ひびきジャーナル 創刊準備号

玉木宏樹 下山田吉成 黒木朋興(1999年7月28日発行)

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
純正律音楽研究会NEWS『ひびきジャーナル』
創刊準備号
1999年7月28日発行

編集/発行:純正律音楽研究会 〒106-0031 東京都港区西麻布2-9-2
     (有)アルキ内
      Tel. / Fax. 03-3407-3726
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

ようこそ、純正律音楽研究会へ。堅苦しい会報ではなく、耳に身体に非常に心地よい音楽がひびきわたる会報にしたいと、とりあえず『ひびきジャーナル』としました。これはあくまで準備号なので、みなさんの有意義な御意見を頂きたいと思っています。よろしくお願いします!

                             純正律音楽研究会

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●21世紀は平均律から純正律へ●

         純正律音楽研究会代表/作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹

 最近、ポップス界でもクラシック界でもイギリスものが大はやりである。ポップスではエンヤとかアディエマスに特徴的な、透明感あふれるシンプルなメロディとハーモニー。またクラシックでも、ヒリヤード・アンサンブルは、ノルウェーのサックス奏者、ヤン・ガルバレクとの共演『オフィチウム』が全世界で300万枚出たといううわさがある。ヒリヤードのコーラスでうたう曲は、16世紀のドイツの尼僧ビンゲンの作品で、その上に現代ジャズのアドリブが乗るという、意表をつくサウンドである。
 この、エンヤをはじめとするケルト系ポップス、そしてヒリヤード・アンサンブルやキングズ・シンガーズ等のクラシック・コーラスがくりひろげる天国的な透明感のあるハーモニーの世界、これが純正律(純正調ともいう)という、古代から伝えられている最もよくハモる調律の世界なのである。この分野の響きは、ヒーリング・ミュージックのコーナーでもよく取り上げられている。
 純正律などというと、むずかしそうだが、そんなことはない。単純によくハモることであって、ウィーン少年合唱団の天使の歌声を思い出してみればよく分かる。彼らの音程の訓練は絶対にピアノではやらない。今のピアノやオルガン、ギター、シンセサイザー等、音程を固定させる楽器はオクターヴを単純に12に平均分割した調律であり、平均律というが、この本来の意味は、平均的に音を狂わせてあるという意味である。
 実は、バッハもモーツァルトもベートーベンも、そして、19世紀のロマン派前期の作曲家たちは、いずれも平均律では作曲していない。12個の鍵盤だけで純正律の調律をすると使えなくなる和音が多すぎるため、古代から純正律に近づけるためにいろいろな調律の工夫がなされた。
 バッハは平均律を広めるために「平均律クラヴィーア曲集」を作曲したと日本語では記しているが、ドイツ語でも英語でも、どこにも「平均律」という言葉はない。ただ「Well tempered」と書かれているだけである。この Well tempered とはいったい何だったのかというのが歴史的問題で、ベルクマイスター第IIIの調律だといわれている。バッハの時代に「平均律」の調律法は存在しなかったのだから、「平均律クラヴィーア曲集」とは、恐れ入った誤訳である。
 バッハは対位法に適合したベルクマイスター調律だったが、後のモーツァルトに影響を与えたヘンデルはモノフォニーに適した中全音律(ミーントーン)を愛用した。モーツァルト時代に平均律の調律法が確立したが、モーツァルトは大変平均律をきらった。また、ショパンもミーントーンで作曲し、転調の範囲が限られるため、一晩のコンサートでステージに3~4台のピアノを置いたと伝えられている。ところで最近、モンゴルやトゥバ地方の一人二重唱、ホーメイという唱法が脚光を浴びているが、これこそ、人間の声帯が自然倍音で成り立っていることの証明である 。
この自然倍音を下から並べ替えたのが純正律である。ピアノの「ミ」は純正な「ミ」より半音の100分の14高いのだが、この違いは誰にでも分かるほどの差であり、とても汚い。音程を純正にとれるコーラスやアンサンブルはぜひ純正律でハモる訓練をしてほしい。
純正律こそ「音の自然食」である。私のCDで思わぬヒーリング効果があったと報告がたくさん届いている。純粋なドミソは体にも良いのである。
                〈『AVヴィレッジ』1999年9月号より抜粋〉
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

