の持つものの90%を失っちゃ
ってるんです。結局、オトナは失った90%を後から学習して単にくっつけて
るだけなんです。
玉木:要するにオトナになるという事は駄目になる訓練をしてるようなもんで
すね。人間を大切にする事の原点が赤ちゃんにあるっていう事ですよね。
石川:そう。赤ん坊を見る事でしか人間は見られないはずだと。赤ん坊をなぜ
もっとよく見ないのかと。成人になっちゃたらもう「人間」とは違うかもしれ
ないでしょ。
西潟:人工的な生き物になっちゃうと?
石川:学習していろんな事を補っていくけど、もしそういうものがなかったら
人間て一体何なのか。そう考えたら平均律は違うだろって事がすぐわかっちゃ
うわけ。私、けっこう音楽も好きだったのに、実は音楽も効率優先になってた
という事が私にはショックでしたね。お母さんが赤ん坊を呼ぶときの声をマザ
リーズっていうんですが、語尾上がりになるんですよ。何年も前からそういう
研究もしてたから声の特性と赤ん坊の反応までは気にしてたけど、音楽と結び
つかなかった。

◆足の純正律、「純正律」な靴◆
玉木:ところで最近、赤ちゃん用のユニークなシューズを開発されたそうです
ね。
石川:赤ちゃんの足は身体の比率から見ればオトナより大きくできていて、特
に親指の割合がオトナよりもかなり大きい。赤ん坊は大体オトナの身長の3分
の1だから、身体全てが同じように3分の1になりそうなもんだけど、なぜか
赤ん坊の頭は生まれた時は既にオトナの3分2ぐらいの大きさがある。馬や他
の生き物は全ての部分が相似形で生まれてくるんです。でも人間の赤ん坊は、
足の指でも親指と小指の比率が違うし頭も違う。つまり、からだから遠い部分
を大きくして生まれてきてるんです。それは、栄養が行き渡りにくいから早め
に胎内で大きくしてるという事だと思うんですね。そんなわけで赤ん坊の足は
オトナとは違った形状をしてます。
玉木:言われてみるとそうですね。
石川:赤ん坊は親指と小指で足のバランスをとってる。オトナでも平均台では
裸足で演技しますよね、あれは小指を使いたいから。そういうバランスをとる
のが親指と小指の役割なんです。それを生まれたときからやっている。という
ことは靴だって、その動きを妨げない形でないと困りますよね。でも、この話
って世界でまだ誰も知らないんですよ。
西潟:どうして赤ちゃんの足の機能的な事を他の靴のメーカーは研究しなかっ
たんでしょうね。
石川:もしウォルト・ディズニーが赤ん坊のシューズをつくっていたら気付い
たかもしれません。ミッキーマウスの足見ると親指の所がでっかいでしょ、あ
れは赤ちゃんの足です。ウォルト・ディズニーは表現者として、足、しかも親
指をでかく描いたら赤ん坊っぽく見えるということに気付いたのね。指が大切
だと。そういう事がわかっちゃったら、今の靴はまずいと思いません? ただ
のオトナ用を小さくしたやつじゃダメなんです。
西潟:考えてみたらそれってかわいそうね。
石川:そうでしょ。日本のシューズメーカーはほとんどベビーシューズ作って
ますけど、全部その事がわかってない。コドモの足って正面から見ると我々と
は全然違う構造していて、親指と小指で踏ん張ってるんです。本当は、身を守
るためにはオトナもそうなるはずなんです。老化する、退化するっていうのは
この事を言ってるんです。せめて前の方の大きな靴をはいて甲のアーチに気を
付けながら歩いていれば、歩行において退化を遅らせる事ができるかもしれな
い。そういう赤ちゃん用シューズが今度商品として出るもんですから。
西潟:それはどういう工夫がなされてるんですか?
石川:まず左右非対称です。赤ん坊だから何でもいいわけではなくて、オトナ
にはない形です。で、甲高ですね。面白い形してますよ。3歳までを赤ん坊と
したら、そのの人々が使うシューズを「何もわかんないんだし、いずれ大きく
なるんだから何でもいいんじゃない?」って考えるのは全く間違ってるじゃな
いですかと私は一生懸命言ってるんだけど、誰もそういうふうに考えない。
玉木:これはまさに足の純正律、靴の純正律ですね。
石川:よく似た話ですよね。
玉木:平均律的に型に嵌めてどうにかしようという発想はおかしいですよね。
石川:世界のどこにもないという点で、普及させなきゃいけない大変さを考え
たらある意味純正律より大変な事態です(笑)。でも、赤ん坊が原点なんだか
ら、そこにしか答えはないんです。赤ちゃんは「生き残る」コンセプトを持っ
て生まれてきます。だから我々オトナは「私には生き甲斐がない」なんて悩む
必要はないんですよ、だって元々自分の内に持っているはずのものなんだから。
                          【構成/田村圭子】
****************
【注】石川さんが所属するピジョン常総研究所では研究所の敷地の一画に保育
園を開設し、石川さんはその園長も兼任されていた。同園では3ヶ月から5歳
児までを預かっている。
「研究者の自分と保育士の自分という二重生活の3年間を送りました。この3
年間がなかったら今の私はありません」(石川さん談)
永年、赤ちゃんの研究に取り組まれてきた石川さんだが、保育士同様に赤ちゃ
ん達と一緒に暮らしたお陰で、赤ちゃんと話ができるようになり、何を考えて
いるかも分るようになったとのこと。ちなみに、赤ちゃんはお母さんに似てい
るエプロン姿を好むため、石川さんもエプロン姿で赤ちゃんに接していた。一
方、お父さん達には気の毒だが、背広姿は苦手なのだそう。
****************

知っているようで分っていなかった赤ちゃんのお話、いかがだったでしょうか。
まだまだ知られざる赤ちゃんの驚異の力は無限にありそうです。文中に出てく
るピジョン(株)のホームページもぜひ、併せてご覧ください。お母さんにも
そうでない方にもためになるコンテンツが一杯です。
HPは→ http://pigeon.info/           

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■2■ ムッシュ黒木の純正律講座 第9時限目
続・「本質」を求めて……                黒木朋興
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 前回はbe動詞の2つの意味、「本質」と「実存」について話をしました。今
回はこの2つの意味が混同されて用いられた場合に引き起こされる問題につい
て話してみたいと思います。

◆議論のズレの正体とは……◆
 例えば、幽霊やUFOがいるかいないか、という議論があって、テレヴィなど
でも賛成派と反対派に別れて論争を繰り広げる、といった番組が時々放映され
ます。しかし、ほとんど言って良いほど、この手の議論は決着がつかず、終い
には喧嘩になって終わってしまいます。口に泡を飛ばしている当事者の方のほ
とんどが意識していないこととは思いますが、このような場面で生じる議論の
ずれといったことは、まさしく「本質」と「実存」の間の問題なのです。つま
り、「いる」という賛成派が「本質」の、対して「いない」という反対派は
「実存」の議論をしている、ということです。
 賛成派の人々は「いる」ことの根拠として、「この私が直接見た、あるいは
直に体験した」ということを挙げます。そしてそのことの証明のために、写真
を取ったりヴィデオを見せたりします。そうして「自分が体験したこと」を熱
く説明します。この説明とはどういうことなのかについて考えてみましょう。
これは「自分が体験したこと」という事実なり真理をイコールで繋いでいくと
いう行為である、とは言えないでしょうか。例えば、現実に起こったことと写
真なりヴィデオの内容が完全にイコールで結ばれるのなら、証明は成功したこ
とになります。ところが反対派は写真なりヴィデオなりはあくまでも複製だか
らと言って、つまり二次的なものに過ぎず事実そのものではないと言って否定
します。時には「インチキだ!」とか、「後から手を加えてあるはずだ!」と
かも言ったりします。ですから賛成派は今度は言葉を使って懸命に、修正など
は一切していないことを、自分は嘘などついてはいないと言い出します。すな
わち、彼等の説明においてはイコールの整合性が焦点となっているわけです。
その意味で、彼等は「本質」の議論をしていることになります。対して、反対
派は何を言われても、何を見せられても、信じません。何故なら彼等は端から
イコールの部分など見ていないからです。彼等が問題にしているのはあくまで
も「実存」で、そんな「いかがわしいもの」は最初から「実存」しないと言っ
ているのです。最終的に賛成派は「オレは嘘などついていない。このオレが信
じられないのか!」などと言い始めます。対して反対派は「自分がうまく証明
できなかったことを棚にあげて、何を言い出すか!」と切り返します。こうな
ってくると興奮が興奮を刺激し、単なる罵り合いへと落ちていきます。
 同じテーマを議論しているにもかかわらず、片方は「本質」の、そしてもう
片方は「実存」の話をしているのでまったく議論は噛み合わないのですが、深
刻なのは、多くの場合、当事者達がこのずれを意識していないということです。
これが幽霊とか宇宙人に関する議論であればまだ可愛いものでしょう。しかし
「民主主義」とか「神」とかであったらどうでしょうか?笑い事ではすみませ
ん。何故なら未だもって人類は、この種のテーマで議論をこじらせ、時には殺
し合いまでしてしまうからです。

◆「本質」にして「実存」?◆
 西洋の言語の特長は、この「本質」と「実存」を同じ動詞でもって表せるこ
とだ、と言っても過言ではないでしょう。このことは神学を始め、哲学・文学・
芸術など、キリスト教文化のすべての基礎となっています。対して、我々の日
本語には、イコールの意味を持つ動詞はありません。実は旧約聖書の言葉、ヘ
ブライ語にもやはりないそうです。ここで新約聖書はイエスの死後、ギリシア
の信徒によってギリシア語で書かれた、という事実を確認しておきましょう。
つまりイコールの意味の動詞を持たないヘブライの民の宗教とそれのあるギリ
シア哲学の出会いこそが、ヨーロッパキリスト教文化の礎を形成した、という
ことです。

************************************
■3■ 天国的純正律音楽入門 第9回
    現代音楽は1976年に既に死んでいた[その2]
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************
 ポストモダンの音楽が純正律系をめざすのであれば、後世、1976年が一
大エポックメイキング、大転換の年だったことになるだろう。ひとつには、も
ちろん、アルヴォ・ペルトの「アリーナのために」が初演された年でもあるが、
純正律的にはそれだけではない。1990年代になって爆発的なヒットとなり、
世界中で300万枚は売れたといわれる、ポーランドのグレツキの交響曲No.3
「悲歌のシンフォニー」が、実は1976年に作曲されていた。また、アメリ
カでファナティックな純正律運動を行い、一種教祖的な存在であった、ハリー・
パーチが死んだのもこの年である。しかし、パーチの存在は死後の後継者の一
群の啓蒙によって有名になっていく。もちろんその頃の欧米の現代音楽の主流
は、相も変わらず無調、12音の平均律跋扈だったが、パーチの後継者、ルー・
ハリスンは1970年頃からさかんにアメリカンガムラン運動を行っている。
今日の作風からは信じられないが、彼はシェーンベルクに師事したドデカフォ
ニストだった。グレツキやペルトたちも若い頃はバリバリ前衛の無調派だった
のもおかしい。そのハリスン先生、今年亡くなられた。84歳かな? 合掌。
 さて、そのハリスンが愛した、アルメニア系の孤高の人ホヴァネスの、オー
ケストラと鯨による演奏の「神は偉大な鯨を創られた」は、1970年に作曲
されている。また、ミニマルミュージックによって無調から逃れようとしたス
ティーブ・ライヒも1970年代から活躍している。今から見ると、1976
年前後から無調世界に決別した作曲家が一挙に増えている。一方、日本はどう
だったか。

◎元凶は無調派の台頭?◎
 戦後の日本の作曲界は混沌としていて、小山清茂のような民族派、芥川氏の
社会主義レアリズム、黛・諸井両氏の電子音楽に代表される超前衛無調派がひ
しめいていたが、時代は無調に凱歌を上げ、武満氏の「ノヴェンバーステップ
ス」が1967年に初演されてアメリカで大評判をとったことが社会的事件風
にも扱われた。しかし、この成功が、その後長い間、日本の現代音楽を一色に
してしまい、ポストモダンには目もくれない風潮が、大きい目で見れば、日本
の現代音楽を不幸にしたといってもよいだろう。

◎日本も純正律再生の時代へ◎
 さて、私自身の1976年はどうだったのかというと、コロムビアより、日
本初のロックヴァイオリンアルバム『タイムパラドックス』を出して有頂天だ
ったというかなりのズレよう。私自身、学生時代に無調の作曲もしていたが、
平均律の音程感覚が身に合わず(純正律を教えない、知らない芸大とも衝突を
繰り返しエリートコースとも決別)、本線のクラシック界からドロップアウト
して山本直純の工房に入り、商業音楽まっしぐら。そんな中でのロックアルバ
ムだったから、私自身もそちらの前衛になるつもりでいた頃に、人づてにエプ
ソンセイコーに呼ばれ、純正律と平均律を弾き分ける「ハーモニートレーナー」
と対面したことが、その後の私を変えるキッカケになっている。
「ハーモニートレーナー」は、西独から特注を受けたすぐれものの機材で、各
鍵盤ひとつずつに-15セント、+16セントの微調整のつまみがあり、自分の耳
で純正律和音を訓練できる機材である。私は学生時代の純正律トラウマに目覚
め、いろんなレコード会社に純正律の企画を出したが、もちろん一顧だにされ
なかった。しかし世の中はホグウッドたちのオーセンティック運動の発展形と
して古楽の純正律演奏が盛んになりつつあったが、1989年のカラヤンの死、
1990年のバーンスタインの死が欧米のオーセンティック運動に火をつけた。
私は演奏面での純正律にはもちろん興味があったが、作曲とどう結びつけるか
に頭がいかず迷っている時、オランダに立ち寄った日本人の友人からペルトの
存在を知ったのが1992年。それから首を突っ込んでみると、欧米にいるわ
いるわの純正律系作曲家。それらに勇気づけられ、日本で初めて出した純正律
のCDが1994年だった。
 無調的現代音楽の巨匠、J・ケージが死んだのは1992年。日本での大御
所、武満さんは1996年に亡くなった。今、日本の現代音楽は支柱を失い、
揺れ動いているように見える。1976年にペルトらによって死亡宣告を突き
つけられた平均律無調音楽は、今やっと日本でも再考の時期に入っている。
 私は去年の末から邦楽の世界にのめりこみ、今、激しく旋法での作曲にいそ
しんでいる。ひびきとメロディの再構築である。

【『ひびきジャーナル第9号』ネット版bに続く】

【『ひびきジャーナル第9号』ネット版aから続く】

==============================================================
■4■ CLUB-PURE 今回のメンバーズ――正会員・八木澤享一さん
    会員の皆様に登場していただくコーナーです。

    自薦他薦、どうぞ手を挙げてください。こんな面白い人いますと。

⇒今回は、前号でも投稿していただいた正会員・八木澤享一さんからの御寄稿
です。去る3月30日に大森の山王オーディアムで開催された純正律ミネラル
サウンド・コンサート「玉木宏樹の魔弓の世界――バッハからピアソラまで」
のレビューをお寄せいただきました。
*************
 3月30日山王オーディアムへ行き、午後4時からのコンサート「玉木宏樹
の魔弓の世界――バッハからピアソラまで」を鑑賞しました。
 コンサートが始まる頃には席(100席位か)が殆ど埋まっている盛況ぶり
でした。出演は玉木さんの他、ピアニストの小松真知子さんと弦楽器の松田麻
由美さん。恒例の「吉本ヴァイオリン」のウケ具合から察するところ、客には
「新顔」が多いようでした。玉木さんのヴァイオリンと平均律のピアノとの共
演を聴くのは今回が初めてですが、中々良かったと思います。
 コンサートは定番の「無伴奏ヴァイオリンソナタ」に始まり、恒例の「おし
ゃべりヴァイオリン」や「冗談ヴァイオリン」、客の名前に即興で付けるメロ
ディーの演奏が続いた後は、大略以下の通りでした。

●「きらきら星」と「まりと殿様」の変奏曲
 これはとても面白かった。前者は、子供のビギナー・大学生・演歌・フィド
ルをそれぞれ模した変奏。後者は、沖縄・中国・ロシア・ヨーロッパの音楽、
およびアメリカ国歌を模した演奏。
●ピアノの為の練習用組曲「山ノ手線」からの抜粋(東京と新宿)
「東京」の方は「君が代」と「鉄道唱歌」のコラージュ。
●ヴァイオリンとピアノの為の三つの恋唄(田舎っぺ、エセ都会人、仕事中毒)
 ピアノの部分に、現代音楽的な不協和音が多用されているように聞こえ、そ
れが少し気になりました。もう一つは、楽器の性格とも関係しますが、ヴァイ
オリンの調べがピアノの大音量に呑み込まれる恐れありとの印象を受けました。

――休憩――

●玉木さんと松田さんのデュオ。
 幾つかの小曲(鯉のぼり、夕やけこやけ、聖夜、むすんでひらいて、家路)
 に続き、「タンゴのように」と「二人のフィドラー」
 小曲と「タンゴのように」 は、コンサートのお題目にもなっている「純正
律」に則った演奏。
●小松さんのピアノと玉木さんのヴァイオリンによるタンゴ数曲
 実は、玉木さんのHPの≪近況報告2003/3/18版≫〈これからの予定〉
の3月30日の欄に、「16:00から、大森の山王オーディアムにて純正律ミニ
コンサート」、「小松真知子さんのピアノと、なんと玉木が平均律で奏きまく
り」等と書き込まれており、「純正律」と「平均律」を一体どう整合させるの
か、少し気になっていました。しかしこの日の説明では、タンゴの演奏の場合、
純正律でハモらせるよりは、むしろメロディーとメロディーをぶつけた方が良
い、という事でした。それならピアノとの合奏で支障が生じる事は無いかも知
れません。「平均律×平均律」、または「平均律×ピタゴラス」で演奏すれば
良いのでしょう。
 一方「純正律」の方は、松田さんとのデュオで済ませているので「看板」に
偽りは無かったという事になりましょうか。

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
■5■ 外科医のうたた寝☆その8   川口湖畔の生活
        福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 昨年の5月に河口湖に引っ越してきて1年が経過した。最初の1年は慌ただ
しく毎日が過ぎていった。標高900mの自宅からは正面に富士山を眺め、夏場
はクーラーはまったく不要の快適さであった。秋は紅葉の中で炭火焼きに熱中
し、日曜日毎に七輪持参でクルマで10分の湖畔に行き、肉、野菜、秋刀魚、
キノコなどを焼いて食べ、風に吹かれてひたすら昼寝をした。11月になると
とたんに冷え込み、この冬は大雪がなんども降った。湖畔の道は永久凍土と化
し、11月~2月までは日課のジョギングもままならない状態であり、真っ白
な富士山を眺めながら近所の温泉に通った。元来、冬も、雪も、寒さも大好き
であったが、2月に働いていた病院が諸般の事情でクローズすることになった
りで気分の晴れない冬を過ごした。

★自然に抱かれひた走ろう★
 3月になって降り積もった雪が溶ける頃、新しい仕事も軌道に乗り始めまた
楽しく快適な生活が戻ってきた。4月20日に長野マラソンを控えており、3
月は毎日10~15�を走った。仕事が終わったPM8:00過ぎに河口湖の湖畔
にクルマを停めて河口湖一周(約15�)を1時間20分かけて走る。通称〈奥
河口湖〉、足和田村あたりは人家、店、街灯すらほとんどなく、静寂のなか自
分の足音と息づかいしか聞こえない世界はちょっと不気味ですらある。けれど
も月明かりで銀色に光る湖面とそれに覆いかぶさるように迫る森の間の道を黙
々と走っていると、自然が身体の中にどんどんと入り込んで行くような不思議
な感覚におそわれる。河口湖に吸い寄せられるように雨の日も、小雪の日も走
り続けた。

★超快調! 朝型生活★
 4月に入ってまた大きな変化が訪れた。河口湖の湖畔に住む有名なアウトド
ア夫婦と友達になり、時々一緒にジョギングするようになった。彼らは日の出
と共に目を覚まし早朝走るのである。最初、走る約束をしたところAM5:45に
湖畔に集合と聞いて〈狂気の沙汰〉かと思い、とりあえず1回だけ参加してみ
ようと考えた。ところがこれが気持ちよかった。約1時間走ってAM7:00には
自宅に戻ってシャワーを浴びて仕事に行く。その後の一日は棒に振るかと思い
きや、実に元気で気分良く夜まで仕事に集中することが出来た(ただし夜は最
後までニュースが見られず、PM11:00頃には眠ってしまう)。それまでの月
と星とのジョギングも良かったが、朝陽とさわやかな空気とのジョギングも素
晴らしく、いつの間にか忘れていた純粋に走ることへの喜びを思い出し、マラ
ソンを始めた7年前の原点に戻れた気分である。
 生活を朝型に変えて自分でも満足のいく練習をして臨んだ、4/20長野マラ
ソンでは3時間38分と自己記録を更新して最後まで気持ちよく走りきること
が出来た。そして自分の中にまた新しい可能性が生まれた様な気がした。これ
も森と湖に囲まれた生活のおかげと感謝している。
 燦々と太陽は輝き、湖を囲む緑はどんどんと深くなって行く。朝もやのなか
を走り、湖を囲む山に登り、湖面にカヌーを浮かべてのんびりと漂う。湖畔で
お湯を沸かしコーヒーを飲みながら風に吹かれていると、何とも云えない幸せ
な気分になってくる。
 玉木さん、たまには西麻布の雑踏を抜け出して、大好きな富士急電車に乗っ
て湖畔にバイオリンを弾きにきて下さい。
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW
■6■  純正茶寮                  黒木朋興
    BEGOБ OLAVIDE『SALTERIO』(M025A)ほか

今回は、フランス在住(@エクス)の黒木氏が担当します。以前にも氏が本コ
ーナーで紹介したレーベル、M・Aレコーディングスからのセレクトです。響き
を訪ねる、中世スペイン空想の旅はいかが?
***************
 今回はスペインの伝統音楽を紹介します。というと、フラメンコを思い浮か
べる方が多いとは思いますが、今回扱うのはさらに古いのものです。カルロス・
パニアグアという人が、失われてしまっていた中世の古楽器を、図版などいろ
いろな資料を当たることによって、独自に復元し、文字通り手探りで弾き方を
修得しつつ演奏活動を行っているのです。この2枚のCDは彼を中心としてベ
ゴニア兄弟など彼の仲間の演奏をスペインの教会でタッド・ガーフィンクルが
録音し、そのタッドさんが日本で設立したM・Aレコーディングスというレーベ
ルから発売されています。僕が紹介するCDは、実は、タッドさんが買い付け
て日本に持ち込んだのを購入したものが多い、ということは気付いておられる
読者の方も少なくないのではと思います。
       ☆ ☆ ☆
 中世のスペインといえば、そして特に彼等の住むアンダルシアとは、まさに
キリスト教文化とイスラーム教文化が交錯した地域であり、それがゆえの豊か
な文化遺産に溢れるところです。自然科学史の領域では、古代ギリシア・ロー
マの学芸は中世においてイスラーム教徒に受け継がれ、12世紀くらいから主
にイベリア半島などからヨーロッパに流入してきた、と説明されることを確認
しておきましょう。もちろん音楽もそうやって継承された重要な学芸の一つで
した。ところが中世のイスラーム教徒がどのような役割を果たしたについては、
未だもって十分に研究が進んでいるとは言えないのです。キリスト教のイスラ
ーム教への蔑視という問題もさることながら、音楽に関してはなにぶんにもレ
コードなどない時代ですから、当時実際にどのような音楽が演奏されていたか
については確かめようがないのです。そういった中で、たとえ想像の域を出な
いのだとしても、このCDのような試みは貴重だと思います。
       ☆ ☆ ☆
『SALTERIO』のほうは弦楽器の響きが本当に美しいです。ヨーロッパに住ん
でいて感じるのはとにかく教会が日常生活の本当に身近なところにあるという
ことです。それぞれの教会は基本的に抜群の音響効果を誇っており、というこ
とはそれらがあっという間に上質のコンサート会場に早変わりしてしまのです
から、うらやましい次第です。なおSALTERIOというのは琴のような弦楽器の
総称です。
       ☆ ☆ ☆
『THE SPLENDOUR OF AL-ANDALUS』は、歌と笛の旋律を表に出した曲が
多いです。個人的な感想としては、笛の音が何となく日本のお囃子を思わせる
し、中学生の頃愛聴していた中国の伝統音楽の調べに似ているような気がしま
す。そんなことをタッドさんに話したら、笑われてしまいました。もちろん、
これらのCDを買った当時、水滸伝を読み直していたからかも知れません。た
だし、笛の調べは明らかに平均律ではなく、ピュタゴラースだとすれば、僕が
日本や中国の音楽と近いものを感じてしまうのも強ち間違いではないように思
っています。現在日本では彼等の3枚目のCDが発売されているのは知ってい
るのですが、僕は残念なことに買いそびれてまだ聞いていません。読者の方で、
興味を持たれて買われる方がいたならば是非感想等をお聞かせ下さい。

INFORMATION

●『SALTERIO』(M025A)
 BEGOБ OLAVIDE

●『THE SPLENDOUR OF AL-ANDALUS』(M026A)
 CALAMUS

※M・AレコーディングスのHPは
http://www.marecordings.com/
 試聴、通販もできそうです。

#

■7■ PMS Event Report
    純正律ワークショップ&ミニコンサート・シリーズ
    盛況のうちに終了!

 ただ聴くだけでなく、自ら声や音を出して純正律を体感したい、学びたい……
かねてより多かったこうした御要望を受け、この春、玉木宏樹プロデュースに
よる「純正律ワークショップ&ミニコンサート・シリーズ」が開催されました。
ライフクリエイトサロンKAZとの共同企画のため、KAZの拠点である横浜ラン
ドマークタワーが会場となりました。楽器を持参して演奏に参加するもよし、
手ぶらで気軽に聴講するもよしという自由度の高いスタイルで、就学前のお子
さんから中高年層まで、様々な目的を持つ皆さんにお集まりいただきました。

 3月1日の第1回目はヴァイオリニストの水野佐知香さんがゲスト。純正律
/平均律の聴き分けレクチャーの後、玉木オリジナルの「カノン」を教材に、
全員を小グループに分け、輪になって互いの声を聴き合いハモるレッスンを。
その後、ヴァイオリン二重奏を中心とするハモりを体感し、楽器を持参された
中から有志の何人かに水野さんや玉木氏とのデュオ演奏を体験していただきま
した。後半は玉木氏と水野さんのデュオ・ヴァイオリンが奏でる純正律による
ミニコンサート。見事に息の合った演奏で第1回目が終了しました。

 4月26日開催の第2回目は、リコーダー奏者の金子健治さんを講師に東京リ
コーダーオーケストラのメンバー3名のサポートも得て、誰もが経験のある身
近な楽器リコーダーで純正律の響きをつくりあげるワークショップが展開され
ました。申し込まれた殆どの方がリコーダー持参での御参加です。
 金子さんのオリジナル曲を教材に、会場全員で音を出していくうちに、次第
に会場全体が1つの楽器になったかのような見事なハーモニーを響かせ始めま
す。前回同様、有志による講師陣とのアンサンブル体験コーナーを経て、最後
は金子さんたち東京リコーダーアンサンブル・メンバーによるミニコンサート
を御堪能いただきました。ルネサンスから現代の映画音楽まで、曲によって、
掌に収まりそうな小さなものから2mもある超低音のものまで、時代もサイズ
も様々なリコーダーが登場し、リコーダーの世界の奥深さをたっぷりと味わう
ことができました。

 純正律音楽研究会では、今後も、こうしたシリーズを積極的に展開して参り
ます。「こんなテーマで開催してほしい」等、皆様の御意見、御要望をどしど
しお寄せください。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■8■ →→→純正律かわらばん

●西潟昭子氏総合プロデュース
 三味線を聴いて、聞いて、見てさわれる3日間
 「三味線フェスティバルin東京」開催!
�2003年7月4日(金)~6日(日)、池袋の東京芸術劇場にて「三味線フェスティ
バルin東京」が現代三味線音楽協会(理事長:西潟昭子氏)の主催で開催され
ます。当代の一流演奏家によるコンサートをはじめ、ワークショップ、シンポ
ジウム等、盛り沢山な内容。無料の三味線体験コーナーもあり、三味線ワール
ドを楽しく探訪できる3日間です。5日(土)には玉木宏樹氏の司会、永六輔氏、
福田六花氏他によるシンポジウム「なぜ、いま、三味線なのか」も開催(16時~
中会議室にて/入場料2000円)。

※フェスティバル各イベントの詳細他、各種お問い合せは、現代三味線音楽協会
(Tel. 03-3565-4197)、またはTAオフィス(Tel. 03-3953-0431)まで。
若者の間で津軽三味線が大ブレイク中のいま、これはオススメです。

●今度はリズムがテーマ!
 玉木宏樹氏も執筆、『21世紀の音楽入門2』発売中!
�リズムをテーマに、玉木氏の刺激的な論考を掲載したムックが発売されまし
た。『21世紀の音楽入門2/リズム、音楽に生命を与えるもの』(教育芸術社、
税別1000円)の中で、「リズムの快感」を執筆しています。ちなみに同書には
西潟昭子さんも執筆されています。一般書店で入手できますので、是非御一読
ください。

→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

■9■  @@@@@西麻布通信@@@@@

◆お陰様で満4年を迎える当研究会、いよいよNPO法人化へ向け
て本格的に動き始めました。5月24日には設立準備総会を開催、
今秋の法人設立をめざして一同張り切っています。NPO法人とし
て認可されれば、純正律の力をより多くの人に知って頂き、医療、
福祉の分野や音環境の整備等を通した社会貢献活動を広く展開して
いくことができます。安らぎの音環境に包まれた社会の創設を皆様
と共にめざせればと思います。皆様の御参加を心よりお待ちしてお
ります。                       〈田〉

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
とりあえずいちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
    URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
*ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会の
 オフィシャル・ホームページにもお越しください!!
   http://www.pure-music.ne.jp
 掲示板もやってます。リアルタイム玉木純正律情報だけでなく、
 会報バックナンバー等、アーカイヴも一部公開中。ぜひ、お立ち
 寄り下さい。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 不許複製(c)純正律音楽研究会

ひびきジャーナル 第8号

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会会報
『ひびきジャーナル』  【創刊第8号】
2002年12月24日発行

編集/発行:ピュア・ミュージックサロン/純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
※(C)純正律音楽研究会  禁無断転載
 転載等、二次的にご使用になる場合は、必ず事前に純正律音楽研究会
 事務局まで御一報ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

<<今号の内容>>
■1■玉木宏樹の“この人と響きあう” 第8回
                       三絃奏者 西潟昭子さん
■2■ムッシュ黒木の純正律講座 第8時限目
   「本質」を求めて……                  黒木朋興
■3■天国的純正律音楽入門 第8回    
   現代音楽は1976年に既に死んでいた[その1]
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
■4■外科医のうたた寝☆その7 名古屋、大阪、食べ歩き
          福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家) 
■5■CLUB-PURE 今回のメンバーズ――正会員・さとう木誉さん
■6■CD REVIEW [[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]           玉木宏樹
   『Carmina Burana
――Medieval Pems amd Songs』(NAXOS/8.554837)ほか
■7■Reported by Members
   西潟昭子リサイタル2002          正会員・八木澤享一
■8■純正律かわらばん
   →新春の玉木純正律関連イベント情報いろいろ。
■9■西麻布通信

レアな純正律情報満載のピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究
会の公式ホームページ、仮営業中!〈http://www.pure-music.ne.jp〉
→掲示板始めました。バックナンバー等、アーカイヴもあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#

■1■ 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第8回――
    「よい調弦こそが楽器を鳴らす」
                      三絃奏者 西潟昭子さん

#

→当研究会はこの秋から、邦楽界のトップランナーである三弦奏者の西潟昭子
さんにも御参画をいただき新たな展開を行っています。今回はその端緒を開い
た、夏に行われた対話の模様をお届けします。きっかけは、玉木氏の昔からの
知人であり、現代邦楽研究所を主宰され、三弦、箏、尺八等、邦楽の若手演奏
家育成にも尽力されている西潟さんから新曲の依頼が来た事からでした。和と
洋の異才が織り成すコラボレートはどのようになされるのでしょうか。
          ―― ―― ―― ―― ――
玉木:今回私は作曲の委嘱をいただきましたんで、どういう内容でどう委嘱さ
れるのかというお話から伺いたいと。
西潟:最初、来年3月初演の演奏会用をとお願いしたんですが、その作品を1
月4日に新潟県豊栄市の福島潟というところで……。
玉木:福島潟ねえ。新潟競馬には何回も行ってるし。
西潟:そうなんですか。1月4日にちょうど合うといいですね。
玉木:競馬はやってないや(笑)。
西潟:私の友人が「ビュー福島潟」っていう、野鳥の宝庫である福島潟の自然
を保護するためのセンターを造ったんです。そこで色々活動してて時々演奏会
をやるんですけど、この前玉木さんの「2つの舞」を演奏してたら司会者が泣
いちゃうくらい感激されて、お客さんも何人も目頭をおさえてて。演奏者がま
たよくて、若い女の子とニヒルな同志社の哲学科を出た若者に演奏させたんで
すよ。
玉木:ああいう曲はニヒルに演奏してくれると非常にいいですね。自分が酔っ
てるって感じでやられるよりも。
西潟:私、とてもいい演奏だと思ってね、そういうこともあって、福島潟の四
季をテーマに、日本の伝統楽器を使った曲がほしいと前々から言われてて。そ
れとは別に私は玉木さんに研究所(現代邦楽研究所)の卒業演奏(修了コンサ
ート)で初演をするための曲をお願いしていたんですが。
玉木:そうでしたね。
西潟:それ以前から玉木さんの本(『音の後進国日本』)を拝見していて思っ
たんですけど、私たちの調弦方法っていうのは、昔は箏なんかでも基音になる
音をとってからハーモニーで合わせていって、それがいかに速くできるかがプ
ロになる早道みたいにいわれてきたのに、今はみんなピッチメーターを使うん
ですよね。それも1本ずつピッチメーターで合わせるの。それがとにかく針が
ゼロのところに来るようにしか合わせない。半音も何もかも全部そうやって合
わせるんです。三味線の場合はポジションを押さえるので、まあ、優柔不断と
いえば優柔不断なんだけど、例えば本調子でも「シミシ」に合わせると、最初
の一の弦(低い弦)、それから4度5度の関係で合わせますよね。だけど平均
律よりはちょっとずつ高くしないと「サワリ」がつかないんです。「サワリ」
をつけないと三味線は、本調子も二上りも面白くないわけですから、「サワリ」
をいかにつけるかっていうことが、私たちが本番の前に苦労するところなんだ
けど。そういうふうにシビアに平均律に抵抗しつつね――もちろんピッチメー
ター使うんですけど。それから、上向下向でポジションなんかちょっとずつ違
うんですよ。
玉木:おっしゃってるのは、まさしくピタゴラス音律なんですよ。
西潟:そうですか。
玉木:箏の調弦方法での順八逆六、これは全世界に通じるピタゴラス音律なん
ですよ。ピアノの平均律に比べると、例えばドの♯があってレに行くときに、
平均律だとドの♯とレの♭は一緒なのね。僕もヴァイオリン奏きだからそうな
んだけど、レに対するドの♯っていうのは、無意識のうちにピアノのよりも高
くしないと気持ち悪いんですよ。それから、今度は逆にレからドに行くとき、
下に下がる時のレの♭、それからドに行くとき、これは三味線でもこうやって
押さえておいて――邦楽の場合に多いか少ないか僕はわからないけど、唄うと
きだってそうでしょ。
西潟:唄はまさにそうです。自然にそうなってる。

