ひびきジャーナル 第5号

玉木宏樹 金子健治 黒木朋興 峰咲マーユ 田村圭子 福田六花(2001年12月7日発行)

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ピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会会報
『ひびきジャーナル』  【創刊第5号】
2001年12月7日発行

編集/発行:ピュア・ミュージックサロン/純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
※本誌ネット版は『ひびきジャーナル〈正会員版〉』を基に別途編集してネット会員の方に配信しております。
※(C)純正律音楽研究会  禁無断転載
 転載等、二次的にご使用になる場合は、必ず事前に純正律音楽研究会事務局まで御一報ください。
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<<今号の内容>>
■1■玉木宏樹の“この人と響きあう” 第5回
                     リコーダー奏者 金子健治さん
■2■ムッシュ黒木の純正律講座 第5時限目
   「純正律」が届くまで     黒木朋興
■3■天国的純正律音楽入門 第5回    続・ビブラートの正体について
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
■4■癒しの現場から――陽幸堂 峰咲マーユさんにきく(3)
   もう一度子どもになってみよう!             田村圭子
■5■外科医のうたた寝☆その4 医者の不養生(1)
          福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家) 
■6■CD REVIEW [[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]  黒木朋興×玉木宏樹
   Trio Patrekatt『Adam』(xource/xoucd 119)
■7■Letter Rack~会員の皆様からの投稿コーナー~
■8■純正律かわらばん→玉木新著『純正律は世界を救う』12月20日発売に!
■9■西麻布通信

レアな純正律情報満載のピュア・ミュージック・サロン/純正律音楽研究会の公式ホームページが、いよいよ近日オープンします!
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■1■ 玉木宏樹の“この人と響きあう” 第5回――
    「情けない音」に秘められた純正律の底力
                  リコーダー奏者 金子健治さん

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純正律の強力な味方現わる! 古楽から現代曲まで純正律で自在に表現する東京リコーダーオーケストラを率いるリコーダー奏者、金子健治さんの登場です。玉木氏は以前より、金子さんの活動のひとつである、全員が竹で作った楽器を使うアンサンブル「竹鼓舌(チコタンと読む)」をよく知っており、玉木氏の、天台宗声明とのコラボレーションアルバム『AMINADAB』(日本コロムビア)にも参加してもらった旧知の仲。打てば響く純正律の使徒達の会話とは?
          ―― ―― ―― ―― ――
玉木:こんにちは。ごぶさた。今日はまず、あなたのリコーダーアンサンブルのCDを聴きたいんだけど。〈東京リコーダーオーケストラの『Sevilla』というCDをかけ始める。玉木、1曲聴くなり、感動と驚きの言葉の連続〉
玉木:ね、これって本当にリコーダーだけの演奏なの? まるでポジティブ・オルガン(持ち運びのできる卓上オルガン)みたいな響きがしているけど。
金子:全部リコーダーですよ。
玉木:うわー、このすごい超低音も?
金子:そうです。2メートルぐらいあるコントラバス・リコーダーです。
玉木:〈何曲聴いても感激のためいき〉いやあ、実によくハモっている。これ
こそ、純正律の極致。
金子:リコーダーは、ちゃんとハモらないと、いやな差音が出るんです。
玉木:リコーダーって本来、かぼそい音なんだけど、すごい音圧出てるね。
金子:そうなんです。リコーダーなんて1本でメロディ吹いていてもあまり面白くない。それが何人かでハモった瞬間に、音がすーっと前に出て行って、すごい大きな音になる。響き合うとすごい力になります。
玉木:〈玉木、ヴァイオリンを取り出し、四弦奏用の弓で演奏を始める〉ね、この弓、毛がダブダブだから弦を4本いっぺんに奏けるの。でも、あんまり圧力かけられないから決して大きな音はしないんだけど、こうやってハモると………ホラ!
金子:ほんとうだ。すごい大きな音がする。〈しばらく玉木の演奏があった後でCDライナーの写真を見せながら〉あの、この2メートルのコントラバス・リコーダー、見た目がすごいでしょう。だから、楽器紹介する時なんか、どんなすごい音かとみんなが期待するんだけど、これ1本だけで演奏すると「ヘェェ~」っていう全く情けない音色で、みんなにガッカリされる。でもね、そんな情けない音の上にハモったコードが乗るとね、ものすごい力を発揮するんです。ほんとうに、あの楽器こそが、純正律純正律で響き合った時の力の証明みたいなものですね。
玉木:なーるほど。すばらしい話だ。金子さんは、こんなにすばらしい世界を実践しているのに、もっとみんなに知ってもらわなきゃ。
金子:でも、リコーダーの世界なんて狭いですから……
玉木:だから、リコーダーの世界に閉じこもっていてはダメなんだよ!!
金子:はあ。〈玉木の挑発にも直接のらず、常に温厚でおっとりしている〉
玉木:ところで、ハモる練習なんて、どうしてるの。
金子:まず、2人で完全5度をとって、3人目が「ミ」の長3度を吹く。そして、だんだんハモるようになったら、何度もカノン(輪唱)をやります。
玉木:〈我が意を得たり、とばかり〉そう! それだよ。僕がいつも合唱の人たちに言ってることと全く同じ。カノンこそが一番の練習。嬉しいね、僕と同じことを実践している人がいるなんて。
金子:僕は、合唱もやってましたから。
玉木:失礼だけど、金子さんはどういう経歴なの。
金子:僕は尚美で、指揮科です。
玉木:楽器はなに?
金子:もともとはトロンボーンやってたんで、ノンビブラートの楽器がハモらないと悲惨なのは分かっていました。
玉木:〈ここで、シスターン・チャペルのCDをかける〉このCDね、40秒もナチュラル・エコーのある場所で、トロンボーン10人がハモる練習をしてる。1人でも音程を外すと、それが40秒残っちゃうからみんなの迷惑になる。
金子:このCDはすごいですね。
玉木:残念だけど、もう手に平らない〈←実に自慢気〉。ところで、金子さんはそれからどうやってリコーダーに行ったの。
金子:リコーダーには元々興味を持ってたんだけど、合唱の指揮なんかもやっているうちに、リコーダーでハモってみようと思って始めたのが、今のアンサンブルです。
玉木:いやあ、実にいいアンサンブルだよ。もっと広めなきゃ。僕も協力するよ。今度ぜひ、うちのミニコンサートに、ゲストで出演してもらえないかなあ。
金子:はい。喜んでやります。
玉木:話変わるけど、小学校ではリコーダー教えてるよね。あれについて、何か言いたいことある?
金子:学校用のリコーダーって、プラスティックなんですね。それで、みんなバカにしてるけど、プラスティックという材質は、実はすごく安定していて、リコーダー向きなんですよ。うまく吹けば、黒檀とか総象牙にも匹敵するくらいのいい音がする。
玉木:でも、先生がちゃんと演奏法を教えられないから、みんなバカにしてるんだよね。
金子:リコーダーというのは、まず、1つの音をいかにまっすぐ吹くかという練習をしなきゃいけないんです。
玉木:声だって、管楽器だって、みんな横隔膜の訓練をするんだもんね。
金子:そうなんです。そういう基本を教えないで、みんなが勝手に同じメロディ吹いたってしようがない。
玉木:そういうことをみんなに知ってもらわなきゃ。
金子:実は、僕も講師やってるんですけど、最近、カルチャーセンターでリコーダー講座が大流行りなんですよ。
玉木:じゃ、金子さん、儲かってるんだ。〈そしてこの後、同席していた当研究会事務局長の馬場氏と玉木、金子さんとで、対談の続きと称して飲み屋へ〉
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【玉木からのひとこと】
 NHK教育テレビで「ふえのおじさん」(失礼、おにいさん)として有名な金子さんの本職、リコーダーは、純正律で吹かないと、身体に悪い楽器である。今回金子さんと話してみて、つくづくそのことを実感。そして、彼の純正律追及への熱意には頭が下がる思いがする。        〈文責:玉木宏樹〉

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■2■ ムッシュ黒木の純正律講座 第5時限目
「純正律」が届くまで                  黒木朋興
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 音響現象こそ自然の中に刻み込まれた幾何学に他ならない、というラモーの主張は、やがて、数学という学問が他の科学の基礎となっているように、他の諸芸術に対して基盤となるべき法則を提供するのは、その数学的理性を最も体現する音楽に他ならない、という見解にたどり着く。更にいえば、理論面での説得力を有すると同時に感覚に訴えかけることもできる音楽は、数学を凌駕し、すべての科学の規範となるべきである、という一種「神学」的な見解にも繋がりうることを指摘しておきたい。
 そしてラモーは、バス・フォンダモンタルと和音転回の理論の確立により、旋律をはじめとするすべての音楽現象を独自の「幾何学的」和声体系に還元し、近代和声学の礎を築くのである。

◆独・英学者台頭の時代◆
 このような和声学はやがて19世紀のドイツに受け継がれ、リーマンが機能和声の理論を確立する。
 一方フランスはこの時期、音楽に関してはいわゆる停滞期に入るのに対し、さらにドイツでは、医師、生理学者、物理学者の肩書きを持つヘルムホルツが『音感覚論─音楽理論のための生理学的基礎』(1863)を記すに到る。ヘルムホルツはこの著作の中でreine Stimmung[純正律]の美しさの重要性を強調しているわけだが、彼の弟子には「純正調オルガン」を作成した田中正造氏がいるということを指摘しておく。このヘルムホルツの仕事を受け継ぐのが、『諸民族の音階』(1885)という書物によりセント法を世に広め民族音楽学に多大なる功績を残したイギリス人、ジョン=アレクサンダー・エリスである。彼の功績はヘルムホルツの著作を英訳した(1875)ことにあるわけだが、特に増補改訂第2版(1885)はより多くの世界に広まり、現在の日本においても「調律技術者の必携書」として大きな影響力を保ち続けている。
 さて、このエリスであるが、彼はこのreine Stimmung[純正律]に対して、just intonationという訳語を当てている。ここで、フランス語の学術書において純正律を指すintonations puresやgamme naturelleという表現に英語のjust intonationのことであるという但し書きが付いていたことを思い起こしておこう。すなわち、自然倍音列という現象自体は17~18世紀のフランスにおいて綿密に観察されたものであり、その意味でメルセンヌ、ラモーといったフランス人の手によって純正律研究の礎が築かれたことに疑いはないが、純正律という言葉自体は19世紀のドイツで脚光を浴び、その後ドイツ語の著作の英訳を通じて世界に広まった、ということが言えるのである。

◆そして音楽も自立する◆
 フランスから発し、ドイツ、イギリスを通じて世界に広まるというこの図式に関して言えば、純正律の問題に加えて、「絶対音楽」の理念について語っておくことも決して無意味なことではないだろう。簡単に言えば、西洋キリスト教文化においては長い間、音楽をあくまでも詩に従属したジャンルと見なしていたのに対し、そこから「言葉=テクスト」から切り離し独立したジャンルと認めようと言うのが「絶対音楽」の理念である。既に見たように、ラモーが音楽とその和声論にすべての学芸の規範となるべき法則を見出していたことを考えれば、そこに音楽の自律という「絶対音楽」の理念の萌芽を見て取ることも可能だろう。しかし彼が最も作曲に心血を注いだのは「叙情悲劇」というフランス固有のオペラであった。そしてこの「叙情悲劇」に対立する概念がラシーヌに代表される「古典悲劇」であることを考えれば、ラモーの活動はあくまでも文学の領域に留まるものと見なされる、ということを指摘しておく。
 いずれにせよ、17~18世紀にフランスで培われた音楽文化が、現在の我々のもとに届くには、1回、ドイツを経由しなければならなかったのである。

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■3■ 天国的純正律音楽入門 第5回
    続・ビブラートの正体について
       純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
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 クラリネットは大体、1700年頃発明(というか古楽器の大改良)されており、種々の改良を経て、モーツァルトの後期の交響曲(特にNo.39)にも取り入れられ、また、モーツァルトの代表曲として、クラリネット協奏曲、クラリネット五重奏がある。モーツァルトの後期は、クラリネットと共にピアノフォルテのチェンバロ(ピアノの前身)も登場し、ベートーベンへと受け継がれ、音楽の在り方が激変する。
 ところで今、古楽ブームがあり、モーツァルト・チューニングとして、今よりも約半音低い音程でのアンサンブルが流行っている。そのアンサンブルは、原則的にはソロ以外はノンビブラートである。
 パガニーニ時代のヴァイオリンは、ソロでさえノンビブラートだったらしい。ヴァイオリンのビブラートが一世を風靡したのはサラサーテの登場以来といわれている。

◎昔気質の新人・クラリネット◎
 さて、リード系の木管楽器の場合、オーボエもファゴットもどちらかといえば音程がふらつき易く、特にフルートは音程が安定しにくい。モーツァルトはフルートの曲も残しているが、内心、フルートは音程が悪いから嫌っていたようだ。ハモることを前提にしていた古典派の演奏で、オーボエやフルートをノンビブラートでハモるのはなかなか難しい。そこへさっそうと現れた新楽器クラリネットは、その音色のせいもあって、ノンビブラートでハモった時がすばらしく美しい。だから、一番よくハモる楽器として登場して以来、ずっとその伝統が受け継がれてきたのではないだろうか。
 もともと音程の不安な複リード楽器はビブラートに頼るようになり、昔のようなハモりの響きが失われていったのが現代のオーケストラであり、その中にあって未だに頑固にハモりを主張して新しい楽器なのにコンサバになってしまったのは大変面白い。
 話は変わり、ビブラートには2種類あるのはお分かりだろうか。たいていのビブラートは、確固とした基音の音程があり、その基音を中心に、上下に音程変化をさせる方法。弦楽器、フルート、方法論の特殊なものとしてビブラフォンやエレキピアノもこの部類。昔、ハモンドオルガンのビブラート用にレスリーというエフェクターがあったが、これは実は扇風機であり、羽の回転によりディレイのかかった音程変化が得られる。原理的にはビブラフォンと同様である。ところが、基音のないビブラートがもう一種類。それはブラス系のビブラートと人間の歌声のビブラート。これは確固とした基音はなく、ある幅で、基音と思われる音の周辺のをはっきりと音程変化させている。なかなか説明するのは難しいが、トロンボーンのようにスライド式の楽器のことを想像すると分かっていただけると思う。人間の歌声がまさにこの方法であり、オペラアリアのトリルなんか、ビブラートを激しくしただけのことであり、あまりビブラートとの違いははっきりしない。なんとなくビブラートの幅が多くなっただけのようでもある。

◎歌声のようなvln二胡奏法◎
 ところで、同じ弦楽器でも中国の二胡という胡弓のビブラートはヴァイオリン族とは全く違い、歌のビブラートと同じように音程変化で表現する。二胡にはもともと指板がないので、安定した音程を作りにくいが、弦を深く押さえることによって音程は高くなる。だから二胡のビブラートは弦の押さえ方の強弱で表現する。ギターでいえばチョーキングであり、シタールも全く同じである。
 私は自分のヴァイオリンで二胡風のビブラート奏法をするが、これは左手の一本指だけで演奏する。音程の上下関係でかけるビブラートはほとんど二胡風で、全く、ヴァイオリン的ではない。
私はある時、ソプラノとのデュオの仕事があり、このビブラートを使ったところ、ソプラノが2人いるように聞こえた。ヴァイオリンが一番人間の声に似ていると言われるのには、このような演奏方法をしないと分からないのである。

■4■ 癒しの現場から ――陽幸堂 峰咲マーユさんにきく その3――
    もう一度子どもになってみよう!
                             田村圭子

  純正律音楽研究会の皆さんにはおなじみ、峰咲マーユさんのお話の3回目をお届けします。前回、マーユさんの多彩な活動の一つである「音」への取り組みについてお聞かせいただきました。今回は、現代に生きる私たちへ向けたマーユさんからのメッセージです。

☆音色のあふれる絵画☆
 前回、「音が出す波動で血液がキレイに→痛みがとれて愉快に→みんながイキイキ→景気回復」という事、そして自分で自分の身体は治せるんだという自信を持つことが大事だということを伺いました。このように、音が人間にもたらす様々な効果について研究・実践をなさっておられるマーユさんは、よく絵をお描きになる方でもあります。
 CD『第3の夢』のジャケットに使われたペガサスの絵も、マーユさん御自身の手によるもので、実物は畳より大きな作品でした。お話を伺った際に、マーユさんの絵画作品も何点か拝見させていただいたのですが、まず感じたのは、どれもキャンバスから「音」が聞こえてくるような作品だなあ、ということでした。

「私が絵を描く時は、まず、先に音が持つイメージあって、それらが形や色に変化して、私の前に現れてくる、それを描くんです。それは、いわゆる音楽だけじゃなくて、風の音とか人の話す声、全ての音からイメージが浮かびます。例えば、今話している田村さんの声からは、そうですね、深い森の中でひっそりと生えているキノコの様子が浮かんだりします」〈峰咲マーユさん〉

 聴くことと見ることの深いつながりを改めて実感させられるお話です。感覚の重要性が、筆者が想像していた以上のものであることがだんだんわかってきました。しかし、私達の身体は全ての部分がつながって、バランスをとりあってできているものであるならば、今の時代の私たちを取り巻く劣悪な環境が、身体に影響を与えないわけがありません。こんな時代、私たちはどうやって生きていけばよいのでしょうか。

☆知識が体調を損ねる☆
「私たちが本来持っている感覚を呼び戻すことです。先に、現代人は知識で生きていると言いました。でも、知識がかえって具合を悪くさせることもあるんですよ。例えば食べ物ひとつとっても、犬なんかは臭いをふんふんと嗅いで、悪いと思ったら食べない。犬はね、臭いを嗅いで、鼻で舌で臭いで味わってるんですよ。で、これはまずいと思ったら食べない。人間も本来そうだったんです。子供なんかにはそういう子、いますよね。先日きいた話ですが、ある子ど
もが『このイカ要らない』って言っていたと。親が、食べなさい、というと『イカが黒いからヤダ』っていう。でも親が見ると黒くない。で、親は食べた。その子は嫌がって、いくらすすめても食べないから放っておいたら、親はその日の晩からものすごい下痢をしておなかを壊したのにその子ひとりだけ元気だったんですって。だから子供って、そういう、感覚が強いんじゃないでしょうか」

 よく、3歳ぐらいまで、子供は動物の状態だと言われます。幼児はたしかに「知識」を持たず感覚にのっとって生きています。現代に生きる私たちは、技術の「進歩」と情報の蓄積のお陰で便利な生活を手に入れ、引き換えに、本来持っているはずの感覚を失ってしまったように見えますが。

「感覚は衰えてますよね。でも、なくなってるわけじゃないです。だから、訓練するとまた戻ってくるんです」

 そう言っていただけると少し光明が射してきたような気がします。でも、例えば筆者のようにあまり若くもなく、また東京の騒がしくて情報が溢れ返っているようなところに住んでいても、取り返しがつくのか、まだ不安です。

「感覚は取り戻せますよ! こういう時代に生きていくんですから、不衛生で環境の悪い中でより楽しく生きるのが人間の強さですよね。だけど、環境が悪いからとか、アレルギーを気にしたり、あんまり構いすぎてどんどん弱くなっていってるということはあります。ドブネズミなんか、人間から見れば不衛生な中でも悠々と生きてますよね、難無くたくさん子供産んで。子供産むったって、産婦人科もないんですよね、ネズミや犬の世界って。なのにたくましく生きている。人間は『黴菌が入る』って『衛生的な』ところで大騒ぎして子供を産む。実はね、『お産が痛い』という知識、『汚いのは、病気になる』という知識で病気になっちゃうんですよね。子供は知らないから、その辺の落っこってるもの食べてるじゃないですか(笑)。大人になると、『これには黴菌がついている、うわーっ』て思うから、それを食べたら『あーっ、食べてしまった』と思って病気になるんです。子供は知らないから、美味しそうと感覚がとらえれば食べちゃう。だから、知識の有無で、感覚の衰え方はずいぶん違ってきますよね。子供は落ちているものを食べるといっても、これが本当に自分にとって悪いものだったら食べないです。まあ、小さなネジや乾電池のんじゃったというのは、現代的な興味からですけどね。だから情報や知識だけに頼らず、自分の感覚を意識していけば、取り戻すことは十分できますよ。たとえ80歳になっていても大丈夫、できるんです!」

 なるほど、大自然の美しさにふれたり、美しい響きにつつまれること、それは、ただ単に、安らぎを得るためだけではなく、自分の身体を知り、自分の感覚を研ぎ澄ますことへとつながり、ひいては「よく生きる」ことへとつながっているということがよくわかりました。そして、純正律はそんな私達の強い味方になりそうです。
 なんだか、荒廃した現代にあって、生きる自信が湧いてくるようなお話が伺
えました。                           【了】
★陽幸堂――Tel. 03-3235-7535
      東京都新宿区市ヶ谷本村町3-26ホワイトレジデンス9-B

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■5■ 外科医のうたた寝☆その4   医者の不養生(1)
        福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 突然入院することになってしまった。しかも手術付きである。1ヶ月程前から右目の視野のはじっこがなんだか欠けるような気がしていたが、急に見えなくなってきた。同じ病院の眼科医に診てもらったところ、なんと網膜剥離と診断された。なるべく早急に手術を受けないと失明する危険があると云うので慌てて荷物をまとめて、紹介された〈K眼科病院〉と云う眼科専門の病院に入院した。
 毎日病院で働いているが入院するのは初めてのことであり、少々戸惑いつつも興味津々である。部屋に案内されるとパジャマに着替えて、スリッパに履き替え、コップ、タオルなどをサイドボードに並べてからベットにゴロッと横になってみる。数日前まではトライアスロンの大会に向けてバリバリにトレーニングをしており、体力には絶対の自信を持っていたはずなのに、こうして病室に横になると妙に心細くなってきた……。と感傷に浸るまもなく、次々と看護婦さんが部屋にやってくる。明日は手術であるから血圧を計ったり、心電図を取ったり、入院承諾書〈入院費は決して踏み倒しませんと云う誓約書〉、手術承諾書〈失敗しても文句は言いませんと云う誓約書〉を書かされたり。やっと終わったら夕食を食べて、目薬を差してすぐに眠らなくてはいけない。
 翌日はいよいよ手術である。朝から目薬をやたらに差して午後一番で手術室へ行く。ストレッチャー(搬送用担架)に横になり点滴を刺していよいよ手術室へ。10数年間にわたって、毎週毎週患者さんのおなかを切るために手術室には入っているが、自分が切られるのは初めてでありとても妙な気分である。右目のところだけ穴の開いた滅菌シートを全身にかけられ、目の周りを入念に消毒され、麻酔薬が点眼されていよいよ手術である。
                   【以下次号に続く、乞うご期待】
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CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW
■6■  純正茶寮             黒木朋興×玉木宏樹
     ――Trio Patrekatt『Adam』(xource/xoucd 119)――