************************************
 シリーズ[癒しの現場から]―― 予告編――
 ◇誰でも自分だけの「癒しの音」を持っている!?◇

   柿の木坂心療内科クリニック
   東洋医学治療室主任鍼灸師   下山田吉成さん

 いま、純正律ミネラル・ミュージックは、音楽に関心のある人だけでなく、そのヒーリング効果から医療の現場でも注目されています。本誌では、治療に携わる方々の声を通して、「純正律と癒し」の関係を探っていきます。
    *      *      *      *
 第1弾は鍼灸師の下山田吉成さん。東京・目黒の柿の木坂心療内科クリニックで鍼灸と音楽療法をミックスした新しい治療法に取り組んでおられます。この記事は、次のような治療効果を箇条書きにしたお便りをいただいたことから始まりました。
  ―――――――――――――――――
  1: 腰痛と膝痛が焼失した(1回)
  2: 不眠症が軽減した(1から3回)
  3: うつが軽減した(2から5回)
  4: 冷えが減少した(1から2回)
  5: 高血圧が正常になった(3回)
  ※ミネラル・ミュージックと純正律コード(MD)併用、()内は施術回数、全てボディソニック使用
  ―――――――――――――――――
「気持ちよかった」「~のような気がする」だけでなく、どうやら実際の医療現場において効果が出ているようなのです。そこで、はがきをくださった下山田さんに早速お話を伺ってみることとなりました。まず、最初に少し驚いたのは、こちらと下山田さんとの、音楽療法に対するイメージの違いでした。
「音楽を聴かせて、気持ちがよくなったり疲れがとれる、リラックスできればよい、ということではないんです」
 どうやら、表面的な、また一時的な対症療法ではなく、より深い部分で、「音」で身体そのものをよりよい方向に体質から改善していくことをめざしておられるようなのです。でも、そんなことが可能なのでしょうか?
「人の体の営みは単独で完結しているものではなく、自然や環境の一部でもあります。そうした自然や天体のサイクル、波長と音とも、また密接な関係があって、そのことが治療にも応用できるんです」
 なるほど。でも具体的には、音がどのように治療に使われているのかと気になっているところに、さらに気になる発言が……
「実は、私が音楽療法に取り組み始めて以来のテーマなんですが、生年月日によって、誰でも、その人だけに『合う音』があると思うんです。それが今後の治療法の鍵になるのではないかと…」
このような感じで次々と興味深いお話が飛び出すのですが、今回はここまで。詳しくは次回、創刊号にてご覧ください。

************************************

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●純正律とは?●
                             黒木朋興

 自然倍音とは何でしょう? 例えば、ドの音が鳴る弦を弾くとすると、鳴るのはドの音1つではなく、基のドの周波数をn倍した音も同時に響きます。これらの音のことを倍音といいます。すなわち基音がドの時、2倍音はその1オクターヴ上のド、3倍音はその上のソ、4倍音は2オクターヴ上のド、5倍音はその上のミ、6倍音はそのすぐ上のソというように次々に上に音が積み重なっていくのです。そして3倍音のソの音、つまり5度の音に目を付け、オクターヴと5度の音を重ねて作った音律がピタゴラス律です。この音階は、単旋のメロディーを奏でるととても美しいのですが、3度の音が高すぎて和声を作るのには向きません。またオクターヴ、ソ=5度の音と5倍音であるミ=3度の音を組み合わせてドレミファソラシドを作ったのが、日本語で純正律と呼ばれる音階です。これの特徴はとにかくドミソの和音が美しいことが挙げられます。ただし主要3和音以外の3和音の響きがとても汚く使いものになりません。また、何よりも西洋音楽の最大の特徴である転調をしようものならば、不協和音だらけになってしまうという欠点があります。
 こうしてテンペラメント(=整律)が開発されます。純正律の音を少しずつテンパー[temper=整える]して、つまり少しずつずらすことによって、耐え難い不協和音をなるべく減らし使える和音を増やそうとしたのです。例えばピエトロ・アーロンの中全音律や、ヴェルグマイスター、キルンベルガー、ヤング、ラモーの整律などが有名です。ただしあくまでも耳で聞いて音を調整するのですから、基本的には耳で聞いて心地よい和音が尊重されていました。
 ところが最終的に西洋が到達した12等分平均律は、1オクターヴを平均に12に分けるという整律ですが、耳で聞いた和音の美しさより、正確に平均に分けるために算出された2の12乗根という数値を優先させます。その結果、すべての和音が使えるようになった代わりに、純正律の美しい響きは失われ、オクターヴ以外のすべての和音が濁ってしまいます。極言すれば平均律は微妙な不協和音だらけの整律と言えましょう。なお大バッハが使っていたのはこの平均律ではありません。長い間バッハは平均律を使っていたという誤った見解が支持されてきたので、18世紀には平均律が普及していたと思われてきましたが、現在では早くても19世紀に入ってからではないかと言われています。おそらく19世紀末という、絶対音感が設定され、正確に音を測定する機器ができ、平均律に合わされたピアノという楽器が大量生産され世に広まった時代に、この平均律の専制は決定的になったものと思われます。
 現在では平均律が当たり前の音階として扱われ、古典整律がそれでも守ってきた純正律の響きは無視されています。正確に言うと実は上手い合唱団や弦楽団はきちんとした響きを出せるのですが、日本ではきれいにハモるための教育が十分でないために、和音感覚ではひけをとってしまいます。
 ドビュッシーやシェーンベルグなどの音楽やジャズなども平均律を前提にしていますから、平均律がまったくだめだと言うつもりはありませんし、やはりプラスの面もあったのです。それでも平均律の専横ぶりは目に余るものがあると僕達は考えています。平均律でやる必然性のない音楽までが、何の疑いもなく平均律で演奏されるのははっきり言って文化の貧困以外の何物でもありません。最近では古楽の領域を中心にようやくきれいな和音に目を向けようという動きが徐々に出てきましたが、僕達もその一派です。
 ただし僕達の特徴は、古楽ではなく、あくまでも現代の音楽を提供していこうということです。純正律の響きを十分に活かした音楽をやるためには、1オクターヴを更に細かく分けたスーパーテンペラメントを開発する必要があります。昔においても1オクターヴに50いくつも鍵盤がある楽器が夢想されたことはあり、現にヘルムホルツなどは1オクターヴを32に分けた楽器を作ってはいますが、おそらく人の指が10本だからでしょう、弾きこなすなど不可能でありました。しかし、現在ではコンピューターの発展によりスーパーテンペラメント実用の可能性が見え始めてきたのです。
難解な音楽をごり押しするつもりはありません。心地よい音環境を提供したいのです。