◆唄と三味線の微妙な関係◆
玉木:今度9月28日に芝abc会館でコンサートやるんですけど、実はとん
でもないことやるんですよ。チラシに「尾上菊咲慧:舞い」ってあるけど、こ
の人の舞いのために僕、常盤津と長唄をずっと聴いてるんですよ、純正律・ピ
タゴラスで。
西潟:本当?
玉木:おかしいでしょ。それでその元の曲をずっと聴いてるんだけど、半音の
取り方が見事に平均律と違う。特に唄がね。ものすごく半音が狭いというか。
西潟:そこがしびれる所なのよ。
玉木:それをどうやって表現できるのかなあという。純正律音楽研究会の親玉
としては、常盤津と長唄と、まあ三味線の弾き方もだいぶ唄とは違うけど似て
るところもあるから、それを処理できるし。今までそういうことを本気で音律
の面からやった人間はいないんだよね。それで今取り組んでるんですよ。実に
面白い。唄と三味線、あれはどっちが主なんだろうね? 三味線が引っ張って
いくことで音程をとっていってるんだろうか?
西潟:いえ、唄に三味線を合わせなきゃいけない。唄のほうが先行してるの。
玉木:なるほど。
西潟:だけど、曲をリードするのは三味線弾き。
玉木:だから「こう行くんだよ」って先走って弾いてるよね。
西潟:そうですね。全てを把握してるのは三味線弾きですから。
玉木:やっぱり。あれ面白いね。三味線が必ず遅れて、というかシンコペート
で入って来るんだよね。
西潟:一緒じゃ駄目なのよね。ずらさないといかん。一緒だと幼稚なの。
玉木:このずらし具合が五線紙に書くときに非常に苦労するんだ(笑)。大変
ですよ。マーラーのシンフォニーを譜面に書く方が簡単だ。なんでこんなもの
が譜面に書けないのかなと思うぐらい苦しむね。
西潟:だから譜面は大まかにしか書いてくれなくていいんですよね、唄なんか
は細かく書かれるとワケがわからなくなるから。
玉木:それはいいんですよ。でも、僕は原曲をただアレンジするんじゃなくて、
それをちゃんと理解した上でオリジナルを書くんだから。
西潟:よく一般に採譜なんかされる場合、「一緒でいいのに」って思うのよね、
どうせこっちでずらすんだからって。
玉木:本来はそうなんだよね。でもいつも音程が同じだと困るから、必ず5度
下がってみたり。
西潟:そうですね。一応決まりがいろいろあって。

◆弾くこと以前にまず調弦を!◆
西潟:それでも、音程的に三味線は自由になるところがだいぶあるんだけど、
箏は箏柱を立てて固定しちゃうじゃない、平均律のピッチメーターに合わせて。
それで平気で弾いてて、ちゃんとした調弦がだんだんできなくなってきてるん
ですよね。こういう事を私たちは教えなきゃいけないんだけども、結局、合奏
とか音楽を弾くことばっかりで先へ行こうとして、基本のところをなかなか時
間かけて教えてあげたりしなくなってるのね。やっぱりそういうところを見直
さないといけないなと思ってて。
玉木:そうだね。
西潟:玉木さんのご本を読ませていただいて、これはやっぱりそういうことも
含めて若い人にいろいろ勉強してもらいたいと思ったし、私自身もそういう勉
強を改めてしてみたいと思ったんですね。だから玉木さんに作品をお願いして、
御講義もしていただけたらと思ったんですけど。
玉木:有り難うございます。さて、打ち合わせに戻ると、どういう曲にしたら
いいのかな。何分ぐらいとかご希望は。
西潟:10分前後かな。お好きなように。
玉木:10分前後でよきにはからえ……と。「2つの舞」の箏のパートは難し
かった?
西潟:難しいそうですよ。いつも一緒に演奏している福永千恵子さんに「これ
いい曲だから弾いてよ」って言ったら「あれ、めんどくさいのよ」って言われる。
玉木:弾きやすい/弾きにくいの問題じゃなくて、なんでめんどくさいかって
わかるの、言ってることは。いろいろやってるのに、聴衆にはそれが見えない
からだよね。
西潟:わからないのよね、心地よいことは心地よいのよ、きっと。だけど、う
んと上手く弾かないと心地よくならないのよ。
玉木:僕がヴァイオリンの曲を書く時は、すごい簡単なのに聴いてる人にはも
のすごく難しく聞こえるっていうのが得意なのね。
西潟:三味線はそういうふうに書いてくださいね。そういうの大好き(笑)。

◆五線譜は邦楽にも有効◆
西潟:だいたい三味線ていつも、難しいのに映えない曲が多いんですよ。箏の
場合は指使いをうまくあみ出さないとフレージングがうまくいかないんですよね。
玉木:そういう訓練については、僕はある程度ヒントを与えることできるんだ
よ。というのは、そのための訓練方法を僕は知ってるわけ。それは他のクラシ
ック系の楽器全部そうなのね。その点は箏なら箏、三味線なら三味線で古典を
やってる人ならよくわかると思うんだ。例えば裏の拍を強くする。箏って裏を
強くするってあんまりないんだよね。それが上品なんだけど。そういうことで
は講習やってみてもいいですよ。
西潟:そういう、箏のエチュードになる曲がいいですね。そうすると普段の訓
練にも教材として使えるから。
玉木:だから例えば、「レソラド、レソラド」「レラソド、レラソド」「レソ
ドラ、レソドラ」とか入り交じったりするとすごいイヤなわけでしょ、でもそ
んなことはできなきゃおかしい。それができたときにすごい気持ちよくて「や
っぱりこういうふうにやったらいい曲になるんだなあ」というインパクトを与
えれば、そういうフレーズも練習してみようかなってなるわけだよね。
西潟:やりがいのある練習になるわけね。
玉木:モチベーションがなかなかね。先日、福山で箏の曲やったときも、八分
音符で3つずつアクセントつけていくっていう事だって、箏の人はできないん
だよ。
西潟:それは普通の人はできない。訓練しないと。リズム感が無いんだから。
「悪い」んじゃなくて「無い」の。リズムは訓練しないとね。
玉木:でもカラオケとかでそういうフレーズがあったら平気で歌うじゃない。
それが箏の時に全然一致しないのね。
西潟:だって、楽器を楽器だと思ってないんだもん、道具だと思ってる。それ
を「唄ってみて、その通り弾けばいいんだから」って言ってやっと。しょっち
ゅうそう言ってないと自分で気がつかないね。アタマでは確かにちゃんと描い
てるはずなんだけど。
玉木:そうだよね。
西潟:それからね、いつも糸譜を見てるでしょ、古典の楽譜を。あれは全然視
覚的に音楽が伝わってこないんですよ。やっぱり五線譜だとある程度音楽の景
色が見えますよね。そういうこともあるからアタマで音楽が描けないのね。
玉木:今、西潟さんのところでは五線譜で? それは非常にいいことだね。
西潟:そう。でも音楽学者にものすごくブーブー言われましたよ、必要ないっ
て。私たちには必要性があるし、それが優れてると思うから五線譜でやらなき
ゃって言ってるのに、「日本の音楽は五線譜には表せないはずだ」とか言っち
ゃって。そんなの糸譜にだって表せないよって(笑)いつも言うんだけど、で
もめげずに。
玉木:五線譜って完全なもんじゃないし、ドとレの間に書けない音もいっぱい
あるけど、それだけのことなんだよ。でもとりあえず目安としては非常にわか
りやすいからね。それを材料にして「表現方法はこうだ、五線譜は絶対じゃな
いよ」って言うならわかるけど、五線譜を否定して昔のだけでやられたって困
るよね。僕、義太夫の研究したときに、義太夫の譜面、あれ読めなかったんだ。
横に書いてあることとかが。あんなものでよく譜面になるなあと思ってさ。

◆津軽三味線弾き・玉木宏樹?◆
玉木:そういえば僕、昔インチキ三味線やってたじゃない、あなたからも怒ら
れてさ。
西潟:いえいえ怒りませんよ(笑)。
玉木:豊文さんて覚えてる? ある時、豊文さんとこに呼ばれて、「玉ちゃん、
あんたね、イイカゲンな三味線弾いてるから、私が教えるから」「教えなくて
いいよ」「いや、ちゃんと教えないとあんたヘンなことやるからね、うちへ来
なさい。私はちゃんと教えるから。その代わり条件がある。私にね、コードネ
ーム教えなさい」ってね(笑)。それで青山の豊文さんのとこいったら汚いの
なんの。猫が何匹もいて、どうぞって言われてもそこにゴキブリの死骸があっ
たりして座れない。行ったら最初「Cのコードってのはどう押えればいいの」
って始まって。いくらCって言ったって、まず本調子からいって使える音があ
るかどうか、それからの話で、いきなり言われても困る。「シミシならシミシ
にしてください」って言って、それでCとはああだこうだって始まったわけ。
「何度言ったらわかるんだよ、こうだって。三味線はこうだから、そんな風に
押えたらできない」とか言って「ああそう、勉強しなきゃ。これでいいの?」
とかって。30分ぐらい経ったら「じゃ、今度はあなたの番」。そしたら、僕
が三味線を持った途端に「違う! 何、その構え方は!」って、もういきなり
(笑)。「バチの持ち方が違う!」とかね。
西潟:その話、授業でしてください。すごくいい(笑)。
玉木:おかしかったね、あれは。どうしても僕たちは横にして、ギターみたい
抱え込んじゃうけど、津軽三味線っていうのは結構「横」なんだよね。
西潟:津軽は抱え込むのね。
玉木:あの抱える格好からして「この人は津軽」ってすぐ分るね。
西潟:でもあれだけの力を入れて弾くには、こう抱えないと力が出ないのよ。
玉木:それで3回か4回レッスンしたのかな。その後は飲んだくれて悪いこと
ばかりやっててさ、三味線なんか安物だからさ、破いちゃって捨てちゃったの
よ。僕、ジャズの時に胴体にエレキマイク付けてエレキ三味線にしてたのね、
そんなのももう、全部捨てちゃってさ。そしたらある日の12時頃かな、二日
酔いでうなってるとこに東京室内楽の人集めの人から電話かかってきて、どう
してもすぐ東芝レコードに来てくれっていうから何だろう、何やらせるんだろ
うと思っても「いいからすぐ来て」って。
西潟:わかんなかったんだ(笑)。
玉木:「玉木さん昔、三味線やってたわよね」「ウソだよあれは」「三味線持
ってるわよね」「今、そんなもんねえよ、破って捨てちゃったよ」「ともかく、
玉木さんなら津軽三味線できるでしょ」。できねえって(笑)。そしたら「ちょ
と待って、電話代わるから」って言って出てきちゃったんだよ、豊文さんが。
「玉ちゃん、待ってるよ、すぐ来てよ」「師匠がそこにいるのに何なのよ」
「まあ、とにかく来ればわかるのよ」「おれは三味線持ってないよ」「いいの
よ、私の稽古三味線貸すから」。何なんだよ、なんで豊文さんがいるとこに僕
が行かなきゃなんないんだよって。で行ったら、スタジオに30人ぐらいいて、
みんな待ち構えててさ。僕が入っていくなり一斉にスタンディング・オベーシ
ョンするわけ。豊文さんも、「ね、これね」って小唄の稽古三味線貸すわけ。
れで譜面見たらね、「津軽じょんがらアドリブ」ってコードネーム書いてあるの!
西潟:そりゃ困ったわねえ(笑)。
玉木:誰もできないよ、そんなの。僕だってやったことないんだから。コード
ネームでどうやったらいいかってことは、ヴァイオリンとか他の楽器だったら
ある程度わかるけど。みんなにスタンディング・オベーションで迎えられた以
上どうしたもんかなあと思ってさ。そこで一生懸命、1回もやったことない津
軽三味線の雰囲気思い出してさ、ンチャンチャンチャンチャンチャラランラン
って「こんなのでいいの」ってやってたら、指揮者から何から一斉に「それ、
それ!」って言うし、そしたらそれが一発OKで(笑)。
西潟:やだ、いい加減! 怒るよ、それは(笑)。
玉木:いい加減もいいとこ(笑)。でも本当におかしかったよね。    (了)
――――――――
――こんな調子でお二人の対話はおおいに盛り上がり、尽きることなく続くの
でした。西潟昭子さんが主宰される現代邦楽研究所に関心をお持ちの方は、公
式ホームページ http://www.genhouken.com を、是非、お訪ねください。
                           【文/田村圭子】

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■2■ ムッシュ黒木の純正律講座 第8時限目
「本質」を求めて……                  黒木朋興
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 ミーメーシスとは何か、という話をします。一見音楽に関係ないかのように
思われるかも知れませんが、近代以前の西洋芸術のあり方を理解するためには、
是非とも知っておかなければならないことと考えるからです。端的に言えば、
ミーメーシスとはギリシア語で「模倣」という意味です。と、こう日本語で訳
語を当てると、本物に対して紛い物みたいな感じがして、否定的な印象を拭い
去ることが出来ませんが、ミーメーシスとは単なるコピー=複写ではなく、
「本質的なるものの再現」と言った方が良いでしょう。更に、芸術がミーメー
シスの原理に基づくという時、芸術創作とは「より真なるものをこの世に出現
させるための営為」ということなります。
 この概念はプラトンやアリストテレスの哲学の中でも重要な位置を占めます
し、また西洋人が西洋の伝統という時、古代ギリシアまで溯って考えることが
普通なのですが、ここでは古代ギリシア・ローマ文明と現在の西洋文明の間に
は断絶があるという立場から、あくまでもキリスト教文明を中心に据えて話を
進めることにします。もちろんキリスト教に対するギリシア哲学の影響を認め
ないというわけではありません。

◆「あの世」とは理想の世界◆
 キリスト教思想というのは、基本的に「あの世」と「この世」という厳密な
二項対立を想定している、と言っても過言ではないでしょう。当然、「この世」
とは我々人間が住んでいるこの世界のことであり、「あの世」とは神の統べる
世界のことです。気を付けて欲しいのは、日本語で「あの世」と言えば魑魅魍
魎の跋扈する何だか妖しげな世界のことを思い浮かべる人も多いことかとは思
いますが、キリスト教にとっての「あの世」とは物事が理想的なまでに理路整
然としてある「本質」の世界です。キリスト教の神とは、ロゴス=理性・言葉
の神であることを思い出しておきましょう。そして芸術の役割とは、「あの世」
の理想的な美を「この世」の人々に提示することなのです。あるいはそのよう
な美を「この世」において「再現」しようと務めることに芸術の価値があると
いうことでもあります。

◆じゃ、「be」ってなに……?◆
 でも一体この「本質」とはなんでしょう? ここではbe動詞のことを考え
てみましょう。そもそもbeとはどういう意味でしょうか? まず最初に挙げ
られるのが「いる・ある」という意味です。例えばThere is a pen.(ペンがあ
ります。)という例文が考えられます。つまりexistenceの意味であり、この
語は「存在」とか時には「実存」とか訳されます。それに対して、This is a 
pen.のbeはどういう意味でしょう? 多くの人が「です」と答えるのではない
でしょうか? 学校でそう教わるのですから仕方がないのですが、かなり不適
切な訳であると思っています。では何かと言えば、このbeはイコールなので
す。ですからこの文は「これ=ペン」ということになり、これを普段我々が使
っている日本語で言うと「これはペンです。」あるいは「これはペン。」とい
う意味になるというわけです。さて、このbeはラテン語で何に当たるかとい
うと、esseになります。そしてこのの名詞形がessenceであり、つまり「本質」
です。この「本質」目指してイコールで結んでいく論理の体系のことを神学と
いい、また暗喩という文彩はイコール関係に基づくレトリックだと言えましょう。

◆だから、ミーメーシス◆
「この世」は不完全です。ですが、というかだからこそ、学問なり芸術は、た
とえ手にしているのが不完全な材料ばかりだとしても、それをどうにかしてで
も組み合わせて「本質」の世界へと迫らなければなりません。つまり「この世」
と「あの世」の間のイコール関係、あるいは照応関係を探る営みこそがミーメ
ーシスであると言えましょう。

************************************
■3■ 天国的純正律音楽入門 第8回
    現代音楽は1976年に既に死んでいた[その1]
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************
 ここに1枚のCDがある。アルヴォ・ペルトの「アリーナ」(ECM New
Series1591, POCC1062/日本発売元:ユニヴァーサル・ミュージック)だ。
今日はこの話である。
 いわゆる現代音楽といっても、広義には、すべての現在の音楽シーンのこと
だともいえるが、ここでは狭義の「現代音楽」を話題にする。で、狭義の「現
代音楽」とは何か? それは、クラシック系作曲家の現代作品のことを指し、
それも親しみ易いメロディやハーモニーを基にした分り易い曲ではなく、難解
を旨とする(何回聴いても分らない)不協和音の連続で、大概の聴衆には苦痛
を強いるだけのやっかいな曲が多い。

◎誰が音楽をダメにしたのか◎
 時代は大体、1910年頃から、シェーンベルクが無調音楽(調性のない音
楽)を始め、ストラヴィンスキーは「春の祭典」で激しいバーバリズムをバレ
エに持ち込んだ。これ以後、クラシック系の音楽は一挙に様変わりし、シェー
ンベルクが12音音楽の手法を確立するに至っては、時代は一挙にメロディと
ハーモニーを放棄した騒音的な音楽が主流となっていった。
 そして、1930年代になると、後期ロマン派の生き残りの作曲家も姿を消
し、ドテン・バタン・グショーンの無調音楽が全盛となる。当時の風潮として
は、分り易い曲を書くと完全にバカにされ、そういう指向の人は、ジャズ系に
走ったようだ。
 なぜ音楽がそういう風になってしまったのか。一つには、作曲至上主義がは
びこり、演奏家より優位に立とうとする作曲家の傲慢が、演奏不能、理解不能
の風土を育てた。そしてもう一つは、純正律と平均律の問題が横たわっている。
 ピアノ用に簡便な(1回の調律で済む)平均律の調律を施したピアノが工場
出荷したのが1842年といわれ、それでも最初のうちは、プロからは全く無
視されていた。オクターヴ12鍵のピアノに対し、前期ロマン派の作曲家たち
は、ヴェルクマイスター、キルンベルガー等の不等分調律を駆使して作曲して
いたが、1890年頃から、プロの作曲家、ピアニストたちも殆ど平均律に屈
するようになる。独学で作曲の研鑽をしていたシェーンベルクは、アマチュア
のチェロ奏きだった。つまり、音程を自分でコントロールしなければいけない
立場である。ピアノやオルガン等は調律師がピッチをコントロールし、演奏者
はピッチに対し、無関心で、無神経である。

◎シェーンベルクは調性を愛した◎
 平均律の跋扈は、ハモる美しさをないがしろにする。ハモらない調律で調性
音楽(これは純正のドミソを基礎にしている)をやる矛盾を、チェロ奏きだっ
たシェーンベルクは猛烈に自覚し、オクターヴを単純に12分割するだけなら、
各音に差別のない、つまり調性にとらわれない方法論を考案した。私は、シェ
ーンベルクほど調性を愛した人はいなかったんじゃないかとさえ思う。彼の和
声法の本は、驚くべき内容だし、初期の「浄夜」なんて、調性音楽のひとつの
頂点だとさえ、いえる。その彼が12音技法を編み出したのは、平均律に対す
るアンチテーゼではなかったのか。平均律の特長は、後期ロマン派の爛熟した
転調多用に対応できる唯一の調律法と認識されたからであり、その転調多用の
調律を逆手にとり、ハモることを徹底的に拒否するんだったら、という開き直
りで編み出した方法論が、12音(ドデカフォニー)音楽だったのではないだ
ろうか?
 このメロディもハーモニーもない無機的な作曲法は聴衆に苦痛を与え、作曲
家は孤立していったが、メロディもハーモニーも必要ない作曲法は、才能のな
い人にも「作曲」といえるまがいものを大量生産させることになってしまった。
 実は私も学生時代、無調音楽で作曲していたこともあったが、なぜやめたか、
いつから純正律に向かい始めたか等は、次号で詳しく述べよう。また、197
6年というのは何かというと、アルヴォ・ペルトがピアノソロの「アリーナの
為に」を初演した年である。ぜひ、その曲を聴いてみて頂きたい。
                           〈次号[その2]に続く〉

【『ひびきジャーナル第8号』ネット版bに続く】

【『ひびきジャーナル第8号』ネット版aから続く】

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
■4■ 外科医のうたた寝☆その7   名古屋、大阪、食べ歩き
        福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 11月は立て続けに名古屋と大阪に行って来た。どこかにいけば必ずその土
地の食べ物を食べないと気が済まない性分なので、旅は楽しくもいそがしい……。

★やっぱ味噌カツでしょう!★
 まずは名古屋。これは名古屋の今池にある〈パラダイスカフェ〉と云うライ
ブハウスで演奏の仕事である。バンドマン3人でクルマに楽器を積んで名古屋
に向かい、現地のミュージシャンと合流してリハーサルである。2時間ほど空
き時間があったので〈味噌カツ〉が食べたかったのだが、主催者が連れていっ
てくれたのは普通のファミリーレストランであった。無念さを抱えつつ深夜ま
でリハーサルを行いその夜は主催者の家に泊めてもらった。
 翌日は夕方からの演奏なので比較的時間に余裕があり、燦々と太陽が差し込
むトンカツ屋さんで味噌カツを食べた。東京ではトンカツは通常ソースで食べ
るのだが、名古屋のトンカツは甘辛の味噌をかけて食べる。最初はびっくりし
たがなんとも美味しくてはまっている。無事に演奏を終えて打ち上げは鶏料理
の店である。名古屋といえば名古屋コーチンで、焼き鳥、手羽先、チキンサラ
ダ、唐揚げ、鶏雑炊とひたすら鶏肉ばかり食べまくり、コケコッコー状態で深
夜の高速をとばして東京に帰ってきた(ちなみにトーストの上にたっぷりあん
こを乗せた、小倉トーストと云う恐ろしげだが結構美味しい名古屋独特の食べ
物もあるが、今回は食べられず残念でした)。

★選んだワケは「食い倒れの町」だから★
 2日後、新幹線に乗って大阪へ行く。諸般の事情で11月から介護老人保健
施設の施設長になった関係で、大阪で開催される老健管理者講習会に勉強をし
に行った。同じ時期に東京でも同様の講習会が行われていたのであるが、食い
倒れの町大阪に行きたくてつい大阪の方の講習会を申し込んでしまった。
 2日間ホテルに缶詰になって、コーヒーをすすりながら講義を聴いて夜は大
阪の町に繰り出す。僕が好きなのは〈じゃんじゃん横丁〉の串揚げ屋さんであ
る。地下鉄御堂筋線に乗り動物園前駅でおりて通天閣のすぐそば、目指す〈じ
ゃんじゃん横丁〉とはわずか100mあまりのアーケードの両側に無数の寿司
屋、串揚げ屋、そして碁会所、雀荘などがひしめいている不思議な空間である。
ガラス越しに眺める大阪のおっちゃん達が囲碁、将棋などに興じる姿は、とて
も2002年の日本とは思えない風景である。
 大阪に行くたびに訪れる串揚げ屋さんは、カウンター8席のみの小さな店で
ある。生ビールを飲みながら、豚肉、牡蠣、玉葱、椎茸、イワシ、紅生姜、う
ずら卵、三度豆、ウインナー、海老等どんどん揚げてもらう。特製ソースは隣
の人と共用で〈2度づけ厳禁〉である。
「おう、この藪医者また来たか。年に2回しか来ないんだからどんどん食べて
け!」と怒鳴られながら食べる串揚げの美味いこと、美味いこと。牡蠣と海老
の他はどれも1本90円であり、この店で2000円以上使うことは難しい。
 最終日、黒門市場に寄って鯨カツを買い食いして、驚くほど安い河豚を買っ
て新幹線に乗って東京に帰る。深夜、自宅で河豚を食べ尽くして今回の大阪は
完結した。

zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

==============================================================
■5■ CLUB-PURE 今回のメンバーズ――正会員・さとう木誉さん
    会員の皆様に登場していただくコーナーです。

    自薦他薦、どうぞ手を挙げてください。こんな面白い人いますと。

⇒今回は、正会員の方からの御寄稿です。去る9月28日に芝abc会館ホー
ルで開催された純正律拡大コンサート「玉木宏樹ジャストチューニングの世界
Part3――アポロンのたわむれ」にお越しくださったさとう木誉さんが、
コンサートについての文章をお寄せくださいました。

 港区芝公園のあるabcホールでの純正律コンサート。大きなホールで聴く
のは、じつは初めて。会場は、お子さま連れの家族から、音楽専攻の学生さん、
カジュアルな装いのミドルなご夫婦など客層いろいろ。このあたりが玉木先生
の人柄を反映しているのかも……。というのも玉木先生のコンサートは、いつ
もバラエティに富んでいて、あんまり音楽(クラシック)のこと知らなくても
十分楽しめる(知ってる方はもっと楽しんでると思う)。珍しい楽器や演奏法
の好きな私は、終演後はたいてい 「あー、面白かった」という感想とともに
会場を後にすることになります。
 今回も、縦笛によるオーケストラ演奏あり、純正律音楽による日本舞踊あり
と、ちょっといい体験がてんこ盛りでした。いちばん印象に残ったのは、「ア
ベマリア」を披露してくれたカウンタ山田さんの美しいカウンターテナーの歌
声。ゲスト出演ということで一曲だけだったんですけど。近々、本格的なデビ
ューを予定しているらしいので、これからが楽しみです。
            ◆ ◆ ◆
 さて、純正律に出会ったおかげで、ハーモニーのことがずっとずっとわかり
やすくなったって思います。それまではけっこうみんな「キレイにハモるため
には、みんながそれぞれ決められたパートの音を、ぜったいはずしちゃダメだ
ぞ」って考えてたのでは? でも、それってなんか自分のところだけ間違って
なければいいや的な「機械化+完全分業化のすすんだハモリ工場」みたいな感
じしませんか? だいたい音楽に「正解、間違い」なんて考えが入ってくるの
もどうかなって思います。それじゃ音「楽」じゃなくて音「学」という感じです。
            ◆ ◆ ◆
 ところで純正律は「自分の発する音(声)は、ちゃんとみんなと調和してる
かな?」というものですよね。自分たちの役割をちゃんと果たすだけじゃなく
って、みんなとの調和(ハーモニー)を重視する。仲間たちに気をつかって誰
かがちょっとくらいバランス崩しても、まわりのみんなでカバーするというか、
微調整できるような余裕も必要なんじゃないかなぁ。そういえば、ビギナーの
バイオリン奏者は指先に神経が集中するのだけれど、超ベテランなバイオリン
奏者の神経は「耳」に神経が集中するという話を聞いたことがあります。刻々
と変わる周囲の状況にちゃんと配慮して、自分の役割を果たす。こうゆうのが
純正律的センスなんだなぁって。ちょっとばかし音楽のことからはずれちゃっ
た気がしないでもないけど、一人一人の正確さもさることながら、調和(ハー
モニー)を重視するっていうのが、私にとって純正律のいちばん素晴らしい点
だと思ってます、ハイ。

/////さとう木誉(さとうきよし)/////
 フリーライター&エディター。音楽をはじめ、イベント広報のプランニング
 やインテリア、食品等の分野で活躍中。

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW
■6■  純正茶寮                  玉木宏樹
   『Carmina Burana
     ――Medieval Poems and Songs』(NAXOS/8.554837)ほか

今回は、リーズナブルなのに中世パワー炸裂!(笑→CD帯のコピーより)な
逸品を一挙に2枚御紹介。担当は玉木氏です。
***************
 アルヴォ・ペルトのCDについては別の項で紹介しているので、レビューで
は、図の2枚を紹介したい。まず『カルミナ・ブラーナ』。
 ナクゾス・レーヴェルは、約900円前後という恐ろしい価格で新譜を出し
ている。ユーザー側に立った場合、たいへん嬉しいことだが、作・編曲家側か
ら見れば、ちょっとなあ……という面もあるが、よくこの値段で新譜が出せる
と、まず慨嘆。
             ☆ ☆ ☆
「カルミナ・ブラーナ」というと、カール・オルフを連想される方もおられる
と思うが、もともとは13世紀頃のドイツ系吟遊詩人たちの歌の総称で、オル
フはこの古楽を発掘し、現代風に編曲したものである。歌は、僧侶たちが酒・
女・道徳を説いた歌とされているが、坊主が酒・女を歌うなどとは何事ぞ、と
思うなかれ、「ボッカチオ」に描きつくされている様に、洋の東西を問わず、
生臭坊主は沢山いた。また「カルミナ・ブラーナ」はある面、とんでもなく卑
猥で直訳できないとも言われている。このCDは、そんな底抜けに陽気な乱痴
気騒ぎのCDだ。
             ☆ ☆ ☆
 13世紀の曲でもあり、ドイツ系の音楽なのに、今日のようなドレミ節は存
在せず、すべて教会旋法、いわゆるモードだらけである。各曲はすべて転調な
しのハモりっぱなし。全くの転調も無く、コード変化もほとんどない曲の特長
は、いろんなモードの変換にあるということがよく分る。
 言葉では〈教会旋法〉を知っていても、なかなか実態は分らない方にはぜひ
おすすめである。ヘクサコルドっぽい6音だけの曲もあり、ドリア、リディア、
ミクソリディアのメロディが多い。そして、教会旋法といいながら、暗いもの
はひとつもなく、1曲目の「ようこそ、バッカス」からして、底抜けのドンチ
ャン騒ぎで、けっこう笑えてしまう。
 2曲目のリコーダーは、もろ尺八風だったり、他の曲でも旋法の使い方が妙
に日本風にきこえる時もある。最後のバグパイプがチャルメラ風だったりして。
 アンサンブル・ユニコーンの演奏もすばらしいハモりの世界を楽しんでいる。
ハーディガーディ(一種の自動演奏ヴァイオリン)やフィドル、バグパイプ、
太鼓、カウンター・テナー、ソプラノ、何とも不思議なアンサンブルである。
             ☆ ☆ ☆
 もう1枚の『中世・ルネサンス音楽への招待状』は、ベルギーの古楽グルー
プ、ウェルガス・アンサンブルのコンピレーションものだが、タイトル通り
「招待」にはうってつけ。1曲目は、5度並行オルガヌムで、後に和声法で禁
則となった並行5度がとても美しい。また9曲目は、うたと器楽の見事な純正
律のハモりが素晴らしい。
             ☆ ☆ ☆
 2枚ともに古楽とはいえ、古臭くはなく、屈託がなくて面白く、特に私なん
か、手垢のつきまくったドレミ節には飽き飽きしているので、純正律的作曲に
対して大いに刺激を受けている。

INFORMATION

●カルミナ・ブラーナ Carmina Burana
  ――Medieval Poems and Songs―― (NAXOS/8.554837)
 Ensemble Unicorn, Ensemble Oni Wytars
 →「Bache, bene venies」他全13曲。
******************
●中世・ルネッサンス音楽への招待状
 IN MUSICA VIVARTE(SRCR 9343)
 Huelgas Ensemble
 →「輝かしき血統より生まれし〈ラス・ウエルガスの写本より〉」他、
 全11曲。

#

■7■ Reported by Members
    ~玉木宏樹渾身の純正律邦楽新作も披露~
    西潟昭子リサイタル2002
                純正律音楽研究会正会員・八木澤享一

 11月25日、池袋の東京芸術劇場大ホールまで出かけ、コンサート『三絃
の響き/西潟昭子の世界――リサイタル2002』を鑑賞させて頂きました。
 コンサートは午後7時開演、途中休憩を挟んで午後9時に終了。大体1曲あ
たり15分間のペースだったようです。この日使われた主な楽器は三絃・筝・
十七絃。池辺晋一郎氏の作品ではフルートが加わりました。三絃の音も良いが、
特に十七絃が良い音を出しているのが印象的でした。このほか西潟さんの唄や、
Yuki森本氏の作品では「るふらん」による美しい女声合唱も聴けました。
 私は現代邦楽の事はよく判りませんが、この日聴いた作品の多くは、普段聴
きなれている「調性音楽」とは大分異なっており、どちらかというと「無調」
のイメージに近いように思えます。しかし調和のよくとれた音の響きはとても
綺麗でした。
 コンサートの内容は以下の通り。

  1. 絲曲(いとうた)〈作曲:鳥養 潮〉
     三絃・筝・十七絃がズラリと並んで音をつぐむ様は壮観。クロマティックな
    音の進行がこの曲には多用されているように感じました。作曲者の鳥養氏によ
    ると、東南アジアの謡や日本の歌の旋律型を意識したそうです。
  2. 相聞歌〈作曲:浦田健次郎〉
     西潟さんの三絃による弾き語り。邦楽の声には、洋楽のそれとは違う独特の
    艶があります。
  3. DISTRACTION �〈作曲:松尾祐孝〉
     西潟さんの三絃と石垣清美さんの十七絃のデュオ。西潟さんの表現をお借り
    すると「超、難しい作品」とのこと。
  4. 裸の休日〈作曲:三枝成彰〉
     山本普乃さんの三絃と西潟さんの唄。林あまり氏の短歌集から選んだという
    詞は、ストレートな性描写に満ちています。やや場違いな印象は受けましたが、
    もし歌詞がチンプンカンプンな外国語であれば、どんな内容でも気にならない
    でしょう。
  5. たどるかたち�〈作曲:池辺晋一郎〉
     西潟さんの三絃と、福永千恵子さんの筝、小泉浩さんのフルートによるアン
    サンブル。尺八の代わりに使うフルートの調べは美しく、邦楽器と組み合わせ
    ても全く違和感を与えません。
  6. Where being and being seen coincideノ〈作曲:Yuki森本〉
     栗山文昭氏の指揮の下、西潟さんの三絃と「るふらん」の女声合唱を重ねる
    という試み。女声合唱はとても美しいが、讃美歌のような調性感はありません。
    喩えて言うなら、讃美歌が「クリスタル」、こちらが「アモルファス」といっ
    たところでしょうか。ただ、三絃が奏でる日本の伝統的な旋律との重ね合わせ
    は、ややミスマッチという気もしました。

《アンコール》
ジャワリ〈作曲:玉木宏樹〉
 西潟さんに若手3人を加えた三絃の合奏。音の共鳴現象を利用する「サワリ」
の独特の響きを活かした邦楽らしい楽曲。邦楽と純正律の融合という新しい境
地を玉木さんは今後開拓するのでしょうか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■8■ →→→純正律かわらばん

● 玉木宏樹2003新春イベント速報
�新春の玉木宏樹イベント速報です。2002年夏から邦楽方面の作品にも力
を入れてきている玉木純正律ワールドが、ますますパワーアップして息をもつ
かせぬ展開になっています。詳細は別途メールにて御案内いたしますので、
ぜひ御参加ください!