祝・復活! 今号は黒木朋興氏担当でお送りする純正茶寮です。氏がフランス在住のため以前のような黒×玉コンビの対話形式ではお届けできませんが、玉木氏によるコメントも付けてみました。
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今回のTrio Patrekattは、第1回に続き、またスウェーデンのグループです。というのも、第1回目で紹介したROSENBERGS SJUAのCDでセロを弾いていたミュージシャンがこのグループにも参加しているからです。ROSENBERGS SJUAがきれいなハモった歌声を聞かしてくれていたのに対し、今回のは完全なインストです。
で、このCD『Adam』で面白いのは、他の2人が弾いているニッケルハルパというスウェーデンの民族楽器です。音色はヴァイオリン、フィドロ系の擦弦楽器ですね。ところが皆川達夫監修『楽器』(マール社、1992)を見てみると、弦楽器のページではなくて機械楽器のページにハーディ・ガーディなんかと一緒に紹介されている。音高を決めるのはハーディ・ガーディと同様に鍵盤を使って機械的に弦を押さえるんですが、弦を擦るのにはハーディ・ガーディが機械になっているのに対し、ニッケルハルパはヴァイオリンのように弓を使わなければならないんです。
              ◆ ◆ ◆
ちょっと聞く限りはフィドロのように聞こえるんですが、よく聞いてみると、鍵盤を押さえるかちゃかちゃいう音が入っているでしょ。僕が面白いなぁと思うのはね、つまり、ヴァイオリンみたいにフレットレスの楽器は純正律に向いていて、ギターやピアノみたいにフレットがあったりして音高が固定されている楽器は純正律に向かないって信じている人、割と多いんですけど、この程度の曲をやるんだったら、別に無理して平均律に調律しなくても、使う調を限定してやれば十分ハモリのきれいな音楽ができるってことですよね。
純正律では音楽的に幼稚なものしかできないって迷信がありますけど、この程度で十分だと思うし、僕なんかからすれば、このCDでも音楽的に随分高度だなって感じるんですよ。だったらね、巷に流れている音楽の9割以上が工夫次第でハモリを追求できるんじゃないかって。
何もドデカをことさらに悪く言う必要もないとは思いますが、ドデカをやるんじゃないんだったら、別に無理して平均律にしておく必要なんかないですよね。音大の人ってなんか「複雑な転調すること=音楽的に高度」って考えてるような気がするんですけど、僕はね、転調なんかしなくたって十分面白い音楽作れると思うんです。
               ◆ ◆ ◆
あ、別に転調しちゃいけないなんて思ってないですよ。ボサノバ好きだし。で、玉木さん、このCDお聴きになって、どの範囲で調が制約されてるってわかります? 僕は個人的に12曲目の「FARDEN」が好きです。倍音がきれいに響いてるでしょ。これってどういう弾き方してるんですか。
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~~comments from Mr. TAMAKI
あの楽器は実に不思議で、見事な純正律でハモっています。調律は多分、ソレソレのGチューニングだと思います。コード進行が単純な分、とてもスリリングなリズムの速奏きフレーズが感動ものです。No.12の曲の奏法は、ヴァイオリンの駒の近くを奏くことによって、高倍音、時にはガラスを引っ掻いたような音も出ます。これはイタリア語でスル・ポンティチェルロといい、我々は「スルポン」と呼んでいます。現代音楽に多く使われています。多分、ギターにも、特にエレキの場合なんかに、似た奏法があったような気がしていますが。

INFORMATION

 Trio Patrekatt『Adam』(xource/xoucd 119)

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■7■ Letter Rack~会員の皆様からの投稿コーナー~

  ⇒この号から、会員の皆様からのおたよりや投稿を御紹介するコーナーを設けました。皆様の声を研究会宛にお寄せください。テーマ、内容によっては、独立した原稿として掲載させていただくこともございます。本誌末尾の宛先までどしどしお寄せください。その他、御意見、御提案等もお待ちしておりますので、随時お寄せ下さい。

《Smooth Jazzはいかが?――酒井善樹》
正会員の酒井と申します。今回、Smooth Jazzについて御紹介させていただきます。
http://www.aquarianwave.com サイトでおなじみの方々もおられると思います。
Smooth Jazzは、Jazzの中でもとりわけハモリや美しいメロディーを意識して作られる音楽で、純正律音楽とも密接な関係があります。これからこのジャンルの音楽を聴いてみたい方向け、おすすめCDの紹介、作編曲/演奏などされているプロ/アマの方向けに、Smooth Jazzの音楽技法や定期的に集まってワークショップなどを私のウェブサイト連動で行っていこうと思っています。
ご希望など、ぜひお寄せください。
●いまお薦めのSmooth Jazz
 Peter Whiteの新譜『Glow』(SONY)
●酒井善樹さんのサイトはこちら
  http://www.aquarianwave.com

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■8■ →→→純正律かわらばん

●玉木宏樹新著、満を持していよいよ刊行
 『純正律は世界を救う――身体にいい音楽、悪い音楽』
 12月20日発売開始!

�お待たせしていた玉木宏樹新著が、12月20日に、その名も『純正律は世界を救う』と題して刊行の運びとなりました(文化創作出版刊)。うるさい音楽を根本から覆す純正律の普及を願って、調律の歴史と理論を真摯に掘り下げるとともに、日本の音環境の改善に向け真正面から提言を行っています。執筆も佳境に入った9月11日、あのニューヨークのテロ事件が起こりました。たかが音楽、されど音楽。いったんは無力感に襲われながらも、玉木氏は純正律の音楽は人々に安らぎと生きる力を与えることを確信し、本書が完成しました。前著『音の後進国日本』以後、先進国になれたとはとても言えない状況ですが、駅メロ騒動の後日談やヒーリング効果の側面、ネット時代の音楽の未来と著作権問題など、日本の音と音楽について考えなければならない問題を歯切れ良く捌きます。
「第4章 純正律の歴史と19世紀の調律のことなど」の章では玉木氏の純正律への拘りの原点がつぶさに語られ、一気にひきずり込まれます。より多くの方に純正律音楽に触れていただくための強力な1冊です。
              〈純正律音楽研究会事務局長・馬場英志〉
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 ※リニューアル・キャンペーンで御予約を頂いた皆様、大変お待たせしまして申し訳ございませんでした。刊行次第、いち早くお届けいたしますので、お楽しみに。なお、『純正律は世界を救う』は全国の書店でお求め頂けます。店頭に無い場合は取り寄せてもらえます。(送料がかかりません)
 また純正律音楽研究会でも通販を承ります(ネット会員割引あり)ので、どうぞ御利用ください。
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■9■  @@@@@西麻布通信@@@@@

◆研究会のリニューアル、CD・新刊リリースと、事務局は怒濤の秋をおくっております。『アポロンのたわむれ』はいかがでしたか? CDもいいのですが、四弦奏ヴァイオリンの威力を知るならやっぱり生。その破壊的ともいえるパワーに圧倒されます。ミニコンサートや「土曜のお茶会」等で是非、そのすごさを体感してください。
◆11月24日のピュア・ミュージック・サロン「土曜のお茶会」は満員御礼。玉木氏の演奏をはじめ、最新純正律CDを聴いたり、みんなでカノンを合唱したり、ドクター六花氏のオリジナルソングも聴けたり、あっと言う間の2時間。最近はすぐ御予約がいっぱいになってしまうので、お早めのお申し込みをおすすめします。
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ひびきジャーナル 第4号

玉木宏樹 水野佐知香 黒木朋興 峰咲マーユ 田村圭子 福田六花(2001年5月11日発行)

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純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』  {創刊第4号}
2001年5月11日発行

編集/発行:純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
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萌える若葉の緑が目にまぶしい季節となりました。
みなさま、ますます御清祥のこととお慶び申し上げます。
毎度のことながら超不定期刊となっている当研究会の会報ですが、ようやく第4号が出来ましたので、お届けいたします。
2001年に入ってからも、新作CDの発表~ヤマハホールでの拡大版コンサート、小さなお茶会等、既に研究会としては様々な活動を展開してきております。
また、取材等を受ける機会も増えており、純正律への認知が確実に多方面へと拡がりつつあることを感じます。これもみなさまのお力添えあってのこと。
みなさまの御意見を吸収し、さらに発展させたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

                     純正律音楽研究会代表 玉木宏樹

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――玉木宏樹の“この人と響きあう” 第4回――
 ヴァイオリン奏きは天才である!
                  ヴァイオリニスト 水野佐知香さん

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今回のお相手は、ソロからオーケストラ、古典から現代曲まで幅広く御活躍中のヴァイオリニスト・水野佐知香さん。最近では、娘の章乃さんと共演したヴァイオリン・デュオCD『母と娘とヴァイオリン』(編曲はもちろん玉木宏樹氏)で皆さんにもおなじみですね。同じヴァイオリン奏き同士、息の合ったふたりだからか、始終笑いと歌声(ここで再現できないのが残念!)に満ちた対談となりました。さて、おふたりの語るヴァイオリン奏きの悩みとは。

玉木:先日はお疲れさまでした。
水野:いえ、どういたしまして。タンゴって初めてやらせていただいたんですけど、お陰でいい勉強させていただきました。
玉木:これは会報に載せる対談なんで純正律に関することもお尋ねするんですが、日頃はヴァイオリン奏く時に平均律だ純正律だって意識することあまりないでしょ?
水野:ないですよ。ただ、ヴァイオリンという楽器は平均律っぽく音をとらなきゃいけない部分もあって、ピアノなんかと演る時には、やっぱり平均律気にしながら純正調にとれればいいなっていう思いはあるんですけど。
玉木:その辺、辛いところがあるんだよね。でもそれがすごい重要な点。「純正律がああだこうだ」と理屈で言っても始まらないんで。
水野:そうですね。でも今回のバッハのガヴォットとかはすごくよかった。
玉木:自分でアレンジしてても、こんなに見事に純正律はハモるものか、とね。ヴァイオリン2人だけだと聴き合わせて奏けるじゃない。2人でピタッとハモった空間でバッハなんか演奏すると、もうそれだけで純正律になるんだよね。
水野:私もう、1人で奏きたくないんですよ、どの曲も。自分のパートを弾いてると章乃の音が聞こえてくるような気がして寂しくて。そうやって聴き合うっていうのは、自分の音程が間違ってたらハーモニーも濁るってことだから、今回の楽譜になった曲も、ヴァイオリンをやる人にとってはとても勉強になるんじゃないでしょうか。この楽譜ね、マンドリンやフルート、オーボエ、クラリネット、ヴィオラとかチェロでも使えるの。そういう意味では純正律の勉強もできるんじゃないでしょうかね。
玉木:聴き合ってやらないと気持ち悪くなるんだ。特にバッハのガヴォットみたいなのはね。あれはもともと悲鳴の出るほど難しい曲だしね。大体、ホ長調なんてさ、ヴァイオリン奏きにとっては地獄みたいなもんだからね。G線のD#がすごいイヤなんだよね。
水野:そうなんです。この間レコーディングの時、D#を低めにとってて、ぴったり合ってたんですけど、今回はちょっと高めにとった方が合ったんですよ。これは調子にもよるんでしょうかね?
玉木:お互い聴き合わせていれば、いつも融通無碍にハモる音程とれる。コーラスもそうだからね。
水野:そういう意味では純正律でとってると耳の発達って違うんじゃないですか?
玉木:本当のハモりを身に付けないとね。今の教育ってピアノの音程だけが正確とか教える傾向あるじゃない。コーラスだってピアノの高いミの音を押し付けててハモるわけない。
水野:私、それ、ちっちゃい頃から悩んでたことなんですよ。
玉木:ヴァイオリン奏きはみんなそれで悩む。悩まないでそのまま放棄しちゃうのがほとんどだけどね。
水野:口で言っててもどうしようもないですもんね。
玉木:そういう意味で、こういう楽譜とかCDが広まっていけば、自然発生的に純正律が認知されることになるかなと。僕が1人で運動してる時にはあれこれ理屈を言うけれど、ヴァイオリン2本でハモってる分には理屈がないからね。

☆ヴァイオリンなら融通無碍☆

玉木:ちょっと難しい話になるけど、3月12日は「純正律のコンサート」ということで、後半はピタゴラスでやったんだけど、ピタゴラスと平均律と純正律の区別って意識してる?
水野:私は全然。
玉木:2人でハモる時は協和するから純正律になってる。あれはあれですごいいいわけ。ところが、普通のヴァイオリン奏きはね、メロディ奏く時は純正律でメロディとらない。みんな高めなの。
水野:高めですね。そうやって習ってきました。
玉木:ヴァイオリン奏きは特に導音を高めにとる。シが高いの。それで、ソに行くファのシャープが高い。ピアノよりも高い。これがピタゴラスなんだよ。
水野:そうなんですか、へえ~!
玉木:だから、ヴァイオリン奏きは、常に協和的純正律とピタゴラス純正律を奏き分けてるわけ、無意識のうちに。
水野:すごいことですね、それは。
玉木:そういうこと、ピアノの連中は分かってないからねえ。ヴァイオリンの調弦で、ソレラミってハモらせるでしょ、あれがピタゴラスなの。あの中で協和的純正律をやるのは、実はちょっと無理がある。ドミソ、ドファラ、シレソの和音を、全部きれいにハモるように並べ替えたのが純正律なんだけど、その時に、絶対使えないのがレとラなの。レファラにすると、今のピアノは12鍵しかないから地獄の音になっちゃう。
水野:じゃ、何鍵要るんでしょう。
玉木:ピアノでやるなら53鍵。
水野:ははは。
玉木:だからヴァイオリン奏きの方がもっと楽に融通無碍に音を出してるわけ。平均律になる前にはいろんな調律法があったのね。モーツァルトはミーントーンという中間音律だった。これはドとミの協和がすごいキレイなの。今は古楽の連中がそういう調律でどんどんやってるからね。ブリュッヘンだったかが日本に来てモーツァルトのミサ曲やったけど、ヴァイオリンもリコーダー系もコーラスも全部ノンビブラートで、ものすごいハモってた。ゾクゾクしたよ。
水野:それはキレイだったでしょうねえ。今はごまかすためにビブラートかけてるんですもんね。
玉木:本当に。ビブラートって、いつ誰が発明したか知ってる?
水野:知らない。
玉木:ビブラートを発明したのはサラサーテなの。サラサーテのぬるま湯のようなビブラートが世界中にものすごく流行したの。だから、メロディを目立たす時には、何も言わなくてもみんなビブラートかける。
水野:じゃあ、ヴァイオリン奏きは天才ですね(笑)。
玉木:そ。天才! どの楽団で奏くかにもよるけど、タンゴのヴァイオリン奏きってすごい目立つのね。あれはね、ものすごいビブラート速いし、総て音が高めなの、バンドネオンやピアノに比べて。
水野:音質が? 音程が?
玉木:音程。ピタゴラスで奏くから。平均律じゃ奏けないもん。ピアノのミっていうのは純正でハモるミよりも100分の14も高いのね。で、ピアノの高さでFをとってラの開放弦奏くと必ず濁るの。
水野:わかります。
玉木:だから、そのファを濁らせないためにはこっちは高くしなきゃならない。本当は、ピアノのFに高さをとったら、3度は開放弦で奏いちゃいけないんだよ。ま、そんな矛盾を抱えながらなんとなく通過してるけどね。
水野:それが人生ですか(笑)。全部パーフェクトだったら面白くないでしょ。な~んてね。
玉木:ヴァイオリン奏きながら作曲する人間はほとんどいないからね。僕はヴァイオリン奏きの悩みってすごいよくわかってるから。どういう譜面書いたら易しいけど難しそうに聞こえるか、とかね(笑)。

                         〈文責:田村圭子〉

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{{{{{{ ムッシュ黒木の純正律講座 第4時限目 }}}}}

ジャン=フィリップ・ラモー、現わる

                           黒木朋興

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 モノコルドと呼ばれる弦が1本だけの楽器がある。楽器と言っても、演奏用ではなく音程比の実験のためのものだった。中世の頃から使われてはいたが、自然倍音の発見に続く17世紀から18世紀にかけての時代において、物理学者達はこの楽器に改良を加え、実験室の中での自然倍音の分析に心血を注ぐことになる。例えば、音響学の基礎を築いたと言われるソヴールが有名だろう。やがて、ジャン=フィリップ・ラモーが現れる。
 一般に〈光の世紀〉と称されるこの時代において、彼は独自の和声論を展開しフランス和声学の礎を築くとことなる。他の物理学者と同様、ラモーの仕事においても倍音列の分析は重要であり、当然、彼は、現在純正律と呼ばれるシステムについては熟知していた。また1726年には「変化記号が違えば、音の間隔が様々に違ってくる印象を受ける、という指摘をするのは好ましいことである」と言っているのだから、少なくともこの時点ではまさに不等分律の推奨者であったのだ。

◆実験の対象としての倍音◆
 ところが1737年の著作において彼の関心がモノコルドによる倍音分析から和声進行のほうへ移っていくのに伴い、こともあろうに平均律支持を表明するに至ってしまう。どういうことなのだろうか。
 ただ1つの音を対象にしてその倍音列をいくら観察・分析したとしても、それはあくまでも音響の研究なのであり、実際の曲作り、つまり音をどのように組み合わせ和声を進行させていくかということに対しては、距離があることは否めない。だいたい倍音を観察するにしても、雑音のしない実験室において均質な材質からなる良質な金属弦を響かせて行われ、更にそのために使われるモノコルドにしたところであくまでも実験用の楽器であり実際の演奏に用いられることはないのだ。また何よりも純正律では使える和音が限られていることを考えても、実用向きではなくあくまでも実験室の中だけの音階である、という感があったことは否定できない。
 だから興味の中心を和声の成り立ちから具体的な和声進行に移していったラモーが、純正律ではなくより実用的なテンペラメントを求めたというのも納得のできることではあるだろう。

◆ラモーは転向したのか?◆
 以上からすれば、ラモーは1737年にかけて思想上の大転回をした、という解釈も可能だ。しかし、実のところ、ラモーの側からすれば回心したつもりなどこれっぽっちもなかったのではないだろうか。つまり、彼の思想には断固とした連続性を見いだすことができるのだ。それを一言で言えば、一見複雑な現象に見える音楽を理性的な秩序のもとに体系付けようとする意志であったと言えるだろう。
 つまりデカルト主義者を標榜するラモーにとって、自然現象は全て理路整然とした幾何学的な体系に基づいているべきものであり、しかもその体系は数学でもって解析できなければならない。
 ここで、Natureという言葉には〈自然〉という意味と同時に〈本質〉という意味があることに注意したい。〈本質〉とは目の前に広がる風景のことではなく、〈神〉が取り決めた秩序のことだ。たとえ倍音列から得られる音階が不等分なものであろうと、それはあくまでも見せかけの〈自然〉にしかずぎず、〈本当の自然〉は〈目に見えない〉ところにあるのであり、そこは理路整然とした幾何学的な世界なのだから、当然平均律こそがその〈自然〉をものの見事に表象している、ということになる。そしてラモーにとって、音楽こそがこの数の秩序が統べる理想の世界を最も良く体現している芸術なのであり、音楽はこの世の知性の全てを握る芸術とならなければならない。
 もちろん、この時代においては技術的に現在のような正確な平均律の調律は不可能であり、それはあくまでも理想の領域にある、ということはつまり「絵に描いた餅」にしかすぎなかったということを言い添えておく。

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天国的純正律音楽入門 第4回

 ビブラートの正体について

      純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
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 今回はビブラートの話。
 私はヴァイオリン奏きなので、ビブラートをかけるのは絶対的な日常性なのだが、この、一見純正律とは相反するような奏法について考えてみたい。ただし、ビブラートの歴史や必然を述べている著作にはほとんど出合ったことがないし、大部分は自分の体験上の裏付けによっているということを前提にするので、私が間違った記述をしたり、または別の角度からの意見があったら、ぜひ、投稿するなり私のホームページの掲示板に書き込むなりしていただきたい。また、今回だけでは書ききれないようなので、次回もしくは次々回にわたって書いていこうと思う。

◎「特権」としてのビブラート◎
 さて、ビブラート(英語ではヴァイブレーション)は、ある音程を基音に、微妙なピッチの上下によって「ふるえ」を生じさせ、強弱等のエモーションを強調させる役割を担っている。
 現代の大人の演奏は、ソロの場合、歌でも音楽でもほとんど無自覚にビブラートをかける。古楽や小アンサンブルのコーラス、ブルガリア系のコーラス以外は、全く無自覚にビブラートをかけて歌うので、コーラスの場合、ハモることを全く度外視して悲惨な結果を招いている。大多数のママさんコーラスはもとより、プロと称している合唱団も総て、ハモるのが基本の「純正律」上から見ると死刑に値するほど勝手なビブラートをかけあって、何が何やら分からぬ騒音集団と成り果てている。
 天国的な協和を目指す我が純正律音楽研究会に於ては、こういう騒音は退治してまわらなければならないのだけど、その代表者たる私・玉木がヴァイオリンを奏くと、ほとんどの場合、ビブラートをかけっ放しである。私がよく純正律のカラオケ・テープに合わせて奏く場合でも、バックはノンビブラートなのにソロ・ヴァイオリンはビブラートをかけまくっている。そして当然、ビブラートをかけた瞬間の(譜面の)「たてわり」は明らかにハモってはいない。これはどういうことなんだ! 結論から先に言ってしまおう。ビブラートをかけることができるのはソリストの特権なのである。
 少し視点を変えよう。通常のクラシック楽器の場合、ほとんどはビブラートをかける。ただし、ハープやピアノ、ギター等、音が伸びない楽器はビブラートをかけられないし(遅い曲におけるギターを除く)、そういう楽器の場合は音が伸びない部分で速いパッセージやアルペジオを多用する。この「速いパッセージ」は後ほど重要なテーマになるので覚えておいてほしい。

◎クラリネットの謎?◎
 ところで、音が伸びてもビブラートをかけない楽器がある。それは、大部分のホルンとほとんどのクラリネットである。ホルンの場合、ソロよりも4人くらいのアンサンブルの方が効果的であり、その場合は、ノンビブラートで完全にハモらないと、吹いてる人達も聴いている方も非常な不快感に襲われる。ウェーバーの「魔弾の射手」の序曲のホルンが銘々ビブラートをかけたら、地獄に落ちた狼のような響きがするだろう。
 そして、木管楽器では唯一、クラリネット。この楽器はもちろんビブラートがかけられないのではない。ベニー・グッドマンをはじめとしたジャズ・クラリネット奏者は、物の見事に魅惑的なビブラートをかけるのに、なぜクラシック奏者はかけないのだろう。私はこれに対する的確な答えをきいたことがない。多分、品がないという理由かもしれないが、それでは、オーボエやフルートは全く下品な楽器ということになる。
 私の憶測にしか過ぎないが、クラリネットがノンビブラートなのは、実はクラリネットが一番新しい楽器であることの証拠のように思えてならない。
 このあたりの話は次回に続く。

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 [癒しの現場から]
  「愉快な骨」に響かせて!
  ――陽幸堂 峰咲マーユさんにきく その2――
 
                             田村圭子

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  前号に続き、純正律音楽研究会の皆さんにはおなじみ、峰咲マーユさんのお話をお届けします。マーユさんは純正律音楽研究会とのジョイントの他にも、独自にコンサートを催したり、音楽に深く関わる活動をなさっています。今回は、マーユさんの「音」への取り組みについてお聞かせいただきました。

☆体調は《愉快な骨》に現れる☆
 CD『第3の夢』のタイトル曲「第3の夢」はセルフチューニング用の曲とのことですが、セルフチューニングとはどういうことなのでしょうか。

「首をがくっと落として自分で触っていただくと、ここに大きい突起、骨があるでしょ。そこから背中に下がっていって3つめと4つめの骨があるんですけれど、ここを私は《愉快な骨》と呼んでいるんです。目の疲れとか風邪とか、首が極端に疲れちゃってる、そういう時にはこの骨が硬くなって、愉快な気持ちを身体の中にしまいこんでしまう。それを見つけて、ちょっとだけ柔らかくしたり、刺激して本来の丸い形に戻してやると、笑えて、楽しい気持ちがわくわくっと沸いてくる。ひとことで言えば、この「愉快な骨」に響かせるような音楽を作りたかったんです」〈峰咲マーユさん〉

 そもそも整体や健康指導法が御専門のマーユさん、なぜ「音楽」で、と思い至ったのでしょう?