《黒木朋興(1969年生まれ)》
上智大学大学院文学研究科フランス文学専攻博士後期課程満期退学。研究テーマは19世紀末フランスにおける詩学と音楽。中学でギターを始め、高校でバンド活動を中心に男声合唱などにも手を染める。大学時代、ポストモダン批評の現代性―モデルニテ―批判に嫌気がさしていた頃、ふと平均律という調律法が抱えている矛盾こそがまさにモデルニテの矛盾を見事に体言しているのではないかということに気付く。

玉木宏樹からのメッセージ:
今後、純正律の会報等を作成していくにあたり、執筆者のひとりとして仏文研究家、黒木朋興氏を紹介します。氏は、マラルメの詩論等を研究を手掛けると同時に、仏文の史観と哲学から純正律と平均律の矛盾に着目し、鋭い考察を繰り広げている若い学究の徒です。これ以降の会報等での執筆の代表者のひとりとなります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆SOUND’S TREE◆

Pelecis 《FROM MY HOME》より “Neveretheress”
(TELDEC0630-14654-2)

 このコーナーでは純正律を中心にいろんな調律による変化に富んだ作品の紹介をしていきます。 
その第1回目に登場するのはPelecisという作曲家の作品〈Neveretheress〉です。私は自分のホームページ上でPelecisを紹介しながらラトビア人だから読み方は分からないと書いたら東大大学院生から「ペレ―ツィス」と読むんだとのMailを頂きました。
さて私がペレ―ツィスを知ったきっかけは、後々に紹介する予定のポーランドの作曲家でやはり純正律に拘った作品「悲歌のシンフォニー」で300万枚のCDを売り切ったグレツキのピアノ協奏曲の入ったCDを買ったおかげです。グレツキの曲は退屈でしたが、最後におまけのように入っていたペレ―ツィスの「コンチェルティーノ・ブランカ」に私は大衝撃を受け、夜も眠れないほどの興奮の毎日が続きました。この曲は題名通り、ピアノの白鍵だけと弦楽合奏による3楽章構成の全くハ長調だけで一切転調のない、開き直った潔い曲です。
ところで〈Neveretheress〉は、モスクワ留学時代のルームメイトだったヴァイオリニストのクレーメルのために書かれたソロヴァイオリンとピアノと弦楽合奏のための協奏曲で、30分近く延々とD-Major,D-Minor,つまりニ長調とニ短調だけで構成されます。冒頭から5分くらいから始まるピアノのフレーズはまさに日本人にピッタリのマイナームードで、まさに「ヤラレタ―」というショックが尾を引きつつ感動にひたるというとても個性の強い曲です。おっとっと、ピアノはもちろん純正律に調律されていることは、私のシンセとコンピュータで確認ず
みです。
                               (玉木宏樹)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎のぞいてみた? 純正律のHPで聴き比べ!◎

 もう、御覧になりましたか? 純正律やミネラル・ミュージックに関する情報満載のHPがあるんです。玉木宏樹氏のホームページはそれ。純正律入門セミナー、一味違う玉木氏おススメ音楽コーナーから時事コラム、著作権のホットな話、玉木氏の小説まで、多岐にわたる情報が随時更新されています。純正律VS平均律聴き比べコーナー、MIDI試聴など、耳で体験できるコーナーも充実。お試しあれ!
URL :  http://www.midipal.co.jp/~archi/index.html

◎おたより待ってます!◎
今後の純正律音楽研究会NEWSに、読者コーナーを設けます。みなさまの御意見、御感想など、どんな内容でも構いませんのでどしどしお寄せください。
 E-mail to : archi@ma.rosenet.ne.jp
――――――――――――――――――――――――――――――――――――