○1月4日(土)
 新春邦楽コンサートin福島潟
 「福島潟幻想曲」@水の駅「ビュー福島潟」(新潟県豊栄市福島潟)
 →玉木宏樹の新曲「福島潟幻想曲」(委嘱作品)を初演、もちろん玉木氏も
 出演。別途御案内いたします。
○1月12日(土)
 新春のお茶室で「純正律ヴァイオリンお茶会」@桜花亭
 オリンピック記念青少年総合センター内(小田急線「参宮橋」駅下車)
 →正会員・宮本ルミ子さんの企画によるミニコンサート。
○1月25日(土)
 ピュア・ミュージック・サロン「土曜のお茶会」
 ――新年会バージョン!@ティールーム「FRIENDS」(港区西麻布)
 →おなじみ玉木宏樹とゲストによる演奏と楽しいおしゃべりで過ごすお茶会
 を新年会仕様で。

 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 以上の各コンサート情報の詳細は、別途メールにて御案内いたしますが、
 純正律音楽研究会のホームページでも御確認いただけます。
 〈http://www.pure-music.ne.jp〉

→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

■9■  @@@@@西麻布通信@@@@@

11月25日の西潟さんのリサイタルは大盛況でした。邦楽にはな
んとなく年配のファンが多いようなイメージがあったのですが、会
場には10~20代とおぼしき若者たちも多数いて認識を改めさせ
られました。玉木氏渾身の新曲「ジャワリ」の演奏は圧巻でした。
私の居た2階席は特に若い世代のお客さんが多かったのですが、
「ジャワリ」の演奏が始まった途端、まるでロックのライブみたい
なノリノリ状態になって楽しんでいた様子が印象的でした。12月
の新曲定期便にはこの「ジャワリ」の1と2を収録してデリバリー
中。必聴です!                   〈田〉

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
とりあえずいちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
    URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
*ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会の
 オフィシャル・ホームページにもお越しください!!
   http://www.pure-music.ne.jp
 掲示板も始まりました。各種純正律情報だけでなく、会報バックナンバー等、
 アーカイヴも一部公開中。ぜひ、お立ち寄り下さい。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 不許複製(c)純正律音楽研究会

ひびきジャーナル 第7号

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会会報
『ひびきジャーナル』  【創刊第7号】
2002年8月17日発行

編集/発行:ピュア・ミュージックサロン/純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
※(C)純正律音楽研究会  禁無断転載
 転載等、二次的にご使用になる場合は、必ず事前に純正律音楽研究会
 事務局まで御一報ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

<<今号の内容>>
■1■玉木宏樹の“この人と響きあう” 第7回
                       音楽歴史学 上尾信也さん
■2■ムッシュ黒木の純正律講座 第7時限目
   羅馬にて純正律を思ふ〈後編〉              黒木朋興
■3■天国的純正律音楽入門 第7回    
   ハンガリー映画『ヴェルクマイスター・ハーモニー』について
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
■4■外科医のうたた寝☆その6 吉田うどんの奇跡
          福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家) 
■5■CLUB-PURE 今回のメンバーズ――ネット会員・長岡衛治さん
■6■CD REVIEW [[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]           玉木宏樹
   MALICORNEの4枚目のアルバム(HEXAGONE/GRI191282)
■7■ちかごろの「PMS土曜のお茶会」REPORT
■8■純正律かわらばん
   →9/28(土)「純正律アトマスキュアコンサートPart 3@芝abc会館」
    の前売り始まってます!! ほか
■9■西麻布通信

レアな純正律情報満載のピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究
会の公式ホームページ、仮営業中!〈http://www.pure-music.ne.jp〉
→掲示板始めました。バックナンバー等、アーカイヴもあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#

■1■ 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第7回――
    「裏テーマは戦争なんです」
            音楽歴史学 上尾信也(あがりお しんや)さん

#

→以前、本誌第3号の「天国的純正律音楽入門」で、『音楽のヨーロッパ史』
という新書を採り上げたことがありました。今回の対談のお相手は、その著者、
桐朋学園大学短期大学部助教授であり、気鋭の音楽歴史学者である上尾信也さ
んです。上尾さんといえば、絶対音感教育の牙城である桐朋学園に玉木宏樹氏
を招き、純正律の講座を開くきっかけを作った方。そんな2人の会話が刺激的
でないハズがない。猛暑も吹き飛ぶスパイシーな対談をどうぞ!
          ―― ―― ―― ―― ――
玉木:これ(『音楽のヨーロッパ史』)すごい面白い本で、以前、会報でも採
り上げてるんだけどね。
上尾:有り難うございます。ただ誤植が多いんで、第2版では、ぜひいろんな
御批判を入れないといけないと思ってて。
玉木:『音楽のヨーロッパ史』っていうのはなかなかいい題名ではあるんだけ
ど、端的に言えば、ヨーロッパ史じゃなくて「戦争から見た音楽史」だよね。
上尾:よくぞ言っていただけました! 実は裏テーマは戦争なんです。
玉木:いや、表テーマでしょ。日本人てものすごい戦争やってきてるんだけど、
窮鼠猫を噛むみたいなことしかしてないから戦争が日常性ではないですよね。
だけどヨーロッパなんてのは戦争が日常性じゃないですか。そういう意味で日
本人の音楽史の見方は非常に甘いんですね。「戦争=悪」で「音楽ってのは平
和の象徴なんだ」みたいなね。そうじゃないんだ、この本読んでみろよと。音
楽そのものがいかに崇高であろうと、この本は明らかに、音楽をやってる人間
の内在性は問題にしてませんからね。
上尾:美学じゃないんで芸術的な美も問題じゃない。
玉木:それよりも、音楽を利用する権力者側とか戦争で士気を高めるための実
用性を帯びた音楽の歴史とかの面がすごい強いじゃないですか。だけど、そう
いう見方をしていかないと音楽史なんてまるであてはずれになるからね。
上尾:この本を書いたのは、19世紀に出来上がったドイツ音楽を「クラシック」
にし続けて、それを崇高なる美とする従来の音楽史が一般の歴史あるいは社会
史からいかに乖離していたものであったかという事があって。それも一つの捉
え方ではあるんですけどね、実際に音楽がどのような形で歴史や社会の中に生
づいてきたかを考えると当然、歴史や社会の在り方を問題にしなければいけな
い。ところが大概の音楽史の教科書だとその在り方が見えてこない。たまに見
えてきたとしても、「世の中平和で娯楽や芸術にお金を使い、王侯貴族も教会
も皆パトロンで芸術を擁護してきた。その証拠が色々残ってる美術作品であり
教会建築であり音楽である」という見方は少し違うんじゃないかと。
玉木:少しどころか、とんでもない違いですよ。
上尾:ヨーロッパに限らず、「世界史=戦争の歴史」じゃないですか。平和な
時間なんて人類が始まってから今まで一瞬もなかったっていうのが僕の持論な
んですよ。
玉木:まったくその通りですね。
上尾:今、日本は長いこと平和だとか言ってますけど、それは様々な紛争を避
けてきただけのことで、やっぱり「戦争=政治体制」であり、ありとあらゆる
社会現象がそこから派生するわけですから、縦軸にして考えていかないと本当
の意味での芸術や文化も見えてこないんじゃないかと。例えばレオナルド・ダ・
ヴィンチの一番の大きな業績とは、様々な軍事的な顧問官になったということ
であって、決してモナリザの作者であることじゃない。だからこの本の裏のテ
ーマは本当に戦争と音楽なんです。それゆえマージナルな本だと思われてて、
こういう見方もありますなんていう言い方をよくされて。
玉木:そうなの!?
上尾:「上尾さんは歴史系の人だから、音楽のことはねえ」という音楽系の方
もいれば、歴史系の人からは「もうちょっと歴史的な事件を突っ込んで書いて
くれればいいのに」と。音楽学と歴史学との乖離を感じますね。

◆著作権意識はなぜ生まれたか◆
玉木:そうなんでしょうね。上尾さんはJ・アタリの『音楽・貨幣・雑音』は
お読みになりました?
上尾:そういう視点を持った最も初期の本ですよね。1980年代ぐらいに翻
訳されて、その頃から多少音楽社会史・社会学的な見方がされるようになった
んですけどね。
玉木:あの本は結構、著作権の歴史を述べてるんだよね。誰が音楽を所有した
かとか。写譜屋が著作権協会だった時代があるのね。
上尾:なるほど、よくわかります。
玉木:その流れのお陰で、今でも日本の音楽出版社ってすごい横暴なとこがあ
るのね。上尾さんの本の中でルターの時代に印刷がすごい音楽の在り方を変え
たというのがあったけど、それはアタリもずいぶん書いてましたね。
上尾:特に、楽譜出版する際に「誰々の作品」という意識が出てくる。それが
著作権法の始まりともいえるかもしれません。もちろん初期の頃の出版社は、
売れてる人の名前をどんどん冠するあざとい商売もやったようなんですが、印
刷楽譜として音楽が商品となって出回るようになった時に「誰々の作品」、つ
まり誰々のモノという発想が出てきたんです。それ以前は誰が書いたかなんて
あまり問題にならなかった。プレゼンテーションの為に「私が書いたよ」と書
くことはあったとしても、「誰々の作品だから」「誰々が作曲をすると売れる」
という考え方は無かったんです。ところが、やがて楽譜印刷が始まると「誰々
の作品」という概念が生まれてくる。
玉木:それはいつ頃ですか。
上尾:1501年に最初の印刷術が出てきたということですが、商業的に軌道
に乗るのは1520年代以降と言われています。
玉木:最初に作品番号付いたのは、シュッツでしたっけ?
上尾:作品番号というのはいろんなところで議論されてるんです。シュッツか
もしれないですが、通しの作品番号、トータライズした自分の作品観というの
は皆それぞれ持っていたんじゃないかと思うんです。もちろんシュッツはそう
だったでしょうけど、一番注目しなきゃいけないのは、1520~30年代以降、
作曲家自身が自分の名前を使って楽譜を出版する時に、表紙に献呈文を掲げる
ようになる事ですね。実は私の友人が面白い研究をしていまして。自分が仕え
ている王侯貴族に献呈するのは当たり前じゃないですか。ところが、就職活動
のために全然仕えてもいない人の名前を出したりする。例えば僕が「上野の学
長様へ献呈」とかやる(笑)。そうすると、まあ相手は悪い気はしないですよ
ね。そういうのを我々は「勝手に献呈」と呼んでますけど。そういうことをす
るのは、これは自分の作品だ、技法だという一種の作品意識の表れという事も
できると思いますし、逆に出版社側からすれば、その当時有名な作曲家の名前
を冠すると、仮に別の人が作曲したものであっても売れ行きが違ってきますよ
ね。もちろん著作権法なんて無い時代でしたから、著作権意識の表裏を色々駆
使したような商品化が進んでいったんじゃないか。これが第1期だと思うんで
す。実は僕、マスター論文でゲオルグ・フィリップ・テレマンていうハンブル
クに居た作曲家について書いたんですけど、彼の商人意識というのは凄まじく
て自分で版下まで彫ってたんですね。そこまで著作権に敏感であったというか。
あと『ひびきジャーナル』みたいな冊子を作って、毎号それに作品を載せて予
約販売していたというような。そこまでくると完全に「誰々の何という作品、
作曲だ」という意識が生まれているのがわかりますよね。当然テレマンは当時
の世界、つまりヨーロッパ全体を市場として見据えていたわけで

◆楽譜の功罪を斬る!◆
玉木:楽譜と言えば、僕は声明の坊主と一時期よく付きあった時にきいた面白
い話ですが、室町時代に雅楽と声明がコラボレーションした演奏の記録があっ
て、「どこからどこまでを合わせたらすごいいい演奏になった」とか古文書に
残ってる。現代でも「それはここからここだって」雅楽でも声明でも全部わか
る。で実際にやってみたら、ものの見事に合ったって。西洋の五線譜は、それ
があるがゆえに表現方法が違っていってしまうけれど、基本が絶対音で決まっ
てて変えようがない声明の文字譜の世界や伝承・口伝のほうが正しいのかもし
れない。「伝承も本当かどうかわからないよ」と言うけど、だからこそ正しい
ものが伝わっている可能性はあるんじゃないかな。
上尾:それはありますね。楽譜の功罪ってあると思うんです。特に西洋音楽の
歴史の中でずっと五線譜が使われてきて、ああいう音符の形ができて、音階を
12音に分けて、まさに平均律につながる方法ですよね。もちろん後にはもっ
と細かくなりますけど。この、いわゆる西洋の記譜法によって、ありとあらゆ
る国々の音楽の伝承や全ての音を聴き取ってその音に合わせていくという作業
が19世紀の中頃から民族音楽の方面でやられてきた。一方で、インド音楽な
んてのは18分の1とか30何分の1の音程をとらなきゃいけないという、全
く「伝承の耳」で聴くしかない世界。耳で覚え、その覚えたものはまさにずっ
とそのまま伝承として時代と時代をつなげていくから、こんな確実なことはな
い。それを楽譜にしちゃうと楽譜の幅というのが当然出てくる。もっと言えば、
リズムなんてどんなに細かくしても、コブシなんて楽譜じゃ表わせないし間の
取り方は音符にはできない。
玉木:まさにそうですよ。

◆作曲家神話を粉砕せよ◆
上尾:基本的に音楽はライブであるべきだし、ライブを楽譜化することは不可
能ですよね。音楽作品が楽譜で表現されなければならなくなってきたのは、ま
さにヨーロッパに印刷楽譜が登場する時代でした。あるいはそのちょっと前、
14~15世紀にはライブというものをなんとか残そうとすごい苦労してるす
ごい面白い楽譜があるんですけど、近代になると「楽譜で音楽を作ろう」「五
線譜の中に描かれてる音符=音楽作品」という考え方になってくる。例えば18
世紀ぐらいまでは、少なくとも楽譜というのは演奏のためのひとつの道具にす
ぎなくて演奏者によって様々な形で変化させたり装飾を加えたりしてもよかっ
た。通奏低音の技法というのはそうですよね。ところが19世紀になってくる
と、あたかも全てを楽譜に書き込んだかのような誤解が生じてくる。
玉木:この本の中で、僕が昔から言ってることに近い言葉があってね、シンフ
ォニーが発達してきて、「いわゆる作曲家神話」が生まれたと書かれてたよね。
全くその通りだと思う。作曲家なんてのは本来有り得てはならないものなんだ。
あんなもの、演奏者のためのテキスト書きじゃないですか。僕がいつも作曲し
てる態度ってのは自分が演奏するから、余計にテキストでしかないわけ。
上尾:作曲家という職業が分化していくのがおかしいですよね。ありとあらゆ
る音楽で、作曲家はシンガーソングライターであるべきなのに。
玉木:作曲でしか食えなくなったベートーヴェンと演奏ができなくなったシュ
ーマン、この2人によって、作曲家という職業が確立されたという(笑)。
上尾:じゃあワーグナーは起業家ですね。

◆むしろ前近代的で行こう!?◆
玉木:いやー、僕は、こういう話ができることが非常に嬉しくてね。だって、
いないんだ、僕の周りに。
上尾:えっ? 当たり前の話なのに。
玉木:いや、当たり前っていうけど、作曲家協議会に属してる作曲家にそんな
ことを言うと「何を言ってるの」って言われる。芥川氏が会長だった時に、な
んだか小難しい話があったんで、「なんでそんなに難しく考えるんですか。作
曲なんてただ単に演奏のためのテキストなんじゃないですか」って言ったら怒
っちゃってねえ。
上尾:玉木さんはむしろ前近代的な人間と言えるかもしれない。もう、バッハ
とかヘンデルの時代に戻って、自分が書いた覚書としての楽譜があるのであっ
て、その覚書を元に、まず自分が演奏するのがオリジナル。他人が演奏する時
には、自分の演奏じゃないんだから、これは「テキストに従った貴方の演奏だ」
という意識ですよね。演奏家というものがいわゆるひとつのその作品の表現者
となっていくという発想ですよね。それはまさに本質的な部分じゃないですか。
それが「作曲家の方が上」だとかなっていくとねえ。
玉木:僕が昔っからよく怒られるのは表情記号、「f」「p」が書いてないっ
ていうことね。そんなものちゃんと譜面読めば分かるじゃない。なんでそんな
ものいちいちこっちが書かなきゃいけないのって言うと、「普通それは作曲家
がちゃんと書くもんだ」だって。だけど、作曲家ってそんな横暴なことしてい
いのかいっていうことだよね。
上尾:それはほんとにもう、バロックの楽譜ですよね(笑)。あるいはジャズ、
ロックとか。本質的にはそこなんですね。
玉木:僕は昔、シンセ7台と東フィルの3管編成でシンフォニー書いたんです
よ。で、3楽章にオーボエで非常に日本の牧歌的なメロディを書いたの。とこ
ろがオーボエがまるで無表情に吹くもんで「すいませんけど、もうちょっと表
情つけてやってくれませんか」って言ったら、「エスプレシーヴォって書いて
ないもん」って(笑)。
上尾:ラテン系のオケにやらせたら、表情つけるなって言ってもつけてくれた
のに(笑)。

◆国歌には思惑が詰まってる◆
玉木:この本の話に戻ると、国歌のことで訊こうと思ったことがあったんだよ
ね。極端なことを言うと、日本の国歌は別に戦争と関係ないじゃないですか。
上尾:僕はあれを国歌と認めてないのでなんとも言えないんですが。
玉木:でも現象的には国歌だよね。
上尾:法律で制定されましたから。
玉木:そういう意味ではナショナル・アンセムでもないし、何だかわからない
んだよね。
上尾:成立した頃に2つあったんですよ。最初はイギリス人フェンロンが書い
た荘重なアンセム風のがあったんです。それがあまりにも「君が代は」という
歌詞にそぐわなかったということで、後にドイツ人エッケルトと上野の音楽学
校の人たちが寄ってたかって例のレドレミという「格調高い」旋律にしてしま
ったわけなんですけど、明治政府開闢の時に、まさに政治的に、様々な儀礼に
おいて日本を代表するような音楽が求められていたのは確かなんです。
玉木:なるほど。国歌といえばスロヴェニアっていう国あるじゃないですか。
今でもそうかどうかわからないんだけど、長い間、オーストリア国歌だったん
だよ。クラウンの音楽事典で見たんだけど。
上尾:スロヴェニアが独立したのは92年ぐらいですかね。
玉木:あそこはオーストリアの真下じゃないですか。元々はハプスブルグの領
地だったわけですよ。で、複雑な思いも色々あるんだろうけど、自分たちはス
ラヴ人だとは言われたくないと。
上尾:スロヴェニアなのに(笑)。
玉木:それでオーストリア、ドイツなんだと。それで懸命になって国歌まで一
緒にしてるのにオーストリアから認められないという。
上尾:オーストリア国歌は今はまた別の旋律になってますけど、そうでしたか。
かつてのアパルトヘイトのローデシアがシラーの詩による「歓喜の歌」を国歌
にしてましたけど、今EUが「歓喜の歌」をEUの賛歌にしてるんです。
玉木:困ったもんだねえ。
上尾:72年頃に実はカラヤンが編曲してEUの歌にしようとしたんだけど、
さすがにそれはみんなから総スカンくって。ところが最近はEUの行事がある
とあれを演奏するらしいです。
玉木:ドイツ国粋主義の歌だよね。
上尾:国粋主義かどうかはわからないですが、ロマンティシズムあふれたコス
モポリタニズムが象徴的ですけどね。
玉木:でも、シラーからワーグナー、ニーチェってたどっていく歴史を見れば、
完全な「ドイツ我が祖国」じゃない。
上尾:過去は水に流そうと。イギリスがEUに入っても通貨は一緒にしない訳
がわかりますね(笑)。
玉木:で、僕は聴いたことないんだけど、国連のアンセムはパブロ・カザルス
だって?
上尾:らしいですね。演奏されたのは聴いたことがないですけど。
玉木:みんな聴いたことないのは、ひょっとしたら、すごいつまらない曲だか
らとか?
上尾:いえいえ、カザルスは贈ったかもしれないですけど、アメリカ国歌を演
ろう、といういうことになってるんじゃないですか、国連だけに。あ、そこん
とこは書いといてくださいね(笑)。結婚式にロケット弾打ち込む国ですから
ねー。ヤル気十分です、アメリカ。
玉木:はははは(爆笑)。いやー、今日は面白いお話を有り難うございました。
上尾:こちらこそ。僕なんかはエコロジーじゃなく、思想として純正律を考え
ているわけで、そうした中で玉木さんのような方が居てくださることに、本当
に感謝してるんです。おっ、対談の締めの言葉はこれにしましょう(笑)!
(了)                        【文/田村圭子】

◎上尾信也著『音楽のヨーロッパ史』講談社現代新書
 →この夏の課題図書としてお薦めします!

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■2■ ムッシュ黒木の純正律講座 第7時限目
羅馬にて純正律を思ふ〈後編〉               黒木朋興
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 前回、ローマ市内にある近代美術館に行ったところ、19世紀のイタリア美
術は圧倒的に古典的な絵画が世紀を通して並んでいる、という話をした。
 こういった状況は1920年くらいまで続く。そしていきなり未来派が現れ
る。その後はフランスにも日本にもアメリカにもひけを取らぬような前衛美術
が展示室を埋め尽くすこととなる。未来派の独自性、斬新性についてここでは
繰り返すに及ぶまい。ただ、この時期この地で最も「前衛」的な政治思想の一
つであるファシズムが誕生したということは気を付けておいても良いだろう。
未来派の抽象的な作品に第1次世界大戦が深く影を落としている、ということ
も言うまでもない。何でも自国の進歩史観に当てはめて論理を展開するフラン
スもフランスだが、イタリアのこの急激な変化は何を意味するのだろうか。

◆古代とモダンが同居する都市建築◆
 確かにローマは古都であり、だから古代遺跡がたくさんある。その一方で、例
えば、ムッソリーニの命により建設が開始されたというテルミニ駅など、とびっ
きりに近代的な建物がどーんと街の真ん中に居座っていたりもするのだ。もちろ
ん近代的な建物などパリにでもエクスでもあるにはあるし、これはあくまでも主
観にしか過ぎないが、どうもフランスに比べてイタリアのちぐはぐ感が気になる
のである(と、ここまで書いて、イタリアは駅に近代的な建物が多いということ
に気がついた。対して、フランスの駅は19世紀末の建造物か、あるいは少なく
とも19世紀末を思わせるものが多い)。私の住むエクスもローマ人が築いた町
で、古代遺跡が残っていたり、17、8世紀の建物がまだ使われていたりするが、
古いものと新しいものが溶け合っている感じでそれほど違和感は感じない。また
高速道路の休憩所などでも、イタリアのほうがお洒落で斬新なデザインが多いと
感じた。つまりイタリアはモダンな部分が徹底してモダンなのである。
 一応フランス文学専攻なのだから学生時代にフランス美術史などの授業を取っ
ていたこともあり、そこでは19世紀の絵画は、古典主義の後を受け継ぐ新古典
主義、ロマン主義、写実主義、などへと順番に並べて紹介される。だから19世
紀ヨーロッパの絵画はそうやって進歩してきたものだと当たり前に信じ込んでい
た。16、7世紀のフランス美術史にはダ・ヴィンチやカラヴァジオなどのイタ
リア人も平気で登場するし、だから19世紀においてもフランスにおけるような
改革運動がイタリア内部から出てきていて、それが20世紀の未来派の出現に繋
がるのだろうと、なんの疑いもなく考えていたのである。しかしそんな進歩の歴
史など、所詮フランス人が自らの革命を正当化するために捏造したイデオロギー
に過ぎないのではないか、という思いが生じたのである。それでは何故20世紀
のあの時期に未来派が突然出現したのか?

◆北部イタリアで何が起きたか◆
 少なくとも17世紀にいたるまで、北イタリアはヨーロッパの先進地域であっ
た。ところが、ルイ14世のもと国家統一の礎を築くのに成功したフランスに対
し、古来都市国家という政治形態を崩さなかったゆえにか、イタリアの統一は遅
れ、19世紀においてはフランスやオーストリアなど周辺諸国に侵食されるに及
ぶのである。そういった近代イタリアがフランスに対して強烈なコンプレックス
を発動させていたとしても格段不思議な話はないし、そのコンプレックスがイタ
リアモダンの形成に大きく作用していると考えても強ち間違いでもないだろう。
 平均律のイタリアにおける普及も、『音楽のテンペラメント』のドミニク・ドゥ
ヴィによれば、1885年を境に燎原の火のごとく一気になされた、と言う。古
代からの遺跡が街中に溢れている一方で、フランスから輸入されたモダンが一瞬
にして広まってしまった国、イタリア。僕は、平均律普及の重要な鍵の一つがこ
の国の、特に北部にあると睨んでいる。

************************************
■3■ 天国的純正律音楽入門 第7回
    ハンガリー映画『ヴェルクマイスター・ハーモニー』について
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************
 ハンガリーのタル・ベーラ監督のモノクロ大作『ヴェルクマイスター・ハー
モニー』を観てしまった。本当に観たのではなくて、観てしまったという感じ
である。なにせ、2時間半かかる中身がたったの37カットという超長回し。
途中で何度も寝たし、トイレにも立ったが、ストーリーを追う映画でもないの
で、無関係。観ている間は、あまりの退屈さに腹が立ち、時間を損したと思っ
ていたが、観終ったら、物凄い達成感に襲われ、完全にタル・ベーラにしてや
られ、未だにショックから立ち直れないでいる。

◎欧州文明は妥協の産物◎
 ヴェルクマイスターという名前を御存知ない方の為に簡単に書いておくと、
純正律からミーントーンを経て、24の長短全ての調が演奏できるように、工
夫に工夫を重ねた調律法を確立したのが、ヴェルクマイスター第III調律。バッ
ハの「平均律ピアノ曲集」と誤訳された調律法で、ヴェルクマイスターはバッ
ハの親友だった。彼の調律はもちろん今の平均律とは全く違うが、「不等分平
均律」などという訳の分らぬ呼び方をされることもある。
 やがてキルンベルガーの改良等を経て、平均律の世の中になって行く。タル・
ベーラ監督は、「ヴェルクマイスターの平均律は最大の妥協である。しかし、
これなくしてバッハの“クラヴィア曲集”は今に残されなかった。ヨーロッパ
文明は妥協の産物である」と書いている。もちろん、ヴェルクマイスターが平
均律を作ったわけではないが、メタファーとしては正しい。
 この映画は全く音楽映画ではないが、それでも、老音楽家エステルが唯一、
ヴェルクマイスター批判をしている所を引用してみよう。
 ――「恥ずべきことにこの数世紀の音楽作品の音程はすべて偽りであり、音
楽もその調声もエコーも、その尽きせぬ魅力も、誤った音声に基づいている。
大多数の者にとって純粋な音程は存在しないのである」「ここで想い起こすべ
きことは、もっと幸福だった時代のこと。ピタゴラスの時代だ。我々の祖先は
満足していた。純粋に調声された楽器が数種の音を奏でるだけで。何も疑うこ
となく、至福の和声は神の領分だと知っていた」――
 この言い分は合ってるとも合ってないとも言えない。言いたいことは別の所
にあると思えるからだ。

◎ラデツキーが象徴するもの◎
 この映画を解き明かす最大のキーは、警察署長の酔っ払い踊りの「ラデツキ
ー行進曲」で、署長の子供たちも回転の狂った「ラデツキー行進曲」で馬鹿騒
ぎをする。とても醜怪でいやな場面。
 なぜ、ラデツキーなのか。これは、ヨハン・シュトラウス父の作曲だが、ハ
プスブルグ家の象徴であり、ハンガリーを併合した(何やら日韓みたいだな)
大帝国の凱旋行進曲である。この醜怪なマーチ(私は昔から、この曲は嫌いだ)
こそ、ハプスブルグ、ウィーン、西欧、平均律世界の残酷性であり、タル・ベ
ーラがどれほど音楽に詳しいかは分らないが、バルトーク・ベーラやコダーイ
によって発掘されたマジャール音楽は、西欧とは全く違い、東洋的メリスマ
(民謡のコブシ)の世界であり、12の鍵盤には割り付けられない、微少音程
そのものの世界である。このラデツキー行進曲の位置づけが分らない限り、こ
の映画を理解したことにはならない。
 ネット上でいろんな解釈や感想を読んだが、殆どの人は広場に現れたハリボ
テ鯨のことばかりを話題にしているが、あれは単にハンガリーに存在しないも
のの象徴にしかすぎない。

◎長回しの秘密◎
 この映画の一番醜怪で記憶に残るのが、暴徒の病院襲撃シーンだ。どんな正
義があろうと、暴動の醜怪さを描き切ったのは、このシーン以外にはないだろ
う。体制に頼らざるを得ない弱者をなぶるのが、暴動の神髄だ。
 最後に、この映画の最大特徴である、気だるい退屈な長廻しについて。タル・
ベーラは長廻しの理由をきかれて明解に答えた。
「編集室に入るのがイヤなんだ」
 まさに名言。私は多分、世界でも屈指の初見能力があるが、これは何を隠そ
う、ヴァイオリンをさらうのがイヤだったからである。

※今回は、玉木宏樹HPの〈言いたい放題 2002年7月9日&12日版〉から
の転載です。

【『ひびきジャーナル第7号』ネット版bに続く】

【『ひびきジャーナル第7号』ネット版aから続く】

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
■4■ 外科医のうたた寝☆その6   吉田うどんの奇跡
        福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 なんだかやたらとうどんの話しばかりになってしまい申し訳ない……
  ★  ★  ★
 私はうどん好きである。けれども滅多なことではうどん屋には入らない。私
が好きなのは純正(律)の讃岐うどんであり香川県には行きつけのうどん屋が
10数軒あるが、東京のうどん屋はあまり好きではない。ごくたまに名店と呼
ばれる店に行ってみたり、各地方の名物うどんの店の暖簾をくぐったりもして
みるが、毎度がっかりさせられることが多く、最近では年に1回だけ出掛ける
“讃岐うどん巡礼の旅”だけを楽しみに、普段はラーメン、蕎麦、スパゲッテ
ィー、冷麦などを食べている。 

★知られざるうどんの聖地・富士吉田★
 5月から河口湖のそばの病院(カイ虎の門整形外科・胃腸科外科)で働くこ
とになり、連休中に山梨県に引っ越してきた。病院のある河口湖町に隣接した
富士吉田市をクルマで走っているとやたらに“手打ちうどん”と書いたノボリ
がはためいている。もしや? と思って文献やインターネットなどで少し調べ
てみると、全国的にはあまり有名ではないが、富士吉田市は成熟した“うどん
文化”を持つ街であることがわかった。市役所には“うどん課”なるものが存
在し、古くから結婚式、葬式、酒の後にもうどんを食べるというほどの、うど
んがなければ一日が始まらないと云った土地柄であることがわかった。
 早速、市役所うどん課作成の“うどんマップ”を取り寄せてみたところ、市
内54店のうどん屋がカラー写真付きで紹介されておりどの店のうどんも美味
しそうである。昼間だけの営業の店が多く、普段は行けないので土曜日を待っ
て出掛けてみることにした。
 静かな住宅地の一角、なんの変哲もない普通の家に“うどん”と書いた小さ
なノボリが立っている。やたらと周囲にクルマが路上駐車してあるのが気にな
ったが、人の家にでも入るような感じで玄関の引戸を開けてみると、自宅の一
室を改装したような座敷に30人以上の人が肩寄せあってうどんを食べている。
ようやく空いた隅の席に座ると見様見まねで紙に注文を書いて調理場(と云う
より台所)に渡す。最初に注文したのが冷やしうどん。吉田うどんの食べ方の
流儀がわからないので隣の小父さんの真似をしつつ食べてみる。卓上のタッパ
から揚げ玉をたっぷり取り、七味唐辛子を少々ふって食いついてみる。

★まさに奇跡のうどんたち★
「うまい……」
 歯応え充分の硬いうどんが醤油ベースの冷たいつゆに絡まって、そこに揚げ
玉と唐辛子のエッセンスが効いていて、この絶妙のハーモニーは玉木弦楽四重
奏をもしのぐかもしれない。
 次に肉うどんを食べてみる。やはり硬いうどんが、今度は醤油と味噌をブレ
ンドしたコクがありそれでいてさっぱりした温かいつゆの中で輝いている。具
材は肉とキャベツ。この組み合わせも意外なようでいて絶妙にどんぶりの中で
ハモっているではないか。奇跡としかいいようのない美味さである。しかも2
品食べてたったの700円である。
「安い……」

 山梨に引っ越してきて2ヶ月あまり、“うどんマップ”に掲載されている54
店のうち9店のうどんを食してみた。店ごとに色々な特色がありそのどれもが
期待を裏切らない。東京のすぐそばにこんな“うどんの聖地”が存在していた。
私の今回の引っ越しは“うどんの神様”のお導きではなかろうか?

【ドクター六花はみだし情報】
 THE SENSATIONS 真夏のライブ2002
 ⇒ドクター六花がヴォーカルの「センセーションズ」、
 夏季ライヴ続行中です!