「疲れや食べ過ぎ呑みすぎでも血液は濁るんですよね。濁ると重くなって動きが鈍くなるから、血管が詰まったり病気が発生したり炎症を起こすという状況になるんです。それを濁らせないように、といっても、食事や飲酒、仕事といった日常生活をコントロールするのは大変ですね。そこで、『第3の夢』のような音楽で音を響かせることによって、少しずつ濁りがとれるような刺激が与えられればいいなと。何年も前から音楽は作ってたんですよ」
その一環として生まれたのが音楽テープ『夢多き方へ』でした。6年前、その制作の際に、偶然録音に参加した玉木氏とマーユさんは運命的な出会いを果たしたのです(当時のエピソードは玉木氏のホームページでどうぞ)。

☆疲れのとれる音楽とは☆
「『夢多き方へ』を作る際、その中のバルカローレの音楽(CD『第3の夢』にも収録された「風の彩」)で玉木さんにヴァイオリンを奏いていただいたら、本当に素晴らしかったんです。この録音を聴いてると、玉木さんのヴァイオリンの音色と、何ていうんでしょうね、その動きというか……それが、身体に、血管なのかどこかわからないんですけれど刺激が来るんです。以来、玉木さんのヴァイオリンがいいなってずっと思ってました。そのうちに、たまたま平形さん(『夢多き方へ』『第3の夢』プロデューサー)から、玉木さんが純正律音楽をなさってる事をきき、すぐ玉木さんの本を見せていただいて、駅の発車音の話にも共感して、『これはもう、絶対!』と思って今回のCDをお願いしたんです。できるだけ《愉快な骨》に刺激がいくような音を、ってね」

「ずっと“疲れをとる音楽”ということがやりたかったわけですが、ここでやっと到達したかなと思うんです。ただメロディがきれいなだけじゃなく、血液がきれいになったり炎症がおだやかになるような音楽というのはあるんだなと。私は純正律の説明はできないんですけれど、でも、純正律の音色って澄みきっているでしょ。これは感応ですから、澄んだ音色で澄んだ血液をつくるという形でいくのが一番人間にいいだろうと。血液がきれいになると同じ木の緑でも違う色に見えてくるんです」

「いま、街には騒音や過剰な音楽が入り乱れていてくつろいで買物もできない状態ですよね。それじゃ服を買いに行ってもキレイな色に見えないから、今日はいいや、ってことになる。逆に、ウキウキしていると、くすんだピンクが澄んだピンクに見えてくることもありますね。人間のこころと身体っていうのは影響しあう関係なんです。そして音楽もね。風の音も鳥の声も音楽と私はとらえています。ずっと、そういう身体に響く音楽が作りたくて、これまでに子供向けの曲も手掛けてきました。『第3の夢』で思ったものができたと思います」

☆音色で景気回復!?☆
「それは治療のように手を使うでもなくて、玉木さんが作曲してヴァイオリンを奏いて皆さんに聴かせることで、音楽――目に見えない、音から出る波動が人間の身体に影響を与えて、血液がきれいになったり、愉快な気持ちになったりするんじゃないかと。痛みが止まるっていうのは要するに、血液の濁りがとれるから楽になっていくのかなと。疲れも血液の濁りから起こるんだと私はみてましたのでね。だから、音楽という媒介によって、耳から聴いた音が脳の中に響き、背骨の中に響く。そうして背骨が刺激されるとその影響で血液がきれいになる、痛みがとれ愉快になる。明日もがんばろうって思える。みんながそう思えれば不景気の解消にだってつながるだろうと。“風が吹けば桶屋が儲かる”じゃないですけれど、そう考えたら面白いですよね。だから、皆さん、もっと自分の身体のことを知っていただくと、自分で自分の身体は治せるんだっていう自信がもっと持てると思うんです。元気でいられれば仕事もうまくいきますしね」 
                               【つづく】

★陽幸堂――Tel. 03-3235-7535
      東京都新宿区市ヶ谷本村町3-26ホワイトレジデンス9-B

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外科医のうたた寝☆その3
 
  山田食堂の怪

         福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 毎週月曜日は福島県のY町にある診療所で仕事をしている。小さな診療所であり、昼食は近所にたった一軒だけある〈山田食堂〉から出前をとって食べているのであるが、非常に不思議な食堂である。
 基本的な味の組み立てはなかなか良く、特に手打ちうどんは絶品といっても差し支えないのだが、そのうどんは総じて太く、なかには親指ほどの太さのものもある。かつては適正な太さであったようだが、老主人の視力低下に伴い最近どんどん太くなっているようだ。
 ある日、事務長は名物うどんを頼み僕はカツ丼を注文した。なかなか美味しいカツ丼を楽しんでいると、カツの下から太いうどんが1本出てきておおいにびっくりした。
 ある夏の日、ワンタン麺が美味しいと云うので注文してみたら、麺の上に巨大なワンタンの皮だけが広がっており、ワンタンの中身が見当たらない。推薦してくれた看護婦さんに聞いたところ、先週食べた時は、ワンタンの中身は入っていたそうだ。忙しくて中身を詰めるのを忘れてしまったようだ。
 寒い寒い冬の日のこと、午前中の往診を終えて診療所に戻り届いたばかりの鍋焼きうどんの蓋をあけたところ、立ち昇るはずの湯気はなく、鍋も冷えきって玉子も生のままであった。材料を鍋に入れただけで火に掛けるのを忘れてしまったようだ……。
            * * * * *
 また月曜日がやってくる、我が愛すべき〈山田食堂〉はどんな昼食を運んでくるんだろう。
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――MALA PUNICA『H_las Avril ――Matteo da Perugia~Chansons~』
(WPCS-10669)――

黒木朋興氏が渡仏してしまったため、玉木×黒木の毒舌コンビによるおしゃべり形式はしばしお休み、ということで、今号は玉木氏による格調高い(!?)レビューをお届けしましょう。いずれ、ネットを介したチャット等で2人のおしゃべりが復活する可能性もありますが。
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 今回は、古楽も古楽、マッテオ・ダ・ペルージャ(1390-1415)を紹介しよう。時代的には、日本で言えば戦国時代なのだろうか。そう思いつつこのCDを聴けば、彼我の違いに胸を打たれるものがあるはずである。
 さて、私はほとんど古楽は聴かない。なぜなら、〈純正律=古楽〉というあまりにも硬直した図式がキライで、いくらもっともらしくても胡散臭いものを感じてしまうからである。特に、モーツァルト調律なんていってA=412にしてみたり、したり顔でヴェルグマイスターだのミーントーンだのと調律に拘ったフリをしても、中身が非音楽的だったら話にならない。
 私は、それこそ純正律をライフワークにしてはいるが、あくまでも自分が作曲し演奏することが主眼であり、過去を振り返って、ああだったはずだ、いやこうだという議論のための議論は肌に合わないのである。
 ――と、言いつつも、実は時々は古楽のCDは聴いているし、やはりブリュッヘンのモーツァルトのレクィエムに感動したりはしているのである。
 さて、今回はマッテオである。『H_las Avril』(「おお、四月」と邦訳されていた)と題されたCDは、MALA PUNICA(マーラ・プニカ)という、10人ぐらいのアンサンブルによって見事に色鮮やかな純正律の世界を繰り広げている。ソプラノ、カウンター・テナー、ヴィオール、リュート、管のアンサンブルは、よくハモったコーラスを前面に出すでもなく、バッハのような対位法で迫るわけでもないが、ノンビブラートでありながら、各ソロは際立った存在感を放って演奏している。
 時代的にはルネサンス頃で、いわゆる転調というコンセプトはないが、経過音には随所に散見されるその音使いがまた見事に決まって、美しい装飾になっていえる。
 マッテオはイタリア人だが、曲のほとんどはフランス語によるシャンソン(世俗歌のことをいう)らしい。
 このCDは、ほとんどがソプラノまたはカウンター・テナーのソロ曲だが、途中に2曲ある器楽曲、これがまた素晴らしい。「14世紀頃になんという!」とびっくりするようなフレーズが随所にあり、もちろん、マーラ・プニカの演奏の実力の冴えにもよるだろうが、見事な純正律的色彩絵巻が聴ける。
 このCDを聴く限り、「ここは協和的純正律」だの「ここはピタゴラス」だのとかの分析的受動態はすべて雲散霧消し、しばし天国的なやすらぎの世界に浸れる。
 このテのCDは、理屈っぽいクラシック系のリスナーより、ロック系のリスナーの方が面白がるのではないだろうか。もっとも、そのテの人達によると、「あ、これは××××だ」とか、また、その世界特有の括り方の中にはまってしまうのかもしれないが…。

INFORMATION

 マーラ・プニカ/MALA PUNICA
『H_las Avril ――Matteo da Perugia~Chansons (1390-1415)~』(WPCS-10669)/『600年前の異才~マッテオ・ダ・ペルージャ~フランス語の詩による歌曲集(1390-1415)』
→日本版は「ワーナー輸入盤」枠で取り扱われています。
CD番号は、ERATO CD/WPCS-10669(税込¥2,940)
 仏語・英語による解説&歌詞と日本語による解説&訳詞つき。
輸入盤番号:8573-82163
→ちなみに、田村@事務局(民謡系)は1曲目冒頭のソプラノのコブシを聴いただけでやられました。これはハマります。アンサンブル名(柘榴の暗喩らしい)からしてクセ者って感じだし。必聴かと。

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アトマスキュア・コンサート
玉木宏樹のジャスト・チューニングの世界 II

 「恋はマリオネット」の熱い夜

 春まだ浅き3月12日(月)、「アトマスキュア・コンサート/玉木宏樹のジャスト・チューニングの世界Part II――恋はマリオネット」が、銀座ヤマハホールにて開催されました。これは、昨年7月の芝abc会館ホールに続き、峰咲マーユさんのところと純正律音楽研究会との共催、リズム時計工業(株)ほかの協賛によるもので、コンサートに先立つ3月7日にリリースされたミネラル・サウンドCD『光』『響』『時』発売を記念して開催されました。
 朝がたには雪もちらつき、果たしてお客様にお越しいただけるのだろうかと出演者・スタッフ一同心細い思いで迎えた当日でしたが、その寒さにも関わらず大勢のお客様が開場時間前からお越しくださり、前回よりもさらに大きめ、500席の会場はほぼ満員となりました。
 今回は、玉木宏樹氏の新曲発表をはじめ、水野佐知香&荒井章乃母娘のヴァイオリンデュオ、そして、スペシャルゲストに、今をときめく世紀のバンドネオン奏者・小松亮太氏をフィーチャーした「小松真知子とタンゴクリスタル」の皆さんを迎え、弦の響きとタンゴの出会いという、聴く側にとっても演奏者にとってもまったく新しい試みの、4部構成の異色のステージ(幕間には峰咲マーユさんの健康指導法コーナーもありました)が繰り広げられました。 
 ラストには、今回のコンサートのタイトルにもなった新曲「恋はマリオネット」のタンゴ・ヴァージョンを出演者全員でセッション。外の冷え込みを吹き飛ばすかのような華麗かつ熱いステージに、会場も盛り上がり、大盛況のうちに幕を閉じました。クラシック・ファンの方、タンゴのファンの方、それぞれに、日頃聴かない他のジャンルの魅力に開眼した一夜となったのではないでしょうか。次回もご期待ください。

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●玉木宏樹の純正律ミネラル・サウンドCD
 『光』『響』『時』キングレコードより絶賛発売中!
 玉木宏樹『第3の夢』――サウンド・テラピー
�これまでインディーズのみだった玉木宏樹のミネラル・サウンドが、メジャー・レーベルから発売されました。『光』(KICS 2344)は、玉木自身が選曲した「光の国へ」シリーズPart1~3のベスト盤。『響』(KICS 2345)は純正律によるカンテレ(フィンランドの民族楽器)やホーメイ(トゥバの倍音唱法)をフィーチャーリングした『響きの郷へ』を中心としたコンピレーションアルバム。『時』(KICS 2346)は、新曲の他、「第3の夢」やリズム時計に使用されているミネラル・サウンドも収録された玉木サウンドの新境地。定価は各2500円(税込み)。これら3枚のCDは、いずれも全国のCDショップでお求めいただけます。店頭にない場合、上記のCD番号を伝えれば取り寄せてもらえます。どうしても入手困難な場合は、純正律音楽研究会で承りますが、「ショップ取り寄せ」だと送料がかからないので、おすすめです。
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●玉木宏樹弦楽四重奏団のCD発売決定!
�かつて玉木宏樹弦楽四重奏団がコロムビアで録音した音源がCD化されることになりました。皆さんからのリクエストも多かった、NHKの「ラジオ深夜便」でよく放送されていた音楽の数々をまとめたもので、もちろん編曲も玉木氏によるもの。2001年7月発売予定です。同時に、弦楽四重奏の楽譜集も音楽之友社から刊行される予定ですので、弦カル・ファンの皆さん、お楽しみに。CD、楽譜集とも、発行日や価格等の詳細が分かり次第、お知らせします。

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@@@@@西麻布通信@@@@@

◆次回の「純正律ミニコンサート@コア石響」、一部で6月9日開催予定と告知されていましたが、事情により7月に延期となりました。
◆発売中のムック『ウルトラマンAGE』(辰巳出版)に、「怪奇大作戦」劇伴に関する玉木インタビューが掲載されています。最近「怪奇大作戦」「大江戸捜査網」等々の劇伴系玉木ワークスに焦点を当てた取材が増えており、単行本『怪奇大作戦大全』(双葉社より7月刊行)にも掲載予定。純正律関係では、『ショパン』(6月20日発売号)と『教育音楽』6月号(5月18日発売)から取材あり(教育音楽』では執筆もしています)。
◆玉木氏は現在、新作CD2~3枚(左記の弦カルとは別)制作に向けて鋭意邁進中。乞う御期待!
◆今年も玉木氏は、桐朋学園短大にて純正律の講座を担当中。今期の学生からも昨年に劣らぬすごい反響が起こっている模様です。

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 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

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いちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
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ひびきジャーナル 第3号

玉木宏樹 藤枝守 黒木朋興 峰咲マーユ 田村圭子 福田六花(2000年8月15日発行)

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純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』  {創刊第3号}
2000年8月15日発行

編集/発行:純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
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残暑厳しき折、いかがおすごしでしょうか。
遅れに遅れましたが、純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』第3号、やっと出来上がりましたのでお届けいたします。
当純正律音楽研究会の起ち上げから約1年と少々。段々と純正律への認知が拡がりつつあるような気がしています。
今回の会報では、「純正調」の作曲家・藤枝守氏との対談、自分では大変面白いと思っていますが、いかがでしょうか。
これから先、いろいろと発展の可能性高い純正律音楽研究会ですが、何卒、皆様の御意見を吸収し、さらに発展させたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
そろそろ夏の疲れも出始めるころ、どうぞ御自愛ください。

                     純正律音楽研究会代表 玉木宏樹

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――玉木宏樹の“この人と響きあう” 第3回――
 音律とはメロディを生み出す土壌
                     作曲家 藤枝守さん

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 連載3回目にしていきなり同業者対談が (!?)。今回のゲストは、日本では数少ない、純正調に基づく音律の世界を模索し続けている作曲家の藤枝守氏です。箏組曲『植物物語』をはじめとするCDや著書『響きの考古学――音律の歴史』(音楽之友社)でも知られる藤枝氏はまた、コンピュータを援用したパフォーマンスや異分野の作家たちとのコラボレーション・ワークにも積極的に取り組まれています。あれっ、ところで、純正律と純正調って、どう違うの?

玉木:おそらく、あなたと僕の大きな違いはね、あなたは作曲家の立場だけど、僕はあくまでも肉体派の演奏する作曲家なんだよね。そこに考え方の違いがあったり表現する際の仕方が違ったりするんだろうと。そこら辺も伺いたいんだけど、純正律そのものに対してはいつ頃から興味持ったんですか。
藤枝:80年代にアメリカ(カリフォルニア大学)で作曲の勉強始めた頃ハリー・パーチやルー・ハリソンに出会って……。
玉木:お、まだパーチ生きてたの?
藤枝:いや、僕の居たサンディエゴがパーチの居た所で、実際に彼の楽器を見る機会があったりもして。純正調を意識しだしたのは向こうに行ってからです。倍音自体には興味あったんですけれど、パーチの楽器を見たり本を読んだり大学で研究テーマにしたもんですから。85~86年位かな。
玉木:ルー・ハリソンというのはパーチの弟子なの。
藤枝:いえ。でもパーチの「Ge-nesis of a Music」という本があって、それを読んだことが純正調の世界に行く契機となったことは確かなようで。その後の交流はかなり深く、パーチの存在が大きかったと。今でもそうですけれど、純正調音楽のひとつの原点はパーチだとみんな見做してるし。
玉木:僕はあんまりパーチは理解できないんだよね。汚くてさー。
藤枝:汚いというよりは、楽器の特性だと思うんですけどね。
玉木:なんか、うまくチューニングできてないんじゃないの。
藤枝:そう思います。楽器はちゃんと打楽器的なものを使ってるし純正調の持ってる基本的な可能性みたいなものがもう1個あるんじゃないかと。
玉木:なるほどね。ところで、3月30日の当研究会のミニコンサートを見て、いかがでした?
藤枝:純正調の研究の範囲ってどこまでいくのかなあと。パーチとかルー・ハリソンの影響受けてる人間としては、もっとモーダルな世界にどうやって移行できるか、ハーモニーに因らない音楽の可能性というもの、あるいはもっと微分音的なイメージがあって、本当に細かい半音の何分の1のイントネーションの多様性みたいなものに僕は興味があるものですから。実を言うと、ハモること自体は僕にはあんまり大きな意味はないんです。たしかにすごく大事なことなんだけど、それプラス、その力に合う音程的な要素がどう入り込んでくるかとか、そこにどんな微分的な抑揚が表現できるかというのが大きくて。ただ、玉木さんがやっておられることはとても大事で、一般には響くこと・ハモることの実感がまだ知られてないですよね。多くの人が忘れていたり知らなかったりする以上、それはやっぱり色々な形でやらなくちゃいけない。だからハモる事から入って初めて次の世界に行けるのかなと思うんですけれど。
玉木:啓蒙活動は大変だからね。
藤枝:日本はこれまで頑強にヨーロッパの音楽を受け入れてきて、例えばバッハの「平均律曲集」という誤訳のせいで平均律が近代音楽の始まりだっていうふうにやられてしまってるし、おそらくほとんどの現代作曲家は誰でも、ピアノ用にしろオーケストラ用にしろ、もう当たり前に平均律を前提に作ってますから、現代音楽がああいう難しいものになった1つの理由には、平均律化しただけで半音の差異の中での組み立てが簡単になったということがありますから。

〈現代音楽は耳が悪くてもOK〉
玉木:シェーンベルクがやりだしてみんな無調になったじゃない。だけど、音楽が行き詰まったからって個々の音に主張性を持たせて、ドデカに走ったり無調に走ったりするぐらいなら、もう一度純正律に戻ったほうがずっといいじゃないかと僕は思ったの。
藤枝:おっしゃる通りですね。
玉木:僕は芸大のヴァイオリンなんだけど、作曲もやってたんで作曲科の友達も多くて、なんかって言えば全部初演を押し付けられたの。僕は初見で何でも奏くしさ。それでやつら「グショーン、バターン」みたいなムチャクチャな、そんなこと書いて何が面白いのみたいな譜面書いてきてさ。で、「お前、本当に譜面通り奏いたと思ってるのか、耳悪いな。俺、全然めちゃくちゃに奏いたんだぞ」「いやあ、ちゃんと奏けてたぞ」って言うから、バカヤロウ、って本気で殴ってやった。それ以来俺は現代音楽の作曲家って信じてないんだ。要するにね、耳が悪くても「現代音楽」ってのは書けるんだ。あ、別にあなたを非難してるわけじゃないんですよ(笑)。
藤枝:いや、僕もなんとか殴られないようにしないと(笑)。
玉木:あなたは芸大だっけ?
藤枝:東京音大です。僕の先生が湯浅譲二なんですけど、先生は僕のこと理解してなくて、全然わけのわかんないことやってるとか思ってて(笑)。本当はちゃんとやってほしかったらしいんですけど。
玉木:現代音楽をちゃんとやってほしいなんて世界、あるのかい?芸大の作曲家の系譜を見たって、分かり易い曲書いたらバカとかさ。
藤枝:そう! だから僕がアメリカに行って大きかった事は、やっぱりルー・ハリソンに会ったことですよね。パーチはもう亡くなってたんで、サンディエゴにあった彼の楽器にいろんな間接的な影響を受けたんです。ルー・ハリソンとは交流して、家にも行ったりとかして。本当にいいメロディ書くんですよ、彼は。その時に、これでいいんだと思ったんですよね。メロディが書けるというのがいかに素晴らしいことか。その中に音律なり色々な知恵があるんだろうけど、やっぱり表面にメロディがあるかないかですよね。
玉木:ただ単にドミソ節でメロディ書いてたって手垢がついた劇伴にしかならない。だったら古楽聴いてるほうがよほどいい。それはやっぱり一度、純正律のフィルターなりを通してとにかくモーダルな世界に足を踏み入れないと、ちゃんとしたメロディは書けない。
藤枝:だから、ルー・ハリソンが言うように、純正調でもいいんだけど、音律はメロディを生み出す土壌なんですよね。