 2002年8月24日(土)下北沢LOFT
 PM 7:00 start  ¥2000(ドリンク付き)
 
*予約問合せ:下北沢LOFT/Tel. 03-3412-6990
 会場への地図は
 http://v3.mapion.co.jp/custom/emapion/kanto/tokyo/shimokita_h.html

zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

==============================================================
■5■ CLUB-PURE 今回のメンバーズ――ネット会員・長岡衛治さん
    会員の皆様に登場していただくコーナーです。

    自薦他薦、どうぞ手を挙げてください。こんな面白い人いますと。

 ⇒さて、初回は今年3月30日の土曜のお茶会に初めてご参加い
 ただいた後、近くのファミレスで二次会、その後三次会までお付
 き合いくださった中で、「純正音律発生器」を自作された元電子
 技術者、合唱団のメンバーでオーディオ・ヴィジュアルの仕事を
 されているというお話に心惹かれ、ネット会員長岡さんにご登場
 願いました。

〓若い頃からのこだわり派〓
 長岡衛治さんは1935年兵庫県養父郡のお生まれ、旧家の3男3女の長男
で地元の高校の農業科を卒業後3年間の農業従事の後、父の期待に反し、自力
で蓄えた資金で横須賀職業訓練所の無線通信科に入所、1年間の猛勉強の後、
首席で卒業、三級無線通信士を取得。さらに上級資格を目指すも資金不足で中
断。止むなく入社した日本飛行機で定年まで電子技術者として勤務。米軍や防
衛庁の航空機のおしきせマニュアル作業に飽き足らないメンバーで起こした駐
車場事業が成功する中で専ら車両センサーの開発を担当、というご経歴。
「純正音律発生器」に至るもう一つの伏線は、勿論音楽とのかかわりで、幼少
の頃の記憶は手回し蓄音機。童謡・民謡・浪曲等のレコードがあったそうです
が、童謡はすべてインプットされるまで繰り返し聴いたそうです。お母さんが
楽譜を読める方だった。中学3年のとき和音に熱心な音楽教師の三和音の聴音
テストがあり、ダントツの100発99中で正解したそうです。高校ではアコ
ーディオンで鳴らし音楽部で活躍。卒業記念に当時学校にあったお宝のテープ
レコーダの使用許可を貰い、小遣いをためて買ったテープに演奏を録音。その
テープは現在もお持ちで、ノイズの中に音がある状態ながら、最近仕事柄CD
化し当時のメンバーに贈って喜ばれたそうです。当時の録音テープは和紙のベ
ース上に酸化鉄粉を塗布したもの。
 その後も今日までコーラスの演奏活動をずっと続けてこられ、現在は神奈川
県綾瀬市に在住ですが、所属のボーカル・アンサンブル コーロ・ブリーサは
座間市で活動中。レギュラーは10名ほど。男性団員は指導の先生と2人のみ。
練習の合間長岡さんが純正律や音響・音律の講義をしてきて、よいハモリを追
及して25年。ノンビブラートのきれいなハモリを実践しておられるそうです。
「ここ数年きれいな音のコーラスが増えましたが、中には純正律やハモリに全
く無縁の団体もある」状況だそうです。

〓センサー技術とハモりの関係〓
 音楽を愛する電子技術者としてハモリを求め、音響学を勉強している中、平
島達司『ゼロ・ビートの再発見』が出版されたときはこれぞと飛びつく。会社
の測定機器を利用して研究、純正律とはどんな音なのか聴きたくて「純正音律
発生器」を自作、等々、長岡さんはそのお話し振りでも淡々とした中に強靭な
実行意思を秘めた方とお見受けしました。玉木さんとの出会いは多分テレビで、
出るたびに「この人には何かがある」といつも注目していた中で、今年1月偶
然純正律音楽研究会を知り入会。
 センサー技術とコーラスとの関係を「私達が純正律の音程に入り込んで安定
しようとする一連の動作は、センサーからの信号を、設定された基準値と比較
しその誤差でアクチェータを駆動し、センサー信号が基準値と等しくなる点ま
で移動して停止する自動制御機器のループと似ている。人間を電子回路と置き
換えて歌うときのメカニズムを考えたくなる」と。
 純正律音楽研究会としては今後更に、長岡さんの薀蓄あるお話を伺いたいと
思います。演奏会・結婚式のビデオ撮り・編集等でご多忙な中、この夏はさる
女性ヴォーカリストとの二重唱で舞台に立たれるそうです。ご活躍をお祈りし
ます。                          【馬場英志】

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW
■6■  純正茶寮                  黒木朋興
   ――MALICPRNEの4枚目のアルバム(HEXAGONE/GRI191282)――

今回は、雨季がないので乾燥しているけれど暑さは厳しいらしい、
フランスはエクスから、黒木朋興氏の担当でお送りします。玉木
氏によるひとことコメントも併せてどうぞ!
***************
 今回紹介するのは、1回目で取り上げたMalicorneというフランス
のフォークロアバンドが1977年に録音した4枚目のアルバムです。このバ
ンドの初期4枚のアルバムのジャケットにはバンド名のみが記されているだけ
で、いずれもタイトルがついておりません。ですからファンの間では、1枚目
とか、3枚目とか、呼ばれています。またこの4作品はエグザゴンというレー
ベルから発表されているのですが、この言葉は元々六角形という意味で、フラ
ンスの国境線が六角形に近いことからフランス国土の比喩としても使われます。
古き良きフランスを伝える調べ、そしてレーベルの名前がエグザゴンと言えば、
フランスの右翼が泣いて喜びそうなアイテムであるということをとりあえず指
摘しておきます。もちろん私は、彼らの政治的立場についてはまったく知らな
いし、またそれに頓着するつもりもないことも合わせて言っておきます。
              ◆ ◆ ◆
 1曲目の「NOUS SOMMES CHANTEURS DE SORNETTES – GAVOTTE」は
いきなりアカペラで始まります。びしっとハモったその歌声はいつもながらに
流石の一言です。また私はカナダのケベックで行われた彼らのライヴアルバム
も持っていますが、ステージの上でも彼らは見事なライヴ演奏を聞かせてくれ
ています。彼らの能力の高さを窺い知ることはできるでしょう。
 ですが、ここでは10曲目の「MA CHANSON EST DITE」に注目してみたい
と思います。というのは、この曲、管楽器をはじめ音程が微妙にずれているん
です。もちろん彼らのことですから、わざと「下手」な演奏をしていることは
確実ですが、所謂「ヘタウマ」などということではない。
 この曲がアルバムの最後に位置し、演奏時間が27秒ということに注意して
みましょう。この微妙な音程のずれによって、彼らは「下手な田舎楽士の演奏」
を表現している、のです。こういうことは音程が平均律にプリセットされてい
る楽器を当たり前に考えている鍵盤弾きには思いもつかないことではないでし
ょうか。もちろん、シンセに音程のずれを計算して打ち込み演奏させることは
可能です。しかしそれでは、面白くない。というか、この演奏の面白さには遠
く及ばない。やはり身体で音程を感じながら生楽器で微妙にずらすのでなけれ
ば。
              ◆ ◆ ◆
 純正律音楽研究会の会報で、音程の悪い演奏を紹介することを意外に思われ
る読者の方もおられるとは思いますが、この音程の悪さは当研究会の活動の面
白さと豊かさを、また別の角度から逆説的に示してくれているように思います。
つまり微妙に音程ずらすことも、平均律一辺倒では不可能な表現の一つである、
ということです。別に完璧にハモらせることのみが我々の目的ではないことを
確認するために今回はこの曲を選んでみました。

TAMAKI’s HITOKOTO==========
アメリカの作曲家、アイヴスに「カントリーマーチバンド」という
曲があって、ワザと下手に聞こえるようにスコアリングしている。
それはさておき、このバンド、各自の発声がすばらしい。ハモる為
にひるんだ発声をするのではなく、各自が存在感を持ちながら、結
果的にハモろうとしている。すばらしいCDだ。

INFORMATION

●MALICORNE (HEXAGONE/GRI191282)
 →収録曲目は次の通り。
 1. NOUS SOMMES CHANTEURS DE SORNETTES-GAVOTTE
 2. COUCHE TARD, LEVE MATIN
 3. DANIEL MON FILS
 4. LE DESERTEUR – LE CONGE
 5. LA BLANCHE BICHE
 6. BACCHU BER
 7. LE JARDINIER DU COUVENT
 8. MISERE
 9. LA FIANCEE DU TIMBALIER
 10. MA CHANSON EST DITE

#

■7■ ちかごろの「PMS土曜のお茶会」REPORT

 関東地方の梅雨明けが宣言された7月20日(土)に、ピュア・
ミュージック・サロン「土曜のお茶会」が開催されました。会場は
おなじみ西麻布のティールーム「FRIENDS」。名古屋や四国
からの熱心な参加者もあり、内容の濃い、熱い集まりを持つことが
できました。
 恒例、御来場者のお名前をモチーフに即興で作曲、演奏するコー
ナーでは、お名前だけでなくセリフも旋律にしてみたりと、毎度同
じ事はやらない玉木氏。
 今回の目玉は、本誌8頁でも御紹介したネット会員・長岡衛治さ
んの純正音律発生器。実際に音を出しながらの説明に、参加者の皆
さん、聞き入ります。また、正会員で合唱団Single Singersを率い
る井上博史さんは、はるばる四国から7kgもの純正律キーボード持
参での御参加でした。
「ピュア・ミュージック定期便」で頒布されたナンバーをライヴで
お楽しみいただくコーナーでの圧巻は、カウンター・テナーのカウ
ンタ山田氏を交えた「千年絵巻」。その類い稀なる歌声は、ナマで
聴かないとソン! 会場に涼をもたらしてくれました。
 定刻を過ぎても参加者の熱い語らいは尽きず二次会も盛り上がり
ました。とはいえもちろん、お茶会では、「理論はともかく心地よ
い音を生で楽しみたい」という方々の御参加も大歓迎ですので、ど
うぞお気軽にお越しくださいね。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■8■ →→→純正律かわらばん

●急告!! 純正律拡大コンサート、
 いよいよチケット前売り、始まりました!!

 《純正律アトマスキュア・コンサート
  玉木宏樹ジャスト・チューニングの世界Part3~アポロンのたわむれ》
 
 9月28日(土)開場16:30/開演17:00
 芝abc会館ホール(東京都港区芝公園)
 一般5000円
 純正律音楽研究会正会員3000円(同伴者、御紹介は4000円)
 純正律音楽研究会ネット会員4000円(同伴者、御紹介は4000円)
 ※団体割引もあります。詳細はお問い合わせ下さい。

 出演:玉木宏樹、東京リコーダーオーケストラ、尾上菊咲慧、永六輔、
    玉木弦楽四重奏団、福田六花、カウンタ山田、ほか
 主催:マーユ・ファインアート・ジャパン/純正律音楽研究会

 【御予約・お問合せ先】純正律音楽研究会事務局
  Tel.03-3407-3726 (月~金11AM~19PM)
  ※会員同伴割引、団体割引もございます。詳細はお問合せ下さい。
 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
●9月8日(日)純正律サロンコンサート
 ~ヴァイオリン・デュオによるピュア・ミュージック~
 14:00開演 2000円(特製ゼリー、紅茶付)
 会場:ウィークリーサロン(東急田園都市線「青葉台」駅下車) 
 ⇒玉木宏樹&水野佐知香による息の合ったヴァイオリン・デュオ。
  落ち着いたサロンでお茶をいただきながらお楽しみ下さい。
 【御予約・お問合せ先】グローウィング企画〈受付は10:00~18:00〉
 Tel. 045-961-2281(南條)/Tel. 045-961-6049(亀岡)
 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
●9月18日銀座のサロンで玉木宏樹の純正律トーク&ライブ
 9月18日(水)14:00開演 会費5000円(ワンドリンク付)
 会場:銀座十字屋ホール9F
 ⇒銀座十字屋主催の優雅なサロンに玉木宏樹氏が出演します。軽
 妙なトークと魅惑のヴァイオリン演奏を楽しむ集いで、当日は、
 純正律ファンにはおなじみ水野佐知香さんをまじえ、玉木&水野
 による贅沢なヴァイオリン・デュオも堪能できそう。素敵なお土
 産もあるそうなので、お楽しみに。
 【御予約・お問合せ先】十字屋ホール(Tel. 03-3561-5250)
 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 以上の各コンサート情報の詳細は、純正律音楽研究会のホームページで
 御確認ください。〈http://www.pure-music.ne.jp〉

→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

■9■  @@@@@西麻布通信@@@@@

◆設立満3周年を迎え、当研究会公式HPでは掲示板も始まりました。
 どなたでも気軽に立寄って頂けるページを目指していますので、ぜひ、
 足跡をお残しください。
 
◆東京・丸の内の顔である「丸ビル」が9月のオープンに向けてリニュ
 ーアル中ですが、その界隈の再開発と連動して三菱街の環境音楽を玉
 木氏が担当することになりました。実現すれば、かねてより玉木氏が
 提唱している「街から騒音を追放し、世の中を純正律で染め上げる」
 というプランが、また一歩前進することになります。詳細は追ってお
 知らせします。

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
とりあえずいちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
  URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
*ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会の
 オフィシャル・ホームページ、仮営業中!!
 http://www.pure-music.ne.jp
 掲示板も始まりました。各種純正律情報だけでなく、会報バックナンバー等、
 アーカイヴも一部公開中。ぜひ、お立ち寄り下さい。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 不許複製(c)純正律音楽研究会

ひびきジャーナル 第6号

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会会報
『ひびきジャーナル』  【創刊第6号】
2002年5月10日発行

編集/発行:ピュア・ミュージックサロン/純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
※(C)純正律音楽研究会  禁無断転載
 転載等、二次的にご使用になる場合は、必ず事前に純正律音楽研究会
 事務局まで御一報ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

<<今号の内容>>
■1■玉木宏樹の“この人と響きあう” 第6回
                    内藤克洋さん 北島京子さん
■2■幻の名著『ゼロ・ビートの再発見』再考/玉木宏樹
■3■ムッシュ黒木の純正律講座 第6時限目
   羅馬にて純正律を思ふ〈前編〉              黒木朋興
■4■天国的純正律音楽入門 第6回    急激に広まりだしたハモリ系
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
■5■外科医のうたた寝☆その5 医者の不養生(2)
          福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家) 
■6■Letter Rack~会員の皆様からの投稿コーナー~
■7■CD REVIEW [[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]           玉木宏樹
   libera『luminosa』(WPCS-11100)ほか
■8■こんな曲をデリバリー中!~いよいよ始まった「純正律新曲定期便」
■9■純正律かわらばん
   →待望の玉木宏樹弦楽四重奏編曲集、6月1日発売開始!
■10■西麻布通信

レアな純正律情報満載のピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究
会の公式ホームページ、仮営業中!バックナンバー等、アーカイヴもあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#

■1■ 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第6回――
    平島達司――人物とその偉業
                   内藤克洋さん 北島京子さん

#

→今回は、ピアノ雑誌『ショパン』として有名な(株)ショパンの内藤克洋
社長をお迎えし、フリーランスのエディター北島京子さんにも御参加いただ
いた異色の鼎談です。というのも、おふたりとも編集者であり、いわば陰の
黒衣の方が正面に出ることは本当に少ないからです。で、今回のテーマは、
純正律音楽研究会のコアなメンバーにはお馴染みの、そして玉木氏にとって
は純正律の教本の一つでもある、平島達司著『ゼロ・ビートの再発見』
(「本篇」「技法篇」)についてのお話です。この本は1983年(昭和58年)、
東京音楽社から出版されましたが、この東京音楽社の後身が(株)ショパン
なのです。発行人の内藤さんとその編集を担当された北島さんに今回の御登
場をお願いしました。
          ―― ―― ―― ―― ――
玉木:お二人ともお忙しい中をわざわざお越しいただき有り難うございます。
大変失礼なんですけど、内藤さんの音楽出版界との関わりを少し。
内藤:もとは『合唱界』という雑誌の編集をやっていて、それ以来、音楽出
版界にいます。もう40年以上になるかな?
玉木:平島さんと知りあうきかっけは?
内藤:朝日新聞の1982年4月5日の夕刊に平島さんが「古典調律の復権
を」という文章をお書きになったのを読んで、さっそく連絡をとったわけで
す。そして本作りに着手して、北島が編集制作を担当、1983(昭和58)
年の9月に初版が出ました。
北島:あら、玉木さんの本の表紙の色と私のとは違うわ。
玉木:ほんとだ。北島さんのは、いい赤だ。
内藤:重版する時、少し安く上がるように色を節約したんです。
北島:重版になったとは知りませんでした。あら、値段も違う。私の初版は
2300円なのに、玉木さんのは2500円。
内藤:玉木さんのお持ちなのは、増補版だから。
北島:増補って、何を増やしたのかしら……ああ、古典調律で演奏されたい
ろんなコンサートの記録が増えている……確かに200円分の価値あるわ。
玉木:ところで、この本は「本篇」と「技法篇」同時に2冊出ていますね。
どちらが売れたんでしょう。
北島:〈玉木所蔵の『技法篇』の表紙をめくりながら〉玉木さん、古本屋に
行ってまで買ってくださったんですね。〈――感謝のまなざし〉
内藤:そりゃ「本篇」のほうでしょ〈と言いつつ奥付を見る〉。あれ、技法
篇の方が3刷になっている。へえ、意外とたくさんの調律の人たちが買って
くれたのかなあ。
玉木:「本篇」ではたいへん勉強させてもらいましたが、中でもいちばん面
白かったのが、ピアニストの内田光子さんの職業上の秘密の話。彼女のモー
ツァルトが美しいのは調律を変えているからという話。えーっと、ミーント
ーン(中全音律)でしたっけ?
北島:ヴェルクマイスターでしたね。〈といいつつ、その事実が記された昭
和57年11月27日の読売新聞夕刊記事が掲載された「本篇」巻末資料を
指す〉
玉木:で、内田さんとは、その後?
北島:東京音楽社はその3カ月後『ショパン』誌を創刊したんですけど、そ
の創刊号のトップインタビューにですね、内田さんを載せました。ところが
「古典調律や純正律の話だけはNO!」と言われて、そこは削っちゃたんで
すよ。
玉木:やはり、職業上の秘密にかなりこだわってたんだ。
北島:彼女がモーツァルト弾きとして、日本で今日のように有名になる直前
のことでしたね。

◆純正律的な生き方を◆
玉木:平島氏御自身はどんな方でした?
内藤:実に温厚でやさしくて、敬虔なクリスチャンでした。
玉木:北島さん、お酒なんか誘われなかったんですか。
北島:とんでもない、見るからに真面目な方でした。
玉木:じゃ、純正律そのものの人だったんだ。僕なんか不純正律のかたまり。
北島:でも、ユーモアのセンスのある方でした。大正3年生まれで、東京帝
大で化学を学び、金時計(最も秀才に与えられる)を授かった人だそうです。
玉木:化学の金時計?じゃ、もともと音楽畑出身の方じゃなかったんですね。
内藤:奥さんがオルガニストでね。
北島:で、『オルガンの歴史とその原理』という本を著し、そこから「古典
調律」というライフワークを見つけられたんです。
内藤:ラジオのFM番組から5000曲チェックしてライブラリーを作ると
いった、すごい音楽愛好家。御本人はディレッタントのこうじたようなもの
だという感じでしたね。
玉木:でも、あの本はとてもじゃないけど、ディレッタントが書いたとは思
えない。でも、言われてみると、いろんな調律、その中でもヴェルクマイス
ター第3に対する言及はすごいけど、それを発見した経緯とか、いわゆる系
統だった研究の成果はあまり見えない。
内藤:というか、特に系統的ではなかったかもしれない。
北島:学術的な論証はこれから、という段階だったと思いますよ。もし、あ
れを著した3年後に急逝されることがなかったなら……と残念です。学界と
かピアニストとかには無視されたままですものね。

◆実用のための古典調律◆
玉木:私は最近、キルンベルガー第3にはまりこんでまして、ピアノ等の鍵
盤楽器用には、コンピュータ制御でキルンベルガー調律にしています。キル
ンベルガーだと、ハ長調の調律でもドビュッシーの変ニ長調の「月の光」が
変じゃなく弾けちゃうんです。ミートーンじゃ絶対不可能だし、ヴェルクマ
イスターでも変。多分、ベートーヴェン以前はミーントーン、それ以降はキ
ルンベルガーになったんじゃないかな。キルンベルガーはヴェルクマイスタ
ーの後身だから、平島さんもあまりお書きになってないのかな。
北島:〈本の中の表を指しつつ〉古典調律のひとつとして位置づけてはいま
す。でも、扱いは小さいわね。
玉木:僕は実際にヴァイオリンを演奏するものだから、実用面ではこの本は
たいへん役立っています。平島さんは楽器演奏は?
北島:なさらなかったようですよ。
玉木:それであれだけの本が書けるとは……〈しばし絶句〉。この本の中に
ある膨大な量の数とグラフ、あれはどなたが校正なさったんですか。
内藤&北島:とても我々にはできません。もっぱら平島さん御自身が、何度
も何度も校正なさってました。

◆今こそ望まれる復刻◆
玉木:惜しい人を亡くしてしまった感じで、すごい残念なんですけど、今、
平島さんの業績を継いでいらっしゃるような方はどなたかいらっしゃいます?
内藤&北島:えーっと、当時日本音楽学会の会長だった谷村晃氏(日本サウ
ンドスケープ協会会長)、この方に『ショパン』に音律の話を書いてもらっ
たら作曲家の別宮貞雄さんから「私も一言書きたい」ということで短期連載
していただきました。あとは、古楽の鈴木雅明さん(指揮、オルガン)や、
鈴木秀美さん(チェロ)ですかね。
玉木:別宮さんはとにかく何かおっしゃりたい人だから。
内藤:でも反応という面では有り難いことでした。
玉木:その他の方は?
内藤:あまり、いらっしゃいませんね。
玉木:それじゃ、この私が最大の継承者なんだ、ははは……。ところで、こ
の本の復刻を考えておられるとか。
内藤:まあ、考えてはいるんですが……。
玉木:ぜひ、お願いしますよ。ファンも待ち望んでいる人はいっぱいいるは
ずですから。
北島:ホントかしら?
玉木:北島さんは、プロたちからの反応が少ないということで懐疑的なのか
もしれないけれど、元来プロの人たちというのは、このテのことには関心を
持とうとしない。例えば、私がプロの連中に、純正律と平均律の違いを聞か
せても、「そりゃ、違いは分かるさ。でも、それがどうした」ってなもんで
すよ。でも、最近のコーラスとか、小中学校でのブラスバンドはすごく変化
してきて、ハモることの訓練をすごくやっている。だから、プロ相手という
よりは、そういう人たちのいい教材になると思いますよ。
内藤:復刻はしたいんですけど、我々は1冊ずつしか持っていない。実は、
復刻するには、元の本を1冊、丸ごとバラしてスキャンしなきゃいけないん
ですよ。どなたかから1冊、譲っていただければ嬉しいんですけどね。
玉木:インターネットで『ゼロ・ビートの再発見』を検索してみましょう。
〈一同、パソコンに向かう〉
北島:そんなもの出てくるのかしら?〈と、かなり懐疑的〉
玉木:〈インターネットの検索エンジンで探しつつ〉ほら、こんなに話題に
なってますよ。
内藤&北島:……ほんとだ! すご~い!!
玉木:アッ、ヤバい。「『ゼロ・ビートの再発見』の本を買いたい」と、掲
示板に書き込んでいる人がいる!
(了)

””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
■2■ 幻の名著『ゼロ・ビートの再発見』再考/玉木宏樹
 ここで、この本のことを御存知ない方の為に、少しだけ説明しておこう。

◇ゼロ・ビートとは◇
 まず「ゼロ・ビート」の意味について。「ビート」というのはいわゆる
「うなりのことであり、ユニゾンの「ド」を何人かで歌うと、完全に同じ
高さでないと必ず「ワーワー」という耳障りなうなりが生じる。つまり、
音程が悪いと絶対に発生する物理的現象である。そして、「ゼロ・ビート」
というのは、このうなりのない純正なハモリのことを指す。例えば私がい
つも推奨している「リベラ」のように、純粋にハモリきっているコーラス
は、ほとんどいつもゼロ・ビート状態である。
 平島氏はこの本の中で、このゼロ・ビートを再発見するため、長い旅を始
める。まず、今一般にピアノに用いられている平均律という調律は完全に人
工的なものであり、声楽や弦楽器や木管とのアンサンブルには不適当なビー
トだらけの調律であることを指摘し、たかだか100年くらいの歴史しかない
平均律によって音楽が「ゼロ・ビート」を忘れてしまったことに、怒りに近
い(といっても淡々としてはいるが)検証を数々挙げる。世界を誤らせた
「バッハ平均律」伝説の罪も暴いている。
 そして、ギリシア時代にさかのぼって、ピタゴラス音律と純正律を説き明
かし、その後のミーントーン(中全音律)、ヴェルクマイスター、キルンベ
ルガー等々、平均律一色になる以前の色彩豊かな古典調律の数々を方法論と
共に説き明かす、純正律ファンにとってはたまらない内容となっている。

◇あくまでも実用を念頭に◇
 とはいえ、この本で述べられている主張は、決して純正律礼賛ではなく実
用を念頭に置いたものであり、どちらかといえば「レファラ」の使えない純
正律は幻想であるとすら言い切っている。しかし、オクターヴに69の鍵盤
が要るから実用不可能という結論は、裏返せば、69あれば純正律は可能で
あり、平島さんの時代より少し時間が経った今、コンピュータを使えばそん
なに難しいことではなく、ライヴの演奏には向かないが、「打ち込み」であ
れば、純正律は可能な時代となった。
 また氏は、忘れ去られた古典調律を復活することに目標があり、氏の論調
ではヴェルクマイスター第3が最良の調律のように書いている。しかし、最
近の私の作曲上では、その後に登場するキルンベルガーの調律法の方がもっ
と実用的で深みがあることを発見した。氏の突っ込みがもう少しキルンベル
ガーにまで立ち入ったものであれば、最高の書となっただろうと思われる。

◇待ち望まれる復刻◇
 こんな素晴らしい本が一部の人を除き、特に音楽学界からは無視された。
それは氏の論の進め方が、研究論文的に見ると説得力を欠くかららしいが、
私のように、研究者ではなく、作曲・演奏をする側から見ると、こんな素晴
らしく共感できる本はこれ以外にない。
 本書の発行人、編集者のお二人とも復刻を考えておられるようだけれど、
是非、実現したいと願う次第である。

**************

と、いうわけで……
   『ゼロ・ビートの再発見』を探しています!!

●増補版『ゼロ・ビートの再発見
 ――「平均律」への疑問と「古典音律」をめぐって』
●『ゼロ・ビートの再発見〈技法篇〉
 ――「古典音律」の解釈と実践のテクニック』
※いずれも平島達司著、東京音楽社刊。

 →おふたりとも、ネット上でのこの本の話題ぶりには、やや度肝を
 抜かれた様子でした。この日の鼎談は、「とにかく、復刻に向けて
 前進しよう」ということでお開きになりました。もちろん、私、玉
 木も復刻には協力したいのですが、私の場合も手元に1冊しかあり
 ません。そこで、本誌を御覧の皆様にお願いです。皆様のなかで、
 またはお知り合いの方で『ゼロ・ビートの再発見』を譲ってもいい、
 という方がいらしたら、ぜひ御協力をお願いします。また、古書店
 等の在庫状況等、復刻につながる情報を求めています。お心当たり
 の方は、純正律音楽研究会事務局まで御一報ください。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■3■ ムッシュ黒木の純正律講座 第6時限目
羅馬にて純正律を思ふ〈前編〉               黒木朋興
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 イタリア。とは言っても、非常に厄介な国ではある。一言にイタリア
といってもやれミラノだ、トスカーナだ、ローマだとかいろいろあって、
何がイタリア的なのかよくわからない。一言でいえば、フランスに比べ
て国家統一が遅れたので国家の枠組みが非常に曖昧なままである、とい
うことなのだろう。
 さて、イタリア語で「純正律」とは何というのか、と思って、早速、
平凡社の『音楽大事典』と講談社から出ている『ニュー・グローヴ世界
音楽事典』の日本語版を引いてみると、案の定、載っていない。もちろ
ん、だからと言って、イタリア人が純正律を知らない、ということでは
ないであろう。何よりも、あのツァルリーノがイタリア人なのだし、当
然、現象としての純正律が知られていない筈がないのだ。ただ、「自然
科学」の対象としての純正律研究はやはりドイツで始まり、イギリスを
通じて世界に広まった、ということなのだろうか。
 ハンスリックの名の下に知られる、音楽から歌詞を除外し純粋に音響
現象だけを俎上に上げようという「絶対音楽の理念」と純正律研究の重
鎮ヘルムホルツの親近性は、この両者の交友関係を見れば明らかである。

◆前提でハモる伊・理論でハモる独◆
 それに対して、イタリアにとっては今現在に至るまで音楽といえば何
よりも歌のことなのだし、だから耳で聞いて歌声をきちんとハモらせる
ことはできても、音楽や音響から不純な要素を取り除き純粋にその本質
を学術的に追究しようなどという姿勢は、断じてイタリア・カトリック
的でなく、所詮ドイツ・プロテスタント的な発想にしかすぎない、とい
うことが言えるのではないだろうか。つまり、先進地域のイタリアでは
理屈などこねなくてもハモらせることが自然な文化として定着していた
のに対し、後進地域のドイツでは何よりもまず重厚な理論武装が必要な
のであった、ということだ。
 もちろん、私自身、イタリア語を十分に読みこなせるわけでもないし、
またイタリア関係の文献を丹念にあたっているわけではないので、この
国の文化を詳述するなどということは、正直、身に余る。ただ、去年の
4月の終わりにローマに行ったとき感じたことを、思うがままに書きつ
づってみたいと思う。言うならばいわゆる随筆なのだと了解していただ
きたい。

◆イマイチな伊美術の19世紀◆
 流石ローマだけあって、町中の至る所に古代遺跡があるし、バチカン
美術館に行けばそれまで複写でしか見たことのなかった著名な壁画の実
物がある。それはやはり感動に値するものであった。ところがその後市
内のボルゲーゼ公園の中にある国立近代美術館に訪れたとき、そこには
また別種の驚きを伴う感動があった。一言でいうとイタリアには象徴主
義が欠けている、ということだ。近代美術館というくらいだから、だい
たい19世紀からこっち現在に到るまでの作品群が展示してあるわけだ
が、まず19世紀前半には古典的な絵画が並べてあるのは十分納得でき
ることではあるし、それから時代に沿って当時のフランス画壇から影響
を受けたと思しき絵が散見されるというのも良いだろう。しかし世紀末
になっても相変わらず世紀前半に見られたような古くさい肖像画が平気
でかかっているのである。
 これがフランスの美術館であれば、古典的な絵画から始まって、新古
典主義、ロマン主義、写実主義などへと徐々に変化していき、それが世
紀末の印象派、そして象徴主義の大規模な変革運動へ、そしてやがて2
0世紀初頭のシュール・レアリズムへと繋がる、という風に、非常に分
かり易い形で絵画の進歩の歴史がさりげなくかつ絶妙に提示されている
筈だし、世紀後半の展示室には世紀前半のスタイルを引きずっている絵
画など展示されるべくもない。
 ところがイタリアの美術館にはその歴史の流れがない。基本的にオー
ソドックスな絵画をベースにして、時折フランスからの革新の風が感じ
られる、と言ったところだ。実際、『新潮世界美術事典』で「イタリア
美術」を引いてみると、「19世紀はフランス画壇の影響を受けながら、
新古典主義からロマン主義、写実主義、風景画の各部門に慎ましやかな
資質の人々を出している」などと載っている。正直、印象派の反対派と
して保守扱いされる世紀末の官展派の絵画でも、同時期の展示室を飾っ
ているイタリア絵画よりはるかに洗練されている。すなわち、19世紀、
美術に関してイタリアは明らかにフランスの後塵を拝していたのである。
                         【つづく】

************************************
■4■ 天国的純正律音楽入門 第6回
    急激に広まりだしたハモリ系
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************
 去年の紅白でゴスペラーズが出て話題になり、今急激にハモるコーラスが
注目されだしている。私から見れば、ゴスペラーズも善し悪しで、1940
年代の黒人ゴスペル・グループとは比較のしようもない段階である。でもハ
モるということはとても良いことで、純正律への一里塚である。テレビでも
「ハモネプ」コーナーなどもやっており、ますますハモる系統が増えていく
ことだろう。

◎いま、アマチュアが熱い!◎
 さて、3月17日に横浜栄区の音楽協会によばれ、リリスホールで純正律
のレクチャー・コンサートをやったが、ほぼ満員。しかも圧倒的な支持を受
け熱い興奮が伝わってきた。アマチュア音楽愛好者の集まりだったが、コー
ラスの人も多かったため純正律に関する興味と関心は非常に高かった。一緒
にステージに上がってくれた女声コーラスのプーラ・ボーチェは一切ビブラ
ートもなく、あの懐かしい小倉朗氏の「ホタル」が見事にハモり、ちゃんと
エコーの様にきこえたのがとてもよかった。このように最近のコーラスはビ
ブラートをかけない人達が増えてきた。とても良いことだ。二期会コーラス
や東京混声合唱団もぜひそうして欲しい。でないと、プロと称するコーラス
だけが濁りきった叫び合い集団になってしまうだろう。
 プーラ・ボーチェにはカノン(輪唱)の指導コーナーまでお付き合い頂い
て大変面白い会になった。

◎ピアノ系が抱く大誤解◎
 やや時間オーバーし質問コーナーをすっとばした為、終ってから沢山の質
問が文書で寄せられた。結果、純正律に対して一般の人達が陥り易い誤解に
1つの共通項がある事に気づいた。これは、いま私が行っている桐朋学園短
大の「純正律講座」でも同様である。そこで、詳しい方にはまたかと思われ
そうだが、おさらいの意味でも、その誤解を説明しておきたい。
 それは、ピアノという楽器への信頼感を打ち破る事に強い抵抗感があるか
らではないかと思われる。コーラス系からの質問は、どうすればよくハモれ
るのかといった自然なものだが、ピアノ系の人達の質問は、私が何度も説明
しているにもかかわらず「ピアノで純正律に調律できないのですか」とか、
平均律は大体ドビュッシー以降の百年間位の歴史しかなく、それ以前には様々
な調律の工夫があったと、ミーントーン、ヴェルクマイスター、キルンベル
ガーについてしつこく説明しているにもかかわらず、「ドビュッシー以前の
作曲家やピアニストは純正律だったんですね、じゃショパンの24の前奏曲
は演奏できないじゃないですか」という、なんかすがりつくような抵抗感が
返ってくる。

◎玉木版調律の歴史概略◎
知っている人には自明の理だが、もう一度私なりの調律の歴史の認識を書い
ておこう。
グレゴリアンからルネサンスの初期までは、ピタゴラス音律。そして、長3
度の協和を発見した頃から純正律(というか、転調がなければ純正調)に目
覚め、ピタゴラス音律用のオクターヴを12分割した鍵盤楽器とどう折り合
うかということから、初期のミーントーン(中全音律)が考案された。
 たくさんの調律法の中で、バッハはヴェルクマイスター第3を使ったとさ
れているという人が多い。またバッハ以前のピタゴラス的ポリフォニーから
脱却して、協和の響きを取り戻す為、ヘンデルはミーントーンに戻った。
 このヘンデルの明快さは圧倒的な影響を与え、モーツァルトは完全なミー
ントーン主義者だった。そしてベートーヴェンも初期はミーントーンだった
が、ヴェルクマイスターを改良したキルンベルガー第3を採り入れて、転調
を拡大していった。

◎キルンベルガー再評価◎
 私は自らコンピュータ上で確認しているが、キルンベルガーは一応全ての
調で演奏できる。平均律がはびこる以前は、作曲家、ピアニストの好みで、
色々な調律法が使われたと思うが、悪貨は良貨を駆逐するの喩えのように、
調律しやすい平均律によって、各調の微妙な色彩感がなくなってしまった。
 なんだか、栄区の人達の質問に対する回答のような中身になってしまった
が、たまには後ろを振り返るのもいいだろう。

【『ひびきジャーナル第6号』ネット版bに続く】

【『ひびきジャーナル第6号』ネット版aから続く】

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
■5■ 外科医のうたた寝☆その5   医者の不養生(2)
        福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

前回のあらすじ:突然の網膜剥離でK眼科病院に緊急入院、そして手術室へ
運び込まれたシンガーソング・ドクターだったが……。今回の“うたたね”
増量でお送りします。
  ★  ★  ★
 手術台に横たわり右目を固定されて麻酔薬を点眼された。視界にはぼ
うっとした光が見えるだけである。そしていよいよメスが入る。痛みは
ないが目を切られているという感触はある。切ったり縫ったりする操作
はなんともないが、時々目玉をぐいぐいと引っ張られるとなんともたま
らない今まで経験したことのない痛さがある。手術をしている眼科のド
クターも一生懸命にやってくれているのが伝わるので、こちらも同業者
としては「痛い、痛い……」と騒ぐわけにもいかずぐっと耐える。そし
て約1時間、腰が痛くなってきた頃、ようやく手術は終わった。

 手術のあとも地獄は続く……。右目には分厚い眼帯が巻かれ搬送用担
架で病室に戻り、2時間は完全に安静ということで仰向けにベットに横
になり寝返りも打ってはいけない。この2時間がとても辛かった。話し
相手はおらず、腰は痛い。残った左目でただ天井をぼうっと見上げるだ
けである。ようやく2時間が過ぎて安静解除になった頃、麻酔が切れて
きて手術をした右目をえぐるような激痛が襲ってきた。看護婦さんを呼
び痛くて堪らないと告げると、「先生に聞いてきます」と言ったきりな
かなか戻って来ない。しばらくして持ってきてくれたのはきわめて効果
の弱い痛み止めである。それを飲んだところで夕食が運ばれてきたがほ
とんど食べられず……。こんなこともあろうかとひそかに持参したもっ
とも強い痛み止めと、睡眠薬を飲んで強制的に眠ってしまった。

 辛い一夜が明けた翌朝、目の激痛はおさまりチクチクとする程度であ
る。看護婦さんが来て右目を覆う分厚い眼帯がはずされた。目は見えて
いるようであるが、鏡をのぞくとトマトジュースのように真っ赤な目で
ある。極力安静にしないといけないので、ベットに横になり片目で本を
読んで過ごした。
 手術から3日目、再発防止のため眼底にレーザーをあてる。全部で2
7発、目の奥になんともいえない鈍痛を感じてぐったりとしてしまった。
  ★   ★   ★
 その後は辛いイベントもなく、徐々に入院生活に慣れるにしたがって
今度は退屈でどうしようもなくなってしまった。ロビーにたった1台あ
るテレビは老人の入院患者に占拠され、常にNHKか時代劇である。病
院内に売店はなく食べ物、雑誌なども買えない。唯一の楽しみであるは
ずの食事は、これもとても辛い。玉木さんから電話があり、どうせ暇な
ら新曲のタイトルを考えてくれと云うのであれこれ10ヶほど考えた。
 (↑不採用)

 手術から6日目、ようやく近所のコンビニまで外出を許可された。1
週間の安静でおとろえた身体でふらふらと約200m離れたコンビニに
行く。そこには新聞、雑誌、食べ物、飲み物がいっぱいあり、お金さえ
払えば好きなものを手に入れることが出来るのである。「ああ、文明だ
……」と不覚にも涙がこぼれそうになった。

 手術から8日目、経過はきわめて良好と云うことで退院を許可された。
荷物を宅急便で自宅に送り、タクシーを呼び、感謝しつつ逃げるように
病院を後にした。
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

==============================================================

■6■ Letter Rack~会員の皆様からの投稿コーナー~

 ⇒『ひびきジャーナル』では、皆様のおたより、投稿等を随時
 募集しています。純正律に関する原稿だけでなく、CDやコン
 サート等の御感想、御意見等、どしどしお寄せください。おた
 より、投稿は、郵便、ファクシミリ、電子メール、いずれでも
 結構です。純正律音楽研究会事務局までお送りください(誌面
 の都合で文章に手を入れさせていただく場合がございます)。

《カウンターテナーと純正律――山田 浩仁》

 私は、昨年の春に玉木先生と「純正律」に出会いました。それまで、
言葉は知っていましたが、どういうものかあまりよくわかりませんでし
た。そして1年が過ぎ、再び玉木先生と出会い、今回寄稿させていただ
くことにしました。というのは、私は「カウンターテナー」(以下C・
Tという)という、現在では世界でも珍しい声質を持っているからです。
〓奥深いC・Tの世界〓
 俗にC・Tとは男性のテナーの更に高音域をファルセット等を駆使し
て歌う成人男子を指します。ですが、その歌唱法等は様々な方法があり、
その人物によって異なるので、これがC・Tの歌い方だとは一概に言え
ませんが……。
 中世のヨーロッパでは、キリスト教の「女子は教会では黙すべし」と
いう教えから、女性は舞台の上で歌うことが禁じられていました。そこ
で、教会の聖歌隊では、ソプラノ、アルトをボーイソプラノが担当して
いましたが、表現力や響きの乏しい彼らに代わって、アルトの部分を成
人した男性がファルセットで歌ったことがC・Tの始まりだそうです。
現在でもイギリスでは伝統的に受け継がれているそうです。途中、カス
トラート(変声期前のボーイソプラノを男性器を処理することで変声さ
せなかった者)の出現でC・Tの存在は影を潜めましたが、第二次大戦
後イギリス人カウンターテナーのアルフデット・デラーによって復活、
現在に至ります。日本では、「もののけ姫」で有名な米良美一さんが有
名ですね。もともと、歌が好きだった私がC・Tをやるきっかけとなっ
たのは、彼の存在を知ったからです。
〓C・T、その天国的な音域〓
 現在のC・Tは、宗教音楽に限らず、ドイツリートやロマン派以降の
もの等、中世のヨーロッパのC・Tとは音域やオペラの役所(やくどこ
ろ)等かなり変わってきていると思います。
 C・Tの声質は、男性の高音域とも女性の音域とも違う、どこか「天
国的な音域」にあると思います。私は、純正律のそれに近いのではと思
っています。現に、玉木先生が紹介して下さいました「キングスシンガ
ーズ」はもともとC・T2人、テナー1人――計6人で構成されている
グループ(結成当時)でその音楽は純正律に近い、いやそのものだと聞
いた記憶があります。ですから、私はC・Tは純正律音楽に適している
パートだと思うのですが……。
 まだ、未熟者の私なので純正律との関わりについて言葉がなかなか出
てきませんが、女性にも男性にもない魅力があると思いますので、興味
のある方は、CD等購入してみて下さい。私のお勧めは、「ヨッヘン・
コワルスキー」「デイビッド・ダニエルズ」「米良美一」です。
 私はまだ学生なので、そのうち皆さんのお耳に私の歌声が届けられる
よう、頑張っていきたいと思いますので、ホンの少しだけ期待していて
下さいね。           〈カウンターテナー/正会員〉

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW
■7■  純正茶寮                  玉木宏樹
     ――libera『luminosa』(WPCS-11100)ほか――

古今東西の純正律CDをレヴューする純正茶寮、ずいぶん御無沙汰して
しまいました。今回は玉木宏樹の担当でお送りします。久々という事で、
2枚分のレヴューをお届けしましょう。
***************
 今のところ、私がセミナーを開いた時、純正律の代表例としていの一番に
かけるCDがこの1枚、リベラの『ルミノーサ』だ。天国的にハモるボーイ
ソプラノの美しさはウィーン少年合唱団を優にしのぎ、同じ英国のボーイズ・
エア・コワイヤよりも純粋にきこえる。
 リベラの1枚目ももちろん素晴らしかったが、この1枚は、クラシックの
名曲を素材にしていることともあいまって、非常に格調が高い。
 また、1枚目では分からなかったリベラの正体が見えてきた。プロジェク
ト・リーダーは作曲家のロバート・プライズマン(1952~)。もともと
オルガニストとして、協会音楽に長年関わってきた人。彼のもとに集まった
少年の平均年齢は12歳とのことだが、その音楽性は12歳なんてものでは
ない。彼らの純粋な発声でこそ得られる高い音楽性は、世俗に染まった大人
たちには真似の出来ない世界でもあるだろう。
              ◆ ◆ ◆
 クラシックを素材にしたと書いたが、あくまで素材であり、いわゆる編曲
なんかではない。いろんな編曲シーンを経験した私でさえ、ドギモを抜かれ
た、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」の「水族館」。リベラの歌声で初め
て「水族館の神秘が味わえる。
 CDのタイトル曲でもある「ルミノーサ(聖なる光)」は、なんと、ドビ
ュッシーの「月の光」。私自身、何度も編曲をしているが、コーラス版は思
い付きもしなかった。というか、こんな程度の高い純度のコーラスは、日本
には存在しないからだ。しかし、最近、女声コーラスもノンビブラートの人
達が増えており、そのうち、リベラ級のコーラスの誕生も近いかもしれない。

INFORMATION

●リベラ『ルミノーサ~聖なる光』(Waner / WPCS-11100)
●RAMEAU『Orchestral Suites Vol.2』(NAXOS/8.553746)
 →Capella Savaria (on original instruments) / Mary Terey-Smith

#

■8■ こんな曲をデリバリー中!
    ~いよいよ始まった「純正律新曲定期便」

 もう、お聴きになりましたか?
 玉木宏樹の新たな挑戦、毎月、純正律の新曲をレコーディング→頒布
する「純正律新曲定期便」サービスがいよいよ始まりました。

 第1弾では、「サクラ変奏曲」「雪柳」の2曲をお届けしました。4
月ということで選ばれたこの2曲ですが、1曲目の「サクラ変奏曲」は、
満開の桜の木の下で繰り広げられる獅子舞のイメージだとか。玉木氏の
コメントは、「聴いてみれば、ただの変奏曲ではなかったでしょう?こ
の曲は実は5年前に作ったもので、私の最初のインディーズCD『光の
国へ』に収録する予定でしたが、他の曲との間に違和感があると言われ
て外した経緯がありました」とのこと。今回、定期便になる事で「幻の
名曲」が皆様にお聴きいただけるようになった次第です。

 2曲目の「雪柳」は、白く波うつように揺れて咲く雪柳の小道を歩い
ていく……そんな情景が浮かびます。

 既に第2弾の2曲もお届けが始まっており、今回も「リラ・ラ」「ザ・
カイト(凧)」の2曲入りです。

「『リラ・ラ』は特に意味はありませんが、5月の花はリラ(ライラッ
ク)でもありますね。また、“リラ”というのは、古来からの楽器の名
前でもあります」〈玉木談〉とのこと。多重のヴァイオリンが奏でる不
思議に懐かしいハーモニーを、LINDEN&HIROKIのヴォーカルが優しく
包みます。

「ザ・カイト(凧)」は「鯉のぼりよりも天高く飛翔するカイトのイメ
ージだそうです。シンプルなのになぜか癖になる1曲。

 また、6月始めにお届けする予定の第3弾では、なんとハードロック
が登場する予定。これからもジャンルにとらわれない新しい世界が展開
していく予定です。

 この「新曲定期便」は会員制ですが、いつからでも始められます。ま
た、過去便のオーダーもできます。また、この「定期便」の愛称を引き
続き募集しています。既にお聴きになった方も、まだの方も、素敵な名
前を事務局までお寄せ下さい。採用させていただいた方には6カ月分を
プレゼントさせていただきます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■9■ →→→純正律かわらばん

● 6月8日、久々の純正律音楽研究会ミニコンサート開催!

�定例の純正律音楽研究会ミニコンサートが6月8日(土)16:00~、
四谷のコア石響で開催されます。今回はリコーダー・アンサンブルと弦楽
四重奏、2つの純正律の世界をお楽しみいただく贅沢な企画。永六輔さん
もゲストで登場されます。詳細は事務局まで。

● 待望の玉木宏樹による弦楽四重奏編曲集刊行
 『名曲で弦楽四重奏』6月1日発売開始!

�以前から予告をしていた玉木宏樹編曲による弦楽四重奏編曲集『名曲で弦
楽四重奏』が音楽之友社から発売されます。通常は弦楽器以外で演奏される
小品ばかりを集めた待望の編曲集。玉木宏樹が長年続けてきた弦楽四重奏活
動のエッセンスがぎっしり詰まっています。玉木宏樹作曲の「プロローグ」
に始まり「子犬のワルツ」から「結婚行進曲」まで、“やってみたかったあ
の名曲”全16曲入り。定価3800円(税別)。全国の楽器店等でお求めくだ
さい。

● 好評の2台のヴァイオリン用名曲集、第3集発売中!

�水野佐知香&荒井章乃の母娘デュオでおなじみ、2台のヴァイオリンのた
めの編曲集『デュオで楽しむヴァイオリン名曲集』(水野佐知香監修、玉木
宏樹編曲)の第3集が音楽之友社から発売されました。東西の名曲に加え、
玉木氏が水野母娘のために作曲した「二人のフィドラー」をも収録した全14
曲入り、定価2000円(税別)。
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

■10■  @@@@@西麻布通信@@@@@

◆研究会のリニューアル、CD・新刊リリースと、事務局は怒濤の秋をおく

◆またしても随分な御無沙汰となってしまった“ひびジャ”ですが、その分
濃い内容でお届けします。また、速報性が求められる告知は『ピュア・ミュ
ージック通信』でこまめにお伝えしていきます。これからも宜しく御支援く
ださい。
◆「純正律かわらばん」でお知らせした『デュオで楽しむヴァイオリン名曲
集』、お陰様で大好評。こういう室内楽曲集ってありそうで無かったですよ
ね。実はこの曲集、ヴァイオリン以外の木管楽器等の人々の間でも売れてる
らしいです。そういえば先日のイベント物販でもサックスの方が購入されて
いました。なるほどー。

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
とりあえずいちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
  URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
*ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会の
 オフィシャル・ホームページ、仮営業中!!
 http://www.pure-music.ne.jp
 各種純正律情報だけでなく、会報バンクナンバー等、アーカイヴも一部公開中
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

ひびきジャーナル 第5号

玉木宏樹 金子健治 黒木朋興 峰咲マーユ 田村圭子 福田六花(2001年12月7日発行)

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会会報
『ひびきジャーナル』  【創刊第5号】
2001年12月7日発行

編集/発行:ピュア・ミュージックサロン/純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
※本誌ネット版は『ひびきジャーナル〈正会員版〉』を基に別途編集してネット会員の方に配信しております。
※(C)純正律音楽研究会  禁無断転載
 転載等、二次的にご使用になる場合は、必ず事前に純正律音楽研究会事務局まで御一報ください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

<<今号の内容>>
■1■玉木宏樹の“この人と響きあう” 第5回
                     リコーダー奏者 金子健治さん
■2■ムッシュ黒木の純正律講座 第5時限目
   「純正律」が届くまで     黒木朋興
■3■天国的純正律音楽入門 第5回    続・ビブラートの正体について
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
■4■癒しの現場から――陽幸堂 峰咲マーユさんにきく(3)
   もう一度子どもになってみよう!             田村圭子
■5■外科医のうたた寝☆その4 医者の不養生(1)
          福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家) 
■6■CD REVIEW [[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]  黒木朋興×玉木宏樹
   Trio Patrekatt『Adam』(xource/xoucd 119)
■7■Letter Rack~会員の皆様からの投稿コーナー~
■8■純正律かわらばん→玉木新著『純正律は世界を救う』12月20日発売に!
■9■西麻布通信

レアな純正律情報満載のピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会の公式ホームページが、いよいよ近日オープンします!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#

■1■ 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第5回――
    「情けない音」に秘められた純正律の底力
                  リコーダー奏者 金子健治さん

#

純正律の強力な味方現わる! 古楽から現代曲まで純正律で自在に表現する東京リコーダーオーケストラを率いるリコーダー奏者、金子健治さんの登場です。玉木氏は以前より、金子さんの活動のひとつである、全員が竹で作った楽器を使うアンサンブル「竹鼓舌(チコタンと読む)」をよく知っており、玉木氏の、天台宗声明とのコラボレーションアルバム『AMINADAB』(日本コロムビア)にも参加してもらった旧知の仲。打てば響く純正律の使徒達の会話とは?
          ―― ―― ―― ―― ――
玉木:こんにちは。ごぶさた。今日はまず、あなたのリコーダーアンサンブルのCDを聴きたいんだけど。〈東京リコーダーオーケストラの『Sevilla』というCDをかけ始める。玉木、1曲聴くなり、感動と驚きの言葉の連続〉
玉木:ね、これって本当にリコーダーだけの演奏なの? まるでポジティブ・オルガン(持ち運びのできる卓上オルガン)みたいな響きがしているけど。
金子:全部リコーダーですよ。
玉木:うわー、このすごい超低音も?
金子:そうです。2メートルぐらいあるコントラバス・リコーダーです。
玉木:〈何曲聴いても感激のためいき〉いやあ、実によくハモっている。これ
こそ、純正律の極致。
金子:リコーダーは、ちゃんとハモらないと、いやな差音が出るんです。
玉木:リコーダーって本来、かぼそい音なんだけど、すごい音圧出てるね。
金子:そうなんです。リコーダーなんて1本でメロディ吹いていてもあまり面白くない。それが何人かでハモった瞬間に、音がすーっと前に出て行って、すごい大きな音になる。響き合うとすごい力になります。
玉木:〈玉木、ヴァイオリンを取り出し、四弦奏用の弓で演奏を始める〉ね、この弓、毛がダブダブだから弦を4本いっぺんに奏けるの。でも、あんまり圧力かけられないから決して大きな音はしないんだけど、こうやってハモると………ホラ!
金子:ほんとうだ。すごい大きな音がする。〈しばらく玉木の演奏があった後でCDライナーの写真を見せながら〉あの、この2メートルのコントラバス・リコーダー、見た目がすごいでしょう。だから、楽器紹介する時なんか、どんなすごい音かとみんなが期待するんだけど、これ1本だけで演奏すると「ヘェェ~」っていう全く情けない音色で、みんなにガッカリされる。でもね、そんな情けない音の上にハモったコードが乗るとね、ものすごい力を発揮するんです。ほんとうに、あの楽器こそが、純正律純正律で響き合った時の力の証明みたいなものですね。
玉木:なーるほど。すばらしい話だ。金子さんは、こんなにすばらしい世界を実践しているのに、もっとみんなに知ってもらわなきゃ。
金子:でも、リコーダーの世界なんて狭いですから……
玉木:だから、リコーダーの世界に閉じこもっていてはダメなんだよ!!
金子:はあ。〈玉木の挑発にも直接のらず、常に温厚でおっとりしている〉
玉木:ところで、ハモる練習なんて、どうしてるの。
金子:まず、2人で完全5度をとって、3人目が「ミ」の長3度を吹く。そして、だんだんハモるようになったら、何度もカノン(輪唱)をやります。
玉木:〈我が意を得たり、とばかり〉そう! それだよ。僕がいつも合唱の人たちに言ってることと全く同じ。カノンこそが一番の練習。嬉しいね、僕と同じことを実践している人がいるなんて。
金子:僕は、合唱もやってましたから。
玉木:失礼だけど、金子さんはどういう経歴なの。
金子:僕は尚美で、指揮科です。
玉木:楽器はなに?
金子:もともとはトロンボーンやってたんで、ノンビブラートの楽器がハモらないと悲惨なのは分かっていました。
玉木:〈ここで、シスターン・チャペルのCDをかける〉このCDね、40秒もナチュラル・エコーのある場所で、トロンボーン10人がハモる練習をしてる。1人でも音程を外すと、それが40秒残っちゃうからみんなの迷惑になる。
金子:このCDはすごいですね。
玉木:残念だけど、もう手に平らない〈←実に自慢気〉。ところで、金子さんはそれからどうやってリコーダーに行ったの。
金子:リコーダーには元々興味を持ってたんだけど、合唱の指揮なんかもやっているうちに、リコーダーでハモってみようと思って始めたのが、今のアンサンブルです。
玉木:いやあ、実にいいアンサンブルだよ。もっと広めなきゃ。僕も協力するよ。今度ぜひ、うちのミニコンサートに、ゲストで出演してもらえないかなあ。
金子:はい。喜んでやります。
玉木:話変わるけど、小学校ではリコーダー教えてるよね。あれについて、何か言いたいことある?
金子:学校用のリコーダーって、プラスティックなんですね。それで、みんなバカにしてるけど、プラスティックという材質は、実はすごく安定していて、リコーダー向きなんですよ。うまく吹けば、黒檀とか総象牙にも匹敵するくらいのいい音がする。
玉木:でも、先生がちゃんと演奏法を教えられないから、みんなバカにしてるんだよね。
金子:リコーダーというのは、まず、1つの音をいかにまっすぐ吹くかという練習をしなきゃいけないんです。
玉木:声だって、管楽器だって、みんな横隔膜の訓練をするんだもんね。
金子:そうなんです。そういう基本を教えないで、みんなが勝手に同じメロディ吹いたってしようがない。
玉木:そういうことをみんなに知ってもらわなきゃ。
金子:実は、僕も講師やってるんですけど、最近、カルチャーセンターでリコーダー講座が大流行りなんですよ。
玉木:じゃ、金子さん、儲かってるんだ。〈そしてこの後、同席していた当研究会事務局長の馬場氏と玉木、金子さんとで、対談の続きと称して飲み屋へ〉
**************
【玉木からのひとこと】
 NHK教育テレビで「ふえのおじさん」(失礼、おにいさん)として有名な金子さんの本職、リコーダーは、純正律で吹かないと、身体に悪い楽器である。今回金子さんと話してみて、つくづくそのことを実感。そして、彼の純正律追及への熱意には頭が下がる思いがする。        〈文責:玉木宏樹〉

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■2■ ムッシュ黒木の純正律講座 第5時限目
「純正律」が届くまで                  黒木朋興
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 音響現象こそ自然の中に刻み込まれた幾何学に他ならない、というラモーの主張は、やがて、数学という学問が他の科学の基礎となっているように、他の諸芸術に対して基盤となるべき法則を提供するのは、その数学的理性を最も体現する音楽に他ならない、という見解にたどり着く。更にいえば、理論面での説得力を有すると同時に感覚に訴えかけることもできる音楽は、数学を凌駕し、すべての科学の規範となるべきである、という一種「神学」的な見解にも繋がりうることを指摘しておきたい。
 そしてラモーは、バス・フォンダモンタルと和音転回の理論の確立により、旋律をはじめとするすべての音楽現象を独自の「幾何学的」和声体系に還元し、近代和声学の礎を築くのである。

◆独・英学者台頭の時代◆
 このような和声学はやがて19世紀のドイツに受け継がれ、リーマンが機能和声の理論を確立する。
 一方フランスはこの時期、音楽に関してはいわゆる停滞期に入るのに対し、さらにドイツでは、医師、生理学者、物理学者の肩書きを持つヘルムホルツが『音感覚論─音楽理論のための生理学的基礎』(1863)を記すに到る。ヘルムホルツはこの著作の中でreine Stimmung[純正律]の美しさの重要性を強調しているわけだが、彼の弟子には「純正調オルガン」を作成した田中正造氏がいるということを指摘しておく。このヘルムホルツの仕事を受け継ぐのが、『諸民族の音階』(1885)という書物によりセント法を世に広め民族音楽学に多大なる功績を残したイギリス人、ジョン=アレクサンダー・エリスである。彼の功績はヘルムホルツの著作を英訳した(1875)ことにあるわけだが、特に増補改訂第2版(1885)はより多くの世界に広まり、現在の日本においても「調律技術者の必携書」として大きな影響力を保ち続けている。
 さて、このエリスであるが、彼はこのreine Stimmung[純正律]に対して、just intonationという訳語を当てている。ここで、フランス語の学術書において純正律を指すintonations puresやgamme naturelleという表現に英語のjust intonationのことであるという但し書きが付いていたことを思い起こしておこう。すなわち、自然倍音列という現象自体は17~18世紀のフランスにおいて綿密に観察されたものであり、その意味でメルセンヌ、ラモーといったフランス人の手によって純正律研究の礎が築かれたことに疑いはないが、純正律という言葉自体は19世紀のドイツで脚光を浴び、その後ドイツ語の著作の英訳を通じて世界に広まった、ということが言えるのである。

◆そして音楽も自立する◆
 フランスから発し、ドイツ、イギリスを通じて世界に広まるというこの図式に関して言えば、純正律の問題に加えて、「絶対音楽」の理念について語っておくことも決して無意味なことではないだろう。簡単に言えば、西洋キリスト教文化においては長い間、音楽をあくまでも詩に従属したジャンルと見なしていたのに対し、そこから「言葉=テクスト」から切り離し独立したジャンルと認めようと言うのが「絶対音楽」の理念である。既に見たように、ラモーが音楽とその和声論にすべての学芸の規範となるべき法則を見出していたことを考えれば、そこに音楽の自律という「絶対音楽」の理念の萌芽を見て取ることも可能だろう。しかし彼が最も作曲に心血を注いだのは「叙情悲劇」というフランス固有のオペラであった。そしてこの「叙情悲劇」に対立する概念がラシーヌに代表される「古典悲劇」であることを考えれば、ラモーの活動はあくまでも文学の領域に留まるものと見なされる、ということを指摘しておく。
 いずれにせよ、17~18世紀にフランスで培われた音楽文化が、現在の我々のもとに届くには、1回、ドイツを経由しなければならなかったのである。

************************************
■3■ 天国的純正律音楽入門 第5回
    続・ビブラートの正体について
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************
 クラリネットは大体、1700年頃発明(というか古楽器の大改良)されており、種々の改良を経て、モーツァルトの後期の交響曲(特にNo.39)にも取り入れられ、また、モーツァルトの代表曲として、クラリネット協奏曲、クラリネット五重奏がある。モーツァルトの後期は、クラリネットと共にピアノフォルテのチェンバロ(ピアノの前身)も登場し、ベートーベンへと受け継がれ、音楽の在り方が激変する。
 ところで今、古楽ブームがあり、モーツァルト・チューニングとして、今よりも約半音低い音程でのアンサンブルが流行っている。そのアンサンブルは、原則的にはソロ以外はノンビブラートである。
 パガニーニ時代のヴァイオリンは、ソロでさえノンビブラートだったらしい。ヴァイオリンのビブラートが一世を風靡したのはサラサーテの登場以来といわれている。

◎昔気質の新人・クラリネット◎
 さて、リード系の木管楽器の場合、オーボエもファゴットもどちらかといえば音程がふらつき易く、特にフルートは音程が安定しにくい。モーツァルトはフルートの曲も残しているが、内心、フルートは音程が悪いから嫌っていたようだ。ハモることを前提にしていた古典派の演奏で、オーボエやフルートをノンビブラートでハモるのはなかなか難しい。そこへさっそうと現れた新楽器クラリネットは、その音色のせいもあって、ノンビブラートでハモった時がすばらしく美しい。だから、一番よくハモる楽器として登場して以来、ずっとその伝統が受け継がれてきたのではないだろうか。
 もともと音程の不安な複リード楽器はビブラートに頼るようになり、昔のようなハモりの響きが失われていったのが現代のオーケストラであり、その中にあって未だに頑固にハモりを主張して新しい楽器なのにコンサバになってしまったのは大変面白い。
 話は変わり、ビブラートには2種類あるのはお分かりだろうか。たいていのビブラートは、確固とした基音の音程があり、その基音を中心に、上下に音程変化をさせる方法。弦楽器、フルート、方法論の特殊なものとしてビブラフォンやエレキピアノもこの部類。昔、ハモンドオルガンのビブラート用にレスリーというエフェクターがあったが、これは実は扇風機であり、羽の回転によりディレイのかかった音程変化が得られる。原理的にはビブラフォンと同様である。ところが、基音のないビブラートがもう一種類。それはブラス系のビブラートと人間の歌声のビブラート。これは確固とした基音はなく、ある幅で、基音と思われる音の周辺のをはっきりと音程変化させている。なかなか説明するのは難しいが、トロンボーンのようにスライド式の楽器のことを想像すると分かっていただけると思う。人間の歌声がまさにこの方法であり、オペラアリアのトリルなんか、ビブラートを激しくしただけのことであり、あまりビブラートとの違いははっきりしない。なんとなくビブラートの幅が多くなっただけのようでもある。

◎歌声のようなvln二胡奏法◎
 ところで、同じ弦楽器でも中国の二胡という胡弓のビブラートはヴァイオリン族とは全く違い、歌のビブラートと同じように音程変化で表現する。二胡にはもともと指板がないので、安定した音程を作りにくいが、弦を深く押さえることによって音程は高くなる。だから二胡のビブラートは弦の押さえ方の強弱で表現する。ギターでいえばチョーキングであり、シタールも全く同じである。
 私は自分のヴァイオリンで二胡風のビブラート奏法をするが、これは左手の一本指だけで演奏する。音程の上下関係でかけるビブラートはほとんど二胡風で、全く、ヴァイオリン的ではない。
私はある時、ソプラノとのデュオの仕事があり、このビブラートを使ったところ、ソプラノが2人いるように聞こえた。ヴァイオリンが一番人間の声に似ていると言われるのには、このような演奏方法をしないと分からないのである。

■4■ 癒しの現場から ――陽幸堂 峰咲マーユさんにきく その3――
    もう一度子どもになってみよう!
                             田村圭子

  純正律音楽研究会の皆さんにはおなじみ、峰咲マーユさんのお話の3回目をお届けします。前回、マーユさんの多彩な活動の一つである「音」への取り組みについてお聞かせいただきました。今回は、現代に生きる私たちへ向けたマーユさんからのメッセージです。

☆音色のあふれる絵画☆
 前回、「音が出す波動で血液がキレイに→痛みがとれて愉快に→みんながイキイキ→景気回復」という事、そして自分で自分の身体は治せるんだという自信を持つことが大事だということを伺いました。このように、音が人間にもたらす様々な効果について研究・実践をなさっておられるマーユさんは、よく絵をお描きになる方でもあります。
 CD『第3の夢』のジャケットに使われたペガサスの絵も、マーユさん御自身の手によるもので、実物は畳より大きな作品でした。お話を伺った際に、マーユさんの絵画作品も何点か拝見させていただいたのですが、まず感じたのは、どれもキャンバスから「音」が聞こえてくるような作品だなあ、ということでした。

「私が絵を描く時は、まず、先に音が持つイメージあって、それらが形や色に変化して、私の前に現れてくる、それを描くんです。それは、いわゆる音楽だけじゃなくて、風の音とか人の話す声、全ての音からイメージが浮かびます。例えば、今話している田村さんの声からは、そうですね、深い森の中でひっそりと生えているキノコの様子が浮かんだりします」〈峰咲マーユさん〉

 聴くことと見ることの深いつながりを改めて実感させられるお話です。感覚の重要性が、筆者が想像していた以上のものであることがだんだんわかってきました。しかし、私達の身体は全ての部分がつながって、バランスをとりあってできているものであるならば、今の時代の私たちを取り巻く劣悪な環境が、身体に影響を与えないわけがありません。こんな時代、私たちはどうやって生きていけばよいのでしょうか。

☆知識が体調を損ねる☆
「私たちが本来持っている感覚を呼び戻すことです。先に、現代人は知識で生きていると言いました。でも、知識がかえって具合を悪くさせることもあるんですよ。例えば食べ物ひとつとっても、犬なんかは臭いをふんふんと嗅いで、悪いと思ったら食べない。犬はね、臭いを嗅いで、鼻で舌で臭いで味わってるんですよ。で、これはまずいと思ったら食べない。人間も本来そうだったんです。子供なんかにはそういう子、いますよね。先日きいた話ですが、ある子ど
もが『このイカ要らない』って言っていたと。親が、食べなさい、というと『イカが黒いからヤダ』っていう。でも親が見ると黒くない。で、親は食べた。その子は嫌がって、いくらすすめても食べないから放っておいたら、親はその日の晩からものすごい下痢をしておなかを壊したのにその子ひとりだけ元気だったんですって。だから子供って、そういう、感覚が強いんじゃないでしょうか」

 よく、3歳ぐらいまで、子供は動物の状態だと言われます。幼児はたしかに「知識」を持たず感覚にのっとって生きています。現代に生きる私たちは、技術の「進歩」と情報の蓄積のお陰で便利な生活を手に入れ、引き換えに、本来持っているはずの感覚を失ってしまったように見えますが。

「感覚は衰えてますよね。でも、なくなってるわけじゃないです。だから、訓練するとまた戻ってくるんです」

 そう言っていただけると少し光明が射してきたような気がします。でも、例えば筆者のようにあまり若くもなく、また東京の騒がしくて情報が溢れ返っているようなところに住んでいても、取り返しがつくのか、まだ不安です。

「感覚は取り戻せますよ! こういう時代に生きていくんですから、不衛生で環境の悪い中でより楽しく生きるのが人間の強さですよね。だけど、環境が悪いからとか、アレルギーを気にしたり、あんまり構いすぎてどんどん弱くなっていってるということはあります。ドブネズミなんか、人間から見れば不衛生な中でも悠々と生きてますよね、難無くたくさん子供産んで。子供産むったって、産婦人科もないんですよね、ネズミや犬の世界って。なのにたくましく生きている。人間は『黴菌が入る』って『衛生的な』ところで大騒ぎして子供を産む。実はね、『お産が痛い』という知識、『汚いのは、病気になる』という知識で病気になっちゃうんですよね。子供は知らないから、その辺の落っこってるもの食べてるじゃないですか(笑)。大人になると、『これには黴菌がついている、うわーっ』て思うから、それを食べたら『あーっ、食べてしまった』と思って病気になるんです。子供は知らないから、美味しそうと感覚がとらえれば食べちゃう。だから、知識の有無で、感覚の衰え方はずいぶん違ってきますよね。子供は落ちているものを食べるといっても、これが本当に自分にとって悪いものだったら食べないです。まあ、小さなネジや乾電池のんじゃったというのは、現代的な興味からですけどね。だから情報や知識だけに頼らず、自分の感覚を意識していけば、取り戻すことは十分できますよ。たとえ80歳になっていても大丈夫、できるんです!」

 なるほど、大自然の美しさにふれたり、美しい響きにつつまれること、それは、ただ単に、安らぎを得るためだけではなく、自分の身体を知り、自分の感覚を研ぎ澄ますことへとつながり、ひいては「よく生きる」ことへとつながっているということがよくわかりました。そして、純正律はそんな私達の強い味方になりそうです。
 なんだか、荒廃した現代にあって、生きる自信が湧いてくるようなお話が伺
えました。                           【了】
★陽幸堂――Tel. 03-3235-7535
      東京都新宿区市ヶ谷本村町3-26ホワイトレジデンス9-B

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
■5■ 外科医のうたた寝☆その4   医者の不養生(1)
        福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 突然入院することになってしまった。しかも手術付きである。1ヶ月程前から右目の視野のはじっこがなんだか欠けるような気がしていたが、急に見えなくなってきた。同じ病院の眼科医に診てもらったところ、なんと網膜剥離と診断された。なるべく早急に手術を受けないと失明する危険があると云うので慌てて荷物をまとめて、紹介された〈K眼科病院〉と云う眼科専門の病院に入院した。
 毎日病院で働いているが入院するのは初めてのことであり、少々戸惑いつつも興味津々である。部屋に案内されるとパジャマに着替えて、スリッパに履き替え、コップ、タオルなどをサイドボードに並べてからベットにゴロッと横になってみる。数日前まではトライアスロンの大会に向けてバリバリにトレーニングをしており、体力には絶対の自信を持っていたはずなのに、こうして病室に横になると妙に心細くなってきた……。と感傷に浸るまもなく、次々と看護婦さんが部屋にやってくる。明日は手術であるから血圧を計ったり、心電図を取ったり、入院承諾書〈入院費は決して踏み倒しませんと云う誓約書〉、手術承諾書〈失敗しても文句は言いませんと云う誓約書〉を書かされたり。やっと終わったら夕食を食べて、目薬を差してすぐに眠らなくてはいけない。
 翌日はいよいよ手術である。朝から目薬をやたらに差して午後一番で手術室へ行く。ストレッチャー(搬送用担架)に横になり点滴を刺していよいよ手術室へ。10数年間にわたって、毎週毎週患者さんのおなかを切るために手術室には入っているが、自分が切られるのは初めてでありとても妙な気分である。右目のところだけ穴の開いた滅菌シートを全身にかけられ、目の周りを入念に消毒され、麻酔薬が点眼されていよいよ手術である。
                   【以下次号に続く、乞うご期待】
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW
■6■  純正茶寮             黒木朋興×玉木宏樹
     ――Trio Patrekatt『Adam』(xource/xoucd 119)――

祝・復活! 今号は黒木朋興氏担当でお送りする純正茶寮です。氏がフランス在住のため以前のような黒×玉コンビの対話形式ではお届けできませんが、玉木氏によるコメントも付けてみました。
***************
今回のTrio Patrekattは、第1回に続き、またスウェーデンのグループです。というのも、第1回目で紹介したROSENBERGS SJUAのCDでセロを弾いていたミュージシャンがこのグループにも参加しているからです。ROSENBERGS SJUAがきれいなハモった歌声を聞かしてくれていたのに対し、今回のは完全なインストです。
で、このCD『Adam』で面白いのは、他の2人が弾いているニッケルハルパというスウェーデンの民族楽器です。音色はヴァイオリン、フィドロ系の擦弦楽器ですね。ところが皆川達夫監修『楽器』(マール社、1992)を見てみると、弦楽器のページではなくて機械楽器のページにハーディ・ガーディなんかと一緒に紹介されている。音高を決めるのはハーディ・ガーディと同様に鍵盤を使って機械的に弦を押さえるんですが、弦を擦るのにはハーディ・ガーディが機械になっているのに対し、ニッケルハルパはヴァイオリンのように弓を使わなければならないんです。
              ◆ ◆ ◆
ちょっと聞く限りはフィドロのように聞こえるんですが、よく聞いてみると、鍵盤を押さえるかちゃかちゃいう音が入っているでしょ。僕が面白いなぁと思うのはね、つまり、ヴァイオリンみたいにフレットレスの楽器は純正律に向いていて、ギターやピアノみたいにフレットがあったりして音高が固定されている楽器は純正律に向かないって信じている人、割と多いんですけど、この程度の曲をやるんだったら、別に無理して平均律に調律しなくても、使う調を限定してやれば十分ハモリのきれいな音楽ができるってことですよね。
純正律では音楽的に幼稚なものしかできないって迷信がありますけど、この程度で十分だと思うし、僕なんかからすれば、このCDでも音楽的に随分高度だなって感じるんですよ。だったらね、巷に流れている音楽の9割以上が工夫次第でハモリを追求できるんじゃないかって。
何もドデカをことさらに悪く言う必要もないとは思いますが、ドデカをやるんじゃないんだったら、別に無理して平均律にしておく必要なんかないですよね。音大の人ってなんか「複雑な転調すること=音楽的に高度」って考えてるような気がするんですけど、僕はね、転調なんかしなくたって十分面白い音楽作れると思うんです。
               ◆ ◆ ◆
あ、別に転調しちゃいけないなんて思ってないですよ。ボサノバ好きだし。で、玉木さん、このCDお聴きになって、どの範囲で調が制約されてるってわかります? 僕は個人的に12曲目の「FARDEN」が好きです。倍音がきれいに響いてるでしょ。これってどういう弾き方してるんですか。
          ***************
~~comments from Mr. TAMAKI
あの楽器は実に不思議で、見事な純正律でハモっています。調律は多分、ソレソレのGチューニングだと思います。コード進行が単純な分、とてもスリリングなリズムの速奏きフレーズが感動ものです。No.12の曲の奏法は、ヴァイオリンの駒の近くを奏くことによって、高倍音、時にはガラスを引っ掻いたような音も出ます。これはイタリア語でスル・ポンティチェルロといい、我々は「スルポン」と呼んでいます。現代音楽に多く使われています。多分、ギターにも、特にエレキの場合なんかに、似た奏法があったような気がしていますが。

INFORMATION

 Trio Patrekatt『Adam』(xource/xoucd 119)

#

==============================================================

■7■ Letter Rack~会員の皆様からの投稿コーナー~

  ⇒この号から、会員の皆様からのおたよりや投稿を御紹介するコーナーを設けました。皆様の声を研究会宛にお寄せください。テーマ、内容によっては、独立した原稿として掲載させていただくこともございます。本誌末尾の宛先までどしどしお寄せください。その他、御意見、御提案等もお待ちしておりますので、随時お寄せ下さい。

《Smooth Jazzはいかが?――酒井善樹》
正会員の酒井と申します。今回、Smooth Jazzについて御紹介させていただきます。
http://www.aquarianwave.com サイトでおなじみの方々もおられると思います。
Smooth Jazzは、Jazzの中でもとりわけハモリや美しいメロディーを意識して作られる音楽で、純正律音楽とも密接な関係があります。これからこのジャンルの音楽を聴いてみたい方向け、おすすめCDの紹介、作編曲/演奏などされているプロ/アマの方向けに、Smooth Jazzの音楽技法や定期的に集まってワークショップなどを私のウェブサイト連動で行っていこうと思っています。
ご希望など、ぜひお寄せください。
●いまお薦めのSmooth Jazz
 Peter Whiteの新譜『Glow』(SONY)
●酒井善樹さんのサイトはこちら
  http://www.aquarianwave.com

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■8■ →→→純正律かわらばん

●玉木宏樹新著、満を持していよいよ刊行
 『純正律は世界を救う――身体にいい音楽、悪い音楽』
 12月20日発売開始!