〈シェーンベルクは反面教師か〉
玉木:僕は、シェーンベルクが大きな過ちを犯したんだったら純正律に戻るべきだとずっと思ってたのね。彼はものすごく和声学に強くて、平均律を批判してるような部分もあるでしょ。だから「平均律の世の中になってしまったら行き着くところこんなものにしかならない」という反面教師でやったんじゃないかなと。ト長調の弦楽組曲とかものすごくきれいだもん。
藤枝:そうですね。もしかしたら、無調的な世界と調性的に偏った世界というせめぎ合いの中にシェーンベルクがあって、以後のウェーベルンら、ウィーン楽派的な後継者――ブーレーズ、シュトックハウゼンとかが攻め入ってああいう世界になっていった。僕はむしろシェーンベルクより、「現代音楽のスタイル」にしちゃったその後継者たちに罪があるという気がする。とはいえ、シェーンベルクを20世紀音楽の祖とするなら、そこから無調性的な世界が拡がったわけだから、ある程度は恩恵といえるかもしれないけど……例えば12音使えば、どうしようもない作曲家にも書けるわけですしね。
玉木:考えなしに書けるからね。
藤枝:また、ヨーロッパ自体がそれを継承したというのは明らかですよね。なぜダルムシュタット的な視点だけが日本も含め世界中に蔓延してるのか。結局は「宗教」なのに、あたかもメインストリームのごとくにね。さっきから現代音楽という言葉が出てきてるけど、「現代音楽というのはああいう世界」というのを誰が作ったのか。玉木さんがおっしゃるように作曲家の世界がいかに閉ざされているか、聴衆から離れていったか、あるいはメロディ作ることを馬鹿にするような音の構築性に対する依存を誰が差し向けたのか……平均律をやめてしまったら彼らの土台が全て狂っちゃうんです。無調というのは平均律を前提に成り立っているわけで、それがなくなれば調性自体が消えるわけですからね。

〈「律」と「調」はどう違う?〉
玉木:世界の崩壊を招くだろうからね。ところで、さっきあなたのお琴の組曲聴いて少し安心したんだけど、実はあなたが暮れにテリー・ライリーとやった時、僕は聴きに行って参ったなと思ったんだ。
藤枝:参ったというと……?
玉木:だから、純正「調」なんだなと。「律」ではなくて。
藤枝:調と律とのあんまり大きな使い分けはしてないんですけど。
玉木:所謂、倍音音楽だなと思ったわけ。テリー・ライリーはそうなんだけど、僕はあなたの曲は以前に聴いてなかったから、あなたもそういうことをやるのかなと思ったわけ。となると……なんというのかな、ガラスをこすって出る音も高倍音ではあるわけだから、それを純正律だと言われても困るなぁ、とね(笑)。
藤枝:でも、純正調というのは元々倍音の組織化ですから、倍音が全てとまでは言わないけど、色々な場面で転用して組み替えていけば純正調になるというか、倍音的な世界になるかも。
玉木:だから、僕は純正律だけどあなたは純正調だということね。純正調というのは基音があって、そこから絶対転調しないわけだ。だから高倍音とかを組み合わせることによって、1つのトーナルと言えばそれしかないわけだよね。だから、純正調という言葉を使ってるのかなと思うわけ。
藤枝:律とはtemperamentということだと思うんですよ。そうするとちょっと意味の幅が狭まっちゃう。だから、律をどう考えるのかというのが、ちょっと僕にもクエスチョンなんで調という言い方をしてるんですが。
玉木:なんで「法律」の律なんて字を使うんだろうねぇ。
藤枝:辞書自体がtemperamentを音律と訳してからいろんな誤解が一気に起こった。僕もいろんな所でしゃべるけど、「そうじゃないんだ」ということばかり啓蒙しちゃってて、それを言わないと次に行けないんで、なんかねえ。
玉木:いまだにネックになるよね。
藤枝:たしかに「平均律は悪で純正律が善」という考え方はよくないと思ったんですよ。平均律には機能的な意味もある。僕はモートン・フェルドマンに習ってたんですが、彼の音楽はやっぱり平均律じゃないとだめだと思ったんです。というのも、中心がないでしょ、彼の音楽には。で中心がないある種の浮遊性、あるいは時間性みたいな表現には、平均律のああいう枠組みがすごくうまくはまると思うんですよね。
玉木:「悠久の○○」みたいな。
藤枝:そうなってくるともう、作曲家が自覚するかしないかの問題で、僕もある局面においては。平均律は使うかもしれないし。そういうものをちゃんと分かった上で純正調なり音律と付きあうっていうことが大事なんですけど、平均律でドミソ音楽を作ることの矛盾を感じないまま作ってる人があまりに多い。無調音楽がどういう意味を持つかっていうことが分かった上で作るならともかく。

〈赤いカプセルを選ぶという事〉
玉木:映画『マトリックス』見た? 主人公は「お前は救世主になる資格を持っているかもしれない。この青いカプセルと赤いカプセルがある。どっちを飲むか」って言われて、青いカプセルなら元のまま何事もなく日常生活を送れる。赤いカプセルを飲むと、今見えてる世界が全部ニセモノだってことが判る。で、飲まないと映画にならないから主人公は赤いカプセルを飲むわけ。純正律ってのは、いわばその赤カプセルに近いんだな。
藤枝:本当にそうですね。だから飲んじゃった人は――ひょっとしたら僕も玉木さんも不幸になるかもしれないけど、でもあえて青を飲まなかったと。僕もピアノ曲はベルクマイスターとかいろいろやっていますけど、それも演奏者がいての話ですよね、僕が弾くわけじゃないので。今度楽譜も出ることになったんですけど、それは楽譜の上では平均律でも弾けるように書こうと思ってるんです。そうしないと流通しないんですよね。できればベルクマイスターでwell-temperamentでやってほしいけど、「平均律でも可能」と書いておけば、「平均律というのは仮の姿かもしれない」と奏者が意識するかもしれない。音楽が流通していく中では、やっぱり、それを弾く人間、聴く人間にも多少は「赤いカプセル」を飲んでもらわないと困る。みんな青い方ばっかり飲んでるから閉じた世界になっちゃったわけだから。それがいい意味での啓蒙だと思うし時間かかるし、これからもっともっと反発もあるとは思うんだけど。
玉木:常に相携えてやる必要もないけど、互いに共鳴しあってやってくのもいいね。
藤枝:アメリカではそういうネットワークもできてますし、僕もその影響受けた一人ですから、日本でも何かができるんじゃないかと。そういえば純正律音楽研究会って会員どのぐらいいるんですか。
玉木:ネット会員も入れると数百人ぐらい。
藤枝:すごいですね。
玉木:それで、2ヶ月に1回ぐらい純正律音楽研究会でミニコンサートをやってるんですよ。でね、曲の提供云々は別としても、いっぺんその時にゲストで来てもらって、さっきのCDとかかけながらお話をするとかね、そういうことがあってもいいじゃない?

〈本当の響きは味わってみないと〉
藤枝:ありがたいです。やっぱり純正調っていうのはみんなのためのものだから、使い方いろいろあっていいと思うんですよね。純正調だけが正しいっていうのも問題だし。でないと衰退していっちゃう。いろんなやり方がいっぱいあって、逆に突き詰めれば誰が弾くのか、弾き手・聴き手が選べばよくて、この純正律はいいとか響きがいいとか。僕は、響きの問題というのは、かなり味覚の問題に近いと思うんです。たとえるなら、今まで我々は「平均律というファミレス」でカレーを食べてたわけですよ、本当のカレーを知らずに。香辛料はいっぱいあって、その混ぜ加減のヴァリエーションも無限にあるはずなのに、それを知らないから、ファミレスのものだけをカレーだと思って食べていたら、ある時本場のカレーを食べた時に、おやっと思いますよね、知らない味だから。でも、一度食べれば、香辛料の割合によって響きが違うとか独特の香りがするとかだんだん判ってくる。たくさんあるカレーの味(=響き)の世界が拡がっていった時に「一体何が違うんだろう」と思えるわけですから。
玉木:とにかく積極的にやってみようという人間を増やさないとしょうがないんだよねぇ。
藤枝:逆に今は、音律の多様性を拡げるためにも、いろんなものを受け入れていくべきじゃないかと。僕が音律に取り組み出してから、いろんな人が寄ってくるし、自分でも、音律の視点からインド音楽やホーメイも含め、いろんな民族的な音楽を聴きだした。そうしていると自分の感性が開かれていくのが判ってくるし、演奏家たちとも触れ合う機会が多くなってくる。音律の意識が、ある意味でインターフェイスになっているんですね。音律を極めようとした事で玉木さんはじめ本当にいろんな人に会えたと思うし。現代音楽だけではもうだめなんですよ。作曲家仲間とか「そういう現代音楽」を作ってる1つのソサエティの中だけで自分を生かしている場合じゃない。
玉木:でも、武満さんもいなくなったから、それも崩壊してんじゃないの?
藤枝:でもね、屍で寄り添ってるような、まだ死にたくない、みたいなのがいますよ。だから武満の死ってことで20世紀の日本の「現代音楽」史が閉じましたというふうに、早く歴史の幕を引く人が誰か現われないとね(笑)。
                         〈文責:田村圭子〉

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{{{{{{ ムッシュ黒木の純正律講座 第3時限目 }}}}}

「純正律」という呼称についての考察  ―その3―

                           黒木朋興

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自然倍音という現象はデカルトとメルセンヌが17世紀に発見した、と一般に言われる。ではそれ以前の人々の耳に倍音が聞こえていなかったのか、と言われればそうではないだろう。しかし中世の大学で自由7科の1つとして研究された音楽とは、歌声や楽器の音など我々が実際に耳にする音楽というよりも、ムシカ・ムンダーナ(musica mundana) やムシカ・セレスティス(mu-sica celestis)という世界や天体の秩序のことであり、すなわち耳に聞こえない音楽のことだったということに注意したい。

◆「耳に聞こえる音楽」は下等?◆
 もちろん、耳に聞こえる音楽文化がなかったということではなく、教会にも宮廷にもそれなりの音楽が培われていたのだが、ここで重要なのは中世の諸技芸は〈神〉に対する近さによって厳密に階層分けされており、耳に聞こえる音楽は、聖歌を除き、一般に低い位置に貶められていたということだ。つまり中世の学者にとって重要だったのは、作曲したり演奏すること以上に宇宙を知ることだったのだから、倍音という実際の音響現象は二次的なことにすぎなかっ
たのである。それに対してデカルトやメルセンヌといった哲学者(=科学者)の功績は、耳に聞こえる音響現象を学術的な議論の爼上に上げたことであり、自然倍音の発見ということもそのような知的環境の変化という相のもとに捉えるべきであろう。
 つまり、実際には耳に聞こえない音楽を議論にする以上、倍音現象に注意を払わなくても全く問題はないわけだし、具体的な音響現象を観察し始めた以上、倍音が議論の対象として浮上してくるというわけだ。またデカルトの代表的な著作『方法序説』が、当時の学術書としては極めて異例なことにラテン語ではなくフランス語で書かれているということも思い出しておこう。それまで真理に至るためにはラテン語を身に付け論理学や修辞学を学ばなければならないとされていたのに対し、デカルトは〈理性〉を正しく導いていけばフランス語でも十分真理を理解できると考えたのだ。デカルトが〈近代=現代哲学〉の父と言われる由縁である。
 それまで教会や大学の中だけで追求されてきた真理を広く民衆に開くきっかけを作り、音楽を机上の論理から人間の感覚に快を与えるものへと開放した、と言えば聞こえは良いが、しかしこのデカルト哲学最大の問題点は、22歳の彼が『音楽提要』において既に言明しているように、「感覚は絶えず欺かれる」としていたことにある。デカルトの生きた17世紀とは、〈この世のすべては疑わしい〉という懐疑主義で理論武装をしたリベルタン(自由思想家)達が〈神〉の存在を辛辣にあざ笑った時代であり、彼の有名な「コギト・エルゴ・スム(我思ウ、故ニ我アリ)」とは、全てが疑わしいこの世における唯一確実な真理なのだし、そして何よりも〈神〉の存在証明だったのだ。

◆音楽も魂で聴かなくっちゃね◆
 そのような真理に至る彼の思索の道程において「感覚は絶えず欺かれる」という台詞は、リベルタン(=懐疑主義者)達への理論的な防御装置として機能する。つまり、我々は常に欺かれているのだから全てが疑わしく思えてしまうのも当然のことだ、現に学者達は大学の研究室の中で誤謬に継ぐ誤謬を重ねてきたではないか、だからこそ〈理性〉の光を誤謬に満ちた世界に当てることによって確実な真理に至ることが大切なのだ、とデカルトは説いたのである(デカルト自身の考えというより、むしろ後のデカルト主義が掲げた根本原理であると言ったほう良いだろう)。デカルトは確かに大学の研究室から人間の感覚へと音楽を開放しはしたが、その感覚を全面的に信用したのではなく、具体的な視覚や聴覚の上位に新たなる形而上学的概念を設定したのだ。つまり物事はただ見たり聞いたりするだけではなく、〈魂〉で感じとらなければならない、ということだ。そしてこの〈魂〉に宿り人間を正しく導いていくものこそが、〈神〉が人間に与えてくれた〈理性〉なのである。 以上、デカルトの音楽論に関しては名須川学氏に多くを教授して頂いた。感謝したい。

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天国的純正律音楽入門 第3回

 桐朋学園短大講師の体験記

      純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
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今、講談社新書で出たばかりの、脚光を浴びている『音楽のヨーロッパ史』を書かれた上尾信也氏は、桐朋学園短大を拠点に「音楽史研究会」という結構ハードな集いを主宰されており、去年私が「“純正律”について語れ」という依頼の下、いつものようにヴァイオリンと器械といろんなCDを持参して、しゃべったりヴァイオリンを奏いたりしたのが多少印象に残ったのか、「今年半年“純正律”についての講座を持って欲しい」との委託が上尾氏より来た。
 私は「“反”絶対音感教育」者だけど桐朋で大丈夫か、と訊いても「全然OK」とのこと。というわけで、今年の4月から7月まで前期の講座を持ち、7月14日が前期最後、そのあくる日が芝abc会館ホールでの純正律コンサートである。

◎平均律が人生を惑わせる?◎
短大生というと大体18~20歳ぐらいで、いま問題の“17歳”とほぼ同じ年代である。しかし、桐朋の学生はどうだ。行儀が良く従順で、私語のひとつもなく、出席率も大変良い。他の講座もこのようかどうかは知る由もないが、私の授業の感想を書かせたところ、「新鮮な衝撃に溢れ、こんなに眠くない授業は初めてだ」という反応が多かった。大体の予想はしていたが。なにせ、初回からいきなりヴァイオリンを奏きっぱなしで、純正律関係のCDをかけまくり、これでもかこれでもかと純正律を煽りまくり、狂っている平均律の実態を露わにしたものだから、学生が眠れなかったのも当然だろう。1回目の授業の感想の中で、ピアノ科の学生から、「人生、どうしたらいいか分からなくなった」との深刻な言葉が返ってきた。私は立場上「平均律」を悪者にしたり敵視したりしているようなフリはするが、実は「平均律」の良さもよく分かっている、とのもと、2回目3回目と私自身が「平均律」で作曲している曲も何曲かかけたので、多少は心が休まったかもしれない。
 それほど「純正律」というのは一種「危険な存在」である面も持っている。それは日本の音楽教育のズサンさの証拠であり、アプリオリにピアノ用の平均律のピッチこそが絶対正しいというドグマの下の「絶対音感教育」に全ての弊害の源がある。
 そんなことを「絶対音感教育」の牙城、桐朋学園で何度も言うもんだから、自分でも内心ハラハラすることがあるが、突っ走り出したらブレーキの効かないところもある私だから、未だにコンピュータのない桐朋にも痛烈な批判をしたりして、あぁ口は災いの元であるな、と痛感している次第である。

◎黒木助手よ、有り難う◎
 ところで、この講座は音楽専攻だけでなく文学も演劇もやってくるので、そういう意味ではにぎやかである。特に、演劇科の連中の元気のいいこと。はっきり自己表現できないと芝居のイロハもできないわけだから、当然のことではあるが。わずか15回足らずの講座だったが、学生は確実に純正律の存在を知り、そのうちの何人かは純正律の虜になったはずだ。演劇や文学の学生もいるので、難しい用語は少なくし、とにかく今流行りの透明系の音楽がそうなんだといって、それ系ばかりかけまくったので、よく分かってくれたのだろう。
 それから、数回を除き、黒木氏が助手として参加してくれて彼なりのお薦めCDをかけた。これが私と全く違う分野でありながらやはり純正律ということで、みんなはブッ跳んでいた。もとはと言えば、黒木氏の紹介で「音楽史研究会」に誘われたのがきっかけ。彼はもうすぐフランスに行ってしまうのだが、彼のフランス便りを楽しみに音律問題の発展を期したいと思っている。

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 [癒しの現場から]
  身体は季節とともに生きている
  ――陽幸堂 峰咲マーユさんにきく その1――
 
                             田村圭子

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  今回は、日本医学をベースとする整体と「アトマスキュア」という独自の健康指導法で知られる、東京・市ヶ谷の陽幸堂に、玉木宏樹氏の治療も兼ねて伺ってみました。かつてここの峰咲マーユさんと玉木氏は、ある録音の現場で運命的な出会いを体験し、その御縁でこの度の純正律新作CD『第3の夢』が生まれたのでした(玉木HPにそのエピソードが載っています)。かねてより音楽と身体との関係を整体の立場から注目し続け、治療・指導の一環として積極的に音楽制作にも携わってこられた峰咲マーユさんのお話を今号からシリーズでお届けしていこうと思います。

☆身体は入梅の準備をしている☆
 陽幸堂に伺ったのは6月6日、東京はまだ入梅前でした。治療のため俯せになった玉木氏の身体に触れるなりマーユさんから「あら、玉木さんはもう梅雨に入ってる。敏感なのね」と意味深なお言葉が。その訳は後ほど明かされるのですが、まずは、陽幸堂独自の治療・健康指導法「アトマスキュア」についてお尋ねしてみました。

「患者さん一人ひとりの日常や身体の違いに合わせて診る訳ですが、相手の身体の中から、誰にでも備わっている治癒能力を引き出すために、身体にはたらきかけてきっかけをつけるんです。実際に元気になるのは、例えば、玉木さんなんですね。私が一生懸命頑張って力を入れて押しても引っ張っても、その人の本当の元気というのは出てこない。だから私たちが手を当て、「輸気」という、相手の身体に手を当てることでその人が今疲れている部分や具合が悪くなってる部分を見つけて、そこにちょっとだけ気を送るということするわけです。これは気を送られた側としては、喉が渇いた時にお水をもらうようなもので、喉が渇いてるときにパンを貰っても呑み込めないからお水が欲しい、でもおなかが空いているときにはパンがいい。そういうふうに、その時々に合わせた気を送ると、欲しいだけ玉木さんが元気の気を吸収して、自分の中で活性化していくわけです。だから、治療というより身体に対する指導法と呼んでいます。酸素が足りないようだから深呼吸しましょうとか血圧が高いようだから脇をつまんでおきましょうとか、そういうお家で出来る方法が一番大事なんですね。私がここで行うのは全体の3割、後は玉木さんがお家に帰って自分でやってみる事、それが7割を占めている。自分で自分を元気にするということ、それがアトマスキュアなんです」〈峰咲マーユさん〉

☆ヒトの身体は面白い☆
「アトマスキュア」というのは、「アトマスフィア(=大気)」と「キュア(=癒し)」という英語を融合させてマーユさんが造った名前だそうです。それは、元来、人間も自然や環境の一部を成す存在であるという認識に立ち還った言葉でもあります。これは、当たり前の事だけれど、忙し過ぎて利便性だけに寄り掛かる日々の暮らしの中で、私たちが見失っている事でもあります。

「ひとの身体って面白くてね、誰でもそうなんですけど、俗に〈背骨〉と言われる所の骨一つひとつが、身体や精神面のいろんなものと関連性がある。だから例えば神経が疲れたとか耳や喉が痛いとかいう場合も全部どこかに決まった場所があって、そこをちょっとだけ(輸気やマッサージ等で)調節するだけの事なんです。さっき玉木さんの血圧を調整するためにぽこんと叩いた所がありますね。最近地震が多いけれど、地震が来る時っていうのは、そこにちゃんと印が出てくるんです。本当は誰にでも出てるんですけど、みんな、知識――情報の中で生きていて、揺れて初めて“震度幾つだろう、ああ大きかったんだ”という感じで、知識だけで地震をとらえようとする。自分が地震を身体で感じていたことを知らないんです」