�お待たせしていた玉木宏樹新著が、12月20日に、その名も『純正律は世界を救う』と題して刊行の運びとなりました(文化創作出版刊)。うるさい音楽を根本から覆す純正律の普及を願って、調律の歴史と理論を真摯に掘り下げるとともに、日本の音環境の改善に向け真正面から提言を行っています。執筆も佳境に入った9月11日、あのニューヨークのテロ事件が起こりました。たかが音楽、されど音楽。いったんは無力感に襲われながらも、玉木氏は純正律の音楽は人々に安らぎと生きる力を与えることを確信し、本書が完成しました。前著『音の後進国日本』以後、先進国になれたとはとても言えない状況ですが、駅メロ騒動の後日談やヒーリング効果の側面、ネット時代の音楽の未来と著作権問題など、日本の音と音楽について考えなければならない問題を歯切れ良く捌きます。
「第4章 純正律の歴史と19世紀の調律のことなど」の章では玉木氏の純正律への拘りの原点がつぶさに語られ、一気にひきずり込まれます。より多くの方に純正律音楽に触れていただくための強力な1冊です。
              〈純正律音楽研究会事務局長・馬場英志〉
――――――――――――――――――――――――――――
 ※リニューアル・キャンペーンで御予約を頂いた皆様、大変お待たせしまして申し訳ございませんでした。刊行次第、いち早くお届けいたしますので、お楽しみに。なお、『純正律は世界を救う』は全国の書店でお求め頂けます。店頭に無い場合は取り寄せてもらえます。(送料がかかりません)
 また純正律音楽研究会でも通販を承ります(ネット会員割引あり)ので、どうぞ御利用ください。
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

■9■  @@@@@西麻布通信@@@@@

◆研究会のリニューアル、CD・新刊リリースと、事務局は怒濤の秋をおくっております。『アポロンのたわむれ』はいかがでしたか? CDもいいのですが、四弦奏ヴァイオリンの威力を知るならやっぱり生。その破壊的ともいえるパワーに圧倒されます。ミニコンサートや「土曜のお茶会」等で是非、そのすごさを体感してください。
◆11月24日のピュア・ミュージック・サロン「土曜のお茶会」は満員御礼。玉木氏の演奏をはじめ、最新純正律CDを聴いたり、みんなでカノンを合唱したり、ドクター六花氏のオリジナルソングも聴けたり、あっと言う間の2時間。最近はすぐ御予約がいっぱいになってしまうので、お早めのお申し込みをおすすめします。
◆レアな純正律情報満載のピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会の公式ホームページが、いよいよ近日オープンします!

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
とりあえずいちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
  URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
*近日オープンのピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会
公式ホームページに御期待ください。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

ひびきジャーナル 第4号

玉木宏樹 水野佐知香 黒木朋興 峰咲マーユ 田村圭子 福田六花(2001年5月11日発行)

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』  {創刊第4号}
2001年5月11日発行

編集/発行:純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

萌える若葉の緑が目にまぶしい季節となりました。
みなさま、ますます御清祥のこととお慶び申し上げます。
毎度のことながら超不定期刊となっている当研究会の会報ですが、ようやく第4号が出来ましたので、お届けいたします。
2001年に入ってからも、新作CDの発表~ヤマハホールでの拡大版コンサート、小さなお茶会等、既に研究会としては様々な活動を展開してきております。
また、取材等を受ける機会も増えており、純正律への認知が確実に多方面へと拡がりつつあることを感じます。これもみなさまのお力添えあってのこと。
みなさまの御意見を吸収し、さらに発展させたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

                     純正律音楽研究会代表 玉木宏樹

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#

――玉木宏樹の“この人と響きあう” 第4回――
 ヴァイオリン奏きは天才である!
                  ヴァイオリニスト 水野佐知香さん

#

今回のお相手は、ソロからオーケストラ、古典から現代曲まで幅広く御活躍中のヴァイオリニスト・水野佐知香さん。最近では、娘の章乃さんと共演したヴァイオリン・デュオCD『母と娘とヴァイオリン』(編曲はもちろん玉木宏樹氏)で皆さんにもおなじみですね。同じヴァイオリン奏き同士、息の合ったふたりだからか、始終笑いと歌声(ここで再現できないのが残念!)に満ちた対談となりました。さて、おふたりの語るヴァイオリン奏きの悩みとは。

玉木:先日はお疲れさまでした。
水野:いえ、どういたしまして。タンゴって初めてやらせていただいたんですけど、お陰でいい勉強させていただきました。
玉木:これは会報に載せる対談なんで純正律に関することもお尋ねするんですが、日頃はヴァイオリン奏く時に平均律だ純正律だって意識することあまりないでしょ?
水野:ないですよ。ただ、ヴァイオリンという楽器は平均律っぽく音をとらなきゃいけない部分もあって、ピアノなんかと演る時には、やっぱり平均律気にしながら純正調にとれればいいなっていう思いはあるんですけど。
玉木:その辺、辛いところがあるんだよね。でもそれがすごい重要な点。「純正律がああだこうだ」と理屈で言っても始まらないんで。
水野:そうですね。でも今回のバッハのガヴォットとかはすごくよかった。
玉木:自分でアレンジしてても、こんなに見事に純正律はハモるものか、とね。ヴァイオリン2人だけだと聴き合わせて奏けるじゃない。2人でピタッとハモった空間でバッハなんか演奏すると、もうそれだけで純正律になるんだよね。
水野:私もう、1人で奏きたくないんですよ、どの曲も。自分のパートを弾いてると章乃の音が聞こえてくるような気がして寂しくて。そうやって聴き合うっていうのは、自分の音程が間違ってたらハーモニーも濁るってことだから、今回の楽譜になった曲も、ヴァイオリンをやる人にとってはとても勉強になるんじゃないでしょうか。この楽譜ね、マンドリンやフルート、オーボエ、クラリネット、ヴィオラとかチェロでも使えるの。そういう意味では純正律の勉強もできるんじゃないでしょうかね。
玉木:聴き合ってやらないと気持ち悪くなるんだ。特にバッハのガヴォットみたいなのはね。あれはもともと悲鳴の出るほど難しい曲だしね。大体、ホ長調なんてさ、ヴァイオリン奏きにとっては地獄みたいなもんだからね。G線のD#がすごいイヤなんだよね。
水野:そうなんです。この間レコーディングの時、D#を低めにとってて、ぴったり合ってたんですけど、今回はちょっと高めにとった方が合ったんですよ。これは調子にもよるんでしょうかね?
玉木:お互い聴き合わせていれば、いつも融通無碍にハモる音程とれる。コーラスもそうだからね。
水野:そういう意味では純正律でとってると耳の発達って違うんじゃないですか?
玉木:本当のハモりを身に付けないとね。今の教育ってピアノの音程だけが正確とか教える傾向あるじゃない。コーラスだってピアノの高いミの音を押し付けててハモるわけない。
水野:私、それ、ちっちゃい頃から悩んでたことなんですよ。
玉木:ヴァイオリン奏きはみんなそれで悩む。悩まないでそのまま放棄しちゃうのがほとんどだけどね。
水野:口で言っててもどうしようもないですもんね。
玉木:そういう意味で、こういう楽譜とかCDが広まっていけば、自然発生的に純正律が認知されることになるかなと。僕が1人で運動してる時にはあれこれ理屈を言うけれど、ヴァイオリン2本でハモってる分には理屈がないからね。

☆ヴァイオリンなら融通無碍☆

玉木:ちょっと難しい話になるけど、3月12日は「純正律のコンサート」ということで、後半はピタゴラスでやったんだけど、ピタゴラスと平均律と純正律の区別って意識してる?
水野:私は全然。
玉木:2人でハモる時は協和するから純正律になってる。あれはあれですごいいいわけ。ところが、普通のヴァイオリン奏きはね、メロディ奏く時は純正律でメロディとらない。みんな高めなの。
水野:高めですね。そうやって習ってきました。
玉木:ヴァイオリン奏きは特に導音を高めにとる。シが高いの。それで、ソに行くファのシャープが高い。ピアノよりも高い。これがピタゴラスなんだよ。
水野:そうなんですか、へえ~!
玉木:だから、ヴァイオリン奏きは、常に協和的純正律とピタゴラス純正律を奏き分けてるわけ、無意識のうちに。
水野:すごいことですね、それは。
玉木:そういうこと、ピアノの連中は分かってないからねえ。ヴァイオリンの調弦で、ソレラミってハモらせるでしょ、あれがピタゴラスなの。あの中で協和的純正律をやるのは、実はちょっと無理がある。ドミソ、ドファラ、シレソの和音を、全部きれいにハモるように並べ替えたのが純正律なんだけど、その時に、絶対使えないのがレとラなの。レファラにすると、今のピアノは12鍵しかないから地獄の音になっちゃう。
水野:じゃ、何鍵要るんでしょう。
玉木:ピアノでやるなら53鍵。
水野:ははは。
玉木:だからヴァイオリン奏きの方がもっと楽に融通無碍に音を出してるわけ。平均律になる前にはいろんな調律法があったのね。モーツァルトはミーントーンという中間音律だった。これはドとミの協和がすごいキレイなの。今は古楽の連中がそういう調律でどんどんやってるからね。ブリュッヘンだったかが日本に来てモーツァルトのミサ曲やったけど、ヴァイオリンもリコーダー系もコーラスも全部ノンビブラートで、ものすごいハモってた。ゾクゾクしたよ。
水野:それはキレイだったでしょうねえ。今はごまかすためにビブラートかけてるんですもんね。
玉木:本当に。ビブラートって、いつ誰が発明したか知ってる?
水野:知らない。
玉木:ビブラートを発明したのはサラサーテなの。サラサーテのぬるま湯のようなビブラートが世界中にものすごく流行したの。だから、メロディを目立たす時には、何も言わなくてもみんなビブラートかける。
水野:じゃあ、ヴァイオリン奏きは天才ですね(笑)。
玉木:そ。天才! どの楽団で奏くかにもよるけど、タンゴのヴァイオリン奏きってすごい目立つのね。あれはね、ものすごいビブラート速いし、総て音が高めなの、バンドネオンやピアノに比べて。
水野:音質が? 音程が?
玉木:音程。ピタゴラスで奏くから。平均律じゃ奏けないもん。ピアノのミっていうのは純正でハモるミよりも100分の14も高いのね。で、ピアノの高さでFをとってラの開放弦奏くと必ず濁るの。
水野:わかります。
玉木:だから、そのファを濁らせないためにはこっちは高くしなきゃならない。本当は、ピアノのFに高さをとったら、3度は開放弦で奏いちゃいけないんだよ。ま、そんな矛盾を抱えながらなんとなく通過してるけどね。
水野:それが人生ですか(笑)。全部パーフェクトだったら面白くないでしょ。な~んてね。
玉木:ヴァイオリン奏きながら作曲する人間はほとんどいないからね。僕はヴァイオリン奏きの悩みってすごいよくわかってるから。どういう譜面書いたら易しいけど難しそうに聞こえるか、とかね(笑)。

                         〈文責:田村圭子〉

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

{{{{{{ ムッシュ黒木の純正律講座 第4時限目 }}}}}

ジャン=フィリップ・ラモー、現わる

                           黒木朋興

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 モノコルドと呼ばれる弦が1本だけの楽器がある。楽器と言っても、演奏用ではなく音程比の実験のためのものだった。中世の頃から使われてはいたが、自然倍音の発見に続く17世紀から18世紀にかけての時代において、物理学者達はこの楽器に改良を加え、実験室の中での自然倍音の分析に心血を注ぐことになる。例えば、音響学の基礎を築いたと言われるソヴールが有名だろう。やがて、ジャン=フィリップ・ラモーが現れる。
 一般に〈光の世紀〉と称されるこの時代において、彼は独自の和声論を展開しフランス和声学の礎を築くとことなる。他の物理学者と同様、ラモーの仕事においても倍音列の分析は重要であり、当然、彼は、現在純正律と呼ばれるシステムについては熟知していた。また1726年には「変化記号が違えば、音の間隔が様々に違ってくる印象を受ける、という指摘をするのは好ましいことである」と言っているのだから、少なくともこの時点ではまさに不等分律の推奨者であったのだ。

◆実験の対象としての倍音◆
 ところが1737年の著作において彼の関心がモノコルドによる倍音分析から和声進行のほうへ移っていくのに伴い、こともあろうに平均律支持を表明するに至ってしまう。どういうことなのだろうか。
 ただ1つの音を対象にしてその倍音列をいくら観察・分析したとしても、それはあくまでも音響の研究なのであり、実際の曲作り、つまり音をどのように組み合わせ和声を進行させていくかということに対しては、距離があることは否めない。だいたい倍音を観察するにしても、雑音のしない実験室において均質な材質からなる良質な金属弦を響かせて行われ、更にそのために使われるモノコルドにしたところであくまでも実験用の楽器であり実際の演奏に用いられることはないのだ。また何よりも純正律では使える和音が限られていることを考えても、実用向きではなくあくまでも実験室の中だけの音階である、という感があったことは否定できない。
 だから興味の中心を和声の成り立ちから具体的な和声進行に移していったラモーが、純正律ではなくより実用的なテンペラメントを求めたというのも納得のできることではあるだろう。

◆ラモーは転向したのか?◆
 以上からすれば、ラモーは1737年にかけて思想上の大転回をした、という解釈も可能だ。しかし、実のところ、ラモーの側からすれば回心したつもりなどこれっぽっちもなかったのではないだろうか。つまり、彼の思想には断固とした連続性を見いだすことができるのだ。それを一言で言えば、一見複雑な現象に見える音楽を理性的な秩序のもとに体系付けようとする意志であったと言えるだろう。
 つまりデカルト主義者を標榜するラモーにとって、自然現象は全て理路整然とした幾何学的な体系に基づいているべきものであり、しかもその体系は数学でもって解析できなければならない。
 ここで、Natureという言葉には〈自然〉という意味と同時に〈本質〉という意味があることに注意したい。〈本質〉とは目の前に広がる風景のことではなく、〈神〉が取り決めた秩序のことだ。たとえ倍音列から得られる音階が不等分なものであろうと、それはあくまでも見せかけの〈自然〉にしかずぎず、〈本当の自然〉は〈目に見えない〉ところにあるのであり、そこは理路整然とした幾何学的な世界なのだから、当然平均律こそがその〈自然〉をものの見事に表象している、ということになる。そしてラモーにとって、音楽こそがこの数の秩序が統べる理想の世界を最も良く体現している芸術なのであり、音楽はこの世の知性の全てを握る芸術とならなければならない。
 もちろん、この時代においては技術的に現在のような正確な平均律の調律は不可能であり、それはあくまでも理想の領域にある、ということはつまり「絵に描いた餅」にしかすぎなかったということを言い添えておく。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

************************************
天国的純正律音楽入門 第4回

 ビブラートの正体について

      純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************

 今回はビブラートの話。
 私はヴァイオリン奏きなので、ビブラートをかけるのは絶対的な日常性なのだが、この、一見純正律とは相反するような奏法について考えてみたい。ただし、ビブラートの歴史や必然を述べている著作にはほとんど出合ったことがないし、大部分は自分の体験上の裏付けによっているということを前提にするので、私が間違った記述をしたり、または別の角度からの意見があったら、ぜひ、投稿するなり私のホームページの掲示板に書き込むなりしていただきたい。また、今回だけでは書ききれないようなので、次回もしくは次々回にわたって書いていこうと思う。

◎「特権」としてのビブラート◎
 さて、ビブラート(英語ではヴァイブレーション)は、ある音程を基音に、微妙なピッチの上下によって「ふるえ」を生じさせ、強弱等のエモーションを強調させる役割を担っている。
 現代の大人の演奏は、ソロの場合、歌でも音楽でもほとんど無自覚にビブラートをかける。古楽や小アンサンブルのコーラス、ブルガリア系のコーラス以外は、全く無自覚にビブラートをかけて歌うので、コーラスの場合、ハモることを全く度外視して悲惨な結果を招いている。大多数のママさんコーラスはもとより、プロと称している合唱団も総て、ハモるのが基本の「純正律」上から見ると死刑に値するほど勝手なビブラートをかけあって、何が何やら分からぬ騒音集団と成り果てている。
 天国的な協和を目指す我が純正律音楽研究会に於ては、こういう騒音は退治してまわらなければならないのだけど、その代表者たる私・玉木がヴァイオリンを奏くと、ほとんどの場合、ビブラートをかけっ放しである。私がよく純正律のカラオケ・テープに合わせて奏く場合でも、バックはノンビブラートなのにソロ・ヴァイオリンはビブラートをかけまくっている。そして当然、ビブラートをかけた瞬間の(譜面の)「たてわり」は明らかにハモってはいない。これはどういうことなんだ! 結論から先に言ってしまおう。ビブラートをかけることができるのはソリストの特権なのである。
 少し視点を変えよう。通常のクラシック楽器の場合、ほとんどはビブラートをかける。ただし、ハープやピアノ、ギター等、音が伸びない楽器はビブラートをかけられないし(遅い曲におけるギターを除く)、そういう楽器の場合は音が伸びない部分で速いパッセージやアルペジオを多用する。この「速いパッセージ」は後ほど重要なテーマになるので覚えておいてほしい。

◎クラリネットの謎?◎
 ところで、音が伸びてもビブラートをかけない楽器がある。それは、大部分のホルンとほとんどのクラリネットである。ホルンの場合、ソロよりも4人くらいのアンサンブルの方が効果的であり、その場合は、ノンビブラートで完全にハモらないと、吹いてる人達も聴いている方も非常な不快感に襲われる。ウェーバーの「魔弾の射手」の序曲のホルンが銘々ビブラートをかけたら、地獄に落ちた狼のような響きがするだろう。
 そして、木管楽器では唯一、クラリネット。この楽器はもちろんビブラートがかけられないのではない。ベニー・グッドマンをはじめとしたジャズ・クラリネット奏者は、物の見事に魅惑的なビブラートをかけるのに、なぜクラシック奏者はかけないのだろう。私はこれに対する的確な答えをきいたことがない。多分、品がないという理由かもしれないが、それでは、オーボエやフルートは全く下品な楽器ということになる。
 私の憶測にしか過ぎないが、クラリネットがノンビブラートなのは、実はクラリネットが一番新しい楽器であることの証拠のように思えてならない。
 このあたりの話は次回に続く。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 [癒しの現場から]
  「愉快な骨」に響かせて!
  ――陽幸堂 峰咲マーユさんにきく その2――
 