 本当は、読者の皆さんにも私にも、生まれながらにそういうセンサーが備わっているんですね。

☆季節ごとの身体の変化を診る☆
「先ほど玉木さんの身体を診たら一早く梅雨時の体になってました。梅雨時には、多湿のために出るはずの汗が出にくくなったり、風の冷たさでまた中に引っ込んじゃうとか、そういうだるさがあるんですが、梅雨になると必ず腰のところに一箇所上がり下がりが出てきて“玉木さんが梅雨に入ったな”ということになるし、春になると足首の形が極く僅かに変わってくる。私たちが日常的に患者さんに触っていると、この前の足と今日の足はちょっと違うぞ、っていうことで春になったのが分かったりする。だから、身体の状態が梅雨に入った玉木さんには、これからはお風呂に入る時には、今までざぶっと入っていたのを、今後は入る前に湯船のお湯で顔を洗ってからお湯に浸かって下さいという〈指導〉を行うわけです。そうすれば、冬になって極端に血圧が上がって具合が悪くなることがなくなる。冬のための予防は、梅雨の時期から始めるんですね。ちょっとややこしいかもしれませんが、このように、人間の身体は四季に合わせて変化していて、そういうふうにできている身体の変化を確かめながら、それが全部、〈背骨〉といわれる部分の中に集まっている様子を私たちは見分けていくんです。つまり、人間の身体っていうのは、常に季節と一緒に生きていて、私たちは、それを診ているんですね」
                            【次号につづく】

★陽幸堂――Tel. 03-3235-7535
      東京都新宿区市ヶ谷本村町3-26ホワイトレジデンス9-B

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外科医のうたた寝☆その2
 
  マラソンの快楽(ライバルは郷ひろみ)

         福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 今から4年前の秋、当時長野県の諏訪地方に住んでおり、病院の仲間に誘われて、地元で開催された諏訪湖マラソンというハーフマラソン(約21km)の大会に出場した。無謀にも5~6回練習しただけで参加したところ、辛かったけど完走出来て大いに感動していた。ところが、後日送られて来た成績表を見たところ、7000人中6200位程度であり、今度はやたらに悔しさがこみあげてきた。そんなことを契機にして、いつの間にかマラソンの練習を本格的(?)に始めるようになり、徐々にエスカレートして現在の職場(癌研)に陸上部を作り、昨年はマラソン、駅伝、トライアスロンと14回の大会に出場してしまった。ただし、フルマラソン(42.195km)は大変なので、たった1回だけである。
 昨年末、ぼーっとテレビを観ていたら、なんと郷ひろみがNYシティーマラソン(42.195km)に出ているではないか。そして足の痛みをおして3時間44分で完走しているではないか。ちなみに僕のフルマラソンのタイムは4時間40分である。郷ひろみに遅れること1時間余り……。だんだんと悔しさがこみあげてきた。そして冬から春にかけて、暇さえあれば自宅近くの玉川の河原を走った。
 そして迎えた4月9日長野オリンピック記念マラソン大会、目標タイムは4時間20分と広言していたが、実は郷ひろみに勝つためには3時間43分と心中期するものがあった。
 世界の強豪も多数参加するレース。全国中継のNHKのカメラが見守るなか、一斉にスタートした。どうもスタート地点でテレビに映ったらしく、行く先々で沿道で応援する人達から「君、スタートでテレビに映ってたよ」と声が掛かる。ちなみに僕は、一部金髪のカーリーへアーであり、角刈りや短髪の多いマラソン大会ではかなり目立つようだ。
 天候も体調も良く、楽しく、全力で42.195kmを走ることが出来た。そして、結果は4000人中1100位で3時間56分。自分としては十分満足のいくタイムであったが、郷ひろみにはあと少し届かなかった。来年こそ、見てろよ……。
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CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW

 [[[[[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]]]]]]

――GENTLE GIANT『in concert』(WN CD066)ほか――

黒木:今回は僕の担当なのでロックでいきます。
玉木:僕もロックは、実は大好きだし、日本で初めてロックヴァイオリンをやってるんだよね。
黒木:そうでしたね。じゃ、ジェントル・ジャイアントというバンドを御存知ですか。彼らはイエス、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、E.L.P.などといったバンドと同時期に活躍した、いわゆるプログレなんですけど。
玉木:うーん、今出た名前は全部知ってるし、よく聴いたけど、ジェントル・ジャイアントはどうも網の外のようだったね。
黒木:そこで今回は、このジェントル・ジャイアントをお薦めしたいわけです。特徴といえば、とにかくテクニックがすごかった。それも個人のプレイヤーとしてのテクニックではなく、バンドのアンサンブルとしてのテクニックが尋常じゃない。しかも1人が複数の楽器をこなし、ヴァイオリン、チェロ、ヴィブラフォン、リコーダー、サックス、トランペットまで操ってる。ギター、ベース、キーボード、ドラムなどはメンバー5人全員がほぼ同じレヴェルで演奏でき、ライヴでは全員によるギター、リコーダーやパーカッションアンサンブルを披露していました。何よりも圧巻なのがヴォーカルアンサンブルで、5人がアカペラでばっちりハモっちゃう。はっきり言って、さっきのバンド群の中では問題にならないくらい飛び抜けて上手かった。ただし日本ではほとんど売れなくて、一部のファンにもてはやされるくらいですが……現在では音楽活動をしていないようです。まずは早速、彼らの「ON REFLECTION」という曲を聴いてみましょう。――〈CDをかける〉――これは彼らの馬鹿テクぶりを凝縮したような曲で、スタジオ録音よりもこのライヴヴァージョンの方が面白いですね。と言うか、ライヴで、つまり編集をしないでここまでやれるというのは驚異的。まずリコーダー、チェロ、ヴァイオリン、ヴィブラフォンなどのアンサンブルで始まって、ばっちりハモってるヴォーカルアンサンブル、そして最後に、エレキ楽器によるロックアンサンブルで終わる、と。
玉木:う~ん、うますぎる、器用すぎる、自分達だけが楽しんでる、という印象だねぇ。
黒木:じゃ、今度は同じ曲をBBCのスタジオライヴのヴァージョンで聴いてみましょう――〈今度はスタジオライヴ版をかける〉――最後のロックアンサンブルのところ、ギターとキーボードのパートがひっくり返っているでしょ。基本的に彼らは曲を対位法で作っているので、こういう遊びができるんです。これは編曲を担当していたキーボードのケリー・ミネアの功績なんですけどね。彼はロイヤル・アカデミー音楽院で作曲の学位を取得しているんです。それが何を血迷ったかこんなロックバンドに手を染めてしまったんですね。
玉木:なるほど。
黒木:なぜ彼らがいまいち売れなかったかというと、彼らはどうも音楽的にすごいことをやりさえすれば良いと考えていたらしくて、こういう安直な発想をしちゃったところにあると思うんです。音楽の世界ってのは色々な面でのファッション性が求められると思うんですけど、彼らはそれを無視して音楽だけに走っちゃった。
玉木:僕自身も若い時にそういう考えで失敗を繰り返してるんで、少々耳が痛い。
黒木:でも逆にそういう純粋さみたいものが曲がりなりにもジェントル・ジャイアントというバンドで結実したことがあるという事実、それはそれですごいと思うんです。

INFORMATION

 ジェントル・ジャイアント/GENTLE GIANT
 『in concert』(WIN CD 066)→先に聴いた「ON REFLECTION」入り。
 『Playing the fool』(S21-18466)→ライブなのに、この凄さはなに?
『Out of the woods』〈the BBC sessions〉(BOJCD018)
 →じっくり聴けるスタジオ生。

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 アトマスキュア・コンサート

 「第3の夢」、大成功でした!

 7月の15日(土)、いつもの定例とはちょっと趣の違った純正律のコンサートが、東京・芝abc会館ホールで開催されました。今号の「癒しの現場から」でも御紹介した陽幸堂の峰咲マーユさんと、純正律研究会代表玉木宏樹氏との出会いから生まれた新作CD『第3の夢』(「純正律かわらばん」↓を参照のこと)の発売を記念しての企画で、マーユさんの所と純正律音楽研究会との共催、リズム時計工業(株)ほかの協賛によって、拡大版と呼ばれるにふさわしい、盛り沢山な内容でお届けすることができました。
 プログラムも実に欲張りでした。この夜の玉木氏(この夜のために新調した絽の渋い衣装で登場!)は純正律だけでなくおしゃべりヴァイオリンも絶好調。さらには、会員のみなさんにはすっかりおなじみ、巻上公一氏のホーメイや口琴、トゥヴァの楽器による即興演奏、田代耕一郎氏のカンテレも響きわたります。また、純正律にチューニングされた玉木弦楽四重奏団による演奏では、同じ曲を平均律と純正律とで聴き比べてみるコーナーもあり、生で体感する純正律の響きの豊かさに、会場の皆さんも衝撃を受けた様子です。途中、峰咲マーユさんによる
健康指導法のお話コーナーでは、なんと、黒木朋興氏がモデルとして駆り出される場面も。もちろん、その黒木氏を交えての「枯葉」もあり、クラシックからエスニック、モダン、アバンギャルドまでが融けあい、不思議な調和を醸し出す夕べとなりました。
 abc会館ホールは400席という大きめの会場でしたが、お陰様でほぼ満席となり、また、お客様にも十分に楽しんでいただけたようです。来年もまた開催される予定とのことですので、御期待ください。
 最後に、夕方からのコンサートのために、早朝から入って動き回っていた舞台の裏方スタッフの皆さん、本当にお疲れさまでした!

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→→→純正律かわらばん→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

●純正律新作CD出来ました!
 玉木宏樹『第3の夢』――サウンド・テラピー
 価格――税込2500円(ATMC-2000)
�本誌5~6ページで御紹介した陽幸堂の峰咲マーユ氏プロデュースによるミニアルバムです。身心のセルフチューニング用にと委嘱された「第3の夢」、純正律定例コンサートで好評を博しCD化が待たれていた新曲「風のルフラン」、玉木氏と峰咲マーユ氏との運命的な出会いから生まれた幻の名演「風の彩」、そしておなじみ「ケルト幻影」の4曲入り。これまでのミネラル・ミュージック・シリーズとは一味違う、玉木ワールドの新境地を感じてください。御注文は純正律音楽研究会事務局にて承ります。
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●文京学園の生涯学習センターで純正律講座を開講!
 癒しのひびき「純正律」――その天国的な音世界を探る――
�この秋、文京女子大学・文京女子短期大学生涯学習センターの社会人講座で、玉木宏樹氏を講師とする純正律の講座「癒しのひびき『純正律』」が開講されます。様々な純正律音楽鑑賞や玉木氏のヴァイオリン演奏等を交えた体験型の講座です。10月17日、24日、31日、11月14日、21日の全5回で受講料は12000円(テキスト代含む)。定員20名。関心のある方は、文京女子大学生涯学習センター(電話03-5684-4816)までお問い合わせ下さい。

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@@@@@西麻布通信@@@@@

◆おかげさまで、この7月で純正律音楽研究会は創立1周年を迎えました。昨年の今頃、研究会創立コンサートと会報創刊準備号発行が重なり事務局は大混乱でした。今も混乱ぶりは変わらずですが、関心をお寄せくださり物心両面から御支援くださる全ての皆様のおかげで、純正律音楽研究会は少しずつ前進し続けています。今年後半は純正律をめぐる大きな展開がありそうですし、会としてもイベント、CD等を通じて新たな試みに挑戦していく所存です。至らぬ点も多いことと思いますが、今後とも、よろしくお願い申し上げます。
◆いよいよ純正律音楽研究会、欧州進出か? 黒木朋興氏がお仕事のため渡仏されます。といっても、もちろん今後も会報等、様々な形で会には関わっていただきますが。御活躍をお祈り申し上げます!

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 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

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いちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
  URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
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ひびきジャーナル 第2号

玉木宏樹 巻上公一 萩野昭三 黒木朋興 井土井至 田村圭子 福田六花(2000年4月5日発行)

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純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』  {創刊第2号}
2000年4月5日発行

編集/発行:純正律音楽研究会
      〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
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いよいよ春本番。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
たいへん長らくお待たせいたしましたが、純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』第2号をお届けいたします。まだまだ至らない点も多いことと存じますが、御一読いただき、ぜひともみなさまの忌憚のない御意見、御感想をお寄せくださいますようお願い申し上げます。
おかげさまで先日、当会主催による第4回ミニコンサート&ワークショップも大盛況のうちに無事終了できました。また、近ごろでは当研究会主催だけでなく、外部からの依頼による純正律関連イベントも着実に増えてきているほか、この4月にはテレビ、ラジオ等のオンエアもいくつかあり(詳細は会報8ページ目の情報欄を御参照ください)、純正律に関する認知度がじわじわと高まってきていことを感じます。
当研究会で企画・運営するイベントはどうしても東京周辺地域のものになってしまいますが、これからは、各地のみなさまからの御要望にも積極的にお応えしていければとも考えております。そのためにも、みなさまのお声をお待ちしております。御連絡は事務局まで、宜しくお願いいたします。
桜の季節到来とはいえ、まだまだ寒い日もあります。みなさまも体調など崩されぬよう、どうぞ御自愛ください。

                     純正律音楽研究会代表 玉木宏樹

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――玉木宏樹の――
   “この人と響きあう”
                 第2回 超歌唱家 巻上公一さん

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 純正律音楽研究会代表の玉木宏樹氏が各界の方々と 音や響きについて繰り広げるトークの第2弾は、ヒカシュー等、過激なヴォイス・パフォーマンスで知られる超歌唱家・巻上公一氏の登場です。予告通り巻上氏を伴って、前回のお相手、バリトン・ドクター萩野昭三先生を訪ねました。目的はズバリ、一人二重唱であるホーメイを歌っている時の声帯の使い方を写真に撮るため。ヘンな声を出すのが三度のメシより好きという巻上氏のノドで、一体何が起きているのか!?

〈ホーミィとホーメイは違う〉
玉木:巻上さんとホーメイとの出逢いはどういうふうにして?
巻上:7年くらい前かな、TBSで、あの坂田明さん(「ちょうちょ~」で有名なサックス奏者)がホーメイの特集をやっていたのを見てびっくり。すぐやりたくなって、坂田さんのところへ行ったんです。
玉木:へえー。あの坂田さんがねえ。彼自身はホーメイできるの?
巻上:今からみると、少しできるって感じだったかな。
玉木:だいたい、ホーメイなんて、どこの誰がやってるんだろう、なんていうところですよね。
巻上:ええ。それで、さっそく坂田さんとこへ行ってやり始め、いろいろ研究すると、奥の深いこと。
玉木:はあ。
巻上:最初はモンゴルの人たちの特殊な歌い方だと思っていたんだけど、そんなもんじゃなかった。
玉木:モンゴル以外にもたくさんやってるわけ?
巻上:モンゴルでやってるのはホーミィと発音します。
玉木:巻上さんのやっているのはホーミィではなくホーメイ?
巻上:そうです。モンゴル周辺では、いろんな民族がよく似た歌い方をしています。しかし、ソ連時代には、ティピカルな民族音楽は禁止されていたので、やる人は少なくなっていたようです。
玉木:ウクライナでも、ダルシマ系の民族楽器のプレイヤーが大虐殺されて、ショスタコヴィッチが自伝で、それを黙視したことを猛反省しているらしいけど。
巻上:それでボクは、地図でいうとモンゴルのななめ左上にある、トゥヴァというロシア連邦内の共和国の人と知り合い、似たようでいてだいぶ違うやり方を知ったんです。
玉木:それがトゥヴァ地方のいわゆるホーメイ。で、あこがれのトゥヴァへ行ったんだ。
巻上:あの時は、イルクーツクまでの直行便があったので、今よりは行きやすかったんです。
玉木:えっ、今はもっと大変なの。
巻上:アエロフロートから独立した航空会社がつぶれちゃって、直行便がなくなっちゃってね。

[――などと話がはずむうちに、診察室に呼ばれ、バリトン・ドクター萩野先生と巻上氏が御対面。看護婦や事務などの女性陣が5~6人も待ち受けていた!]

玉木:萩野先生、ホーメイって聴いたことあります?
萩野:いや、噂はきいているけど。
玉木:巻上さん、じゃ、さっそくやってみてください。

〈ホーメイの謎に大接近!?〉
巻上:[診察用の椅子に座りながら]えーっ、ここで……ムムム……[と言いつつホーメイが始まり診察室の一同、歓声の嵐]
萩野:ふーん……声帯の写真を撮るのには、「イ」の発音がいいんだけど[と言いながら、巻上氏の口腔に光をあてて、撮影用の特殊カメラを向けると、隣の大きなカラーモニターに、巻上氏の声帯の、どアップが映し出される]
巻上:イ~~、ゴホンゴホン、何だかおかしいな。
萩野:こわくない、こわくない。リラックスして。
巻上:イ~ウ~エ~、ゴホッ、ゴホッ……
萩野:ちょっと麻酔をするからね。
巻上:ええーっ![←まったく困り切った表情]
萩野:大丈夫、大丈夫。たいした麻酔じゃないんだから。
巻上:イ~エ~オ~[←なかなかうまくいかない様子]
萩野:そンだなぁ。[←完全に津軽弁]、仕方がないから鼻からいぐか。
巻上:えー!?[←もう半泣き状態]
萩野:すぐ終わるから、ほら、こんな風になってる。[全員でモニターを覗き込む。玉木氏にはもちろんわけが分からないが、スタッフの女性陣は一斉に息を呑んでいる]
萩野:ほンらね。[と言いつつ、声帯の様子をビデオに収録。写真を3枚ずついただいた]
玉木:先生、この間お会いした時のお話で(創刊1号参照)、ホーメイは仮声帯を使ってるというようなことを言われた気がするんですが。
萩野:いや、違うね。仮声帯を使うのは浪曲とか詩吟の人たちだね。
玉木:じゃ、普通では考えられないんですか。
萩野:つまり、喉頭の全部が振動してるんで、こんな人初めてだな。
玉木:じゃ、学会に発表できるほどのことですか。
萩野:そうだねぇ、十分発表できるね。

〈そして診察後……〉
――ここからは玉木の感想です。いやほんとに御両人、ありがとうございました。診察が終わって、萩野先生の奢りで一杯やりながらの雑談で、巻上さんがとても重要で面白い話をしてくれました。ホーメイをやりだしてから、特に倍音に敏感になってしまい、街のどんな音でも倍音が聞こえるようになり、うるさくてたまらない時があるということです。そして、電車に乗ると、その震動音に合わせてホーメイをやりたくてたまらなくなるそうな。東海道線(彼の自宅は熱海)の車中で巻上氏を見かけたら、ホーメイの実演がタダで聴けるかも!
                         〈文・写真:玉木宏樹〉

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{{{{{{ ムッシュ黒木の純正律講座 第2時限目 }}}}}

「純正律」という呼称についての考察  ―その2―

                           黒木朋興

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◆事典レベルで既にバラバラ◆
 前回は、フランスで最も権威があるとされる音楽学校で作曲を講じる人物に、フランス語で純正律(=reine Stimmung /just intonation)を何というのか聞いてみたところ言葉につまってしまった、という話をした。
 しかしフランス人の作曲家が「純正律」という表現を知らなかったとしても、それは決して彼らの勉強不足のせいではない。フランス語の音楽事典やテンペラメントを扱った学術書を見てみれば、既にそこからして言葉が一定していないのである。
 まずマルク・オネゲル編集の『音楽事典:音楽の科学』(1976)を引いてみると、「ピュタゴラスシステムSysteme pythagoricien」「調整されたシステムSysteme tempere」の項に続き、「ツァルリーノシステムSystemezarlinien」という項が見つかる。ここでは「G.ツァルリーノがこのシステムを開発したのではないが、これが広く用いられるようになったことに関しては多大なる貢献をしている。その主要な特徴は、ピュタゴラスの長3度(81/64)を倍音列のなかの長3度(5/4)に置き換えたことにあり、3つの音(ド-ミ-ソ=4/5/6)による協和音の可能性に道を開いた……」と説明されている。また「フランスでは物理学者の音階、ドイツでは倍音システムの音階と呼ばれている」という記述があることも興味深い。
『音楽ラルース』(1987/1993) では、テンペラメントの項の中で、「平均律le temperament egal」、「ピュタゴラス整律le temperament pythagori-cien」に続き、「ツァルリーノ整律、あるいは《不等分律》les temperam-ents zarliniens, dits《inegaux》」として扱われている。やはりここでも5/4の3度の重要性が強調されているが、les temperamentsという風に複数形であることからも察せられるように、中全音律やキルンベルガー整律などの古典整律の説明もこの項の中でなされている。
 次に学術書を見てみよう。ピエール=イヴ・アスランの『音楽とテンペラメント』(1985)では、ピュタゴラス律を「ピュタゴラスシステム」として説明し、純正律は「英語の《just intonation》からの訳語である」という断り書き付きで《intonations pures》としている。ジャン・ラタールの『音楽における音階とテンペラメント』(1988)では、やはりそれぞれ「ピュタゴラスの音階gamme de Pythagore」、「ツァルリーノの音階gamme de Zarlin」と呼ばれているのだが、「自然音程 Intervalles naturels」という言葉に「正確なjus-tesあるいは純粋なpurs [音階] とも呼ばれている」という但し書きがついている。英語、ドイツ語からの影響であろう。そしてドミニク・ドゥヴィの『音楽のテンペラメント』(1990)では、ピュタゴラス律を「ピュタゴラスシステム」としているのは前述の書物と同様だが、純正律には「自然音階gamme nature-lle」という言葉が当てられており、箇所によっては括弧をつけて英語のjust intonationという言葉が添えられている。

◆立役者は物理学者たちだった◆
 確かにツァルリーノは長3度(5/4)の可能性を強調してはいるが、彼の時代ではハーモニーといえばまだ音階論の域を出ず、それが1度-3度-5度などによる和音のことを意味するようなるのは、17世紀にメルセンヌやデカルトらが自然倍音を発見し、18世紀初頭にかけてソヴールなどの物理学者が音響分析を行い、そしてそれらの研究の成果を背景としてラモーが数々の和声論を執筆する18世紀以降であることを考えれば、純正律が〈科学的〉に理論付けされ実用化されたのは18世紀初頭であると言えよう。その意味で、ドゥヴィが純正律に「自然音階」という用語を当てているのは、「自然倍音harmoniques naturels」との関連であり、適切な選択であると言えよう。
 つまり純正律はツァルリーノではなく、18世紀の物理学者達のもとで和声論とともに花開いた音階なのである。

※おことわり※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
本稿の、黒木氏による原文では、フランス語部分に多数のアクサン記号が使用されていますが、メールマガジンというメディアの制限上、この「会報ネット版」ではアクサン記号をつけた状態の文面を表示することができません。ただし、純正律音楽研究会正会員向けの会報(印刷物/A4判8ページ)では、正しく表記されているほか、図版等も掲載されております。
今回、この正会員向け会報を御希望の方に実費にてお送りいたします。お名前、御住所、「アナログ版会報希望」の旨をお書き添えいただき、80円切手を同封の上、純正律音楽研究会までお送りください。折り返し、正会員向け会報をお送りいたします。
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天国的純正律音楽入門 第2回

 な、なんと、ギターの調弦が純正律に!

      純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
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◎「ギターで純正律」開発秘話?◎
 当研究会の若きホープ黒木氏が、純正律ブルースの調弦を発見したということは前回に少し書いた。この会報でも彼に連載記事を書いてもらっているが、文章が難しいという意見がちょくちょく来る。しかし、彼は、本当はミュージシャンではなくバリバリのフランス文学の徒であり、文学博士をめざして多方面に研究を深めている途中で〈純正律〉の重大な問題にぶつかったという話だ。もともとロックバンドなんかやっていた関係で、ギターの調律の矛盾点と純正律のすばらしさに目覚め、ひたすら研究の道に入ったようで、学究の徒である以上、厳密な考証のもとに文章を書かねばならないのでひとつ御理解のほどを。
 ところで、たいていの人は彼と話していてもおいてけぼりになるので「むずかしい人」と思われがちなのだが、何の何の、実は正反対の奇人変人に近いところがあり、ギターが純正律調弦できないことにいらついて悶々とした毎日を送っていたようだ。
 ある日、倍音上の自然7度(これは普通の西洋音楽の音階ではほとんど使わない。バッハ時代の無弁トランペットではやむを得ずこの音程が出る程度)に頭をめぐらせている時にふと、この自然7度を採り込んだ調弦を思いついた。
 Dチューニングで、下からD-A-D-F#-A-Cと調弦するのだが、下のD以外の音はすべてDに含まれている自然倍音、つまりハーモニックスで合わせていくのである。すると、長3度の音が純正律になるのは当然だが、なんと7度までが純正になるのだ。彼が意気込んでウチの事務所へ来て、「このチューニングならブルースができるでしょう」と言いつつ始めたセッションは、すぐに興奮の渦を巻き起こした。
 ブルースだから、I度、IV度、V度しかなく、それも全て1本指の移動で済む。このブルースについては、前回の「コア石響」の時のセッションを御覧になった方はお分かりだろうが、何を隠そう、昔はエレキヴァイオリンでロックをやっていた私。過去の悪行を思い出し、破天荒なアドリブを始めたことに驚いた人もいただろう。
 この純正律ブルースは12月に錦糸町そごうのクリスマスキャンペーンのミニコンサートでもやって、大変面白かった。これからも、何度もやっていこうと思っている。

◎次なる秘技はトライヤードで◎
 で、話はここで終わらない。なにせ、あくなき学究の徒・黒木氏は1本指の平行移動のブルースでは全然飽き足らず、悶々と正月を過ごすうちに、ついに、トライヤード(三和音のこと)上で純正律にチューニングする方法を発見してしまい、1月14日の当会の新年会でその成果を発揮してくれた。その時の参加者の興奮ぶりが強烈なものだったのは言うまでもない。
 とりあえずは、シャンソンの定番「枯葉」をやってみたが、面白くてキレイで申し分ない。この調弦法はまだ明かすわけにはいかない(実は私自身がいまいち分かっていないのじゃ)が、次回3月30日(木)の純正律ミニコンサートで披露するつもりである。

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 [癒しの現場から]
  音が自然治癒力をサポートする
  ――イドイ指圧治療院院長 井土井至さんにきく
 
                             田村圭子

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  いま、治療の場で純正律音楽の導入がますます増えています。西武池袋線「富士見台」駅前のイドイ指圧治療院もそのひとつ。純正律音楽によって患者さんのヒーリング効果がアップしただけでなく、治療室の植物の発育が格段に進んだり、治療中、頭の中にスクリーンが現れ画像が見えるようになった人、身体が勝手に動き出す人もいる――こんな内容のおたよりを頂き、早速お話を伺ってきました。

☆純正律音楽浴で緑が倍に成長☆
 院内は大小各種の鉢植えでいっぱい。常に微かな音量でミネラル・ミュージックが流れており、なんだか、ほっと和みます。
「このテーブルヤシ、十数年間ほとんど育たなかったんです。それが1年ほど前CD(「光の国へ」シリーズ)を流し始めたら初めて花が咲いていきなり倍ぐらいに成長し始めちゃった。これ、ちょっと見てくれます? パキラなんですけど、窓際のやつが元気がなくなっちゃったんで丸坊主にして、切った部分をもったいないからここに差しておいたんです。そしたらもう、親よりこっちの方が大きく成長しちゃって」〈イドイ指圧治療院院長・井土井至さん〉
 音の聞こえ具合の差か、鉢の位置によって成長の度合いに分布があるのが、なんとも不思議。井土井さんは、音楽や純正律については「難しくてよくわからない」と言い切る一方で、音楽を評する際に「入り込める」という表現を使われます。入り込める、というのは、どうやらリラックスするということと深く関係があるようです。
「まず、気功し始めると寝ちゃうようになった。まぁ、普通にやっていても寝る方はいますが、このCDかけ始めてからは、眠りに入るまでが早いし、ここで眠っていく方も増えてます。特に『光の国へ』の2、3になると音の高低差や曲調の激しい曲がないから、安心してα波からθ波の状態で眠れるんじゃないですか。邪魔にならない曲ねって皆さん言いますね」
 井土井さんは以前から、いわゆるヒーリング・ミュージックからエスニック音楽、宗教音楽に至るまで様々なジャンルの音楽を試してこられたそうですが、どうも「ヒーリング用につくられた」音楽には「入り込めなかった」とか。また、微かな音量で流すこともリラックス促進のポイントのようです。

☆世界の見え方が変わった☆
 さて、治療室の壁を見渡すと、患者さんのイラストでいっぱい。これが治療中に“見えた”画像ですね。この不思議な絵が室内に独特の雰囲気を与え、治療に相乗効果をもたらしているようです。
「絵を描いたのは元々イラストレーターの方なんですけど、『光~』のCDをかけ始めてから、ほら、こんな風に絵がすっかり変わって色もクリアになってきてます。最近の作品で面白いものはこれで……これは、いわゆるヨガで言うところのクンダリーニ――仙骨のところにあるエネルギーが、渦巻くようにポンと上に抜けていく様子じゃないかなと思うんです」
 誌上で御紹介できないのが残念ですが、たしかにエネルギーの迸りが感じられる絵で、見る側も様々な感覚を刺激されます。さらには、CDと気功を併用することで、描く絵が変化するだけでなく、手に取る本の傾向や自分を取り巻く感覚そのものがより細やかな感じに変化したりと、井土井さんをはじめ皆さんの心身両面に変化が現れ始めたそうな。一体、何が起きているのでしょう!?

☆右脳を活性化させる音色?☆
「おそらくこの絵の方は右脳がずいぶん開発されているんだと思います。このCDの音色が右脳にはたらきかけやすいんでしょうね」
 いきなり脳の話ですみません。でも実は、指圧とは脳のメカニズムに沿った治療法なのだそうです。
「一番大事なのはね、私らが圧したから治るものではないということ。圧すことで刺激が脳の松果体に入り、そこから各内臓器官のホルモンを作る内分泌腺にはたらきかける。松果体は内分泌腺の統括総合令本部なんです。○○が今凝ってると訴えているから、◇◇のホルモンよ、お前が行って緩めてやってくれと。で、現場にホルモンが行って筋がすっと緩んで治る。これが本当の自然治癒力です。私らがやっているのは、そのお手伝い。例えば背中の筋肉なら9本も重なってる。上から一番下なんか圧せっこないんです。そこでこういう音楽でリラックスして
緩んでくれると隙間ができてどんどん奥まで入れる。つまり、より神経の近くに触れられるわけです」
 さらに松果体は創造も司っているため、ある種の音の刺激が知覚の変化として現れると。私たちの身体って、全身が複雑に連携してるんですね。ところで、治療を施す側へ、CDが逆に癒し効果をもたらす一面もあるようなんです。
「以前は、どうやって治そうかなという気構えが強かったけど、今は、まぁいろいろやってみようって感じでのーんびりと……同じ1時間でも、ほやーっとした優しい時が過ぎているみたいですね」
でも困ることもあるようで……。
「この状態で気功を行うと、心地良すぎて、たまに寝ちゃってることがあって。“先生!”“ああ、寝てた”みたいなこともね(笑)」

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外科医のうたた寝☆その1
 
  純正(律)讃岐うどんの旅

         福田六花(純正律音楽研究会発起人:医学博士、作曲家)

 昨年は讃岐うどんにはまってしまい、うどんを食べるだけのために、2度も香川県に出かけてしまった。きっかけは『恐るべきさぬきうどん』という本である。香川県に数百とあるうどん店を食べ歩き、細かなランキングと詳細な地図を付けた名著を読むうちに、これはどうしても実際の讃岐うどんを食べなければと思い香川県に行き、見事にはまってしまった。
 うまいうどん店には大体共通した特徴がある。

1.一見してうどん店には見えない――看板は出ていないし、外観は普通の民家のようだったり農家の納屋のようだったりする。
2.辺鄙な場所にある――もちろん繁華街にも美味しいうどん店はあるのだが、多くの名店達は住宅地のはずれ、田園地帯の真ん中、人里離れた山中などにひっそりとたたずんでいる。
3.セルフサービスである――もらったうどん玉を自分で湯がいてから食べる。
4.うどん1杯の値段はなんと100~200円である
5.それでいて驚異的にうまい――まさに奇蹟である。

 まずは食べに行ってみましょう。クルマに乗って『恐るべきさぬきうどん』を片手に目当てのうどん店を探すこと数十分。田舎の細い道を何度も迷いながらもようやくそれらしき建物を見つけだす。看板など出ておらず、どう見ても古い納屋か小さな倉庫のようである。恐る恐るドアを開けて中を覗くと、薄暗い店内に無言でうどんを食す人が数十人。見よう見まねで積んであるどんぶりを持つと、小柄なおばちゃんが「何玉?」と訊くので「○玉下さい」と答える。どんぶりにうどんが載せられるので、それを自分で大鍋で湯がき、生卵を割り入れてネギを載せる(当然ネギも自分で刻む。もしまな板の上のネギがなくなったら自分で外の畑から抜いてくる)。つゆは用意されているがこれは使わず、生醤油を「の」の字にかけてから一気に食べる。最初に素晴らしい歯応えに感動し、少し遅れてあまりのうまさに呆然としてくる。なんの仕掛けもない。このうどんはついさっきまでうどん粉と塩と水だったのに、いつの間に魔法のように感動的なうどんに変身したのだ。これはうどんの純正律だ。
 こんな感動的なうどん店を1日に5~6店まわり、うどんを食べ尽くす(それだけ食べても1000円かからない)。
 僕は東京ではめったなことではうどんを食べなくなった。
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CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW

 [[[[[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]]]]]]

 今回の「純正茶寮」は、CDのフンイキまでお伝えしたいという意気込みでお届けしましょう。前回の黒木氏に代わり、玉木氏によるクラシック系純正律の逸品を御紹介します。

玉木:黒木さんは、あんまりクラシックは強くないよね。
黒木:クラシック音楽は知っていますが、現代の純正律系のものには詳しくないです。
玉木:創刊準備号で紹介したペレーツィスはラトビア人だけど、いま、ポーランドからフィンランドにかけて純正律の嵐が吹きまくっている。で、今日はグレッキというポーランド人の作曲した「ポルカの為の小レクイエム」を……
 〈玉木、CDをかけながら話す〉
グレッキと言えば、「悲歌のシンフォニー」が世界中でミリオンセラーになって有名になったんだけど、今のこの曲の出だしと同じように、同じようなコードばかり使っていて――というか、シンフォニーの場合、淡々とイ短調のモード系が続く。すると、オーケストラは自然に純正律のイ短調になっていく。そこへ心をかきむしるような悲痛なソプラノが登場するわけ。
 〈曲の冒頭部分は非常に静かに、ヴァイオリンとピアノだけが淡々とシンプルな演奏を続けている〉
どう?
黒木:ちょっと単調な気もするけど……。
玉木:そうとも言えるけど、そこがまたいいような、ね。ところで題名に「ポルカの為の~」というのが何なのか、イマイチ分からない。ポルカといえばシュトラウスの曲とかいっぱいあるけど、だいたいポルカというのは、ポーランド人の女性を意味するらしいね。
黒木:今度調べておきましょう。
 〈曲が単調なので会話が続く〉
玉木:まだ4分か、まだまだかな。
黒木:なんですか?
玉木:まあ、もうちょっとのお楽しみ。さて、ポルカ以外にもマズルカとかポロネーズとか、なぜポーランドの関係の舞曲が多いんだろうね。
黒木:それも調べておきましょう。
玉木:話は変わって、いま北欧で純正律の嵐が吹き荒れてと言ったよね。その中のラトビアかエストニアかは忘れたけど、全世界に散らばっている亡命者たちが年に1回、祖国へ帰って全員で合唱をやるらしいんだ。NHKで特集があったと人からきいたんだけど、亡命者たちは毎年、1回のイベントのためにすごく練習するらしいんだけど、多分ピアノは使われないと思う。だから、会場は純正律の渦になるはずだよね。
黒木:なるほど、一度聴いてみたいもんですね。
玉木:さてもうすぐだ。しばらく聴いてみよう。
 〈延々と淡々と続く静けさ〉
  ……………………………‥‥‥‥‥・・・・・・・・・・・!!!!!!!
 〈突然の大音響〉
玉木&黒木:ワアー!?
 〈のけぞる二人。玉木、あわててCDの音量を下げる。黒木、妖怪にでも遭ったかのようにおったまげ、次には半狂乱になるほど笑い転げる〉
黒木:なにこれぇ!! すげぇや。面白い。これはすごい!
 〈黒木、感嘆詞連発〉
玉木:いったいナニが起こったのか!? 『ひびきジャーナル』を読んでるみなさんにもぜひ一度、この曲を聴いて、初体験の「のけぞり」を味わってもらいたいね。

INFORMATION

 玉木はこの曲の入っているCDを2枚を持っています。1枚はここで試聴したグレッキ曲集で、指揮Rudolf Werthen、演奏I Fiamminghi(The Orchestra of Flanders〉によるものです(TELARK20 CD-80417)。
 もう1枚のCD番号はPhilips 442 533-2。ぜひ、輸入版コーナーで探してみてください。

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 ――企画してみませんか――

   あなたがつくる純正律イベントのすすめ

 おかげさまで、純正律音楽研究会ミニコンサートは第4回を数えます。開催にあたっては、皆様に御案内ハガキやメールをお送りしており、いつもたくさんの御返事をいただきます。その中には、参加できない方からの「平日夜は無理」、「遠くて参加できません」といったお声が散見されます。
 コンサートの企画をする際には出演側のスケジュール調整はもちろん、なるべく多くの方に御来場いただける設定を念頭においています。しかし、実際に全ての人が参加できる日時・会場を、というのはまず不可能なことですね。
そこで!「いつも参加できない時間や場所で開催されている!」とお悩みの方、参加しやすい形態のレクチャーコンサートやワークショップを、御自分の手でつくりだしてみませんか? 
 難しく考える必要はありません。「大人数を集客・動員」という発想ではなく、純正律音楽に関心のある仲間が集まって、それぞれがさらに友人を連れて来て、というような形から始めてみてはいかがでしょう。会場だって、必ずしも立派な大ホールである必要はありません(もちろん響きの良い部屋であるにこしたことはありませんが……)。これまでにも玉木氏はたびたび、20名程度の集まりの依頼で小さなレクチャーコンサートを行ってきています。
「自分の地元で開催してほしい」「休日の午後なら出かけられる」「子ども連れでも入場できないかしら」「こんな内容でやって」等々、皆様のニーズに合う純正律イベントを企画・提案し、スタッフとなってください。もちろん資格は問いません。玉木氏はじめ純正律音楽研究会発起人、事務局スタッフもサポートいたします。解説と共に純正律の響きを体感してみることで、自分を取り巻く音の世界がさらに拡がります。関心ある方、まずは、研究会事務局まで御連絡ください。

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→→→純正律かわらばん→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

●TBSラジオで純正律特集番組オンエア決定!
日時――2000年4月24日(月)21:00~21:50 TBSラジオ(954KHz)
⇒純正律特集番組がオンエアされます。「究極の癒しの音って何だろう――耳から心のリラクセーション」をテーマに、玉木宏樹氏のおしゃべりあり演奏あり、盛り沢山な50分。3/30のミニコンサートの模様も紹介される予定です。ぜひ、お聞き逃しなく!
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●日本産業カウンセラー協会月例研究会「ミネラル・ミュージックの楽しみ」
日時――2000年4月15日(土)14:00~17:00
会場――和洋学園飯田橋校舎5階大教室(JR・地下鉄飯田橋駅徒歩3分)
参加費――一般2000円
問合せ――(社)日本産業カウンセラー協会関東部会 Tel. 03-3360-6868
⇒純正律音楽研究会の玉木宏樹、小川圭一両氏によるレクチャー+ミニコンサートになります。リラクセーションにテーマを絞った専門家向けの研究会ですが、関心のある一般の方も参加できます。
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●純正律による耳にやさしいミニコンサート
日時――2000年5月13日(土)16:30開演
会場――小松アネックスビル5F「銀座グレースイベントホール」
  中央区銀座6-8-5(地下鉄銀座駅徒歩3分/JR有楽町駅徒歩5分)
参加費――無料(要予約)
問合せ――Tel. 03-5537-8300
⇒銀ブラのあとは、耳にやさしい音色でリラックス。小さなホールなので、御希望の方はおはやめに御予約ください。
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☆はみだし情報☆
4月9日(日)MXTVの「ガリレオ・チャンネル」(8:30~/19:00
~の2回放映)で、玉木宏樹氏による純正律特集番組を放映!お見逃しなく!!
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@@@@@西麻布通信@@@@@

◆お待たせしました第2号。年末から新年にかけてのインフルエンザの猛威は当研究会にも波及。事務局の田村がダウンしたため、今号で玉木氏はライター兼カメラマンとしてもデビューするハメになりました(ホントにすみません)さて、出来ばえはいかがでしょうか。
◆なんと! 玉木氏が桐朋学園短期大学にて、この4月から9月まで、毎週1回教鞭を取ることとなりました。「文化の創造と環境――音の後進国日本」と題して、街の騒音退治、純正律音楽、打倒・平均律/絶対音感神話を掲げた講座が展開される予定。これは、初めて公的な立場で純正律が認められるきっかけとなるかもしれません。「ただし、桐朋の子供音楽教室は絶対音感神話の牙城なので、いいのかいな、という気も少しはありますが」とは玉木氏の弁です。
 * * * * * * * * *

※attension!!!!!!!!※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
今号の黒木朋興氏による「ムッシュ黒木の純正律講座」、黒木氏の原文では、フランス語部分に多数のアクサン記号が使用されていますが、メールマガジンというメディアの制限上、この「会報ネット版」ではアクサン記号をつけた状態の文面を表示することができません。ただし、純正律音楽研究会正会員向けの会報(印刷物/A4判8ページ)では、正しく表記されているほか、図版等も掲載されております。
今回、この正会員向け会報を御希望の方に実費にてお送りいたします。お名前、御住所、「アナログ版会報希望」の旨をお書き添えいただき、80円切手を同封の上、純正律音楽研究会までお送りください。折り返し、正会員向け会報をお送りいたします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
 純正律音楽研究会 まで

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
いちばん速い純正律情報はこちら!
 →玉木宏樹のホームページ
  URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
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チケットお申込み

    公演名

    日時:2026年5月2日
    開演:14:00
    開場:13:30
    会場:古賀政男音楽博物館 けやきホール

    チケット:
    全席自由席
    一般:3000円
    純正律会員:1000円
    中〜大学生:1000円
    未就学児・小学生:無料

    チケット枚数:
    一般
    枚 = 0
    純正律会員
    枚 = 0
    中〜大学生
    枚 = 0
    未就学児・小学生
    枚 = 0

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    公演10日前までお申込み対応となります。
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    ※一度お支払いいただいたチケット代金は、ご返金できません。また、期限内のチケットのお引き取り、料金のお支払いのない場合は、キャンセル扱いとなりますのでご了承下さい。

    【郵送にてお届けの場合】
    ※郵送の場合は別途郵送手数料300円が必要となります。

    【当日受付置きチケットの場合】
    ※当日受付にてチケットをご用意させて頂きます。

    〈ゆうちょ銀行からのお振込〉
    ゆうちょ銀行
    店番 019店(ゼロイチキュウ店)
    記号番号 00140-4-0433589
    トクヒ)ジュンセイリツオンガクケンキュウカイ

    〈ゆうちょ銀行以外の金融機関からのお振込〉
    ゆうちょ銀行
    当座
    店番 〇一九店(ゼロイチキュウ店、店番019)
    番号 433589
    トクヒ)ジュンセイリツオンガクケンキュウカイ

    まで本日より10日以内お振込みをお願いいたします。
    振込み手数料は依頼者負担となります。
    ご了承ください。

    郵送にてお届け(送料手数料として300円が別途発生します)当日受付置きチケット

    総合計金額: 0

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    ひびきジャーナル 創刊第1号

    玉木宏樹 萩野昭三 黒木朋興 下山田吉成(1999年11月30日発行)

    いよいよ師走ということで、御多忙な日々をお過ごしのことと存じます。
    大変長らくお待たせいたしましたが、ここに、純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』創刊号をお届けいたします。
    前回、創刊準備号をお届けしてからはや数ヶ月、会の起ち上げから運営、ミニコンサートの開催、等々、煩瑣な作業に追われるままに発行が遅れてしまいましたことをおわび申し上げます。
    お読みいただきました御感想、御要望などをお寄せいただき、皆様とともに、より良い純正律音楽情報誌として、また会員相互のコミュニケーション誌としまて育てていければと考えております。
    どうぞ、忌憚のない御意見をお聞かせ下さい。

                         純正律音楽研究会代表 玉木宏樹

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    純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』  {創刊第1号}
    1999年11月30日発行

    編集/発行:純正律音楽研究会
          〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2 (有)アルキ内
          Tel. / Fax. 03-3407-3726
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    ――玉木宏樹の――
      “この人と響きあう”
        第1回 萩野耳鼻咽喉科院長・バリトン歌手 萩野昭三さん