                             田村圭子

~~~~~~~~~~~~~~
  前号に続き、純正律音楽研究会の皆さんにはおなじみ、峰咲マーユさんのお話をお届けします。マーユさんは純正律音楽研究会とのジョイントの他にも、独自にコンサートを催したり、音楽に深く関わる活動をなさっています。今回は、マーユさんの「音」への取り組みについてお聞かせいただきました。

☆体調は《愉快な骨》に現れる☆
 CD『第3の夢』のタイトル曲「第3の夢」はセルフチューニング用の曲とのことですが、セルフチューニングとはどういうことなのでしょうか。

「首をがくっと落として自分で触っていただくと、ここに大きい突起、骨があるでしょ。そこから背中に下がっていって3つめと4つめの骨があるんですけれど、ここを私は《愉快な骨》と呼んでいるんです。目の疲れとか風邪とか、首が極端に疲れちゃってる、そういう時にはこの骨が硬くなって、愉快な気持ちを身体の中にしまいこんでしまう。それを見つけて、ちょっとだけ柔らかくしたり、刺激して本来の丸い形に戻してやると、笑えて、楽しい気持ちがわくわくっと沸いてくる。ひとことで言えば、この「愉快な骨」に響かせるような音楽を作りたかったんです」〈峰咲マーユさん〉

 そもそも整体や健康指導法が御専門のマーユさん、なぜ「音楽」で、と思い至ったのでしょう?

「疲れや食べ過ぎ呑みすぎでも血液は濁るんですよね。濁ると重くなって動きが鈍くなるから、血管が詰まったり病気が発生したり炎症を起こすという状況になるんです。それを濁らせないように、といっても、食事や飲酒、仕事といった日常生活をコントロールするのは大変ですね。そこで、『第3の夢』のような音楽で音を響かせることによって、少しずつ濁りがとれるような刺激が与えられればいいなと。何年も前から音楽は作ってたんですよ」
その一環として生まれたのが音楽テープ『夢多き方へ』でした。6年前、その制作の際に、偶然録音に参加した玉木氏とマーユさんは運命的な出会いを果たしたのです(当時のエピソードは玉木氏のホームページでどうぞ)。

☆疲れのとれる音楽とは☆
「『夢多き方へ』を作る際、その中のバルカローレの音楽(CD『第3の夢』にも収録された「風の彩」)で玉木さんにヴァイオリンを奏いていただいたら、本当に素晴らしかったんです。この録音を聴いてると、玉木さんのヴァイオリンの音色と、何ていうんでしょうね、その動きというか……それが、身体に、血管なのかどこかわからないんですけれど刺激が来るんです。以来、玉木さんのヴァイオリンがいいなってずっと思ってました。そのうちに、たまたま平形さん(『夢多き方へ』『第3の夢』プロデューサー)から、玉木さんが純正律音楽をなさってる事をきき、すぐ玉木さんの本を見せていただいて、駅の発車音の話にも共感して、『これはもう、絶対!』と思って今回のCDをお願いしたんです。できるだけ《愉快な骨》に刺激がいくような音を、ってね」

「ずっと“疲れをとる音楽”ということがやりたかったわけですが、ここでやっと到達したかなと思うんです。ただメロディがきれいなだけじゃなく、血液がきれいになったり炎症がおだやかになるような音楽というのはあるんだなと。私は純正律の説明はできないんですけれど、でも、純正律の音色って澄みきっているでしょ。これは感応ですから、澄んだ音色で澄んだ血液をつくるという形でいくのが一番人間にいいだろうと。血液がきれいになると同じ木の緑でも違う色に見えてくるんです」

「いま、街には騒音や過剰な音楽が入り乱れていてくつろいで買物もできない状態ですよね。それじゃ服を買いに行ってもキレイな色に見えないから、今日はいいや、ってことになる。逆に、ウキウキしていると、くすんだピンクが澄んだピンクに見えてくることもありますね。人間のこころと身体っていうのは影響しあう関係なんです。そして音楽もね。風の音も鳥の声も音楽と私はとらえています。ずっと、そういう身体に響く音楽が作りたくて、これまでに子供向けの曲も手掛けてきました。『第3の夢』で思ったものができたと思います」

☆音色で景気回復!?☆
「それは治療のように手を使うでもなくて、玉木さんが作曲してヴァイオリンを奏いて皆さんに聴かせることで、音楽――目に見えない、音から出る波動が人間の身体に影響を与えて、血液がきれいになったり、愉快な気持ちになったりするんじゃないかと。痛みが止まるっていうのは要するに、血液の濁りがとれるから楽になっていくのかなと。疲れも血液の濁りから起こるんだと私はみてましたのでね。だから、音楽という媒介によって、耳から聴いた音が脳の中に響き、背骨の中に響く。そうして背骨が刺激されるとその影響で血液がきれいになる、痛みがとれ愉快になる。明日もがんばろうって思える。みんながそう思えれば不景気の解消にだってつながるだろうと。“風が吹けば桶屋が儲かる”じゃないですけれど、そう考えたら面白いですよね。だから、皆さん、もっと自分の身体のことを知っていただくと、自分で自分の身体は治せるんだっていう自信がもっと持てると思うんです。元気でいられれば仕事もうまくいきますしね」 
                               【つづく】

★陽幸堂――Tel. 03-3235-7535
      東京都新宿区市ヶ谷本村町3-26ホワイトレジデンス9-B

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
外科医のうたた寝☆その3
 
  山田食堂の怪

         福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 毎週月曜日は福島県のY町にある診療所で仕事をしている。小さな診療所であり、昼食は近所にたった一軒だけある〈山田食堂〉から出前をとって食べているのであるが、非常に不思議な食堂である。
 基本的な味の組み立てはなかなか良く、特に手打ちうどんは絶品といっても差し支えないのだが、そのうどんは総じて太く、なかには親指ほどの太さのものもある。かつては適正な太さであったようだが、老主人の視力低下に伴い最近どんどん太くなっているようだ。
 ある日、事務長は名物うどんを頼み僕はカツ丼を注文した。なかなか美味しいカツ丼を楽しんでいると、カツの下から太いうどんが1本出てきておおいにびっくりした。
 ある夏の日、ワンタン麺が美味しいと云うので注文してみたら、麺の上に巨大なワンタンの皮だけが広がっており、ワンタンの中身が見当たらない。推薦してくれた看護婦さんに聞いたところ、先週食べた時は、ワンタンの中身は入っていたそうだ。忙しくて中身を詰めるのを忘れてしまったようだ。
 寒い寒い冬の日のこと、午前中の往診を終えて診療所に戻り届いたばかりの鍋焼きうどんの蓋をあけたところ、立ち昇るはずの湯気はなく、鍋も冷えきって玉子も生のままであった。材料を鍋に入れただけで火に掛けるのを忘れてしまったようだ……。
            * * * * *
 また月曜日がやってくる、我が愛すべき〈山田食堂〉はどんな昼食を運んでくるんだろう。
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW

 [[[[[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]]]]]]

――MALA PUNICA『H_las Avril ――Matteo da Perugia~Chansons~』
(WPCS-10669)――

黒木朋興氏が渡仏してしまったため、玉木×黒木の毒舌コンビによるおしゃべり形式はしばしお休み、ということで、今号は玉木氏による格調高い(!?)レビューをお届けしましょう。いずれ、ネットを介したチャット等で2人のおしゃべりが復活する可能性もありますが。
***********************************

 今回は、古楽も古楽、マッテオ・ダ・ペルージャ(1390-1415)を紹介しよう。時代的には、日本で言えば戦国時代なのだろうか。そう思いつつこのCDを聴けば、彼我の違いに胸を打たれるものがあるはずである。
 さて、私はほとんど古楽は聴かない。なぜなら、〈純正律=古楽〉というあまりにも硬直した図式がキライで、いくらもっともらしくても胡散臭いものを感じてしまうからである。特に、モーツァルト調律なんていってA=412にしてみたり、したり顔でヴェルグマイスターだのミーントーンだのと調律に拘ったフリをしても、中身が非音楽的だったら話にならない。
 私は、それこそ純正律をライフワークにしてはいるが、あくまでも自分が作曲し演奏することが主眼であり、過去を振り返って、ああだったはずだ、いやこうだという議論のための議論は肌に合わないのである。
 ――と、言いつつも、実は時々は古楽のCDは聴いているし、やはりブリュッヘンのモーツァルトのレクィエムに感動したりはしているのである。
 さて、今回はマッテオである。『H_las Avril』(「おお、四月」と邦訳されていた)と題されたCDは、MALA PUNICA(マーラ・プニカ)という、10人ぐらいのアンサンブルによって見事に色鮮やかな純正律の世界を繰り広げている。ソプラノ、カウンター・テナー、ヴィオール、リュート、管のアンサンブルは、よくハモったコーラスを前面に出すでもなく、バッハのような対位法で迫るわけでもないが、ノンビブラートでありながら、各ソロは際立った存在感を放って演奏している。
 時代的にはルネサンス頃で、いわゆる転調というコンセプトはないが、経過音には随所に散見されるその音使いがまた見事に決まって、美しい装飾になっていえる。
 マッテオはイタリア人だが、曲のほとんどはフランス語によるシャンソン(世俗歌のことをいう)らしい。
 このCDは、ほとんどがソプラノまたはカウンター・テナーのソロ曲だが、途中に2曲ある器楽曲、これがまた素晴らしい。「14世紀頃になんという!」とびっくりするようなフレーズが随所にあり、もちろん、マーラ・プニカの演奏の実力の冴えにもよるだろうが、見事な純正律的色彩絵巻が聴ける。
 このCDを聴く限り、「ここは協和的純正律」だの「ここはピタゴラス」だのとかの分析的受動態はすべて雲散霧消し、しばし天国的なやすらぎの世界に浸れる。
 このテのCDは、理屈っぽいクラシック系のリスナーより、ロック系のリスナーの方が面白がるのではないだろうか。もっとも、そのテの人達によると、「あ、これは××××だ」とか、また、その世界特有の括り方の中にはまってしまうのかもしれないが…。

INFORMATION

 マーラ・プニカ/MALA PUNICA
『H_las Avril ――Matteo da Perugia~Chansons (1390-1415)~』(WPCS-10669)/『600年前の異才~マッテオ・ダ・ペルージャ~フランス語の詩による歌曲集(1390-1415)』
→日本版は「ワーナー輸入盤」枠で取り扱われています。
CD番号は、ERATO CD/WPCS-10669(税込¥2,940)
 仏語・英語による解説&歌詞と日本語による解説&訳詞つき。
輸入盤番号:8573-82163
→ちなみに、田村@事務局(民謡系)は1曲目冒頭のソプラノのコブシを聴いただけでやられました。これはハマります。アンサンブル名(柘榴の暗喩らしい)からしてクセ者って感じだし。必聴かと。

#

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

==============================================================
アトマスキュア・コンサート
玉木宏樹のジャスト・チューニングの世界 II

 「恋はマリオネット」の熱い夜

 春まだ浅き3月12日(月)、「アトマスキュア・コンサート/玉木宏樹のジャスト・チューニングの世界Part II――恋はマリオネット」が、銀座ヤマハホールにて開催されました。これは、昨年7月の芝abc会館ホールに続き、峰咲マーユさんのところと純正律音楽研究会との共催、リズム時計工業(株)ほかの協賛によるもので、コンサートに先立つ3月7日にリリースされたミネラル・サウンドCD『光』『響』『時』発売を記念して開催されました。
 朝がたには雪もちらつき、果たしてお客様にお越しいただけるのだろうかと出演者・スタッフ一同心細い思いで迎えた当日でしたが、その寒さにも関わらず大勢のお客様が開場時間前からお越しくださり、前回よりもさらに大きめ、500席の会場はほぼ満員となりました。
 今回は、玉木宏樹氏の新曲発表をはじめ、水野佐知香&荒井章乃母娘のヴァイオリンデュオ、そして、スペシャルゲストに、今をときめく世紀のバンドネオン奏者・小松亮太氏をフィーチャーした「小松真知子とタンゴクリスタル」の皆さんを迎え、弦の響きとタンゴの出会いという、聴く側にとっても演奏者にとってもまったく新しい試みの、4部構成の異色のステージ(幕間には峰咲マーユさんの健康指導法コーナーもありました)が繰り広げられました。 
 ラストには、今回のコンサートのタイトルにもなった新曲「恋はマリオネット」のタンゴ・ヴァージョンを出演者全員でセッション。外の冷え込みを吹き飛ばすかのような華麗かつ熱いステージに、会場も盛り上がり、大盛況のうちに幕を閉じました。クラシック・ファンの方、タンゴのファンの方、それぞれに、日頃聴かない他のジャンルの魅力に開眼した一夜となったのではないでしょうか。次回もご期待ください。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

→→→純正律かわらばん→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

●玉木宏樹の純正律ミネラル・サウンドCD
 『光』『響』『時』キングレコードより絶賛発売中!
 玉木宏樹『第3の夢』――サウンド・テラピー
�これまでインディーズのみだった玉木宏樹のミネラル・サウンドが、メジャー・レーベルから発売されました。『光』(KICS 2344)は、玉木自身が選曲した「光の国へ」シリーズPart1~3のベスト盤。『響』(KICS 2345)は純正律によるカンテレ(フィンランドの民族楽器)やホーメイ(トゥバの倍音唱法)をフィーチャーリングした『響きの郷へ』を中心としたコンピレーションアルバム。『時』(KICS 2346)は、新曲の他、「第3の夢」やリズム時計に使用されているミネラル・サウンドも収録された玉木サウンドの新境地。定価は各2500円(税込み)。これら3枚のCDは、いずれも全国のCDショップでお求めいただけます。店頭にない場合、上記のCD番号を伝えれば取り寄せてもらえます。どうしても入手困難な場合は、純正律音楽研究会で承りますが、「ショップ取り寄せ」だと送料がかからないので、おすすめです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
●玉木宏樹弦楽四重奏団のCD発売決定!
�かつて玉木宏樹弦楽四重奏団がコロムビアで録音した音源がCD化されることになりました。皆さんからのリクエストも多かった、NHKの「ラジオ深夜便」でよく放送されていた音楽の数々をまとめたもので、もちろん編曲も玉木氏によるもの。2001年7月発売予定です。同時に、弦楽四重奏の楽譜集も音楽之友社から刊行される予定ですので、弦カル・ファンの皆さん、お楽しみに。CD、楽譜集とも、発行日や価格等の詳細が分かり次第、お知らせします。

→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

@@@@@西麻布通信@@@@@

◆次回の「純正律ミニコンサート@コア石響」、一部で6月9日開催予定と告知されていましたが、事情により7月に延期となりました。
◆発売中のムック『ウルトラマンAGE』(辰巳出版)に、「怪奇大作戦」劇伴に関する玉木インタビューが掲載されています。最近「怪奇大作戦」「大江戸捜査網」等々の劇伴系玉木ワークスに焦点を当てた取材が増えており、単行本『怪奇大作戦大全』(双葉社より7月刊行)にも掲載予定。純正律関係では、『ショパン』(6月20日発売号)と『教育音楽』6月号(5月18日発売)から取材あり(教育音楽』では執筆もしています)。
◆玉木氏は現在、新作CD2~3枚(左記の弦カルとは別)制作に向けて鋭意邁進中。乞う御期待!
◆今年も玉木氏は、桐朋学園短大にて純正律の講座を担当中。今期の学生からも昨年に劣らぬすごい反響が起こっている模様です。

 * * * * * * * * *

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
いちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
  URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

ひびきジャーナル 第3号

玉木宏樹 藤枝守 黒木朋興 峰咲マーユ 田村圭子 福田六花(2000年8月15日発行)

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』  {創刊第3号}
2000年8月15日発行

編集/発行:純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

残暑厳しき折、いかがおすごしでしょうか。
遅れに遅れましたが、純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』第3号、やっと出来上がりましたのでお届けいたします。
当純正律音楽研究会の起ち上げから約1年と少々。段々と純正律への認知が拡がりつつあるような気がしています。
今回の会報では、「純正調」の作曲家・藤枝守氏との対談、自分では大変面白いと思っていますが、いかがでしょうか。
これから先、いろいろと発展の可能性高い純正律音楽研究会ですが、何卒、皆様の御意見を吸収し、さらに発展させたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
そろそろ夏の疲れも出始めるころ、どうぞ御自愛ください。

                     純正律音楽研究会代表 玉木宏樹

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#

――玉木宏樹の“この人と響きあう” 第3回――
 音律とはメロディを生み出す土壌
                     作曲家 藤枝守さん

#

 連載3回目にしていきなり同業者対談が (!?)。今回のゲストは、日本では数少ない、純正調に基づく音律の世界を模索し続けている作曲家の藤枝守氏です。箏組曲『植物物語』をはじめとするCDや著書『響きの考古学――音律の歴史』(音楽之友社)でも知られる藤枝氏はまた、コンピュータを援用したパフォーマンスや異分野の作家たちとのコラボレーション・ワークにも積極的に取り組まれています。あれっ、ところで、純正律と純正調って、どう違うの?

玉木:おそらく、あなたと僕の大きな違いはね、あなたは作曲家の立場だけど、僕はあくまでも肉体派の演奏する作曲家なんだよね。そこに考え方の違いがあったり表現する際の仕方が違ったりするんだろうと。そこら辺も伺いたいんだけど、純正律そのものに対してはいつ頃から興味持ったんですか。
藤枝:80年代にアメリカ(カリフォルニア大学)で作曲の勉強始めた頃ハリー・パーチやルー・ハリソンに出会って……。
玉木:お、まだパーチ生きてたの?
藤枝:いや、僕の居たサンディエゴがパーチの居た所で、実際に彼の楽器を見る機会があったりもして。純正調を意識しだしたのは向こうに行ってからです。倍音自体には興味あったんですけれど、パーチの楽器を見たり本を読んだり大学で研究テーマにしたもんですから。85~86年位かな。
玉木:ルー・ハリソンというのはパーチの弟子なの。
藤枝:いえ。でもパーチの「Ge-nesis of a Music」という本があって、それを読んだことが純正調の世界に行く契機となったことは確かなようで。その後の交流はかなり深く、パーチの存在が大きかったと。今でもそうですけれど、純正調音楽のひとつの原点はパーチだとみんな見做してるし。
玉木:僕はあんまりパーチは理解できないんだよね。汚くてさー。
藤枝:汚いというよりは、楽器の特性だと思うんですけどね。
玉木:なんか、うまくチューニングできてないんじゃないの。
藤枝:そう思います。楽器はちゃんと打楽器的なものを使ってるし純正調の持ってる基本的な可能性みたいなものがもう1個あるんじゃないかと。
玉木:なるほどね。ところで、3月30日の当研究会のミニコンサートを見て、いかがでした?
藤枝:純正調の研究の範囲ってどこまでいくのかなあと。パーチとかルー・ハリソンの影響受けてる人間としては、もっとモーダルな世界にどうやって移行できるか、ハーモニーに因らない音楽の可能性というもの、あるいはもっと微分音的なイメージがあって、本当に細かい半音の何分の1のイントネーションの多様性みたいなものに僕は興味があるものですから。実を言うと、ハモること自体は僕にはあんまり大きな意味はないんです。たしかにすごく大事なことなんだけど、それプラス、その力に合う音程的な要素がどう入り込んでくるかとか、そこにどんな微分的な抑揚が表現できるかというのが大きくて。ただ、玉木さんがやっておられることはとても大事で、一般には響くこと・ハモることの実感がまだ知られてないですよね。多くの人が忘れていたり知らなかったりする以上、それはやっぱり色々な形でやらなくちゃいけない。だからハモる事から入って初めて次の世界に行けるのかなと思うんですけれど。
玉木:啓蒙活動は大変だからね。
藤枝:日本はこれまで頑強にヨーロッパの音楽を受け入れてきて、例えばバッハの「平均律曲集」という誤訳のせいで平均律が近代音楽の始まりだっていうふうにやられてしまってるし、おそらくほとんどの現代作曲家は誰でも、ピアノ用にしろオーケストラ用にしろ、もう当たり前に平均律を前提に作ってますから、現代音楽がああいう難しいものになった1つの理由には、平均律化しただけで半音の差異の中での組み立てが簡単になったということがありますから。

〈現代音楽は耳が悪くてもOK〉
玉木:シェーンベルクがやりだしてみんな無調になったじゃない。だけど、音楽が行き詰まったからって個々の音に主張性を持たせて、ドデカに走ったり無調に走ったりするぐらいなら、もう一度純正律に戻ったほうがずっといいじゃないかと僕は思ったの。
藤枝:おっしゃる通りですね。
玉木:僕は芸大のヴァイオリンなんだけど、作曲もやってたんで作曲科の友達も多くて、なんかって言えば全部初演を押し付けられたの。僕は初見で何でも奏くしさ。それでやつら「グショーン、バターン」みたいなムチャクチャな、そんなこと書いて何が面白いのみたいな譜面書いてきてさ。で、「お前、本当に譜面通り奏いたと思ってるのか、耳悪いな。俺、全然めちゃくちゃに奏いたんだぞ」「いやあ、ちゃんと奏けてたぞ」って言うから、バカヤロウ、って本気で殴ってやった。それ以来俺は現代音楽の作曲家って信じてないんだ。要するにね、耳が悪くても「現代音楽」ってのは書けるんだ。あ、別にあなたを非難してるわけじゃないんですよ(笑)。
藤枝:いや、僕もなんとか殴られないようにしないと(笑)。
玉木:あなたは芸大だっけ?
藤枝:東京音大です。僕の先生が湯浅譲二なんですけど、先生は僕のこと理解してなくて、全然わけのわかんないことやってるとか思ってて(笑)。本当はちゃんとやってほしかったらしいんですけど。
玉木:現代音楽をちゃんとやってほしいなんて世界、あるのかい?芸大の作曲家の系譜を見たって、分かり易い曲書いたらバカとかさ。
藤枝:そう! だから僕がアメリカに行って大きかった事は、やっぱりルー・ハリソンに会ったことですよね。パーチはもう亡くなってたんで、サンディエゴにあった彼の楽器にいろんな間接的な影響を受けたんです。ルー・ハリソンとは交流して、家にも行ったりとかして。本当にいいメロディ書くんですよ、彼は。その時に、これでいいんだと思ったんですよね。メロディが書けるというのがいかに素晴らしいことか。その中に音律なり色々な知恵があるんだろうけど、やっぱり表面にメロディがあるかないかですよね。
玉木:ただ単にドミソ節でメロディ書いてたって手垢がついた劇伴にしかならない。だったら古楽聴いてるほうがよほどいい。それはやっぱり一度、純正律のフィルターなりを通してとにかくモーダルな世界に足を踏み入れないと、ちゃんとしたメロディは書けない。
藤枝:だから、ルー・ハリソンが言うように、純正調でもいいんだけど、音律はメロディを生み出す土壌なんですよね。

〈シェーンベルクは反面教師か〉
玉木:僕は、シェーンベルクが大きな過ちを犯したんだったら純正律に戻るべきだとずっと思ってたのね。彼はものすごく和声学に強くて、平均律を批判してるような部分もあるでしょ。だから「平均律の世の中になってしまったら行き着くところこんなものにしかならない」という反面教師でやったんじゃないかなと。ト長調の弦楽組曲とかものすごくきれいだもん。
藤枝:そうですね。もしかしたら、無調的な世界と調性的に偏った世界というせめぎ合いの中にシェーンベルクがあって、以後のウェーベルンら、ウィーン楽派的な後継者――ブーレーズ、シュトックハウゼンとかが攻め入ってああいう世界になっていった。僕はむしろシェーンベルクより、「現代音楽のスタイル」にしちゃったその後継者たちに罪があるという気がする。とはいえ、シェーンベルクを20世紀音楽の祖とするなら、そこから無調性的な世界が拡がったわけだから、ある程度は恩恵といえるかもしれないけど……例えば12音使えば、どうしようもない作曲家にも書けるわけですしね。
玉木:考えなしに書けるからね。
藤枝:また、ヨーロッパ自体がそれを継承したというのは明らかですよね。なぜダルムシュタット的な視点だけが日本も含め世界中に蔓延してるのか。結局は「宗教」なのに、あたかもメインストリームのごとくにね。さっきから現代音楽という言葉が出てきてるけど、「現代音楽というのはああいう世界」というのを誰が作ったのか。玉木さんがおっしゃるように作曲家の世界がいかに閉ざされているか、聴衆から離れていったか、あるいはメロディ作ることを馬鹿にするような音の構築性に対する依存を誰が差し向けたのか……平均律をやめてしまったら彼らの土台が全て狂っちゃうんです。無調というのは平均律を前提に成り立っているわけで、それがなくなれば調性自体が消えるわけですからね。

〈「律」と「調」はどう違う?〉
玉木:世界の崩壊を招くだろうからね。ところで、さっきあなたのお琴の組曲聴いて少し安心したんだけど、実はあなたが暮れにテリー・ライリーとやった時、僕は聴きに行って参ったなと思ったんだ。
藤枝:参ったというと……?
玉木:だから、純正「調」なんだなと。「律」ではなくて。
藤枝:調と律とのあんまり大きな使い分けはしてないんですけど。
玉木:所謂、倍音音楽だなと思ったわけ。テリー・ライリーはそうなんだけど、僕はあなたの曲は以前に聴いてなかったから、あなたもそういうことをやるのかなと思ったわけ。となると……なんというのかな、ガラスをこすって出る音も高倍音ではあるわけだから、それを純正律だと言われても困るなぁ、とね(笑)。
藤枝:でも、純正調というのは元々倍音の組織化ですから、倍音が全てとまでは言わないけど、色々な場面で転用して組み替えていけば純正調になるというか、倍音的な世界になるかも。
玉木:だから、僕は純正律だけどあなたは純正調だということね。純正調というのは基音があって、そこから絶対転調しないわけだ。だから高倍音とかを組み合わせることによって、1つのトーナルと言えばそれしかないわけだよね。だから、純正調という言葉を使ってるのかなと思うわけ。
藤枝:律とはtemperamentということだと思うんですよ。そうするとちょっと意味の幅が狭まっちゃう。だから、律をどう考えるのかというのが、ちょっと僕にもクエスチョンなんで調という言い方をしてるんですが。
玉木:なんで「法律」の律なんて字を使うんだろうねぇ。
藤枝:辞書自体がtemperamentを音律と訳してからいろんな誤解が一気に起こった。僕もいろんな所でしゃべるけど、「そうじゃないんだ」ということばかり啓蒙しちゃってて、それを言わないと次に行けないんで、なんかねえ。
玉木:いまだにネックになるよね。
藤枝:たしかに「平均律は悪で純正律が善」という考え方はよくないと思ったんですよ。平均律には機能的な意味もある。僕はモートン・フェルドマンに習ってたんですが、彼の音楽はやっぱり平均律じゃないとだめだと思ったんです。というのも、中心がないでしょ、彼の音楽には。で中心がないある種の浮遊性、あるいは時間性みたいな表現には、平均律のああいう枠組みがすごくうまくはまると思うんですよね。
玉木:「悠久の○○」みたいな。
藤枝:そうなってくるともう、作曲家が自覚するかしないかの問題で、僕もある局面においては。平均律は使うかもしれないし。そういうものをちゃんと分かった上で純正調なり音律と付きあうっていうことが大事なんですけど、平均律でドミソ音楽を作ることの矛盾を感じないまま作ってる人があまりに多い。無調音楽がどういう意味を持つかっていうことが分かった上で作るならともかく。

〈赤いカプセルを選ぶという事〉
玉木:映画『マトリックス』見た? 主人公は「お前は救世主になる資格を持っているかもしれない。この青いカプセルと赤いカプセルがある。どっちを飲むか」って言われて、青いカプセルなら元のまま何事もなく日常生活を送れる。赤いカプセルを飲むと、今見えてる世界が全部ニセモノだってことが判る。で、飲まないと映画にならないから主人公は赤いカプセルを飲むわけ。純正律ってのは、いわばその赤カプセルに近いんだな。
藤枝:本当にそうですね。だから飲んじゃった人は――ひょっとしたら僕も玉木さんも不幸になるかもしれないけど、でもあえて青を飲まなかったと。僕もピアノ曲はベルクマイスターとかいろいろやっていますけど、それも演奏者がいての話ですよね、僕が弾くわけじゃないので。今度楽譜も出ることになったんですけど、それは楽譜の上では平均律でも弾けるように書こうと思ってるんです。そうしないと流通しないんですよね。できればベルクマイスターでwell-temperamentでやってほしいけど、「平均律でも可能」と書いておけば、「平均律というのは仮の姿かもしれない」と奏者が意識するかもしれない。音楽が流通していく中では、やっぱり、それを弾く人間、聴く人間にも多少は「赤いカプセル」を飲んでもらわないと困る。みんな青い方ばっかり飲んでるから閉じた世界になっちゃったわけだから。それがいい意味での啓蒙だと思うし時間かかるし、これからもっともっと反発もあるとは思うんだけど。
玉木:常に相携えてやる必要もないけど、互いに共鳴しあってやってくのもいいね。
藤枝:アメリカではそういうネットワークもできてますし、僕もその影響受けた一人ですから、日本でも何かができるんじゃないかと。そういえば純正律音楽研究会って会員どのぐらいいるんですか。
玉木:ネット会員も入れると数百人ぐらい。
藤枝:すごいですね。
玉木:それで、2ヶ月に1回ぐらい純正律音楽研究会でミニコンサートをやってるんですよ。でね、曲の提供云々は別としても、いっぺんその時にゲストで来てもらって、さっきのCDとかかけながらお話をするとかね、そういうことがあってもいいじゃない?

〈本当の響きは味わってみないと〉
藤枝:ありがたいです。やっぱり純正調っていうのはみんなのためのものだから、使い方いろいろあっていいと思うんですよね。純正調だけが正しいっていうのも問題だし。でないと衰退していっちゃう。いろんなやり方がいっぱいあって、逆に突き詰めれば誰が弾くのか、弾き手・聴き手が選べばよくて、この純正律はいいとか響きがいいとか。僕は、響きの問題というのは、かなり味覚の問題に近いと思うんです。たとえるなら、今まで我々は「平均律というファミレス」でカレーを食べてたわけですよ、本当のカレーを知らずに。香辛料はいっぱいあって、その混ぜ加減のヴァリエーションも無限にあるはずなのに、それを知らないから、ファミレスのものだけをカレーだと思って食べていたら、ある時本場のカレーを食べた時に、おやっと思いますよね、知らない味だから。でも、一度食べれば、香辛料の割合によって響きが違うとか独特の香りがするとかだんだん判ってくる。たくさんあるカレーの味(=響き)の世界が拡がっていった時に「一体何が違うんだろう」と思えるわけですから。
玉木:とにかく積極的にやってみようという人間を増やさないとしょうがないんだよねぇ。
藤枝:逆に今は、音律の多様性を拡げるためにも、いろんなものを受け入れていくべきじゃないかと。僕が音律に取り組み出してから、いろんな人が寄ってくるし、自分でも、音律の視点からインド音楽やホーメイも含め、いろんな民族的な音楽を聴きだした。そうしていると自分の感性が開かれていくのが判ってくるし、演奏家たちとも触れ合う機会が多くなってくる。音律の意識が、ある意味でインターフェイスになっているんですね。音律を極めようとした事で玉木さんはじめ本当にいろんな人に会えたと思うし。現代音楽だけではもうだめなんですよ。作曲家仲間とか「そういう現代音楽」を作ってる1つのソサエティの中だけで自分を生かしている場合じゃない。
玉木:でも、武満さんもいなくなったから、それも崩壊してんじゃないの?
藤枝:でもね、屍で寄り添ってるような、まだ死にたくない、みたいなのがいますよ。だから武満の死ってことで20世紀の日本の「現代音楽」史が閉じましたというふうに、早く歴史の幕を引く人が誰か現われないとね(笑)。
                         〈文責:田村圭子〉

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

{{{{{{ ムッシュ黒木の純正律講座 第3時限目 }}}}}

「純正律」という呼称についての考察  ―その3―

                           黒木朋興

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

自然倍音という現象はデカルトとメルセンヌが17世紀に発見した、と一般に言われる。ではそれ以前の人々の耳に倍音が聞こえていなかったのか、と言われればそうではないだろう。しかし中世の大学で自由7科の1つとして研究された音楽とは、歌声や楽器の音など我々が実際に耳にする音楽というよりも、ムシカ・ムンダーナ(musica mundana) やムシカ・セレスティス(mu-sica celestis)という世界や天体の秩序のことであり、すなわち耳に聞こえない音楽のことだったということに注意したい。

◆「耳に聞こえる音楽」は下等?◆
 もちろん、耳に聞こえる音楽文化がなかったということではなく、教会にも宮廷にもそれなりの音楽が培われていたのだが、ここで重要なのは中世の諸技芸は〈神〉に対する近さによって厳密に階層分けされており、耳に聞こえる音楽は、聖歌を除き、一般に低い位置に貶められていたということだ。つまり中世の学者にとって重要だったのは、作曲したり演奏すること以上に宇宙を知ることだったのだから、倍音という実際の音響現象は二次的なことにすぎなかっ
たのである。それに対してデカルトやメルセンヌといった哲学者(=科学者)の功績は、耳に聞こえる音響現象を学術的な議論の爼上に上げたことであり、自然倍音の発見ということもそのような知的環境の変化という相のもとに捉えるべきであろう。
 つまり、実際には耳に聞こえない音楽を議論にする以上、倍音現象に注意を払わなくても全く問題はないわけだし、具体的な音響現象を観察し始めた以上、倍音が議論の対象として浮上してくるというわけだ。またデカルトの代表的な著作『方法序説』が、当時の学術書としては極めて異例なことにラテン語ではなくフランス語で書かれているということも思い出しておこう。それまで真理に至るためにはラテン語を身に付け論理学や修辞学を学ばなければならないとされていたのに対し、デカルトは〈理性〉を正しく導いていけばフランス語でも十分真理を理解できると考えたのだ。デカルトが〈近代=現代哲学〉の父と言われる由縁である。
 それまで教会や大学の中だけで追求されてきた真理を広く民衆に開くきっかけを作り、音楽を机上の論理から人間の感覚に快を与えるものへと開放した、と言えば聞こえは良いが、しかしこのデカルト哲学最大の問題点は、22歳の彼が『音楽提要』において既に言明しているように、「感覚は絶えず欺かれる」としていたことにある。デカルトの生きた17世紀とは、〈この世のすべては疑わしい〉という懐疑主義で理論武装をしたリベルタン(自由思想家)達が〈神〉の存在を辛辣にあざ笑った時代であり、彼の有名な「コギト・エルゴ・スム(我思ウ、故ニ我アリ)」とは、全てが疑わしいこの世における唯一確実な真理なのだし、そして何よりも〈神〉の存在証明だったのだ。

◆音楽も魂で聴かなくっちゃね◆
 そのような真理に至る彼の思索の道程において「感覚は絶えず欺かれる」という台詞は、リベルタン(=懐疑主義者)達への理論的な防御装置として機能する。つまり、我々は常に欺かれているのだから全てが疑わしく思えてしまうのも当然のことだ、現に学者達は大学の研究室の中で誤謬に継ぐ誤謬を重ねてきたではないか、だからこそ〈理性〉の光を誤謬に満ちた世界に当てることによって確実な真理に至ることが大切なのだ、とデカルトは説いたのである(デカルト自身の考えというより、むしろ後のデカルト主義が掲げた根本原理であると言ったほう良いだろう)。デカルトは確かに大学の研究室から人間の感覚へと音楽を開放しはしたが、その感覚を全面的に信用したのではなく、具体的な視覚や聴覚の上位に新たなる形而上学的概念を設定したのだ。つまり物事はただ見たり聞いたりするだけではなく、〈魂〉で感じとらなければならない、ということだ。そしてこの〈魂〉に宿り人間を正しく導いていくものこそが、〈神〉が人間に与えてくれた〈理性〉なのである。 以上、デカルトの音楽論に関しては名須川学氏に多くを教授して頂いた。感謝したい。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

************************************
天国的純正律音楽入門 第3回

 桐朋学園短大講師の体験記

      純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************

今、講談社新書で出たばかりの、脚光を浴びている『音楽のヨーロッパ史』を書かれた上尾信也氏は、桐朋学園短大を拠点に「音楽史研究会」という結構ハードな集いを主宰されており、去年私が「“純正律”について語れ」という依頼の下、いつものようにヴァイオリンと器械といろんなCDを持参して、しゃべったりヴァイオリンを奏いたりしたのが多少印象に残ったのか、「今年半年“純正律”についての講座を持って欲しい」との委託が上尾氏より来た。
 私は「“反”絶対音感教育」者だけど桐朋で大丈夫か、と訊いても「全然OK」とのこと。というわけで、今年の4月から7月まで前期の講座を持ち、7月14日が前期最後、そのあくる日が芝abc会館ホールでの純正律コンサートである。

◎平均律が人生を惑わせる?◎
短大生というと大体18~20歳ぐらいで、いま問題の“17歳”とほぼ同じ年代である。しかし、桐朋の学生はどうだ。行儀が良く従順で、私語のひとつもなく、出席率も大変良い。他の講座もこのようかどうかは知る由もないが、私の授業の感想を書かせたところ、「新鮮な衝撃に溢れ、こんなに眠くない授業は初めてだ」という反応が多かった。大体の予想はしていたが。なにせ、初回からいきなりヴァイオリンを奏きっぱなしで、純正律関係のCDをかけまくり、これでもかこれでもかと純正律を煽りまくり、狂っている平均律の実態を露わにしたものだから、学生が眠れなかったのも当然だろう。1回目の授業の感想の中で、ピアノ科の学生から、「人生、どうしたらいいか分からなくなった」との深刻な言葉が返ってきた。私は立場上「平均律」を悪者にしたり敵視したりしているようなフリはするが、実は「平均律」の良さもよく分かっている、とのもと、2回目3回目と私自身が「平均律」で作曲している曲も何曲かかけたので、多少は心が休まったかもしれない。
 それほど「純正律」というのは一種「危険な存在」である面も持っている。それは日本の音楽教育のズサンさの証拠であり、アプリオリにピアノ用の平均律のピッチこそが絶対正しいというドグマの下の「絶対音感教育」に全ての弊害の源がある。
 そんなことを「絶対音感教育」の牙城、桐朋学園で何度も言うもんだから、自分でも内心ハラハラすることがあるが、突っ走り出したらブレーキの効かないところもある私だから、未だにコンピュータのない桐朋にも痛烈な批判をしたりして、あぁ口は災いの元であるな、と痛感している次第である。

◎黒木助手よ、有り難う◎
 ところで、この講座は音楽専攻だけでなく文学も演劇もやってくるので、そういう意味ではにぎやかである。特に、演劇科の連中の元気のいいこと。はっきり自己表現できないと芝居のイロハもできないわけだから、当然のことではあるが。わずか15回足らずの講座だったが、学生は確実に純正律の存在を知り、そのうちの何人かは純正律の虜になったはずだ。演劇や文学の学生もいるので、難しい用語は少なくし、とにかく今流行りの透明系の音楽がそうなんだといって、それ系ばかりかけまくったので、よく分かってくれたのだろう。
 それから、数回を除き、黒木氏が助手として参加してくれて彼なりのお薦めCDをかけた。これが私と全く違う分野でありながらやはり純正律ということで、みんなはブッ跳んでいた。もとはと言えば、黒木氏の紹介で「音楽史研究会」に誘われたのがきっかけ。彼はもうすぐフランスに行ってしまうのだが、彼のフランス便りを楽しみに音律問題の発展を期したいと思っている。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 [癒しの現場から]
  身体は季節とともに生きている
  ――陽幸堂 峰咲マーユさんにきく その1――
 
                             田村圭子

~~~~~~~~~~~~~~
  今回は、日本医学をベースとする整体と「アトマスキュア」という独自の健康指導法で知られる、東京・市ヶ谷の陽幸堂に、玉木宏樹氏の治療も兼ねて伺ってみました。かつてここの峰咲マーユさんと玉木氏は、ある録音の現場で運命的な出会いを体験し、その御縁でこの度の純正律新作CD『第3の夢』が生まれたのでした(玉木HPにそのエピソードが載っています)。かねてより音楽と身体との関係を整体の立場から注目し続け、治療・指導の一環として積極的に音楽制作にも携わってこられた峰咲マーユさんのお話を今号からシリーズでお届けしていこうと思います。

☆身体は入梅の準備をしている☆
 陽幸堂に伺ったのは6月6日、東京はまだ入梅前でした。治療のため俯せになった玉木氏の身体に触れるなりマーユさんから「あら、玉木さんはもう梅雨に入ってる。敏感なのね」と意味深なお言葉が。その訳は後ほど明かされるのですが、まずは、陽幸堂独自の治療・健康指導法「アトマスキュア」についてお尋ねしてみました。

「患者さん一人ひとりの日常や身体の違いに合わせて診る訳ですが、相手の身体の中から、誰にでも備わっている治癒能力を引き出すために、身体にはたらきかけてきっかけをつけるんです。実際に元気になるのは、例えば、玉木さんなんですね。私が一生懸命頑張って力を入れて押しても引っ張っても、その人の本当の元気というのは出てこない。だから私たちが手を当て、「輸気」という、相手の身体に手を当てることでその人が今疲れている部分や具合が悪くなってる部分を見つけて、そこにちょっとだけ気を送るということするわけです。これは気を送られた側としては、喉が渇いた時にお水をもらうようなもので、喉が渇いてるときにパンを貰っても呑み込めないからお水が欲しい、でもおなかが空いているときにはパンがいい。そういうふうに、その時々に合わせた気を送ると、欲しいだけ玉木さんが元気の気を吸収して、自分の中で活性化していくわけです。だから、治療というより身体に対する指導法と呼んでいます。酸素が足りないようだから深呼吸しましょうとか血圧が高いようだから脇をつまんでおきましょうとか、そういうお家で出来る方法が一番大事なんですね。私がここで行うのは全体の3割、後は玉木さんがお家に帰って自分でやってみる事、それが7割を占めている。自分で自分を元気にするということ、それがアトマスキュアなんです」〈峰咲マーユさん〉

☆ヒトの身体は面白い☆
「アトマスキュア」というのは、「アトマスフィア(=大気)」と「キュア(=癒し)」という英語を融合させてマーユさんが造った名前だそうです。それは、元来、人間も自然や環境の一部を成す存在であるという認識に立ち還った言葉でもあります。これは、当たり前の事だけれど、忙し過ぎて利便性だけに寄り掛かる日々の暮らしの中で、私たちが見失っている事でもあります。

「ひとの身体って面白くてね、誰でもそうなんですけど、俗に〈背骨〉と言われる所の骨一つひとつが、身体や精神面のいろんなものと関連性がある。だから例えば神経が疲れたとか耳や喉が痛いとかいう場合も全部どこかに決まった場所があって、そこをちょっとだけ(輸気やマッサージ等で)調節するだけの事なんです。さっき玉木さんの血圧を調整するためにぽこんと叩いた所がありますね。最近地震が多いけれど、地震が来る時っていうのは、そこにちゃんと印が出てくるんです。本当は誰にでも出てるんですけど、みんな、知識――情報の中で生きていて、揺れて初めて“震度幾つだろう、ああ大きかったんだ”という感じで、知識だけで地震をとらえようとする。自分が地震を身体で感じていたことを知らないんです」

 本当は、読者の皆さんにも私にも、生まれながらにそういうセンサーが備わっているんですね。

☆季節ごとの身体の変化を診る☆
「先ほど玉木さんの身体を診たら一早く梅雨時の体になってました。梅雨時には、多湿のために出るはずの汗が出にくくなったり、風の冷たさでまた中に引っ込んじゃうとか、そういうだるさがあるんですが、梅雨になると必ず腰のところに一箇所上がり下がりが出てきて“玉木さんが梅雨に入ったな”ということになるし、春になると足首の形が極く僅かに変わってくる。私たちが日常的に患者さんに触っていると、この前の足と今日の足はちょっと違うぞ、っていうことで春になったのが分かったりする。だから、身体の状態が梅雨に入った玉木さんには、これからはお風呂に入る時には、今までざぶっと入っていたのを、今後は入る前に湯船のお湯で顔を洗ってからお湯に浸かって下さいという〈指導〉を行うわけです。そうすれば、冬になって極端に血圧が上がって具合が悪くなることがなくなる。冬のための予防は、梅雨の時期から始めるんですね。ちょっとややこしいかもしれませんが、このように、人間の身体は四季に合わせて変化していて、そういうふうにできている身体の変化を確かめながら、それが全部、〈背骨〉といわれる部分の中に集まっている様子を私たちは見分けていくんです。つまり、人間の身体っていうのは、常に季節と一緒に生きていて、私たちは、それを診ているんですね」
                            【次号につづく】

★陽幸堂――Tel. 03-3235-7535
      東京都新宿区市ヶ谷本村町3-26ホワイトレジデンス9-B

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
外科医のうたた寝☆その2
 
  マラソンの快楽(ライバルは郷ひろみ)

         福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 今から4年前の秋、当時長野県の諏訪地方に住んでおり、病院の仲間に誘われて、地元で開催された諏訪湖マラソンというハーフマラソン(約21km)の大会に出場した。無謀にも5~6回練習しただけで参加したところ、辛かったけど完走出来て大いに感動していた。ところが、後日送られて来た成績表を見たところ、7000人中6200位程度であり、今度はやたらに悔しさがこみあげてきた。そんなことを契機にして、いつの間にかマラソンの練習を本格的(?)に始めるようになり、徐々にエスカレートして現在の職場(癌研)に陸上部を作り、昨年はマラソン、駅伝、トライアスロンと14回の大会に出場してしまった。ただし、フルマラソン(42.195km)は大変なので、たった1回だけである。
 昨年末、ぼーっとテレビを観ていたら、なんと郷ひろみがNYシティーマラソン(42.195km)に出ているではないか。そして足の痛みをおして3時間44分で完走しているではないか。ちなみに僕のフルマラソンのタイムは4時間40分である。郷ひろみに遅れること1時間余り……。だんだんと悔しさがこみあげてきた。そして冬から春にかけて、暇さえあれば自宅近くの玉川の河原を走った。
 そして迎えた4月9日長野オリンピック記念マラソン大会、目標タイムは4時間20分と広言していたが、実は郷ひろみに勝つためには3時間43分と心中期するものがあった。
 世界の強豪も多数参加するレース。全国中継のNHKのカメラが見守るなか、一斉にスタートした。どうもスタート地点でテレビに映ったらしく、行く先々で沿道で応援する人達から「君、スタートでテレビに映ってたよ」と声が掛かる。ちなみに僕は、一部金髪のカーリーへアーであり、角刈りや短髪の多いマラソン大会ではかなり目立つようだ。
 天候も体調も良く、楽しく、全力で42.195kmを走ることが出来た。そして、結果は4000人中1100位で3時間56分。自分としては十分満足のいくタイムであったが、郷ひろみにはあと少し届かなかった。来年こそ、見てろよ……。
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW

 [[[[[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]]]]]]

――GENTLE GIANT『in concert』(WN CD066)ほか――

黒木:今回は僕の担当なのでロックでいきます。
玉木:僕もロックは、実は大好きだし、日本で初めてロックヴァイオリンをやってるんだよね。
黒木:そうでしたね。じゃ、ジェントル・ジャイアントというバンドを御存知ですか。彼らはイエス、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、E.L.P.などといったバンドと同時期に活躍した、いわゆるプログレなんですけど。
玉木:うーん、今出た名前は全部知ってるし、よく聴いたけど、ジェントル・ジャイアントはどうも網の外のようだったね。
黒木:そこで今回は、このジェントル・ジャイアントをお薦めしたいわけです。特徴といえば、とにかくテクニックがすごかった。それも個人のプレイヤーとしてのテクニックではなく、バンドのアンサンブルとしてのテクニックが尋常じゃない。しかも1人が複数の楽器をこなし、ヴァイオリン、チェロ、ヴィブラフォン、リコーダー、サックス、トランペットまで操ってる。ギター、ベース、キーボード、ドラムなどはメンバー5人全員がほぼ同じレヴェルで演奏でき、ライヴでは全員によるギター、リコーダーやパーカッションアンサンブルを披露していました。何よりも圧巻なのがヴォーカルアンサンブルで、5人がアカペラでばっちりハモっちゃう。はっきり言って、さっきのバンド群の中では問題にならないくらい飛び抜けて上手かった。ただし日本ではほとんど売れなくて、一部のファンにもてはやされるくらいですが……現在では音楽活動をしていないようです。まずは早速、彼らの「ON REFLECTION」という曲を聴いてみましょう。――〈CDをかける〉――これは彼らの馬鹿テクぶりを凝縮したような曲で、スタジオ録音よりもこのライヴヴァージョンの方が面白いですね。と言うか、ライヴで、つまり編集をしないでここまでやれるというのは驚異的。まずリコーダー、チェロ、ヴァイオリン、ヴィブラフォンなどのアンサンブルで始まって、ばっちりハモってるヴォーカルアンサンブル、そして最後に、エレキ楽器によるロックアンサンブルで終わる、と。
玉木:う~ん、うますぎる、器用すぎる、自分達だけが楽しんでる、という印象だねぇ。
黒木:じゃ、今度は同じ曲をBBCのスタジオライヴのヴァージョンで聴いてみましょう――〈今度はスタジオライヴ版をかける〉――最後のロックアンサンブルのところ、ギターとキーボードのパートがひっくり返っているでしょ。基本的に彼らは曲を対位法で作っているので、こういう遊びができるんです。これは編曲を担当していたキーボードのケリー・ミネアの功績なんですけどね。彼はロイヤル・アカデミー音楽院で作曲の学位を取得しているんです。それが何を血迷ったかこんなロックバンドに手を染めてしまったんですね。
玉木:なるほど。
黒木:なぜ彼らがいまいち売れなかったかというと、彼らはどうも音楽的にすごいことをやりさえすれば良いと考えていたらしくて、こういう安直な発想をしちゃったところにあると思うんです。音楽の世界ってのは色々な面でのファッション性が求められると思うんですけど、彼らはそれを無視して音楽だけに走っちゃった。
玉木:僕自身も若い時にそういう考えで失敗を繰り返してるんで、少々耳が痛い。
黒木:でも逆にそういう純粋さみたいものが曲がりなりにもジェントル・ジャイアントというバンドで結実したことがあるという事実、それはそれですごいと思うんです。

INFORMATION

 ジェントル・ジャイアント/GENTLE GIANT
 『in concert』(WIN CD 066)→先に聴いた「ON REFLECTION」入り。
 『Playing the fool』(S21-18466)→ライブなのに、この凄さはなに?
『Out of the woods』〈the BBC sessions〉(BOJCD018)
 →じっくり聴けるスタジオ生。

#

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

==============================================================
 アトマスキュア・コンサート

 「第3の夢」、大成功でした!