    #

     各界でユニークな活動をされている方にご登場いただき、 純正律音楽研究会代表である玉木宏樹氏と音や響きについ てのトークを展開していただく第1回目は、東京・中村橋の萩野耳鼻咽喉科院長の萩野昭三さん。バリトン歌手としても著名で、毎年リサイタルを開催し、御出身の青森・津軽地方のことばのひびきにこだわったCDをリリースされるなど、あらゆるジャンルの「ノドを使う表現者」にとってのよき理解者かつ守護神ともいうべき存在です。

    〈音痴とはどういうことか〉
    玉木:萩野先生とは、津軽弁の歌曲をたくさん書かせてもらったり、僕が日本初の純正律のCDをソニーから出す時に監修していただいたりと、15年ぐらいのお付き合いがあるんですが、耳やノドの御専門、また歌手の立場から、音や純正律に関してのお話を伺えたらと思ったんですよ。やはり歌うのは身体にもいいんでしょうか。
    萩野:いいですねぇ。開放されるでしょ。歌歌う人はみんな、自分が一番うまいと思って歌うんですから(笑)、一般には。
    玉木:たしかにみんなカラオケでも、音痴だって自覚症状もなくて歌ってるよね(笑)……あれ? でも、音痴っていうのは本当にあるんですか。僕は、実は本当に音痴な人っていないんじゃないかと思っていて、どうしてかというと、聴覚に障害があるのでない限り、例えば日本に生まれ育ったら日本語、それも関西なら関西弁をしゃべるようになるじゃないですか。
    萩野:そうね、例えば自分が歌ったのを録音して後で聞かして、音程がはずれているなぁって分かる人なら問題ないです。ほとんどがこのタイプで、こういう人は矯正すればすぐ治っちゃうから。
    玉木:聞き分けられないのは、何が問題なんですか。
    萩野:大脳に、聞き分けるためのセンターがあるわけだけど、その中枢部分に問題があるんだね。
    玉木:耳の機能の問題じゃなくて、一種の神経障害みたいなもの?
    萩野:そう。「自分がちゃんと歌えない」のを運動性音痴、「調子っぱずれに歌ってるのが判別できない」のを感覚性音痴といって、ちゃんと区別しているんです。
    玉木:じゃあ、「音痴」という病名があるってことですか。
    萩野:そうですね。
    玉木:そういえば三重大学で、裏声をずーっと出させて、安定した裏声が出るようになったら今度は普通に歌わせると音痴が治ってたとか、そういう訓練をやってますよね。それは多分、運動性なんだ。実は山本直純さんがものすごく歌ヘタで、音程メチャクチャ悪いの。でも、「俺は音痴じゃねぇぞ、ノドがうまくコントロールできないだけだ」って言ってるのね。
    萩野:うん、実際、病気と言えるほどの音痴っていう人はほとんどいないんだよね。僕の70年の人生で出会ったの1人ぐらいだから。

    〈民謡からロックまで〉
    玉木:なるほどね。耳の話から今度は声の話を伺いたいんですが、患者さんはやっぱりクラシックの方が多いんですか。
    萩野:多いけど、演歌の人や安室奈美恵ちゃん、「シャ乱Q」のつんくとか「モーニング娘。」が来たりとか。民謡も各地のトップスターの方が来てますよ。
    玉木:はぁー、面白いねえ。クラシックの人と民謡歌手やつんくみたいな人とでは声帯の形に違いってあるのかな。
    萩野:民謡の場合には、圧倒的にテノールとかソプラノの人が多い。民謡って、高い声が出るほど重宝がられるからね。あと、つんくはテノールだけど浜田省吾は明らかにバリトンなんです。声帯を見てこれ分かった時は寒気がするほど嬉しかった(笑)。浜田省吾なんて高い声の王様みたいだったじゃない。でも、高い声の人がみんなテノールってわけじゃないんだと。
    玉木:ノド見て初めて分かるわけだ。それじゃいろんな人のノドを見てみたくならないですか。
    萩野:まあね。あと、藤原歌劇団とか外国人の歌手を立てるところからもうちに来るから、外国人のデータもたくさんあります。多分、日本では僕が一番、声を使う人のデータを持ってると思いますよ。
    玉木:それはすごいね。民族によって声帯に違いってあるんですか。
    萩野:それはあんまりないです。声帯の長さや幅はもちろん個人差があるんだけど、むしろ訓練でノドをつくっていくというか。

    〈ホーメイの秘密は仮声帯に?〉
    玉木:そうなんですか。ところで、先生はホーメイってご存知? モンゴルとかの、1人2重唱をやるような唱法なんだけど、声帯をどうしているのかと思って。
    萩野:うーん……仮声帯と声帯と両方を使っているのかもしれない。
    玉木:カセイタイ?
    萩野:仮声帯ってのは、声帯のサイドの上のほうにあって、いつも一緒に動くんです。
    玉木:じゃ、普通は声帯を震わせてるけど、仮声帯も震わせてるかもしれないんだ。
    萩野:何とも言えないですね、実際に見てないから。でも普通の人はそこまで意識して使ってない。
    玉木:ははぁ、ホーメイってのは、いろんな声を溜めておいて、基音はずっと出しながら仮声帯を使った音を載せてるのかもね。裏声だってそういうとこあるでしょ。
    萩野:裏声は、遊離帯っていう声帯の縁の一部分だけを使うのね。縁しか振動していないから声自体は細く小さくなるわけ。
    玉木:すると民謡の場合も使う部分が限られてるのかな。
    萩野:限られてるというより、とにかく高音で勝負するために、1秒間の声帯振動数がものすごく増えるのね。振動数が増えればそれだけ声帯の摩擦の回数が増えるからポリープができやすくなるわけ。だから、民謡の人が50代過ぎるとダメだっていう説があるのは若い時に使いすぎちゃうからなのね。
    玉木:結局、ホーメイがどうなっているかは歌ってる時の声帯の写真を撮らないと分かんないわけね。
    萩野:だから、その人たちが来日したらお願いしたいですよ。
    玉木:それなら、僕のCDにも参加した巻上公一君はホーメイやってますから、いっぺんここに連れてきたら面白いかもねぇ。
    萩野:それはもう是非! ただで診てあげますよ。
                               〈文責:田村圭子〉

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    ************************************
    天国的純正律音楽入門 第1回

     調律の不思議
      ――ピアノが証明する純正律のピッチ

          純正律音楽研究会代表 作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹
    ************************************

     私はいつも純正律と平均律を奏き分ける機械(シンセともいえないようなおもちゃ風)を持参して、いろんな所でその違いを聴き分けてもらっている。ところが、これでは、どうせ機械じゃないのと思われたりして、いまいち説得力がない。
    しかし最近、ピアノを使って十分にその違いが判る方法が見つかった。非常に新鮮でまた刺激的なので、その話をお伝えしたい。

    ◎VnとPfで音程差を体感◎
     この間の第2回目の純正律音楽研究会ミニコンサートは、原宿のアコスタディオという所で、「オルゴールの歴史と調律の謎」と題して、成功裏に終わったが、木造りのスタディオにも拘わらず完全デッドでエコーのないのには参った。そこで、12月に入っての第3回ミニコンサートは、もっとエコーのある所でやることを前提に場所を探していたところ、四谷の秘境、レストラン「オテル・ド・ミクニ」の近くにある「コア石響(しゃっきょう)」というところを教えてもらった。早速ロケハンに伺い、充分残響のあるのも確かめ、当研究会の若きホープ黒木氏のギターを純正7度にチューニングしてブルースをやってみたところ、とてもいい響きがした。そういうことをやっている時に、「コア石響」のオーナーである山本さんも立ち会われ、面白そうにしておられたが、純正律と平均律の違いを説明しようにも、例の機械を持ってこなかったので残念残念と思いつつ、グランドピアノの蓋を取り、これがピアノの「ドミソ」です、それに対してヴァイオリンは……と、まだやったことのない実験を始めた。
     まず、ヴァイオリンの最低弦「ソ」をピアノの「ソ」と完全に同じに合わせる。そして、ヴァイオリンで10度の「シ」の音を音程よくハモらせる。この「シ」の音は、ドミソでいうと「ミ」にあたる。ヴァイオリンで何度か開放弦の「ソ」と「シ」をピッチをずらしながら探っていくと、どんなに音痴だという人でもピタッとハモった瞬間は絶対に分かるものだ。そして私は「いいですね、これは非常にキレイにハモっていますよね」と何度も念を押して、おもむろにピアノの「シ」を叩いた。するとそれはあまりにも高く、その違いの強烈さは、私自身も驚いてワッとのけぞるほどだった。やはり機械はダメだということを再認識。やはり、ピアノの調律はヘンだということが非常によく分かる。さて、第3回目のミニコンは、そういうわけで四谷の「コア石響」に決まったが、第2回目の最後に次回の予定としてコーラスでハモるワークショップの一端としてちょっとした実験を行い、大失敗だった。そこで場所を変えることにしたのである。

    ◎予期せぬ倍音が出現!◎
     実は本番の前にリハーサル室で少し練習をした時、響きのいいその部屋で、私のヴァイオリンの「ドソ」に合わせて1人ずつ「ミ」を歌ってもらったが、うまくハモった瞬間、2人目、3人目の声がハッキリと聞こえたのだった。私は順番を待っている2人に、今声を出したかときいたがみんな否定する。しかし、その2人と、声を出した本人でさえハッキリとその声が聞こえたと答えた。つまり、強力な倍音と差音(少し説明が難しいので、いずれまた)が現れたわけだ。
    アコスタディオでは、古いオルゴールのふくよかな響きに全員感嘆したけれど、もっとちっちゃいリズム時計製作のオルゴールを平均律と純正律で演奏させたところ、全員がその違いに驚いていた。ディスクは同じで、かけるオルゴールの調律が違っているだけだから、全く同じ曲で響きの違いが分かる。純正律(実はミーントーン)になったとたん、会場全体が暖かく上品な音場となったのである。この違いはいろんな所で実験したいし、皆さんにも知って欲しいので、これからも続けていくつもりである。

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    {{{{{{ ムッシュ黒木の純正律講座 第1時限目 }}}}}

    「純正律」という呼称についての考察  ―その1―

                               黒木朋興

    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

    ◆「純正律」に見るお国柄◆
     ドの音が鳴る弦を1/2に分けるとオクターヴ上のド、2/3に分けるとソ、3/4でファ、4/5でミが得られ、これら純正律の音程で和音をつくると極めてきれいな響きが得られるというのは、自然倍音列という現象によって説明することができる。ただ、この自然倍音列という現象とそこから得られる純正律とは、言ってしまえば、単なる物理現象にすぎない。重要なのはこの現象を前に、様々な人がそれぞれに多種多様な音文化をつくり上げてきたということだろう。
     その中でもヨーロッパは、世界で唯一、和声の効果を存分に活かした音楽を築き上げ、そしてそのための理論として調性システムを完成させた、と言われる。しかしそのヨーロッパといえども、地域が違い言葉が違えば同じド・ミ・ソの和音を前にしても考えることが微妙に違うようだ。例えば純正律という表現をドイツ語・英語・フランス語で調べてみると、微妙な言い回しの違いの中にそれぞれのお国柄を感じることができる。ここではフランス語のケースを中心に、その微妙な違いについて考えてみたい。

    ◆辞書に載ってない「純正律」◆
     早速、平凡社の『音楽大事典』で〈純正律〉の項を引いてみよう。

     ――純正律 じゅんせいりつ just intonation[英]、reine Stimmung、 naturliche Stimmung[独] (フランス語では直接これにあたる言葉は なく、「アリストクセノス音階」gamme d’Aristoxene、 または「ツァル リーノ音階」gamme de Zarlinoなどと呼ぶ) 純正調とも言う〈……〉

     アリストクセノスにしてもツァルリーノにしても音楽理論家の名前なのだから、これらのフランス語は彼らの案出した音階という意味であり、従って純正律に正確に対応した表現であるとは言い難い。では本当に、フランス語に純正律を指す表現がまったくないかと言えば、必ずしもそうとは言えない。

    ◆無いわけではないらしい◆
     例えば、僕が1998年の夏に、パリのラジオ・フランスの中にあるINA-GRMというミュージック・コンクレートのスタジオで開催された作曲の講習会に参加したときのことである。僕がスタジオで、C=1/1、D=9/8、E=5/4、F=4/3、G=3/2、A=5/3、B=15/8、C=2/1という、純正律を振動数の比で表した表を眺めながらいろいろ思案していると、エマニュエル・ドゥリュティという、コンセルヴァトワール・スュペリユールの作曲科に籍を置く当時22歳の若い作曲家が僕の手元を覗き込み、”pas temperee” と呟いたのだ。つまり生のままの、調整[temper]していない(ずらしていない)音階という意味であろう。
     そこで「ドイツ語ではreine Stimmung[純粋音階]というけど、フランス語ではこれに対応する表現がないみたいだね」と聞いてみると、「そんなことないよ。gamme pure[純粋音階]とかtemperament pur[純粋整律]とか、みんな言うよ」という答が返ってきた。「だって辞書にはgamme de Zarlinoとかgammed’Aristoxeneとしか載っていないよ」と言うと、彼は目を丸くしていた。どうやらそういう表現を知らないようなのだ。

    ◆ベテランにもきいてみよう◆
     数日後、今度は50歳を過ぎたと思しき、やはりコンセルヴァトワール・スュペリユールの作曲科の教授でもあるヤン・ジェスランに「英語でjust intonation、ドイツ語でreine Stimmungというのがありますよね。フランス語では何というのですか」と聞いてみたところ、「えーと、確か、juste, juste……」と言って答に詰まってしまった。もちろん、彼にしたところでメルセンヌやラモーの国、フランスが誇る最上級の音楽学校で作曲を教える人物である。純正律という現象を知らないわけではないのだ。もちろん、彼らの用語に関する混乱ぶりを勉強不足のせいにしてしまうことはできないだろう。この辺の事情に関してはまた次回。

    【くろきともおき】
    〈上智大学大学院文学研究課/フランス文学専攻博士後期課程満期退学〉
    研究テーマは19世紀末フランスにおける詩学と音楽。大学時代、ポストモダン批評の現代性(モデルニテ)批判に嫌気がさしていた頃、ふと純正律という調律法が抱えている矛盾こそまさにモデルニテの矛盾を見事に体言しているのではないかということに気付く。

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     [癒しの現場から]
      その人固有の響きに癒される
      ――柿の木坂心療内科クリニック東洋医学治療室 下山田吉成さんにきく
     
                                 田村圭子

     今回は、純正律を採り入れた音楽療法に取り組む下山田吉成さんをご紹介しましょう。この療法を開始してから、腰痛・膝痛や不眠、うつ、冷え、高血圧などの症状に対する著しい効果が既に報告されていることは創刊準備号でもお伝えした通り。下山田さんが所属する柿の木坂心療内科クリニックでは、人間を体・心・気・霊性等が一体となった有機的統合体ととらえるホリスティックに基づく理念を掲げており、治療者はあくまでも「援助者」として、患者自身に備わる自然治癒力を引き出すことを目指しているとのことです。

    ☆音楽療法って何?☆
     恥ずかしながら筆者は音楽療法について、患者に何か音楽を聴かせリラックスさせる治療法、ぐらいの漠然としたイメージしか持ち合わせていなかったのですが、同クリニックでは、音のもつ振動そのものを心身に作用させる療法としてとらえているようです。

     「音の持つ振動を肉体と精神体に与えることによって心身のバランスを整え る治療法です。病んだ心と身体は調律の狂った楽器がどんな名曲を奏でても 不協和音を出すように思考、感情、行為を歪めてしまっています。音楽療法 では、チューニングの狂った心身を再調律することによって個々の人間が本 来持っている自然治癒力を回復し、自然界のリズムと調和することを可能に します」(下山田さんの音楽療法案内書より)

     ここで調律という言葉が登場してきたりして、俄然興味がわいてきます。具体的には、治療に際し、ボディソニックという、音を振動に変換して全身に伝える寝椅子のような装置を使用します。と言っても、いきなりボディソニックが登場するわけではありません。
    「治療はまず、患者さんの正確な生年月日時や出生地を尋ねることから始めます。それから、過去の病歴と、いま抱えている問題についてを丁寧に聞き出し、その後、音楽療法について解説します。心療内科自体がカウンセリングを主体とする分野なので、患者さんとの対話はとても重要。30分以上はかかりますね」(下山田さん)
     話をじっくり聞いてもらうこと自体が、既に癒しとなっているわけです。でも、生年月日時を尋ねるのはなぜ―― 実は、これが下山田式療法のポイントなのでした。

    ☆人間も自然界の一部だから☆
    「治療に使用するのは、玉木先生に特注で作っていただいた純正律の和音のMDとミネラル・ミュージック等の穏やかな音楽です。純正律の濁りのない音が治療に最適なんです。ただ、純正律なら何でもよいわけではなく、実は、患者さんごとに一人ひとり合う音が決まっていて、それが生年月日と出生地から導き出せるんです」
     どうもその人だけにマッチする音色があるらしいのです。
    「私の専門は鍼灸ですが、鍼灸でいうところの経絡(ツボを結ぶ線にあたるもの)が身体の片側に12種ずつあり、干支や1年、1日の時刻、中国古代音階も12という単位で構成されていて中国医学では経絡と密接な関係があるとすることから、人間の生年月日時と音との間にも法則があるのではないかと思っていたんです。というのも、人間の心身の営みは天体の運行や自然界のリズムとの関係抜きには考えられないからです」
     こうして固有の音を12音階のいずれかに推測したら、それが実際に有効かどうか、カイロプラクティックの「ショートレッグテスト」という手法でテストします。
    「人間の身体は、普通に生活している状態では左右非対称なもので、足も左右の長短差があります。でも、その人に合う音を与えて調和がとれると長さが揃うんですよ」
     患者は、時計、装飾品、コンタクト、化学繊維や締め付ける衣服等を外し、とにかく身体から一切の刺激を取り去った状態で、北枕に寝てもらいます。実は、人間の身体自体が頭を「+」足を「-」として微弱な生体電気が流れる「磁石」であるため、地磁気の流れの影響を受けにくい北枕にするのだとか。その状態で、12音階を試し、推測した音が合っていることが確認できたら、次に、その音の長調/短調どちらがその患者に有効かを見極めます(例えばC(ハ)の音に反応する人の場合、ハ長調とハ短調のどちらかということ)。このため、ミネラル・ミュージックCDの収録曲も全て、ト長調やホ短調といったように調性別に分類してあります。
    「大雑把に、人間は虚証と実証の2タイプに分けることができます。虚証というのは私みたいな痩せていて元気がない人、実証というのは太っていてエネルギッシュな人、玉木先生なんかがそのタイプです。虚証には短調の音色を、実証には長調の音色を使用するんです」
     でも、組み合わせが逆では? 元気のない人に明るい音を聞かせた方がいいような気がしますが……

    ☆音で心身を調律する☆
    「いや、あえて同じ性質のものをぶつけるんです。“共鳴の原理”というんですが、ある物体の持つ振動数と同じ振動数の波動をぶつけると、その物体は共振を起こして壊れますよね。虚証の人に短調の音を用いることで、トラブルの状態を一旦破壊し、その人の体内環境を再調整するわけです」
     なるほど。こうして音が決まると、いよいよボディソニックに移り、約1時間の治療に入ります。装置には予めMDやCDが接続してあり、純正律の和音や曲が流れてきます。筆者も実際に体験してみましたが、振動も音色もごくわずか、照明も落とされるので、なんだか気持ちよく眠ってしまいそう。でも、眠るほどリラックスしているほうが身体の奥深く音が入り易いそうです。1回の治療でも効果は現れますが、表面的なトラブルを解消して終わり、ではなく、継続治療することで、その人の体質を根本から改善していくことを目指しているということでした。
     下山田さんの目下の悩みは、同業者が少ないこと。情報交換できる研究者を募集中とのことなので、お心当たりの方は是非、御一報を。

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    ///////COLUMN////////////////////////////////////////////////
     純正律音楽の効果を理学療法、外科手術の場で実証

     既に御覧になった方もいらしゃるかもしれませんが、純正律音楽研究会の発起人のひとり、福田六花氏(医学博士・作曲家)による、純正律音楽に関する実験報告が、健康保険組合の機関誌『健康のひろば』(平成11年10月21日号)に紹介されました。平均律音楽との効果の差が脳波測定により如実に現れています。その記事の抜粋を御紹介しましょう。
     * * * * * * * * * * * * * * * * *
     牽引療法、低周波療法、温熱療法などの理学療法を受ける時には、できるだけリラックスした状態のほうが効果が上がる。福田医師は、慈泉堂病院(茨城県大子町)の理学療法室で純正律音楽を流してみた。すると、治療を受けている時におしゃべりをする患者が減った。顔見知りの患者が多く、治療中の患者も待っている患者も一緒になって騒いでいたのが、落ち着いて治療を受けるようになり、マッサージでは眠ってしまう患者も多くなったという。「患者さんはもちろん、医療を提供する方もリラックスできて治療効果が上がる」として、福田医師は外
    科の手術中にも純正律音楽を流している。平均律音楽では人によって好みがあるが、純正律音楽は誰にでもなじめるという。
     脳波の中でも、落ち着いている時にはα波が多くなり、さらにリラックスしてくるとθ波が現れる。福田医師は、平均律音楽と純正律音楽を聴き比べたときの脳波を測定した。〈中略〉平均律音楽の場合の脳波―α波は多少現れ、音楽を聴くことにより、ある程度リラックス状態が得られるのがわかる。次に同じ曲を純正律音楽で演奏したものを聴いた場合の脳波―α波が明らかに増え、θ波も現れ、「より質の高いリラクゼーションが得られることがわかった」(福田医師)。
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    CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW CD REVIEW

     [[[[[[[[[[[[純正茶寮]]]]]]]]]]]]]]]

       ROSENBERGS SJUA 『R7』
       DROCD-017

    「純正茶寮」へようこそ。こちらは、純正律音楽研究会の玉木&黒木コンビが探索してきた、面白くて変わった純正律関係CDを持ちり、極上のひとときにふさわしい1枚を御紹介する音の喫茶室です。準備号では玉木がラトビアの作曲家、ペレーツィスを採り上げました。どうやら主に「玉木→クラシック関係」「黒木→個性的なポップス関係」を担当することになりそうです。では、今号は黒木氏のおすすめを、どうぞ!

    黒木:今回のは、スウェーデンのRosenberg(スウェーデンだからローゼンべリと読むのかな)という女声のコーラスを中心にした弦楽器とのアンサンブルです。
    玉木:ぼくはクラシックでは北欧関係が大好きで、いろんな作曲家のCDを持っているけれど、中でもスウェーデンのものは少ない。それでも、ラールソンなんていう作曲家はベルクの弟子なのに純正律指向の作曲を残しているし、スウェーデン人があまり音楽をやらないというんじゃないよね。
    黒木:クラシックはあまり詳しくないですが、ロック関係では良質なグループが結構ありますよ。
    玉木:たとえば?
    黒木:サムラマンマスマンナとか、アネクドテンとか。
    玉木:ところで、今回のローゼンべリ、ぼくも一度通して聴いたところ、北欧の民謡風な感じとはずいぶん違って、やけにグレゴリアン的というか、ブルガリアンボイス風というか……そんな感じって正しいのかな。
    黒木:ブルガリアン風とも言えますね。
    玉木:北欧、スウェーデンやノルウェーにはフィドルによく似たヴァイオリン属の民族楽器があるんだけど、その雰囲気がよく感じられて、それも大変面白い。しかし、このバンドは結構キレイにハモり続けているよね。多分、トップソプラノの声質の特徴にみんなが合わせているというか……それから、このトップソプラノ、何かいま話題になっているらしいね。その辺をちょっと説明して下さい。
    黒木:坂本龍一が朝日新聞社主催のオペラ『Life』のために連れてきたそうなんです。彼女の声を見出したのはさすがだとは思いますが、このアルバムを聴くと、『Life』だけで帰らせたのはあまりに残念というべきでしょうね。今度は、彼女1人だけでなくて、このグループ全体での日本公演を坂本氏は企画すべきでしょう。そこまでやらなければ本物じゃない。「世界の坂本」が聞いてあきれると言われても仕方がない。そのくらい素晴らしい演奏だと思います。
    玉木:彼は、朝日新聞ともケンカするほど根性があるというか、自分勝手なところがあるから、みんなのためを思って行動はしないんで、まあ、当たり前のことでしょう。ところで、肝腎のこのトップソプラノの名前は?。
    黒木:スザンヌ・ローゼンバーグです。
    玉木:CDの日本でのディストリビュート先は?
    黒木:MAレコーディングズですね。
    玉木:きいたことないなぁ……一般の店でも売ってる?
    黒木:渋谷のタワーレコードとかWAVEとか、ディスクユニオンに行けばあるけど、一般の流通には載っていないと思います。
    玉木:じゃあ、地方の人が買うにはどうすればいいわけ?
    黒木:直接MAレコーディングズに問い合わせてもらうのが早いでしょう。
    【問い合わせ先】
    MAレコーディングズ販売 Tel. 03-5276-6803/Fax. 03-5276-5960
    〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-12-6-3F(株)マーキュリー内
    E-mail: tgmarec@ibm.net

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     ――アンケート結果から――

       「自分の中にある」響きに耳をかたむける

     純正律音楽研究会のコンサートでは毎回、来場された皆さんにアンケートをお願いしています。そうして寄せられた回答には、「いやされた」「ここちよかった」「こころに響いた」という御感想が多いのですが、そのほかにも、次のようなものがあります。
     ― ― ― ― ― ― ― ―
     「新鮮な発見をしたような気持ちです。心が落ち着き、これからの生活に良 い影響を与えてもらえそうです。もう少し理解出来たらもっと好きになれそうです」(M・Eさん、50歳、女性、第1回目分の回答より)
     「10年以上ピアノをやっていたせいか、“純正律”の存在は驚きでした。 でも、“音”に対する疑問はスッキリと解けた気がします。そして妙な納得。 『そうか指は10本しかないんだ』。新しいコトを発見!というより、内にあ るものの解明といった感じのコンサートでした」(N・Kさん、25歳、女性、 第2回目分の回答より)
     ― ― ― ― ― ― ― ―
     アンケートに回答 して下さった方々が 、発見、気付きについて述べていらっしゃるのが印象的です。「純正律」ときくと、何かとてつもなく難解な理論の世界を想像してしまいがちですが(もちろん理論の裏付けは必要ですけれど)、それは実は、私たちが生まれながらにして備えている感覚を呼び起こすことにほかならないのではないでしょうか。意識せずとも既に身体は識っているもの――純正律音楽研究会が目指しているのは、新しいことの「発明」ではなく、誰もが内に持っているはずの「響き」に耳を傾け、探っていくことなのです。そういう意
    味では、次回、第3回目のミのミニコンサート&ワークショップはまさに、自分の声で純正律を体感し、理解する契機となることでしょう。今後もイベント毎にアンケートを実施いたします。コミュニケーションの一環としても、是非、皆様の声をお寄せいただければと願っています。

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    →→→純正律イベント情報→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

    ●純正律音楽研究会PRESENTS/玉木宏樹の純正律に魅せられて●
     第3回「純正律によるクリスマスキャロルとブルースの夕べ」
     日 時――1999年12月9日(木) 18:30会場 19:00開演
     会 場――コア石響〈JR・地下鉄四谷駅徒歩7分〉
          東京都新宿区若葉1-22-16/Tel. 03-3408-4541
     参加費――正会員1500円、ネット会員2500円、一般3000円
     問合せ――純正律音楽研究会 Tel. / Fax. 03-3407-3726
     →かねてより御要望の多かった、コーラスのハモリを体験するワークショップ をお届けします。純正律でクリスマスキャロルを歌う快感をあなたにも!また、今回は、純正律音楽研究家・黒木朋興氏考案の純正律によるギター調弦法 を基に、ヴァイオリン、ギター、ヴォイス等々を織り交ぜた、前代未聞の「純正律ブルース」インプロヴィゼーションにも挑戦します。もちろん、ギター、ハーモニカなどによる飛び入りも大歓迎。ふるって御参加下さい!
     【お申込方法】完全予約制とさせていただきます。お電話でお申し込みください。折返し入場券(地図入り)をお送りします。御応募多数の場合は会員優先とさせていただきます(残席わずか。お早めに!)。また、一般の方でも、コンサート申し込みと同時に純正律音楽研究会への入会手続きをなさると、会員割引・優先予約が受けられます。

    ●クリスマス・イベント@錦糸町そごう●
     日 時――1999年12月19日(日)、23日(木)、24日(金)
          時間は各日とも、13:00~、15:00~、17:00~(1日3回)
     会 場――錦糸町そごうデパート〈JR錦糸町駅前〉10Fエレベーターホール
     入 場――無料
     →ミニコンサートに来られない方にも気軽に純正律のひびきにふれていただける、クリスマスイベントです。出演は、玉木宏樹(ヴァイオリン)、LINDEN(ヴォーカル)、黒木朋興(ギター)。何が飛び出すかはお楽しみ!

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    @@@@@西麻布通信@@@@@

    ◆創刊準備号が出たのは確か真夏のこと……なのにいま、外に木枯らしが吹いているのは何故?予定よりも大幅に遅れての創刊号、本当にお待たせしました。今後はなんとか隔月ペースを目指します。
    ◆昨年、御好評をいただいた、クリスマスのためのミネラル・ミュージックCD『聖夜』の大増刷出来ました!純正律で味わう聖歌集はプレゼントにもいいですね、この機会にぜひどうぞ。価格は2500円(税別)です。お求めは純正律音楽研究会までどうぞ。
    ◆純正律音楽研究会では会員を随時募集しています。正会員(年会費5000円)、ネット会員(無料)があり、カテゴリーによって特典が違います。関心がおありの方は、是非、下記までお問い合わせください。

     * * * * * * * * *
     〒〒〒〒〒〒おたよりお待ちしています!〒〒〒〒〒〒

     〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2(有)アルキ内
    Fax. 03-3407-3726 / E-mail: archi@ma.rosenet.ne.jp
     純正律音楽研究会 まで

    @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
    いちばん速い純正律情報はこちら!
     →玉木宏樹のホームページ
      URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html
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    ひびきジャーナル 創刊準備号

    玉木宏樹 下山田吉成 黒木朋興(1999年7月28日発行)

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    純正律音楽研究会NEWS『ひびきジャーナル』
    創刊準備号
    1999年7月28日発行

    編集/発行:純正律音楽研究会 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2
         (有)アルキ内
          Tel. / Fax. 03-3407-3726
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    ようこそ、純正律音楽研究会へ。堅苦しい会報ではなく、耳に身体に非常に心地よい音楽がひびきわたる会報にしたいと、とりあえず『ひびきジャーナル』としました。これはあくまで準備号なので、みなさんの有意義な御意見を頂きたいと思っています。よろしくお願いします!

                                 純正律音楽研究会

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    ●21世紀は平均律から純正律へ●

             純正律音楽研究会代表/作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹

     最近、ポップス界でもクラシック界でもイギリスものが大はやりである。ポップスではエンヤとかアディエマスに特徴的な、透明感あふれるシンプルなメロディとハーモニー。またクラシックでも、ヒリヤード・アンサンブルは、ノルウェーのサックス奏者、ヤン・ガルバレクとの共演『オフィチウム』が全世界で300万枚出たといううわさがある。ヒリヤードのコーラスでうたう曲は、16世紀のドイツの尼僧ビンゲンの作品で、その上に現代ジャズのアドリブが乗るという、意表をつくサウンドである。
     この、エンヤをはじめとするケルト系ポップス、そしてヒリヤード・アンサンブルやキングズ・シンガーズ等のクラシック・コーラスがくりひろげる天国的な透明感のあるハーモニーの世界、これが純正律(純正調ともいう)という、古代から伝えられている最もよくハモる調律の世界なのである。この分野の響きは、ヒーリング・ミュージックのコーナーでもよく取り上げられている。
     純正律などというと、むずかしそうだが、そんなことはない。単純によくハモることであって、ウィーン少年合唱団の天使の歌声を思い出してみればよく分かる。彼らの音程の訓練は絶対にピアノではやらない。今のピアノやオルガン、ギター、シンセサイザー等、音程を固定させる楽器はオクターヴを単純に12に平均分割した調律であり、平均律というが、この本来の意味は、平均的に音を狂わせてあるという意味である。
     実は、バッハもモーツァルトもベートーベンも、そして、19世紀のロマン派前期の作曲家たちは、いずれも平均律では作曲していない。12個の鍵盤だけで純正律の調律をすると使えなくなる和音が多すぎるため、古代から純正律に近づけるためにいろいろな調律の工夫がなされた。
     バッハは平均律を広めるために「平均律クラヴィーア曲集」を作曲したと日本語では記しているが、ドイツ語でも英語でも、どこにも「平均律」という言葉はない。ただ「Well tempered」と書かれているだけである。この Well tempered とはいったい何だったのかというのが歴史的問題で、ベルクマイスター第IIIの調律だといわれている。バッハの時代に「平均律」の調律法は存在しなかったのだから、「平均律クラヴィーア曲集」とは、恐れ入った誤訳である。
     バッハは対位法に適合したベルクマイスター調律だったが、後のモーツァルトに影響を与えたヘンデルはモノフォニーに適した中全音律(ミーントーン)を愛用した。モーツァルト時代に平均律の調律法が確立したが、モーツァルトは大変平均律をきらった。また、ショパンもミーントーンで作曲し、転調の範囲が限られるため、一晩のコンサートでステージに3~4台のピアノを置いたと伝えられている。ところで最近、モンゴルやトゥバ地方の一人二重唱、ホーメイという唱法が脚光を浴びているが、これこそ、人間の声帯が自然倍音で成り立っていることの証明である 。
    この自然倍音を下から並べ替えたのが純正律である。ピアノの「ミ」は純正な「ミ」より半音の100分の14高いのだが、この違いは誰にでも分かるほどの差であり、とても汚い。音程を純正にとれるコーラスやアンサンブルはぜひ純正律でハモる訓練をしてほしい。
    純正律こそ「音の自然食」である。私のCDで思わぬヒーリング効果があったと報告がたくさん届いている。純粋なドミソは体にも良いのである。
                    〈『AVヴィレッジ』1999年9月号より抜粋〉
    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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     シリーズ[癒しの現場から]―― 予告編――
     ◇誰でも自分だけの「癒しの音」を持っている!?◇

       柿の木坂心療内科クリニック
       東洋医学治療室主任鍼灸師   下山田吉成さん

     いま、純正律ミネラル・ミュージックは、音楽に関心のある人だけでなく、そのヒーリング効果から医療の現場でも注目されています。本誌では、治療に携わる方々の声を通して、「純正律と癒し」の関係を探っていきます。
        *      *      *      *
     第1弾は鍼灸師の下山田吉成さん。東京・目黒の柿の木坂心療内科クリニックで鍼灸と音楽療法をミックスした新しい治療法に取り組んでおられます。この記事は、次のような治療効果を箇条書きにしたお便りをいただいたことから始まりました。
      ―――――――――――――――――
      1: 腰痛と膝痛が焼失した(1回)
      2: 不眠症が軽減した(1から3回)
      3: うつが軽減した(2から5回)
      4: 冷えが減少した(1から2回)
      5: 高血圧が正常になった(3回)
      ※ミネラル・ミュージックと純正律コード(MD)併用、()内は施術回数、全てボディソニック使用
      ―――――――――――――――――
    「気持ちよかった」「~のような気がする」だけでなく、どうやら実際の医療現場において効果が出ているようなのです。そこで、はがきをくださった下山田さんに早速お話を伺ってみることとなりました。まず、最初に少し驚いたのは、こちらと下山田さんとの、音楽療法に対するイメージの違いでした。
    「音楽を聴かせて、気持ちがよくなったり疲れがとれる、リラックスできればよい、ということではないんです」
     どうやら、表面的な、また一時的な対症療法ではなく、より深い部分で、「音」で身体そのものをよりよい方向に体質から改善していくことをめざしておられるようなのです。でも、そんなことが可能なのでしょうか?
    「人の体の営みは単独で完結しているものではなく、自然や環境の一部でもあります。そうした自然や天体のサイクル、波長と音とも、また密接な関係があって、そのことが治療にも応用できるんです」
     なるほど。でも具体的には、音がどのように治療に使われているのかと気になっているところに、さらに気になる発言が……
    「実は、私が音楽療法に取り組み始めて以来のテーマなんですが、生年月日によって、誰でも、その人だけに『合う音』があると思うんです。それが今後の治療法の鍵になるのではないかと…」
    このような感じで次々と興味深いお話が飛び出すのですが、今回はここまで。詳しくは次回、創刊号にてご覧ください。

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    ●純正律とは?●
                                 黒木朋興

     自然倍音とは何でしょう? 例えば、ドの音が鳴る弦を弾くとすると、鳴るのはドの音1つではなく、基のドの周波数をn倍した音も同時に響きます。これらの音のことを倍音といいます。すなわち基音がドの時、2倍音はその1オクターヴ上のド、3倍音はその上のソ、4倍音は2オクターヴ上のド、5倍音はその上のミ、6倍音はそのすぐ上のソというように次々に上に音が積み重なっていくのです。そして3倍音のソの音、つまり5度の音に目を付け、オクターヴと5度の音を重ねて作った音律がピタゴラス律です。この音階は、単旋のメロディーを奏でるととても美しいのですが、3度の音が高すぎて和声を作るのには向きません。またオクターヴ、ソ=5度の音と5倍音であるミ=3度の音を組み合わせてドレミファソラシドを作ったのが、日本語で純正律と呼ばれる音階です。これの特徴はとにかくドミソの和音が美しいことが挙げられます。ただし主要3和音以外の3和音の響きがとても汚く使いものになりません。また、何よりも西洋音楽の最大の特徴である転調をしようものならば、不協和音だらけになってしまうという欠点があります。
     こうしてテンペラメント(=整律)が開発されます。純正律の音を少しずつテンパー[temper=整える]して、つまり少しずつずらすことによって、耐え難い不協和音をなるべく減らし使える和音を増やそうとしたのです。例えばピエトロ・アーロンの中全音律や、ヴェルグマイスター、キルンベルガー、ヤング、ラモーの整律などが有名です。ただしあくまでも耳で聞いて音を調整するのですから、基本的には耳で聞いて心地よい和音が尊重されていました。
     ところが最終的に西洋が到達した12等分平均律は、1オクターヴを平均に12に分けるという整律ですが、耳で聞いた和音の美しさより、正確に平均に分けるために算出された2の12乗根という数値を優先させます。その結果、すべての和音が使えるようになった代わりに、純正律の美しい響きは失われ、オクターヴ以外のすべての和音が濁ってしまいます。極言すれば平均律は微妙な不協和音だらけの整律と言えましょう。なお大バッハが使っていたのはこの平均律ではありません。長い間バッハは平均律を使っていたという誤った見解が支持されてきたので、18世紀には平均律が普及していたと思われてきましたが、現在では早くても19世紀に入ってからではないかと言われています。おそらく19世紀末という、絶対音感が設定され、正確に音を測定する機器ができ、平均律に合わされたピアノという楽器が大量生産され世に広まった時代に、この平均律の専制は決定的になったものと思われます。
     現在では平均律が当たり前の音階として扱われ、古典整律がそれでも守ってきた純正律の響きは無視されています。正確に言うと実は上手い合唱団や弦楽団はきちんとした響きを出せるのですが、日本ではきれいにハモるための教育が十分でないために、和音感覚ではひけをとってしまいます。
     ドビュッシーやシェーンベルグなどの音楽やジャズなども平均律を前提にしていますから、平均律がまったくだめだと言うつもりはありませんし、やはりプラスの面もあったのです。それでも平均律の専横ぶりは目に余るものがあると僕達は考えています。平均律でやる必然性のない音楽までが、何の疑いもなく平均律で演奏されるのははっきり言って文化の貧困以外の何物でもありません。最近では古楽の領域を中心にようやくきれいな和音に目を向けようという動きが徐々に出てきましたが、僕達もその一派です。
     ただし僕達の特徴は、古楽ではなく、あくまでも現代の音楽を提供していこうということです。純正律の響きを十分に活かした音楽をやるためには、1オクターヴを更に細かく分けたスーパーテンペラメントを開発する必要があります。昔においても1オクターヴに50いくつも鍵盤がある楽器が夢想されたことはあり、現にヘルムホルツなどは1オクターヴを32に分けた楽器を作ってはいますが、おそらく人の指が10本だからでしょう、弾きこなすなど不可能でありました。しかし、現在ではコンピューターの発展によりスーパーテンペラメント実用の可能性が見え始めてきたのです。
    難解な音楽をごり押しするつもりはありません。心地よい音環境を提供したいのです。

    《黒木朋興(1969年生まれ)》
    上智大学大学院文学研究科フランス文学専攻博士後期課程満期退学。研究テーマは19世紀末フランスにおける詩学と音楽。中学でギターを始め、高校でバンド活動を中心に男声合唱などにも手を染める。大学時代、ポストモダン批評の現代性―モデルニテ―批判に嫌気がさしていた頃、ふと平均律という調律法が抱えている矛盾こそがまさにモデルニテの矛盾を見事に体言しているのではないかということに気付く。

    玉木宏樹からのメッセージ:
    今後、純正律の会報等を作成していくにあたり、執筆者のひとりとして仏文研究家、黒木朋興氏を紹介します。氏は、マラルメの詩論等を研究を手掛けると同時に、仏文の史観と哲学から純正律と平均律の矛盾に着目し、鋭い考察を繰り広げている若い学究の徒です。これ以降の会報等での執筆の代表者のひとりとなります。

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    ◆SOUND’S TREE◆

    Pelecis 《FROM MY HOME》より “Neveretheress”
    (TELDEC0630-14654-2)

     このコーナーでは純正律を中心にいろんな調律による変化に富んだ作品の紹介をしていきます。 
    その第1回目に登場するのはPelecisという作曲家の作品〈Neveretheress〉です。私は自分のホームページ上でPelecisを紹介しながらラトビア人だから読み方は分からないと書いたら東大大学院生から「ペレ―ツィス」と読むんだとのMailを頂きました。
    さて私がペレ―ツィスを知ったきっかけは、後々に紹介する予定のポーランドの作曲家でやはり純正律に拘った作品「悲歌のシンフォニー」で300万枚のCDを売り切ったグレツキのピアノ協奏曲の入ったCDを買ったおかげです。グレツキの曲は退屈でしたが、最後におまけのように入っていたペレ―ツィスの「コンチェルティーノ・ブランカ」に私は大衝撃を受け、夜も眠れないほどの興奮の毎日が続きました。この曲は題名通り、ピアノの白鍵だけと弦楽合奏による3楽章構成の全くハ長調だけで一切転調のない、開き直った潔い曲です。
    ところで〈Neveretheress〉は、モスクワ留学時代のルームメイトだったヴァイオリニストのクレーメルのために書かれたソロヴァイオリンとピアノと弦楽合奏のための協奏曲で、30分近く延々とD-Major,D-Minor,つまりニ長調とニ短調だけで構成されます。冒頭から5分くらいから始まるピアノのフレーズはまさに日本人にピッタリのマイナームードで、まさに「ヤラレタ―」というショックが尾を引きつつ感動にひたるというとても個性の強い曲です。おっとっと、ピアノはもちろん純正律に調律されていることは、私のシンセとコンピュータで確認ず
    みです。
                                   (玉木宏樹)
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    ◎のぞいてみた? 純正律のHPで聴き比べ!◎

     もう、御覧になりましたか? 純正律やミネラル・ミュージックに関する情報満載のHPがあるんです。玉木宏樹氏のホームページはそれ。純正律入門セミナー、一味違う玉木氏おススメ音楽コーナーから時事コラム、著作権のホットな話、玉木氏の小説まで、多岐にわたる情報が随時更新されています。純正律VS平均律聴き比べコーナー、MIDI試聴など、耳で体験できるコーナーも充実。お試しあれ!
    URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html

    ◎おたより待ってます!◎
    今後の純正律音楽研究会NEWSに、読者コーナーを設けます。みなさまの御意見、御感想など、どんな内容でも構いませんのでどしどしお寄せください。
     E-mail to : archi@ma.rosenet.ne.jp
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    ひびきジャーナル2月号休刊のお知らせ

    長年に渡り尽力くださった事務局が、昨年末、健康上の理由から業務不能となってしまいました。その為、ひびきジャーナル2月号は休刊となりましたことをお詫び方々お知らせ申し上げます。

    令和8年2月吉日
    純正律音楽研究会理事長 水野佐知香

    合唱と純正律音楽コンサート

    2016年9月17日土曜日14時開演
    会場:新宿文化センター(小ホール)

    水野佐知香(Vn.)
    三宅美子(Hp.)
    吉原佐知子(箏)
    辻志朗
    早稲田大学合唱団有志
    洗足学園大学 LaLaLa Singers


    入場料:前売り3,000円(当日券 3,500 円) 学生2,000円