 7月の15日(土)、いつもの定例とはちょっと趣の違った純正律のコンサートが、東京・芝abc会館ホールで開催されました。今号の「癒しの現場から」でも御紹介した陽幸堂の峰咲マーユさんと、純正律研究会代表玉木宏樹氏との出会いから生まれた新作CD『第3の夢』(「純正律かわらばん」↓を参照のこと)の発売を記念しての企画で、マーユさんの所と純正律音楽研究会との共催、リズム時計工業(株)ほかの協賛によって、拡大版と呼ばれるにふさわしい、盛り沢山な内容でお届けすることができました。
 プログラムも実に欲張りでした。この夜の玉木氏(この夜のために新調した絽の渋い衣装で登場!)は純正律だけでなくおしゃべりヴァイオリンも絶好調。さらには、会員のみなさんにはすっかりおなじみ、巻上公一氏のホーメイや口琴、トゥヴァの楽器による即興演奏、田代耕一郎氏のカンテレも響きわたります。また、純正律にチューニングされた玉木弦楽四重奏団による演奏では、同じ曲を平均律と純正律とで聴き比べてみるコーナーもあり、生で体感する純正律の響きの豊かさに、会場の皆さんも衝撃を受けた様子です。途中、峰咲マーユさんによる
健康指導法のお話コーナーでは、なんと、黒木朋興氏がモデルとして駆り出される場面も。もちろん、その黒木氏を交えての「枯葉」もあり、クラシックからエスニック、モダン、アバンギャルドまでが融けあい、不思議な調和を醸し出す夕べとなりました。
 abc会館ホールは400席という大きめの会場でしたが、お陰様でほぼ満席となり、また、お客様にも十分に楽しんでいただけたようです。来年もまた開催される予定とのことですので、御期待ください。
 最後に、夕方からのコンサートのために、早朝から入って動き回っていた舞台の裏方スタッフの皆さん、本当にお疲れさまでした!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

→→→純正律かわらばん→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

●純正律新作CD出来ました!
 玉木宏樹『第3の夢』――サウンド・テラピー
 価格――税込2500円(ATMC-2000)
�本誌5~6ページで御紹介した陽幸堂の峰咲マーユ氏プロデュースによるミニアルバムです。身心のセルフチューニング用にと委嘱された「第3の夢」、純正律定例コンサートで好評を博しCD化が待たれていた新曲「風のルフラン」、玉木氏と峰咲マーユ氏との運命的な出会いから生まれた幻の名演「風の彩」、そしておなじみ「ケルト幻影」の4曲入り。これまでのミネラル・ミュージック・シリーズとは一味違う、玉木ワールドの新境地を感じてください。御注文は純正律音楽研究会事務局にて承ります。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
●文京学園の生涯学習センターで純正律講座を開講!
 癒しのひびき「純正律」――その天国的な音世界を探る――
�この秋、文京女子大学・文京女子短期大学生涯学習センターの社会人講座で、玉木宏樹氏を講師とする純正律の講座「癒しのひびき『純正律』」が開講されます。様々な純正律音楽鑑賞や玉木氏のヴァイオリン演奏等を交えた体験型の講座です。10月17日、24日、31日、11月14日、21日の全5回で受講料は12000円(テキスト代含む)。定員20名。関心のある方は、文京女子大学生涯学習センター(電話03-5684-4816)までお問い合わせ下さい。

→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

@@@@@西麻布通信@@@@@

◆おかげさまで、この7月で純正律音楽研究会は創立1周年を迎えました。昨年の今頃、研究会創立コンサートと会報創刊準備号発行が重なり事務局は大混乱でした。今も混乱ぶりは変わらずですが、関心をお寄せくださり物心両面から御支援くださる全ての皆様のおかげで、純正律音楽研究会は少しずつ前進し続けています。今年後半は純正律をめぐる大きな展開がありそうですし、会としてもイベント、CD等を通じて新たな試みに挑戦していく所存です。至らぬ点も多いことと思いますが、今後とも、よろしくお願い申し上げます。
◆いよいよ純正律音楽研究会、欧州進出か? 黒木朋興氏がお仕事のため渡仏されます。といっても、もちろん今後も会報等、様々な形で会には関わっていただきますが。御活躍をお祈り申し上げます!

 * * * * * * * * *

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
いちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
  URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

ひびきジャーナル 第2号

玉木宏樹 巻上公一 萩野昭三 黒木朋興 井土井至 田村圭子 福田六花(2000年4月5日発行)

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』  {創刊第2号}
2000年4月5日発行

編集/発行:純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

いよいよ春本番。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
たいへん長らくお待たせいたしましたが、純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』第2号をお届けいたします。まだまだ至らない点も多いことと存じますが、御一読いただき、ぜひともみなさまの忌憚のない御意見、御感想をお寄せくださいますようお願い申し上げます。
おかげさまで先日、当会主催による第4回ミニコンサート&ワークショップも大盛況のうちに無事終了できました。また、近ごろでは当研究会主催だけでなく、外部からの依頼による純正律関連イベントも着実に増えてきているほか、この4月にはテレビ、ラジオ等のオンエアもいくつかあり(詳細は会報8ページ目の情報欄を御参照ください)、純正律に関する認知度がじわじわと高まってきていことを感じます。
当研究会で企画・運営するイベントはどうしても東京周辺地域のものになってしまいますが、これからは、各地のみなさまからの御要望にも積極的にお応えしていければとも考えております。そのためにも、みなさまのお声をお待ちしております。御連絡は事務局まで、宜しくお願いいたします。
桜の季節到来とはいえ、まだまだ寒い日もあります。みなさまも体調など崩されぬよう、どうぞ御自愛ください。

                     純正律音楽研究会代表 玉木宏樹

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#

――玉木宏樹の――
   “この人と響きあう”
                 第2回 超歌唱家 巻上公一さん

#

 純正律音楽研究会代表の玉木宏樹氏が各界の方々と 音や響きについて繰り広げるトークの第2弾は、ヒカシュー等、過激なヴォイス・パフォーマンスで知られる超歌唱家・巻上公一氏の登場です。予告通り巻上氏を伴って、前回のお相手、バリトン・ドクター萩野昭三先生を訪ねました。目的はズバリ、一人二重唱であるホーメイを歌っている時の声帯の使い方を写真に撮るため。ヘンな声を出すのが三度のメシより好きという巻上氏のノドで、一体何が起きているのか!?

〈ホーミィとホーメイは違う〉
玉木:巻上さんとホーメイとの出逢いはどういうふうにして?
巻上:7年くらい前かな、TBSで、あの坂田明さん(「ちょうちょ~」で有名なサックス奏者)がホーメイの特集をやっていたのを見てびっくり。すぐやりたくなって、坂田さんのところへ行ったんです。
玉木:へえー。あの坂田さんがねえ。彼自身はホーメイできるの?
巻上:今からみると、少しできるって感じだったかな。
玉木:だいたい、ホーメイなんて、どこの誰がやってるんだろう、なんていうところですよね。
巻上:ええ。それで、さっそく坂田さんとこへ行ってやり始め、いろいろ研究すると、奥の深いこと。
玉木:はあ。
巻上:最初はモンゴルの人たちの特殊な歌い方だと思っていたんだけど、そんなもんじゃなかった。
玉木:モンゴル以外にもたくさんやってるわけ?
巻上:モンゴルでやってるのはホーミィと発音します。
玉木:巻上さんのやっているのはホーミィではなくホーメイ?
巻上:そうです。モンゴル周辺では、いろんな民族がよく似た歌い方をしています。しかし、ソ連時代には、ティピカルな民族音楽は禁止されていたので、やる人は少なくなっていたようです。
玉木:ウクライナでも、ダルシマ系の民族楽器のプレイヤーが大虐殺されて、ショスタコヴィッチが自伝で、それを黙視したことを猛反省しているらしいけど。
巻上:それでボクは、地図でいうとモンゴルのななめ左上にある、トゥヴァというロシア連邦内の共和国の人と知り合い、似たようでいてだいぶ違うやり方を知ったんです。
玉木:それがトゥヴァ地方のいわゆるホーメイ。で、あこがれのトゥヴァへ行ったんだ。
巻上:あの時は、イルクーツクまでの直行便があったので、今よりは行きやすかったんです。
玉木:えっ、今はもっと大変なの。
巻上:アエロフロートから独立した航空会社がつぶれちゃって、直行便がなくなっちゃってね。

[――などと話がはずむうちに、診察室に呼ばれ、バリトン・ドクター萩野先生と巻上氏が御対面。看護婦や事務などの女性陣が5~6人も待ち受けていた!]

玉木:萩野先生、ホーメイって聴いたことあります?
萩野:いや、噂はきいているけど。
玉木:巻上さん、じゃ、さっそくやってみてください。

〈ホーメイの謎に大接近!?〉
巻上:[診察用の椅子に座りながら]えーっ、ここで……ムムム……[と言いつつホーメイが始まり診察室の一同、歓声の嵐]
萩野:ふーん……声帯の写真を撮るのには、「イ」の発音がいいんだけど[と言いながら、巻上氏の口腔に光をあてて、撮影用の特殊カメラを向けると、隣の大きなカラーモニターに、巻上氏の声帯の、どアップが映し出される]
巻上:イ~~、ゴホンゴホン、何だかおかしいな。
萩野:こわくない、こわくない。リラックスして。
巻上:イ~ウ~エ~、ゴホッ、ゴホッ……
萩野:ちょっと麻酔をするからね。
巻上:ええーっ![←まったく困り切った表情]
萩野:大丈夫、大丈夫。たいした麻酔じゃないんだから。
巻上:イ~エ~オ~[←なかなかうまくいかない様子]
萩野:そンだなぁ。[←完全に津軽弁]、仕方がないから鼻からいぐか。
巻上:えー!?[←もう半泣き状態]
萩野:すぐ終わるから、ほら、こんな風になってる。[全員でモニターを覗き込む。玉木氏にはもちろんわけが分からないが、スタッフの女性陣は一斉に息を呑んでいる]
萩野:ほンらね。[と言いつつ、声帯の様子をビデオに収録。写真を3枚ずついただいた]
玉木:先生、この間お会いした時のお話で(創刊1号参照)、ホーメイは仮声帯を使ってるというようなことを言われた気がするんですが。
萩野:いや、違うね。仮声帯を使うのは浪曲とか詩吟の人たちだね。
玉木:じゃ、普通では考えられないんですか。
萩野:つまり、喉頭の全部が振動してるんで、こんな人初めてだな。
玉木:じゃ、学会に発表できるほどのことですか。
萩野:そうだねぇ、十分発表できるね。

〈そして診察後……〉
――ここからは玉木の感想です。いやほんとに御両人、ありがとうございました。診察が終わって、萩野先生の奢りで一杯やりながらの雑談で、巻上さんがとても重要で面白い話をしてくれました。ホーメイをやりだしてから、特に倍音に敏感になってしまい、街のどんな音でも倍音が聞こえるようになり、うるさくてたまらない時があるということです。そして、電車に乗ると、その震動音に合わせてホーメイをやりたくてたまらなくなるそうな。東海道線(彼の自宅は熱海)の車中で巻上氏を見かけたら、ホーメイの実演がタダで聴けるかも!
                         〈文・写真:玉木宏樹〉

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

{{{{{{ ムッシュ黒木の純正律講座 第2時限目 }}}}}

「純正律」という呼称についての考察  ―その2―

                           黒木朋興

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

◆事典レベルで既にバラバラ◆
 前回は、フランスで最も権威があるとされる音楽学校で作曲を講じる人物に、フランス語で純正律(=reine Stimmung /just intonation)を何というのか聞いてみたところ言葉につまってしまった、という話をした。
 しかしフランス人の作曲家が「純正律」という表現を知らなかったとしても、それは決して彼らの勉強不足のせいではない。フランス語の音楽事典やテンペラメントを扱った学術書を見てみれば、既にそこからして言葉が一定していないのである。
 まずマルク・オネゲル編集の『音楽事典:音楽の科学』(1976)を引いてみると、「ピュタゴラスシステムSysteme pythagoricien」「調整されたシステムSysteme tempere」の項に続き、「ツァルリーノシステムSystemezarlinien」という項が見つかる。ここでは「G.ツァルリーノがこのシステムを開発したのではないが、これが広く用いられるようになったことに関しては多大なる貢献をしている。その主要な特徴は、ピュタゴラスの長3度(81/64)を倍音列のなかの長3度(5/4)に置き換えたことにあり、3つの音(ド-ミ-ソ=4/5/6)による協和音の可能性に道を開いた……」と説明されている。また「フランスでは物理学者の音階、ドイツでは倍音システムの音階と呼ばれている」という記述があることも興味深い。
『音楽ラルース』(1987/1993) では、テンペラメントの項の中で、「平均律le temperament egal」、「ピュタゴラス整律le temperament pythagori-cien」に続き、「ツァルリーノ整律、あるいは《不等分律》les temperam-ents zarliniens, dits《inegaux》」として扱われている。やはりここでも5/4の3度の重要性が強調されているが、les temperamentsという風に複数形であることからも察せられるように、中全音律やキルンベルガー整律などの古典整律の説明もこの項の中でなされている。
 次に学術書を見てみよう。ピエール=イヴ・アスランの『音楽とテンペラメント』(1985)では、ピュタゴラス律を「ピュタゴラスシステム」として説明し、純正律は「英語の《just intonation》からの訳語である」という断り書き付きで《intonations pures》としている。ジャン・ラタールの『音楽における音階とテンペラメント』(1988)では、やはりそれぞれ「ピュタゴラスの音階gamme de Pythagore」、「ツァルリーノの音階gamme de Zarlin」と呼ばれているのだが、「自然音程 Intervalles naturels」という言葉に「正確なjus-tesあるいは純粋なpurs [音階] とも呼ばれている」という但し書きがついている。英語、ドイツ語からの影響であろう。そしてドミニク・ドゥヴィの『音楽のテンペラメント』(1990)では、ピュタゴラス律を「ピュタゴラスシステム」としているのは前述の書物と同様だが、純正律には「自然音階gamme nature-lle」という言葉が当てられており、箇所によっては括弧をつけて英語のjust intonationという言葉が添えられている。

◆立役者は物理学者たちだった◆
 確かにツァルリーノは長3度(5/4)の可能性を強調してはいるが、彼の時代ではハーモニーといえばまだ音階論の域を出ず、それが1度-3度-5度などによる和音のことを意味するようなるのは、17世紀にメルセンヌやデカルトらが自然倍音を発見し、18世紀初頭にかけてソヴールなどの物理学者が音響分析を行い、そしてそれらの研究の成果を背景としてラモーが数々の和声論を執筆する18世紀以降であることを考えれば、純正律が〈科学的〉に理論付けされ実用化されたのは18世紀初頭であると言えよう。その意味で、ドゥヴィが純正律に「自然音階」という用語を当てているのは、「自然倍音harmoniques naturels」との関連であり、適切な選択であると言えよう。
 つまり純正律はツァルリーノではなく、18世紀の物理学者達のもとで和声論とともに花開いた音階なのである。

※おことわり※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
本稿の、黒木氏による原文では、フランス語部分に多数のアクサン記号が使用されていますが、メールマガジンというメディアの制限上、この「会報ネット版」ではアクサン記号をつけた状態の文面を表示することができません。ただし、純正律音楽研究会正会員向けの会報(印刷物/A4判8ページ)では、正しく表記されているほか、図版等も掲載されております。
今回、この正会員向け会報を御希望の方に実費にてお送りいたします。お名前、御住所、「アナログ版会報希望」の旨をお書き添えいただき、80円切手を同封の上、純正律音楽研究会までお送りください。折り返し、正会員向け会報をお送りいたします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

************************************
天国的純正律音楽入門 第2回

 な、なんと、ギターの調弦が純正律に!

      純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
************************************

◎「ギターで純正律」開発秘話?◎
 当研究会の若きホープ黒木氏が、純正律ブルースの調弦を発見したということは前回に少し書いた。この会報でも彼に連載記事を書いてもらっているが、文章が難しいという意見がちょくちょく来る。しかし、彼は、本当はミュージシャンではなくバリバリのフランス文学の徒であり、文学博士をめざして多方面に研究を深めている途中で〈純正律〉の重大な問題にぶつかったという話だ。もともとロックバンドなんかやっていた関係で、ギターの調律の矛盾点と純正律のすばらしさに目覚め、ひたすら研究の道に入ったようで、学究の徒である以上、厳密な考証のもとに文章を書かねばならないのでひとつ御理解のほどを。
 ところで、たいていの人は彼と話していてもおいてけぼりになるので「むずかしい人」と思われがちなのだが、何の何の、実は正反対の奇人変人に近いところがあり、ギターが純正律調弦できないことにいらついて悶々とした毎日を送っていたようだ。
 ある日、倍音上の自然7度(これは普通の西洋音楽の音階ではほとんど使わない。バッハ時代の無弁トランペットではやむを得ずこの音程が出る程度)に頭をめぐらせている時にふと、この自然7度を採り込んだ調弦を思いついた。
 Dチューニングで、下からD-A-D-F#-A-Cと調弦するのだが、下のD以外の音はすべてDに含まれている自然倍音、つまりハーモニックスで合わせていくのである。すると、長3度の音が純正律になるのは当然だが、なんと7度までが純正になるのだ。彼が意気込んでウチの事務所へ来て、「このチューニングならブルースができるでしょう」と言いつつ始めたセッションは、すぐに興奮の渦を巻き起こした。
 ブルースだから、I度、IV度、V度しかなく、それも全て1本指の移動で済む。このブルースについては、前回の「コア石響」の時のセッションを御覧になった方はお分かりだろうが、何を隠そう、昔はエレキヴァイオリンでロックをやっていた私。過去の悪行を思い出し、破天荒なアドリブを始めたことに驚いた人もいただろう。
 この純正律ブルースは12月に錦糸町そごうのクリスマスキャンペーンのミニコンサートでもやって、大変面白かった。これからも、何度もやっていこうと思っている。

◎次なる秘技はトライヤードで◎
 で、話はここで終わらない。なにせ、あくなき学究の徒・黒木氏は1本指の平行移動のブルースでは全然飽き足らず、悶々と正月を過ごすうちに、ついに、トライヤード(三和音のこと)上で純正律にチューニングする方法を発見してしまい、1月14日の当会の新年会でその成果を発揮してくれた。その時の参加者の興奮ぶりが強烈なものだったのは言うまでもない。
 とりあえずは、シャンソンの定番「枯葉」をやってみたが、面白くてキレイで申し分ない。この調弦法はまだ明かすわけにはいかない(実は私自身がいまいち分かっていないのじゃ)が、次回3月30日(木)の純正律ミニコンサートで披露するつもりである。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 [癒しの現場から]
  音が自然治癒力をサポートする
  ――イドイ指圧治療院院長 井土井至さんにきく
 
                             田村圭子

~~~~~~~~~~~~~~
  いま、治療の場で純正律音楽の導入がますます増えています。西武池袋線「富士見台」駅前のイドイ指圧治療院もそのひとつ。純正律音楽によって患者さんのヒーリング効果がアップしただけでなく、治療室の植物の発育が格段に進んだり、治療中、頭の中にスクリーンが現れ画像が見えるようになった人、身体が勝手に動き出す人もいる――こんな内容のおたよりを頂き、早速お話を伺ってきました。

☆純正律音楽浴で緑が倍に成長☆
 院内は大小各種の鉢植えでいっぱい。常に微かな音量でミネラル・ミュージックが流れており、なんだか、ほっと和みます。
「このテーブルヤシ、十数年間ほとんど育たなかったんです。それが1年ほど前CD(「光の国へ」シリーズ)を流し始めたら初めて花が咲いていきなり倍ぐらいに成長し始めちゃった。これ、ちょっと見てくれます? パキラなんですけど、窓際のやつが元気がなくなっちゃったんで丸坊主にして、切った部分をもったいないからここに差しておいたんです。そしたらもう、親よりこっちの方が大きく成長しちゃって」〈イドイ指圧治療院院長・井土井至さん〉
 音の聞こえ具合の差か、鉢の位置によって成長の度合いに分布があるのが、なんとも不思議。井土井さんは、音楽や純正律については「難しくてよくわからない」と言い切る一方で、音楽を評する際に「入り込める」という表現を使われます。入り込める、というのは、どうやらリラックスするということと深く関係があるようです。
「まず、気功し始めると寝ちゃうようになった。まぁ、普通にやっていても寝る方はいますが、このCDかけ始めてからは、眠りに入るまでが早いし、ここで眠っていく方も増えてます。特に『光の国へ』の2、3になると音の高低差や曲調の激しい曲がないから、安心してα波からθ波の状態で眠れるんじゃないですか。邪魔にならない曲ねって皆さん言いますね」
 井土井さんは以前から、いわゆるヒーリング・ミュージックからエスニック音楽、宗教音楽に至るまで様々なジャンルの音楽を試してこられたそうですが、どうも「ヒーリング用につくられた」音楽には「入り込めなかった」とか。また、微かな音量で流すこともリラックス促進のポイントのようです。

☆世界の見え方が変わった☆
 さて、治療室の壁を見渡すと、患者さんのイラストでいっぱい。これが治療中に“見えた”画像ですね。この不思議な絵が室内に独特の雰囲気を与え、治療に相乗効果をもたらしているようです。
「絵を描いたのは元々イラストレーターの方なんですけど、『光~』のCDをかけ始めてから、ほら、こんな風に絵がすっかり変わって色もクリアになってきてます。最近の作品で面白いものはこれで……これは、いわゆるヨガで言うところのクンダリーニ――仙骨のところにあるエネルギーが、渦巻くようにポンと上に抜けていく様子じゃないかなと思うんです」
 誌上で御紹介できないのが残念ですが、たしかにエネルギーの迸りが感じられる絵で、見る側も様々な感覚を刺激されます。さらには、CDと気功を併用することで、描く絵が変化するだけでなく、手に取る本の傾向や自分を取り巻く感覚そのものがより細やかな感じに変化したりと、井土井さんをはじめ皆さんの心身両面に変化が現れ始めたそうな。一体、何が起きているのでしょう!?

☆右脳を活性化させる音色?☆
「おそらくこの絵の方は右脳がずいぶん開発されているんだと思います。このCDの音色が右脳にはたらきかけやすいんでしょうね」
 いきなり脳の話ですみません。でも実は、指圧とは脳のメカニズムに沿った治療法なのだそうです。
「一番大事なのはね、私らが圧したから治るものではないということ。圧すことで刺激が脳の松果体に入り、そこから各内臓器官のホルモンを作る内分泌腺にはたらきかける。松果体は内分泌腺の統括総合令本部なんです。○○が今凝ってると訴えているから、◇◇のホルモンよ、お前が行って緩めてやってくれと。で、現場にホルモンが行って筋がすっと緩んで治る。これが本当の自然治癒力です。私らがやっているのは、そのお手伝い。例えば背中の筋肉なら9本も重なってる。上から一番下なんか圧せっこないんです。そこでこういう音楽でリラックスして
緩んでくれると隙間ができてどんどん奥まで入れる。つまり、より神経の近くに触れられるわけです」
 さらに松果体は創造も司っているため、ある種の音の刺激が知覚の変化として現れると。私たちの身体って、全身が複雑に連携してるんですね。ところで、治療を施す側へ、CDが逆に癒し効果をもたらす一面もあるようなんです。
「以前は、どうやって治そうかなという気構えが強かったけど、今は、まぁいろいろやってみようって感じでのーんびりと……同じ1時間でも、ほやーっとした優しい時が過ぎているみたいですね」
でも困ることもあるようで……。
「この状態で気功を行うと、心地良すぎて、たまに寝ちゃってることがあって。“先生!”“ああ、寝てた”みたいなこともね(笑)」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

zzzzzCOLUMNzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
外科医のうたた寝☆その1
 
  純正(律)讃岐うどんの旅

         福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 昨年は讃岐うどんにはまってしまい、うどんを食べるだけのために、2度も香川県に出かけてしまった。きっかけは『恐るべきさぬきうどん』という本である。香川県に数百とあるうどん店を食べ歩き、細かなランキングと詳細な地図を付けた名著を読むうちに、これはどうしても実際の讃岐うどんを食べなければと思い香川県に行き、見事にはまってしまった。
 うまいうどん店には大体共通した特徴がある。

1.一見してうどん店には見えない――看板は出ていないし、外観は普通の民家のようだったり農家の納屋のようだったりする。
2.辺鄙な場所にある――もちろん繁華街にも美味しいうどん店はあるのだが、多くの名店達は住宅地のはずれ、田園地帯の真ん中、人里離れた山中などにひっそりとたたずんでいる。
3.セルフサービスである――もらったうどん玉を自分で湯がいてから食べる。
4.うどん1杯の値段はなんと100~200円である
5.それでいて驚異的にうまい――まさに奇蹟である。

 まずは食べに行ってみましょう。クルマに乗って『恐るべきさぬきうどん』を片手に目当てのうどん店を探すこと数十分。田舎の細い道を何度も迷いながらもようやくそれらしき建物を見つけだす。看板など出ておらず、どう見ても古い納屋か小さな倉庫のようである。恐る恐るドアを開けて中を覗くと、薄暗い店内に無言でうどんを食す人が数十人。見よう見まねで積んであるどんぶりを持つと、小柄なおばちゃんが「何玉?」と訊くので「○玉下さい」と答える。どんぶりにうどんが載せられるので、それを自分で大鍋で湯がき、生卵を割り入れてネギを載せる(当然ネギも自分で刻む。もしまな板の上のネギがなくなったら自分で外の畑から抜いてくる)。つゆは用意されているがこれは使わず、生醤油を「の」の字にかけてから一気に食べる。最初に素晴らしい歯応えに感動し、少し遅れてあまりのうまさに呆然としてくる。なんの仕掛けもない。このうどんはついさっきまでうどん粉と塩と水だったのに、いつの間に魔法のように感動的なうどんに変身したのだ。これはうどんの純正律だ。
 こんな感動的なうどん店を1日に5~6店まわり、うどんを食べ尽くす(それだけ食べても1000円かからない)。
 僕は東京ではめったなことではうどんを食べなくなった。
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW

 [[[[[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]]]]]]

 今回の「純正茶寮」は、CDのフンイキまでお伝えしたいという意気込みでお届けしましょう。前回の黒木氏に代わり、玉木氏によるクラシック系純正律の逸品を御紹介します。

玉木:黒木さんは、あんまりクラシックは強くないよね。
黒木:クラシック音楽は知っていますが、現代の純正律系のものには詳しくないです。
玉木:創刊準備号で紹介したペレーツィスはラトビア人だけど、いま、ポーランドからフィンランドにかけて純正律の嵐が吹きまくっている。で、今日はグレッキというポーランド人の作曲した「ポルカの為の小レクイエム」を……
 〈玉木、CDをかけながら話す〉
グレッキと言えば、「悲歌のシンフォニー」が世界中でミリオンセラーになって有名になったんだけど、今のこの曲の出だしと同じように、同じようなコードばかり使っていて――というか、シンフォニーの場合、淡々とイ短調のモード系が続く。すると、オーケストラは自然に純正律のイ短調になっていく。そこへ心をかきむしるような悲痛なソプラノが登場するわけ。
 〈曲の冒頭部分は非常に静かに、ヴァイオリンとピアノだけが淡々とシンプルな演奏を続けている〉
どう?
黒木:ちょっと単調な気もするけど……。
玉木:そうとも言えるけど、そこがまたいいような、ね。ところで題名に「ポルカの為の~」というのが何なのか、イマイチ分からない。ポルカといえばシュトラウスの曲とかいっぱいあるけど、だいたいポルカというのは、ポーランド人の女性を意味するらしいね。
黒木:今度調べておきましょう。
 〈曲が単調なので会話が続く〉
玉木:まだ4分か、まだまだかな。
黒木:なんですか?
玉木:まあ、もうちょっとのお楽しみ。さて、ポルカ以外にもマズルカとかポロネーズとか、なぜポーランドの関係の舞曲が多いんだろうね。
黒木:それも調べておきましょう。
玉木:話は変わって、いま北欧で純正律の嵐が吹き荒れてと言ったよね。その中のラトビアかエストニアかは忘れたけど、全世界に散らばっている亡命者たちが年に1回、祖国へ帰って全員で合唱をやるらしいんだ。NHKで特集があったと人からきいたんだけど、亡命者たちは毎年、1回のイベントのためにすごく練習するらしいんだけど、多分ピアノは使われないと思う。だから、会場は純正律の渦になるはずだよね。
黒木:なるほど、一度聴いてみたいもんですね。
玉木:さてもうすぐだ。しばらく聴いてみよう。
 〈延々と淡々と続く静けさ〉
  ……………………………‥‥‥‥‥・・・・・・・・・・・!!!!!!!
 〈突然の大音響〉
玉木&黒木:ワアー!?
 〈のけぞる二人。玉木、あわててCDの音量を下げる。黒木、妖怪にでも遭ったかのようにおったまげ、次には半狂乱になるほど笑い転げる〉
黒木:なにこれぇ!! すげぇや。面白い。これはすごい!
 〈黒木、感嘆詞連発〉
玉木:いったいナニが起こったのか!? 『ひびきジャーナル』を読んでるみなさんにもぜひ一度、この曲を聴いて、初体験の「のけぞり」を味わってもらいたいね。

INFORMATION

 玉木はこの曲の入っているCDを2枚を持っています。1枚はここで試聴したグレッキ曲集で、指揮Rudolf Werthen、演奏I Fiamminghi(The Orchestra of Flanders〉によるものです(TELARK20 CD-80417)。
 もう1枚のCD番号はPhilips 442 533-2。ぜひ、輸入版コーナーで探してみてください。

#

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

==============================================================
 ――企画してみませんか――

   あなたがつくる純正律イベントのすすめ

 おかげさまで、純正律音楽研究会ミニコンサートは第4回を数えます。開催にあたっては、皆様に御案内ハガキやメールをお送りしており、いつもたくさんの御返事をいただきます。その中には、参加できない方からの「平日夜は無理」、「遠くて参加できません」といったお声が散見されます。
 コンサートの企画をする際には出演側のスケジュール調整はもちろん、なるべく多くの方に御来場いただける設定を念頭においています。しかし、実際に全ての人が参加できる日時・会場を、というのはまず不可能なことですね。
そこで!「いつも参加できない時間や場所で開催されている!」とお悩みの方、参加しやすい形態のレクチャーコンサートやワークショップを、御自分の手でつくりだしてみませんか? 
 難しく考える必要はありません。「大人数を集客・動員」という発想ではなく、純正律音楽に関心のある仲間が集まって、それぞれがさらに友人を連れて来て、というような形から始めてみてはいかがでしょう。会場だって、必ずしも立派な大ホールである必要はありません(もちろん響きの良い部屋であるにこしたことはありませんが……)。これまでにも玉木氏はたびたび、20名程度の集まりの依頼で小さなレクチャーコンサートを行ってきています。
「自分の地元で開催してほしい」「休日の午後なら出かけられる」「子ども連れでも入場できないかしら」「こんな内容でやって」等々、皆様のニーズに合う純正律イベントを企画・提案し、スタッフとなってください。もちろん資格は問いません。玉木氏はじめ純正律音楽研究会発起人、事務局スタッフもサポートいたします。解説と共に純正律の響きを体感してみることで、自分を取り巻く音の世界がさらに拡がります。関心ある方、まずは、研究会事務局まで御連絡ください。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

→→→純正律かわらばん→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

●TBSラジオで純正律特集番組オンエア決定!
日時――2000年4月24日(月)21:00~21:50 TBSラジオ(954KHz)
⇒純正律特集番組がオンエアされます。「究極の癒しの音って何だろう――耳から心のリラクセーション」をテーマに、玉木宏樹氏のおしゃべりあり演奏あり、盛り沢山な50分。3/30のミニコンサートの模様も紹介される予定です。ぜひ、お聞き逃しなく!
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 
●日本産業カウンセラー協会月例研究会「ミネラル・ミュージックの楽しみ」
日時――2000年4月15日(土)14:00~17:00
会場――和洋学園飯田橋校舎5階大教室(JR・地下鉄飯田橋駅徒歩3分)
参加費――一般2000円
問合せ――(社)日本産業カウンセラー協会関東部会 Tel. 03-3360-6868
⇒純正律音楽研究会の玉木宏樹、小川圭一両氏によるレクチャー+ミニコンサートになります。リラクセーションにテーマを絞った専門家向けの研究会ですが、関心のある一般の方も参加できます。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 
●純正律による耳にやさしいミニコンサート
日時――2000年5月13日(土)16:30開演
会場――小松アネックスビル5F「銀座グレースイベントホール」
  中央区銀座6-8-5(地下鉄銀座駅徒歩3分/JR有楽町駅徒歩5分)
参加費――無料(要予約)
問合せ――Tel. 03-5537-8300
⇒銀ブラのあとは、耳にやさしい音色でリラックス。小さなホールなので、御希望の方はおはやめに御予約ください。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 
☆はみだし情報☆
4月9日(日)MXTVの「ガリレオ・チャンネル」(8:30~/19:00
~の2回放映)で、玉木宏樹氏による純正律特集番組を放映!お見逃しなく!!
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

@@@@@西麻布通信@@@@@

◆お待たせしました第2号。年末から新年にかけてのインフルエンザの猛威は当研究会にも波及。事務局の田村がダウンしたため、今号で玉木氏はライター兼カメラマンとしてもデビューするハメになりました(ホントにすみません)さて、出来ばえはいかがでしょうか。
◆なんと! 玉木氏が桐朋学園短期大学にて、この4月から9月まで、毎週1回教鞭を取ることとなりました。「文化の創造と環境――音の後進国日本」と題して、街の騒音退治、純正律音楽、打倒・平均律/絶対音感神話を掲げた講座が展開される予定。これは、初めて公的な立場で純正律が認められるきっかけとなるかもしれません。「ただし、桐朋の子供音楽教室は絶対音感神話の牙城なので、いいのかいな、という気も少しはありますが」とは玉木氏の弁です。
 * * * * * * * * *

※attension!!!!!!!!※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
今号の黒木朋興氏による「ムッシュ黒木の純正律講座」、黒木氏の原文では、フランス語部分に多数のアクサン記号が使用されていますが、メールマガジンというメディアの制限上、この「会報ネット版」ではアクサン記号をつけた状態の文面を表示することができません。ただし、純正律音楽研究会正会員向けの会報(印刷物/A4判8ページ)では、正しく表記されているほか、図版等も掲載されております。
今回、この正会員向け会報を御希望の方に実費にてお送りいたします。お名前、御住所、「アナログ版会報希望」の旨をお書き添えいただき、80円切手を同封の上、純正律音楽研究会までお送りください。折り返し、正会員向け会報をお送りいたします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
いちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
  URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@